かせきさいだぁニュー・アルバム『SOUND BURGER PLANET』発売記念
3週連続特集『CIDER IS BACK』第1回:アルバム『SOUND BURGER PLANET』ロング・インタビュー
前作
『SKYNUTS』から13年ぶり(!)となるニュー・アルバム
『SOUND BURGER PLANET』をリリースする
かせきさいだぁ。09年の活動再開後、活動を共にしているバック・バンド、ハグトーンズとのセッションをもとに、
スチャダラパーの
BOSE、
SHINCO、
TOKYO No.1 SOULSETの川辺ヒロシ、
渡辺俊美ら20年来の盟友たちを交えて作り上げられた今作は、13年という空白の時間を一気にワープするかのごとき、かせきさいだぁの過去、現在、未来とを同時に味わえるような、懐かしくもフレッシュ、それでいてフューチャリスティックな香り漂う作品に仕上がっています。
CDジャーナルでは、まさに“待望の”ということばがぴったり当てはまる今作の発表を記念して、アルバム『SOUND BURGER PLANET』の特集を3週連続で掲載。第1回目となる今回は、かせきさいだぁ復活からアルバム制作までの流れを振り返ってもらうロング・インタビューをお届けします。
「僕たち、かせきさいだぁのバックバンドをやりたいんですけど”って言われて。でも、あまりにも突然だったから最初は“やんねーよ”って断ったんです」
――アルバム『SOUND BURGER PLANET』めちゃくちゃ良いですね! サンプル盤が届いてから本当に毎日聴いてます。
かせきさいだぁ(以下同) 「ありがとうございます。嬉しいですね」
――かせきさいだぁとしては、13年ぶりのアルバムということになるわけですが、実際、周囲からの熱烈な“かせき待望論”もあったんじゃないですか?
「そうですね。この13年間、“いつ始めるんだ?”って言われ続けてきたので、いつか、袋叩きにあうんじゃないかというのがありまして。だから、やらなきゃなという気持ちはあったんです。でも、生半可なものを出してもしょうがないので、他のバンドに参加したり、絵を書いたり、漫画を描いたりしながら、いろんな状況が整うまで様子を見ていた感じですね」
――個人的には、
いとうせいこう&
ポメラニアンズのアルバム
『カザアナ』(2008年)に参加したことが、かせきさいだぁ復活の大きなキッカケになっているような気がするんですが、そのあたりはいかがでしょうか?
「あ、それはあるかもしれません。確かにあそこから何かが始まったような気はします」
――そもそも、どういう経緯で参加することになったんですか?
「そもそもはクッション的な役割というか(笑)。せいこうさんが、あまりにもビッグネームすぎるから、ポメラニアンズのほうから、“かせきさん、ちょっと入ってくれませんか?”みたいな感じで誘われたんですよ。それでアルバムで2曲に参加したら、そのままライヴにも出ることになって。最初は賑やかしみたいな感じで、終盤に出て、うわーっ!とやるような感じだったんですけど、せいこうさんから“かせきがいると、すごい楽だわ”って言ってもらえるようになって。それで、だんだんライヴの頭から出るようになって、気付いたらお客さんを煽ったりする盛り上げ役になってたっていう」
――割と重要な位置に(笑)。
「そうそう。そんな感じで、しばらく、いとうせいこう&ポメラニアンズのメンバーとして活動してたんですけど、ある日、ポメラニアンズが解散することになっちゃったんです。それで残ったメンバーが中心になって、せいこうさんやエンジニアのダブさん(
Dub Master X)と一緒にTHE DUB FLOWERというバンドをやることになって。その楽器隊が毎週やってる練習に、僕もなんとなく顔を出して、お弁当を食べたり、パソコンを持ち込んで仕事したりしてたんですけど、ある日、彼らから、“実は僕たち、かせきさいだぁのバックバンドをやりたいんですけど”って言われて。でも、あまりにも突然だったから最初は“やんねーよ”って断ったんです。ここで始めたら絶対ライヴに誘われちゃうし(笑)」
――(笑)。その時は、あまり乗り気じゃなかったわけですね。
「当時は
Baby&CIDER≡とか、
トーテムロックとかいろんなユニットをやっていて、絵の個展もあったりしたから、ここでかせきさいだぁが始まったら絶対に俺はパンクするぞと思ったんです。でも、あまりにも熱心に誘ってくるから、一度だけ、原宿のカフェでやった僕の個展パーティに、かせきさいだぁ&ハグトーンズとして出たんですね。そうしたら案の定ガンガン、ライヴの話が入ってきて(笑)」
――本格的な復活は2009年11月に池袋P’ PARCOで行なわれたPARCOの40周年記念イベントでのライヴですよね。
「カフェでやったライヴはアコースティック・セットだったし、プレ復活みたいな感じで。本格的な復活ライヴはP’ PARCOのやつですね。今思うと、相当、出来が悪いライヴだったと思うんですけど(笑)。ちょうど個展の時期にぶつかっていて、たしか徹夜で絵を描いて、そのまま寝ないでライヴやったんですよ。復活ライヴなのに髪もボーボーだし」
――でも、客席は、かせきさいだぁ復活ということで、めちゃくちゃ盛り上がってましたけど。
「ねえ。だから余計に申し訳なくて(笑)。復活なのに、こんなんでいいのかって。そこから、徐々にライヴをやるようになって新曲も増えていった感じですね」
――いざ、かせきさいだぁとして活動を再開してみて、いかがでしたか?
