かせきさいだぁニュー・アルバム『SOUND BURGER PLANET』発売記念
3週連続特集『CIDER IS BACK』第3回:特別鼎談 かせきさいだぁ×本秀康×しまおまほ
3週連続でお届けしている、
かせきさいだぁニュー・アルバム
『SOUND BURGER PLANET』発売記念特集。漫画『ハグトン』を発表し、たびたび展覧会も行なうなど、漫画家&イラストレーターとしても活躍する、かせきさいだぁ。最終回となる今回は、イラストレーター仲間である本秀康さんと、
しまおまほさんをゲストに迎え、特別鼎談をお届けします。
「かせきさんの1stには、はっぴいえんどとか、つげ義春とか、ビートルズとか、僕が好きなものが作中にいっぱい入っていて。すごく共通した匂いを感じたんです」(本)かせきさいだぁ(以下、かせき)「僕が初めて本さんとお会いしたのって、たしか、まほちゃんと一緒に展覧会(『まほ&さいだぁ≡博』/2005年)をやったときでしたっけ? そこに本さんが来てくださって」
しまおまほ(以下、しまお)「私がかせきさんが描いてる漫画(『ハグトン』)を本さんに紹介したんじゃなかったっけ?」
かせき「いや、でも、そのときは結局、会えなかったんじゃないかな」
しまお「でも、かせきさんが本さんにサイン貰ったのは覚えてるよ」
かせき「じゃ、いつ会ったんだろう……」
本 秀康(以下、本)「まあまあ、たぶんお会いしたのはその頃ですよ(笑)。かせきさんが絵を頑張りはじめた頃、絵を共通項として知り合って。だから音楽の話とか今までほとんどしてないですよね」
かせき「そうですね。絵の話ばっかしてましたね。僕がまだ画材を買ったばかりで、どうやって使うのか本さんに教えてもらったり」
本「最初は『ハグトン』のキャラを元に展開していくのかと思っていたら、ここ最近、展覧会を重ねるごとに、しっかりしたイラストレーターになってきて。去年、青山のビリケンギャラリーでやった展覧会(『MADE IN JAPAN』/2010年)を観にいったんだけど、もう最高なんですよ。僕がやりたかったことに、すごく近いことをやっていて」
かせき「ありがとうございます」
本「それで“一緒に何かやりませんか?”って話をこないだしたところなんですよね」
かせき「はい。今、本さんと合同展覧会をする話が進んでいて」
本「とはいえ、2人だけで遊ぶみたいなことは今までなくて。最初は、まほちゃんとかせきささんが遊んでるところに混ぜてもらった感じですよね」
しまお「一緒に麻婆豆腐食べにいったり。そういえば、隣で団体が大騒ぎしはじめたことありましたよね(笑)」
かせき「僕ら以外の客が結婚式の二次会かなんかで、突然、ビンゴ大会が始まって」
しまお「それでバーのカウンターみたいなところに移動させられたんだよ」
本「あったあった(笑)。すごいお洒落な場所なのに、食べてるのは麻婆豆腐っていう(笑)」
かせき「たしか、お店に向かってるとき、僕とまほちゃんが険悪な感じになったんですよね。“美味しい麻婆豆腐のお店があるから行こう”って言うから付いてったのに、さんざん歩き回った末に、“全然、場所が思い出せない”とか、まほちゃんが言いはじめて。それで僕が“そんな店に行こうっていうなよ”みたいなことをボソっと言ったら、すっごい怒ったの」
しまお「そうだっけー?」
かせき「めちゃくちゃ怒ってたよ(笑)」
本「その後ろで、僕は二人がなんか揉めはじめてるなと思いながら付いていってました(笑)」
しまお「でも、かせきさんも最初は麻婆会に来ること渋ってましたよね。“麻婆豆腐を食べる会があるんだけど”って誘ったら、“みんなで好きなものを食べる会だったらまだしも、なんで麻婆豆腐ありきの会に行かなきゃいけないんだ?”って(笑)」
本「それで、かせきさんの代わりにシャシャミン(※注1)が来たんじゃなかったっけ?」
しまお「あー。そうだったかも。シャシャ(笑)!」
本「そしたら待ち合わせ場所に来た途端、シャシャミンが“僕は辛いものが苦手なんですけど”って言い出して」
(一同爆笑)
本「最後まで“美味しい”と言ってくれなかったのが寂しかった(笑)。まあ、そんなシャシャも、今ではテレビ番組でイラストが使われたりして大活躍だよね……とか、なんとなくフォローを入れたりして(笑)」
かせき「すいません。気を使ってくださって(笑)。でも、そうか。僕は偏屈だったなぁ。“麻婆豆腐だけ食う会なんて絶対、行きたくない”とか当時は思ってたんだよな」
しまお「なんか、融通の利かない女子会みたいなノリを感じたんじゃないの?」
本「あ〜。でも、かせきさん、そういうところありますよね。僕とまほちゃんは香港が好きで、仲間を集めて毎年1回、香港に行ってるんですけど、以前かせきさんを誘ったら“僕はちょっと”って断られて。香港限定っていうのが嫌なんですよね?」
