――初のソロ・アルバム『I See You While Playing The Piano』、非常に興味深く聴かせてもらいました。丈青さんの音楽的バックグランド、演奏者としての技術と表現力はもちろん、ご自身の人間性が感じられる作品だと思いますが、制作前はどんなヴィジョンを持っていたんでしょうか?
「とにかく初めての試みばかりですからね。ソロ(アルバム)ということもそうだし、ホールで録ること、ファツィオリというピアノを弾くこともそうだし。身構えるとキリがないので、“自然体で、無心で臨めるように”とは思ってました」
――ファツィオリを演奏し、ホールで録音するというのは、丈青さんのリクエストですか?
「僕のリクエストではないですが、提示してくれたアイディアがとても良かったので。僕もぜひ、ホールで録りたいと思ったし、すごく贅沢なレコーディングになりましたね。ファツィオリもかなり特殊なピアノですし」
――特殊というのは?
「すごく低音が鳴るんですよ。コントラバスを想起させるような太い鳴りで。ピアノは弦打楽器ですが、弦楽器の部分が如何なく発揮されているというのかな。だから、レコーディングの初日は低音ばっかり使っちゃったんですよね。低い方が気持ち良くて、ピアノの左半分、もしくは3分の1ばっかり使って遊んでました。……いや、もちろん遊んでたわけではなくて(笑)、いろいろと試していたんですが」
――ピアノの特性を確かめていた、と。
「そうですね。いちばん低い“ラ(A)”の音がまったく濁りなく再生されるピアノはなかなかないし、そのぶんシリアスに音が出るというか、ピアノのタッチが怖いくらいに反映されるんですよ。あと、5度の倍音が重要だということにも改めて気づかされましたね。楽器に対応するほうが良い演奏になるので、いろいろと試しているうちに時間を取られてしまい、初日は11分くらいしか録れなかったんですけどね。スタッフは不安を感じていたみたいですけど、僕はぜんぜん気にしてなくて(笑)。実際、2日目には1時間以上のOKテイクが録れましたから」
――収録曲に関して、なにか指針のようなものはあったんでしょうか?
「ありましたよ。まず〈Akatonbo(赤とんぼ)〉はソロでずっと弾いてきた曲なので、絶対に入れようと思ってました。長く温めてきた〈One and Alone〉(オリジナル曲)も入れたかったし、〈Body and Soul〉というスタンダードもぜひ収録したかったんですよね。〈Myself〉と〈When I Was a Boy〉は完全即興なんですが、それもやりたいと思っていて」
――「Akatonbo」を演奏するようになった理由は何ですか?
「良い曲ですから、自然にプレイしてました。日本の曲で好きなものは他にもたくさんありますが、印象的なんですよね。風景が浮かびやすいし、自分にもあってるのかな、と」
――幼少期の記憶とも結びついている?
「そうですね。小学校のとき、通学路がいちばん遠かったんですよ。友達と遊んだあと、夕焼けのなか帰っていたときのイメージは確かにあります。ステレオタイプですけども」
――「One and Alone」は別の形で発表されていますね。
「別の進行と歌のメロディを付けて、
BONNIE PINKさんに歌ってもらった曲(〈Hey,Tagger I’m here〉 / SOIL&“PIMP”SESSIONSのアルバム
『CIRCLES』収録)ですね。もともとはリフから構成されている曲なんですが、それはここ数年、自分がやってきたことの核になっているものだと思っていて。この曲だけは3テイク録って、どれを入れるか悩んだりしましたね」
――丈青さん自身の音楽的コンセプトも、時期によって変化しているんでしょうか?