「やっぱり新鮮でしたよね。バンドと一緒にやってるから曲の作り方も全然違うし。以前は打ち込みだったので、短期間で一気に曲を作っていたんですけど、バンドだとすごく時間がかかるんですよね。“なんで、そんなにかかるんだ?”ってぐらい」
――具体的には、どんな感じで曲を作っていくんですか?
「ひたすらセッションを積み重ねて形にしていく感じです。それで、やっていくうちに、気持ち悪いところが見えてきて、そこをみんなで“気持ち悪い、気持ち悪い”って言いながら少しずつ直していくんです。とにかく時間がかかるから、待てなくて、グーグー寝てたら“あんたのためにやってるのに!”って怒られたり(笑)」
――かせきさんはバンドの中だと、どういう立ち位置なんですか。
「リーダーは、ギターのミツヨシ(松本光由)だから、僕はなんでしょうね……。しいて言うなら、わがままなオッサンとか(笑)。ヴォーカルをやってる、わがままなオッサンという立ち位置ですよね。なんか、ちょっと違うかもとか、突然、無理なことを言いますから。シンベ(シンセ・ベース)好きだから、ここにシンベ入れてとか(笑)。しかも、それをメロディとユニゾンにしてくれとか(笑)。みんな、“えーっ!”とか言いつつも、ちゃんとやってくれるんですけど。彼らはずっとバンドをやってきたコたちなので、たぶんヒップホップの人間のアイディアにびっくりするところがあるんでしょうね。CDを流して、“ここのフレーズはこういう感じの演奏をしてくれない?”とか。そういうヒップホップ的な手法というか」
――いわゆるサンプリング感覚。
「そうですね。バンド的な感覚で行くと、ありえないことなのかもしれないけど、実際にやってみたら意外に合う、みたいな。みんな、そういうところをびっくりしつつ、おもしろがってくれてるのかもしれないですね」
「ボーちゃん(BOSE)とかレコーディングの噂を嗅ぎつけて、“僕にもやらせてよ”って言ってくれて、川辺くんは僕のために20曲ぐらいデモを用意してくれたり。本当にありがたいなと思って」
――練習はどんなペースでやってるんですか?
「だいたい週1回、水曜日か木曜日を練習する日に決めていて。メンバーの家族がバーをやってるんで、営業時間までそこを貸してもらって。普段は会社勤めのコもいるし、結構大変なんですけど」
――いただいた資料によると練習のことを“部活”と読んでるみたいですけど。
「なんか草バンドって感じで。前は草野球やっている人とか見て、“なんで、せっかくの休みなのに野球するんだろう?”とか思ってたんですよ(笑)。毎週集まって、いろんなチームと試合して、そのあと飲みにいったり」
――朝まで仕事して徹夜で参加する人とかいますよね。
「大事な休みをね。今、完全にそういう状況になってるんですよ。“アナタたち他にすることないの?”って(笑)。新しく彼女ができたのに、せっかくの休日をツブしてまで練習に来るメンバーもいますから(笑)。そしたら“バンドのほうが楽しいんで、もう別れました”とか言って。何ソレ?ていう(笑)」
――最高の娯楽というか。
「そうそう。ホントそんな感じですよ。全員でセッションを通じて気持ちよさを追求してるというか。ある意味、ミュージシャンってゲイっぽいなとか思ったり(笑)。ヒップホップでも、それはあるんですけどね、気持ちいいループに乗ってラップのかけあいが決まった瞬間とか、ビカーッ!って雷に打たれるような感じありますから。気心知れた中間で何かを作りあげる作業っていうのは、やっぱり楽しいですよ。今回のアルバムも、いつも練習をやってるバーで、バンドとセッションしながら作っていった感じなので」
――気心知れた仲間といえば、今回のアルバムにはスチャダラパーのBOSEさん、SHINCOさん、TOKYO No.1 SOULSETの川辺ヒロシさん、渡辺俊美さん、
Illicit Tsuboiさん、Dub Master Xさんと豪華なゲストが参加していますが、スチャ、ソウルセット、Illicit Tsuboiさんの“LITTLE BIRD NATION”チームとは、かれこれ20年来の付き合いになりますよね?
