【CDJournal.com 10th 特別対談】日本の二大ロック・フェス、10年間の歩みと今年の見どころを大解剖!

ヨンシー   2010/07/07掲載
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 CDJournal.comがスタートして10年。それは、大規模なロック・フェスティバルが日本に定着した期間と重なります。

 1997年から始まったフジロックフェスティバルは、山梨・富士天神山スキー場で開催された第一回が台風に直撃されるという不運に見舞われながらも、レッド・ホット・チリ・ペッパーズレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが豪雨の中で熱狂的なパフォーマンスを披露。いまでは国内洋楽史における伝説的瞬間の一つとなっています。その後、第三回からはおなじみの新潟・苗場スキー場に会場を移し、現在までにニール・ヤングザ・キュアーニュー・オーダーらの熱望された再来日公演や、ギャング・オブ・フォーマイ・ブラッディ・ヴァレンタインダイナソーJR.らの再結成後初の日本公演など、プレミアムなステージを数多く繰り広げてきました。日本にロックの醍醐味をあらためて知らしめたと言っても過言ではないでしょう。

 一方、東京・大阪の二都市同時開催を打ち出し、都市型ロック・フェスという形を定着させたのが、2000年に産声を上げたサマーソニック。こちらも、ガンズ・アンド・ローゼズDEVOモリッシーザ・ヴァーヴら、当時は難しいと思われていたアーティストの再来日公演を実現させた一方、若手のアークティック・モンキーズをヘッド・ライナーに起用したり、日本に紹介される前の(時によっては本国でもデビュー前の)アーティストを招いたりと、他国の若手バンドの発掘にも尽力。さらにジャンルにとらわれないレンジの広いラインナップで、ロック・ファンの視野の広がりにも一役買っています。

 この二つのフェスを通して新しい音楽に出会ったことのある人も、少なくないでしょう。

 ここではそんな二大フェスに的を絞り、両フェスに初回から参加している音楽評論家の佐藤英輔さんと赤尾美香さんに、この10余年をざっくばらんに振り返っていただきました。

 また、開催が間近に迫った今年の両フェスの見どころも紹介します。あわせてお楽しみください。

01. 二大ロック・フェスの10余年を振り返る


通好みな拡がりをみせるフジ
お気軽感が魅力のサマソニ
97年に山梨県富士天神山スキー場で行なわれた第一回フジロック

(C)Yuki Kuroyanagi
――まず、フジロックが始まった当時のリアクションはどのようなものだったのでしょう?
 佐藤英輔(以下、佐藤) 「そもそも日本のロック・ファンもウッドストックの映画を観たりして、野外フェスへの漠然とした憧れがあったんだよな。とくに年長のロック・ファンは。だから、まずはヤッターって感じが大きかったんじゃない。ファンもそうだし、業界人でさえね」
 赤尾美香(以下、赤尾) 「台風が直撃して辛い思いをしたというのも、喉元過ぎれば熱さを忘れるだったし、否定的な動きはなかったね。ただ、サマソニが後から始まった時は、色分けをちゃんとしてくれたらいいなって思った。当時は海外のフェスもそんなに乱立してなくて、しっかり色分けができてたのね。日本でもそんなふうにうまくいけばいいなと。でも、実際は難しかったみたいだね」
2000年に富士急ハイランドで行なわれた第一回サマソニ

(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.
――主な出演者だけを振り返ってみると、両フェスの決定的な色分けは難しいですね。では、出演者ではないところで、両者の特色はどんなところにあると思いますか?
 佐藤 「やっぱり開催地だね。泊まりがけで行く緑があって日常と隔離された場所か、日帰りで行ける日常と隣あわせの場所かという。ただ、フジのほうが音楽の幅を広げようっていうのは感じられるかな」
 赤尾 「サマソニが、HR/HM、ブラック、アイドルっていうところに拡がっているのに対して、フジはブラックにしてもファンクとかブルース系、それにワールド・ミュージックにも拡がっていて、どちらかと言えばフジのほうが通好みなんだよね。邦楽アーティストも両者はテイストが違って、サマソニに出る邦楽アーティストは、洋楽ファンにあまりなじみのない人も多いけど、一般的な知名度はある。その点でも、サマソニのほうがお気軽なフェスという感じがして、スニーカーとTシャツで行ける“都市型フェス”らしい展開と言えると思う」
 佐藤 「対してフジは、たとえば普段はあまりライヴを観られない勤め人が、2、3日間休みを取って、ロックが横にあった生活を思い出しながら、どっぷりロックに浸るっていうフェスになってるよね。子供連れが多いのも特徴的で」
 赤尾 「それがスマッシュ(主催団体)の目指すところに近いんでしょう。ラインナップに左右されずに、フジという環境というかお祭りを楽しむファンを増やしたいっていう」
 佐藤 「どんなアーティストが出ようと、とにかくフジの場に行きたいっていう人がたくさんいると」
 赤尾 「私はそれに対してあまり賛成はしないんだけどね。ロック・フェスという言葉を使っている限りは、音楽が真ん中にあるべきで、ラインナップも人を集められるものにするべき。ファミリーとかフジ自体のファンを作るのはいいけど、結局、どんどん年齢層が上がってきちゃって、若い子が弾き出される結果になれば、フェス自体の体力もなくなってしまうから」


日常とは違う光景を
リアルに味わえる場所


サマソニ(東京)のメイン会場、千葉マリン・スタジアム

(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.
――では、若者を集客するために必要なことは?
 赤尾 「難しいとは思うんだけど、学割みたいなシステムができたらいいんじゃないかな」
 佐藤 「逆の発想で、サマソニもそうだけど、とくにフジは大人のフェスになってるわけだから、VIPチケットを出してもいいよね。ライヴがいい場所で観られたりするやつで、海外ではよくあるし。で、VIPチケットで高いお金を取る分、もっと安いチケットも作ればいい」
 赤尾 「いまはあまり見かけないけど、高校生が行けるような環境が本当は必要だよね」
 佐藤 「たしかに高校生の時に行ってたら震えただろうな。いまの高校生が、めちゃくちゃ羨ましいよ」
フジロックのメイン会場、グリーン・ステージ

(C)Yasuyuki Kasagi
――ロック・フェスに高校生の姿が増えれば、結果的に全体の音楽シーンも活性化されるでしょうね。では、現段階でフェスが国内の洋楽シーンに与えている影響については?
 赤尾 「レコード会社的な視点になるけど、プロモーションとしてフェスを利用するっていうのはあるよね。そういう業界的な影響のほうが強いかな。それと、フェスのラインナップには青田買いチックな部分も含まれるから、日本盤が出ていないアーティストが呼ばれることもあって、その流れで日本盤が出なかったかもしれないアーティストの日本盤が出ることも。結果、ファンの選択肢が増えてるかな」
 佐藤 「音楽シーンにというよりも、参加した人自身に大きな影響を与えるものだと思いたいね。いろんなタイプの人が集まってる、日常とは全然違う場を学生時代に経験しているのとしていないのとでは、その後の物の考え方が変わってくると思うんだよ。単純にそういう場があるのはいいことだし、そこから影響を受けて社会人になっている人がいるって信じたいね」
 赤尾 「これからはロック・フェスを、青少年の育成にも活かしましょうと(笑)」




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