“クラシックの現代音楽”という枠を超えて、電子音楽、ノイズ、インダストリアル、エレクトロニカ……あらゆるアヴァンギャルドな顔ぶれが集まるフェスティヴァル、“プレザンス・エレクトロニック”。シーンの最前線をいくパフォーマンスの様子を、パリからお届けします!
今年20周年を迎えたラジオ・フランス(フランス公共ラジオ放送局)の現代音楽フェスティヴァル“プレザンス”の電子音楽バージョンとして、2005年から始まった“プレザンス・エレクトロニック”。今年も3月26〜28日の週末、パリ市の多目的現代文化施設“104”で行なわれ、アヴァンギャルドな音楽を聴くため多くの人が足を運んだ。入場無料ということもあって大盛況で、夜のコンサートには入れない人も出たほど。主催のGRM(国立視聴覚研究所“音楽研究グループ”)は、楽譜を使わず、直接、音を素材として扱い研究・作曲する“ミュジーク・コンクレート”のコンセプトを提唱したピエール・シェフェールによって創立された。そのためクラシック音楽の作曲を基盤にした器楽&電子音楽のミックス作品を主流にしているイルカムと異なり、クラシック畑でない作曲家も多く、“クラシックの現代音楽”という枠組みに縛られない。このフェスティヴァルでもアカデミックな電子音楽から、実験音楽、インダストリアル・ミュージック、ノイズ・ミュージック、エレクトロニカまでジャンルを横断した面白い顔ぶれが集まるのが魅力。昨年も、KK NULL、ミカ・ヴァイニオ、Sachiko M、爆発的なeRikmとF.M.アインハイトのデュオなど充実した内容で楽しませてくれた。
3月27日(土) フランソワ・ベイル
(C)Ina / Didier Allard
昨年から会場を移した“104”では、広いスペースを使った“アクースモニウム(マルチスピーカーシステム)”の豊かな音響を、床に座ったり、寝転がったりして聴ける午後のコンサートが一つの目玉アトラクションになっている。今年は26日
カールハインツ・シュトックハウゼン、27日フランソワ・ベイル、28日
ルチアーノ・ベリオというプログラム。上下左右、縦横無尽に駆け巡るダイナミックな音の動き、音のエネルギーに包まれる感覚を十二分に味わうことできた。とくにベイルの「音響実験」(1969〜1972/2010)は、沈黙に彩られ、さまざまなサンプリング、具体音、不快なまでに反復される、きしむ電子音などが次々と浮かび上がり、ポリフォニーをなすもの。“アクースモニウム”を考案した本人としてその醍醐味をしっかり聴かせてくれた。
3月27日(土) クリスチャン・フェネス
(C)Ina / Didier Allard
今年のポピュラー系参加アーティストは、スキャナーと、
坂本龍一とも共演している
クリスチャン・フェネス。どちらもアンビエント色濃く、小単位の音型の反復・変化が心地よい。フェネスのエレキ・ギターは音の重なりの中、色の変化、あそびが効いていた。また個性派シャルルマーニュ・パレスタインはピアノ即興演奏でいつものミニマリスト・スタイルのドローン・ミュージックを披露。フェネスとともに有名どころとして人気を集めた。
3月27日(土) シャルルマーニュ・パレスタイン
(C)Ina / Didier Allard
面白かったのは、リウィンドのヒューマンビートボックスとディエゴ・ローザのターンテーブル即興の見事な掛け合い、オーケ・パルメ ルードの任天堂wiiのリモコンで操作する電子音楽。会場を盛り上げた。
最終日トリは、フェスティヴァルの常連になりつつあるカスペール・トープリッツが、野尻敦子のビデオを背景に、エレキ・ベースとラップトップで、東京在住のズビグニエフ・カルコウスキの曲を演奏。ベースの低音が耳栓なしで耐えられうる限界までうなり轟き、まさに耳というよりは身体で響きを受け止める感覚。執拗なリズムの繰り返し、ベースの低音を引き裂くノイズ、トープリッツの単なるインパクトだけに終わらない、強烈な何かを残すパフォーマンスで今年の幕が閉じた。
3月28日(日) カスペール・トープリッツ
(C)Rene Pichet
■“104”Webサイト
http://www.104.fr/#fr/Artistes/A181-Presences_electronique_2010取材・文/柿市 如(2010年3月)