「そうですね。ボーちゃん(BOSE)とかレコーディングの噂を嗅ぎつけて、“僕にもやらせてよ”って言ってくれて、川辺くんは僕のために20曲ぐらいデモを用意してくれたり。本当にありがたいなと思って」
――前々から感じてたんですけど、かせきさん特有の“放っておかれなさ”って一体何なんですかね? 常にみんながサポートしたがる感じというか。
「なんなんでしょうね。おちんちんが出てる感じですかね」
――おちんちんですか(笑)。
「あいつ、なんでいつも出てるんだろう。隠しとけよ、みたいな(笑)。まあケツ叩かないとやらないように見えるってことなんですかね。むしろ僕は何でも自分でガンガン物事を進めていくような男なんですけど、一人でやったものが、みすぼらしく見えちゃってるってことなのかな(笑)。雑すぎるだろうみたいな。分からないですね。でも、ありがたいですよ。なんか、いつもそうなんです。ハグトーンズもね、僕から頼んだわけじゃなくて、向こうからなので」
――言葉として適切じゃないかもしれないけど、ある意味みんな、かせきさんを面白がってるところもあるんですかね。
「あー。僕を面白がってるというのは、あるんじゃないですかね。ボーちゃんなんか、特に。“かせきの面白さを、何とかして世に伝えなきゃ”って、たまに言ったりするし」
――しかも重要なのが、皆さん今回のアルバムでも最高の仕事を残してるというところで。
「そう。みんないい仕事してくれるんですよ」
――この間、川辺さんの取材に同席したんですけど、“かせきのトラック、すごくいいでしょう”って言っていて。あんまりそういうことを言わないイメージがあるんですけど(笑)。
「僕も今はじめて聞きました(笑)。川辺くんはレコーディングやトラックダウンにも立ち会ってくれて。あの曲(<明日ライドオンタイム>)はボーちゃんと作業を進めていったんだけど、現場でちょっと困ったことがあって、どーしようみたいになると川辺君が出てきて、“ここはこうしたほうがいい”とか全部決めていくんです。基本的にボーちゃんも作業が早いタイプだから、あっという間にレコーディングが終わっちゃって。この3人でアルバム作ったらすぐできるじゃんって思いましたね(笑)」
――そんな可能性も(笑)。
「見えましたね(笑)。でも、川辺くんがそんな風に言ってくれてるのはうれしいですね。昔やっていたTONEPAYSというヒップホップ・ユニットを解散した時も、“俺がDJするから、一人だけでも絶対にライヴを続けたほうがいい”って言ってくれたりして。あの一言がなかったら、人前でライヴとかしないで、趣味でデモ・テープ作るような感じになっていたと思うんで。そういう意味でも川辺くんには感謝しています」
――最後に、リトルバード勢からハグトーンズまで、新旧のパートナーシップが見事に作品という形で結実した今回のアルバムについて、ご自身ではどんな印象を持っていますか?
「みんなに力を貸してもらったおかげで、長い間、かせきさいだぁとしてやりたかったことをやっと形にすることができたかなと思います。自分の中では、“大きな意味でのシティ・ポップ・アルバム”みたいなものを作りたいなと思っていたんですけど、自分なりに満足いくものを作ることができて。完成しなかった曲もあるんですけど、それはまあ、次のアルバムのために取っておこうかなって」
――じゃあ、今後も、かせきさいだぁとして継続的に活動を続けていくことになるわけですね。
「そうですね。コンスタントに作品を発表するかどうかはさておき、とりあえず毎週、ハグトーンズと練習することだけは決まってるんで(笑)」
取材・文/望月 哲(2011年6月)
※次回は、かせきさいだぁ本人によるアルバム全曲解説を掲載します。お楽しみに!