ロック色の強いエレクトロ・サウンドで世界のダンスミュージック・シーンを席巻するフランスのエレクトロ・デュオ
JUSTICE。そんな彼らのツアー・ドキュメンタリーを収録した初の映像作品
『ア・クロス・ザ・ユニヴァース』がリリースされた。めくるめく狂騒の日々を克明に収めた今作について、メンバーのグザヴィエ・ドゥ・ロズネを直撃した。
ロックとエレクトロを接合し、わずかアルバム1枚でダンス・ミュージック・シーンの寵児となったJUSTICE。10月には〈GAN-BAN NIGHT〉で来日を果たした彼らが、初の映像作品をリリースする。2度目となる2008年のアメリカ・ツアーに密着したドキュメンタリーを収めたDVDとライヴCDのパッケージとなる『ア・クロス・ザ・ユニヴァース』を発表するにあたって、彼らは、あくまでJUSTICEをムーヴメントのひとつとしてではなく、個として表わしたかったのだという。
「このDVDにもいろんな面があるけれど、JUSTICEの一日を追っかけた、シンプルなテイストをこころがけた。こういった音楽ドキュメンタリーだと、ミュージシャンの視点だけになってしまうものが多いけれど、僕たちは普通の人の視点で、普通の人が楽しめるものを作りたかった。ギャスパール(・オジェ)も僕もポップ・カルチャーが本当に好きで、そうしたものって一度観ただけですぐ理解できるものが多いだろ。でも
マイケル・ジャクソンの作品もそうだけど、実際よく聴きこんでみると、非常にプロダクションが細かくて実はクレイジーなことをやっている。そういったところを出していきたかったんだ」(グザヴィエ・ドゥ・ロズネ、以下同)
そんな彼らのコンセプトを見事に具体化したのが、ディレクションそして撮影を務めたロマン・ガブラス、そしてED BANGERのソーミー。彼が手がけた「STRESS」のPVを観て、自分たちの頭の中のイメージがあまりにもそのまま描かれていたことからの起用だという。もちろん、彼らがふたりの親友であることもあって、ドキュメンタリーは、ツアーの裏側が忌憚なく描かれていく。
「彼の才能は、現実のものを過剰にせずにそのまま撮る、そこに個性があるので、僕たちはそこを買って彼に依頼したんだ」
その言葉の通り、JUSTICEと彼らを取り囲むツアー・マネージャーやドライバー、そして友達やファンとのやりとりが、フロアの狂騒とともに生々しく切り取られており、ライヴのフッテージではヒートアップするオーディエンスをあおり続ける悪夢的なループ、スラッシュ・メタルさながらのヘッドバンギングが繰り返されるダイナミックなフックなど、JUSTICEのライヴにある甘美な興奮を追体験できる。長きにわたるワールド・ツアーを経て、アルバムよりもさらに凶暴に変貌を遂げたライヴのプロダクションについては、グザヴィエはこんなふうに語る。
「ライヴの音作りに関しては、一度しか聴けないオーディエンスに対してシンプルにするというのはひとつ大事なポイントにして、フックとヴォーカルを強調したアレンジにしている。例えば〈D.A.N.C.E.〉では、作品ではストリングスを入れたりしているけれど、ライヴではビートとベースとヴォーカルだけに絞っていたり、シンプルにまとめている。そんな風にかなりアルバムとは変えているんだ」
同時期に盟友
ソウルワックスもライヴ・ドキュメンタリー作品を発表するなか、そちらにも出演しているふたりは、エレクトロ・シーンの成熟を象徴するようなこの偶然をやんわりと否定する。
「あれもすばらしいドキュメンタリーだね。彼らはこのシーンを代表するアーティストだし、いろいろなアーティストのインタビューが入っていたり、長いツアーや制作の様子を詳しく捉えている。だからこそ、僕らは20日間のツアーを追いかけた、シンプルなものにしたかった。このシーンが今後どうなっていくか、という質問に対しては、解らないね。成熟していくということはインテリジェンスが加わっていくということだと思うけれど、僕たちが鳴らしているのはそうした知性というよりも、もっとダンスがしたくなるとか直接的な快楽、楽しみをもたらすための音楽だから」
取材・文/駒井憲嗣(2008年10月)