「変わってきますよね、それは。力量も上がるし、表現できることも増えますから。あとは人生経験だったり、自分が生きているリズム、日々過ごしているライフ・スタイルなども反映されるでしょうし。最初におっしゃった“人間的な部分が出ている”というのも、そういうことだと思うんですよ。僕自身、そこは正直にやってるんですよね。ナチュラルに勝負するというか、何の武装もしてないので」
――アルバムのセルフ・ライナーノーツに書かれている“直観的に弾く”ということにもつながりそうな話ですね。
「自然であることがいちばん美しいと思うんですよ。何のオーダーもないのであれば、“必要な音だけがある”というのがいちばんいいんじゃないかな、と。それは音を間引いて空間的にするということではなくて、やはり丁寧に作ったもののほうが長く聴けるので。リラックスしていて無理がない状態で演奏するほうが、アタックも強くなるし音も鳴るんですよ。つまり、音楽的になるんですよね」
――とくに即興曲には、丈青さんの現在の状態が生々しく反映されていると思います。完全即興にも関わらず、楽曲としての完成度が高いことも印象的でした。
「そう言ってもらえるのはすごく嬉しいですね。即興において、心がけていることがあるんですよ。たとえばポップスやロック・バンド、クラシックの場合でも、同じ曲を何百回、何千回とリハーサルして、そのクオリティで演奏されるわけですよね。即興するときも、それと同じくらいのレベルでなければいけないと思ってるんです。即興というのは、その瞬間にやろうとしていることを、その場で具現化すること。そのためには自分に聴こえているものをそのまま弾けるコントロール能力と演奏技量が絶対に必要だし、それが出来る人が一流のソリストであり、インストゥルメンタルのプレイヤーなんですよね。あとは等身大で演奏できれば、それだけで心地よい音楽になるんだと思います」
――なるほど。ビ・バッブ、ハード・バップ時代の伝説的なアドリブ演奏にも、同じことが言えるのかも。
「楽器としっかりつながって、自分の言葉を発するように演奏できるプレイヤーが、たとえば
チャーリー・パーカーだったりすると思うんですよね。ジョン・コルトレーン、
オスカー・ピーターソンなどはクラシックのように書き譜をもとに演奏していたそうですが、それも有効だし。ただ、誰かがやったことの二番煎じだったり、他の誰かを追いかけているだけでは、どうしても薄いものになるでしょうね。もちろん誰にでもアイドルはいると思いますが、自分の語法、自分の言葉でしゃべらないと説得力がないし、何度も聴こうと思われないんじゃないかな。そこにはきっと、アートの秘密のようなものがあるんだと思います」
――“I See You While Playing The Piano”というタイトルについては?
「全部録り終った後でつけました。演奏しているときは自我から解放されているというか……。この言葉はすごく象徴的だと思ったんですよね、イメージとして。謎めいたタイトルですよね(笑)。まあ、全部を説明しないで受け取ってくれる方に想像してもらうのもいいと思うし」
――最後にDSD11.2MHz / 1bitマルチ・レコーディングでの成果についても教えてもらえますか?
「めちゃくちゃいい音だし、僕自身も聴いててストレスがなかったですね。ピアノの前に座ってるときに聴こえている音にすごく近いというか。息づかいが聴こえてくるような、怖いくらいにリアルな音なんですよ。ファツィオリもリアルな音だし、録音状態もリアルだし、“リアル縛り”という感じですね(笑)。自分で望んだこととはいえ、かなりストイックな感じになってると思います」
――ソロ・アーティストとしての今後の活動も楽しみです。
「“丈青”としてアルバムを出すのは初めてだし、すごく嬉しくて。前々からやりたいと思っていたんですが、ずっと“いまは、その時期ではない”と感じてたんですね。そういう意味で、このタイミングで最初のアルバムを作ったのはちょうど良かったんじゃないかな、と。今後もソロの作品を出したいと思ってますし、ほかにもピアノ・トリオ、デュオ、歌が入ったものなど、いろいろな形を考えていて。とにかく音楽的に良いものを届けていきたいなと思っています」
■ 2014年10月10日(金)
“Spiral Cafe presents「夜のカフェライブ」特別編”東京 青山 Spiral Cafe〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23
03-3498-5791開演 20:30
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06-6342-58211st開演 19:30 / 2nd開演 21:00
(2ステージ / 入替なし)
前売 5,000円 / 当日 5,500円(税込 / 別途飲食代)