十分過ぎるほどに“良いもの”を見て、聴いて、作ってきた、いとうせいこうと會田茂一。必然的にめぐり合い、互いの存在を認め合う、そんな男2人が音楽ユニット、Just A Robberを結成、初音源が配信限定でリリースされた。 “大人の男”をテーマに、ノリと情熱で作り上げられた粋な音楽。深い懐を持った、情緒あるその響きに耳を傾けよう。 細分化が極まっている日本の音楽シーンにあって、ジャンルをものともせず、縦横無尽な活動が明らかに突出している會田茂一といとうせいこう。會田茂一と言えば、
木村カエラや
髭、
GO! GO! 7188のプロデュースを手掛ける一方、
FOEや
HONESTYといったユニットでの活動を精力的に行ないながら、去る3月には
柚木隆一郎とのユニット、
EL-MALOとして4年ぶりのアルバム
『NOFACE BUTT 2EYES』をリリース。残念ながら、彼は、先頃、そのEL-MALOから脱退することを発表したばかりだが、それでもなお、彼の音楽フィールドにおける絶倫ぶりは目を見張るものがある。一方のいとうせいこうはと言えば、長きにわたる音楽活動休止期から突如目覚めると、
100sの池田貴史によるソロ・プロジェクト、
レキシへの参加を皮切りに、客演した
クチロロと
DJ BAKUのアルバム、いとうせいこう&
POMERANIANS名義での
『カザアナ』など、作品リリースが続いている。'89年に
ヤン冨田プロデュースのもと、日本のヒップホップ史に残る傑作
『MESS/AGE』発表からまもなく20周年を迎えるベテラン・ マルチ・クリエイターはどうやら何度目かの絶頂期を迎えつつあるようだ。しかし、そんな彼ら2人が出会い、作品を作ることになるとは誰が予測できただろう。
「アイゴンには僕がSpace Shower TVでやってたクイズ番組に3回出てもらって、欠かせない回答者というか、欠かせない三枠だよ(笑)」 (いとう)
「僕は一方的に、著作も含めて、せいこうさんの作品はほとんど楽しませてもらっていたので、未だに先生って感じで、お会いすると、いいとこを見てもらいたい、みたいな、そういう気分になっちゃうんですよね(笑)。それくらい憧れの存在でした」 (會田)
そんな彼らの仲を取り持ったのは、2人が常連客だという浅草の洋服屋、The Three Robbers。無類の音楽好きな店長が2人を引き合わせたのが今から3年前。当時、10年以上にわたって音楽活動を休止していたせいこう氏のリハビリテーションを兼ねるかのように、これといったリリース先も決めず、空き時間を利用して、ゆるりといい湯加減のレコーディングを敢行。かくして、2人のユニット、Just A Robberはロックステディ・クラッシックとして知られる
パラゴンズ「On The Beach」の日本語カヴァーを収録したアルバム『Just A Robber 1』を音楽配信という形態でするりと世に送り出すことに。
「コンセプトでレゲエをやろうとは思っていなかったんですけど、僕が密かに思っていたのは、せいこうさんと
藤原ヒロシさんのユニット、
SUBLIMINAL CALMなんですよ。僕はあのアルバムが大好きで、iPodにも入れてるんですけど、メタリカの後にシャッフルでかかったりするとドキっとしたりして(笑)。今こういうことをやる人がいないから、自分でやろうと考えていたんですけど、まさか、せいこうさん本人と出できるとは……と思いつつ、レコーディングを進める過程で、ある種の“大人感”をレゲエでやってみたいと思うようになったんです」
(會田) 「ド現場のジャマイカ産じゃなく、都会で別モノに変化していったUKレゲエに近いニュアンスというか、その変化の果てに日本的な枯れたレゲエもあるっていうような感じ。でも、このアルバムの配信が始まって、“レゲエ・チャートで1位になってます”っていうメールをもらって、初めて、“あ、そういうジャンルだったんだ?”って思ったくらい(笑)。気持ち的にはものすごく枯れたAORをやってるような感じなんですよ。枯れといっても、クラプトンみたいな枯れ方ではなく、老子が一番エラいみたいなアジア的な枯れ。老子にはまだなれないんだけど、年を取ってるからこそスゴいっていう音楽だよね。まだまだ少ない、そういう音楽を抜け目なくやってるのがJust A Robberですよ。これは後期高齢者が聴いても大丈夫でしょ」
(いとう) その一方で、キャリア初となるソロ・アルバム
『SO IT GOES』を発表したばかりの會田茂一も絶妙なエッジ感の抜き差しにオルタナティヴな経年変化をにじませている。
「僕のiPodにはジャンルの分類ができないけど、これを聴くと新しい夜明けを感じるって曲を集めたフォルダーを作ってあるんですけど、そういうテイストは僕の中に一貫してあるし、そういう感覚を自分で表現する場もほしいなと常々思っていたんです。今回のソロに関しては、
ダニエル・ラノワや
ロブ・クロウ、
ブライアン・イーノのようなパーソナルな作品を参考にしつつ、オールタイムで聴けるものというテーマがありましたね」
(會田) この作品に付けられた“そういうものだ”という意味のタイトルは、年齢と経験を経てきた音楽家の無言の説得力みたいなものなのかもしれない。若いリスナーにおもねったような分かりやすさばかりが求められがちな昨今、彼らが表現する身の丈の大人な感覚は逆に新鮮で心地良く響く気がするのだが、さて、あなたならこの2作品をどう聴くだろう?
取材・文/小野田 雄(2008年6月)
Just A Robber 『Just A Robber 1』 ※iTunes 、 Moraリリース [配信限定]
※アルバムボーナストラック&デジタルフォトブック付
1. On The Beach
2. 夕影
3. 小鳥
4. Town To Town
5. The Conqueror
6. The Conqueror -TDC Remix-
___ <アルバム購入者特典>____
1. dub On The Beach
2. 夕影 -Version CH-
3. 夕影 -Version WH-
4. 小鳥 -TDC Remix-
※iTunesアルバム購入者限定 JUST A ROBBER スペシャルフォトブック
【Just A Robber ライヴ決定!】
いとうせいこうが今一番見せたいパフォーマーと、桜井圭介が企画する「吾妻橋ダンスクロッシング」の精鋭が入り乱れる狂乱の一夜!“せいこうナイト with ADX”
2008年8月2日@六本木スーパーデラックス
開場:19:30/開演:20:30
料金:前売り2800円/当日3300円 (プラスDRINK)
【パフォーマンス】
ボクデス×五月女ケイ子
コンタクト・ゴンゾー
康本雅子
【DJ】
高木完
いとうせいこう
森雅樹 (EGO-WRAPPIN')
MOBY (Scoobie Do)
桜井圭
【コント】 鬼ケ島
【ライブ】 Just A Robber (會田茂一/いとうせいこう/金澤義)
【ビデオ・パフォーマンス】 泉太郎
※詳細は
オフィシャルMySpaceにてご確認を。