しまお「やっぱ、かせきさんは頑固なんだよ(笑)」
かせき「頑固っていうか、あまり協調性がないっていうのはあるかもしれないですね。集団で旅行すると周りに気を使って疲れちゃうっていう」
しまお「でも香港、本当に楽しいんだよ?」
かせき「たぶんダメ。僕は楽しめないと思う」
しまお「いつも一緒に旅行に行くメンバー、
花くまゆうさくさん、常盤響さんとかも自由だし」
かせき「たぶん、長い間、
(ワタナ)ベイビーに振り回されすぎて疲れちゃったんだと思う(笑)」
しまお「あははは」
かせき「べイビーって本当に凄いんですよ。
Baby & CIDER≡のツアー中にスタッフから、“仕事があるから2人で先にホテルに行っててくれ”って言われたときがあって、“分かりました”って僕が地図をもらったんです。で、ベイビーは地図を持ってないのにどんどん歩いてくから、知ってんのかなって思って。“しょっちゅう泊まってるホテルなの?”って聞いたら、“知らない”って。もちろん、場所も全然間違ってて(笑)。で、今度“俺がちゃんと地図見るからちゃんと付いてきて”って言って、パッと見たらもういなくて。“えっ!?”って思ったら、すごい向こうの方でタバコ買ってたんですよ」
しまお「いかにもやりそう(笑)」
かせき「そういうことの積み重ねで、だったら一人でいいやってなったのかも」
本「香港でもそういう人がいて大変だったよね。突然、いなくなっちゃったから、みんなで探し回って」
かせき「その、いなくなっちゃう人を探すために、自分の時間を取られるのがすごく嫌なんですよ(笑)」
しまお「だけど、それも旅行じゃない?」
かせき「だったらしたくない(笑)。なんかね、僕はひとりの時間がすごく大事みたい」
本「でも、その感覚、かせきさんの作品からすごく感じますよね。“一人感”みたいなものをすごく感じる。基本、文科系じゃないですか」
かせき「はいはい、雰囲気的には文科系ですよね」
本「僕はかせきさんの1stアルバム(
『かせきさいだぁ≡』)が好きなんですけど、はっぴいえんどとか、
つげ義春とか、
ビートルズとか、僕が好きなものが作中にいっぱい入っていて。そういうところにすごく共通した匂いを感じたんです」
かせき「たしかに、ビートルズとつげ義春を一緒に入れるような人って、あまりいないかもしれないですね」
本「世代的なものかもしれないですけどね。初めて会ったときも、『伝説巨神イデオン』の話で盛り上がったり」
かせき「そうだ! 『イデオン』だ。僕らイデ友ですもんね(笑)」
本「新しいアルバムの2曲目(<サウンドバーガープラネット>)に“亜空間ドライブ”って言葉が出てきますけど、あれは『イデオン』の亜空間飛行からの引用ですよね?」
かせき「そうです。さすがですね(笑)」
本「“トレーダー分岐点”は『銀河鉄道999』でしょう? やっぱり同世代だから、そこは伝わりますよね」
かせき「本さんとはタメですからね」
しまお「私、<サウンドバーガープラネット>がすごい好きなんですよ。間奏に
米米クラブみたいな感じをひそかに感じてる。この感想、大丈夫かな〜(笑)」
かせき「
ビッグ・ホーンズ・ビー的なホーンも入って(笑)。でもね、こっちはそういう目で見てもらいたいわけよ。米米と同じ目で」
しまお「本当に(笑)?」
かせき「うん。だって特殊な作品だと思われたら、取っ付き悪いじゃない(笑)。僕は今回のアルバムでシティ・ポップをやろうと思ってたわけだから、そういう聴かれ方っていうのはすごく嬉しいよね。できれば音楽マニアも喜ばせたいけど、J-POPとか聴いてる人にも聴いてもらいたいなと思ってるし」
「高校時代、スチャのライヴで仲良くなった女のコが、かせきさんの生写真を送ってきたこともありましたよ(笑)」(しまお)本「ちなみに、まほちゃんは、かせきさんとはどうやって知り合ったの?」
しまお「最初は『relax』って雑誌の撮影で」
かせき「そうそう。『relax』でコラムを書いてる人たちがモデルになるって企画があって、そのときに仲良くなって」
しまお「それで、
スチャダラパーの
BOSEさんと一緒に、お父さん(写真家の島尾伸三)がやった個展(『まほちゃんち』/2004年)を観にきてくれたんです」
かせき「俺、ラジカセ持って現れたんだよね。とんでもない変態が現れたって(笑)」
しまお「ちょっとびっくりしたけど(笑)。でも、よくよく考えたら、かせきさんには、もっと前に会ってるんですよね。会ってるっていうか、同じ空間に居たというか。高校時代、毎回のように行っていたスチャダラパーのライヴ会場で見かけていたし。あと、かせきさんたちが白いタンクトップ着て
仲本工事の真似した渋谷公会堂の……」
かせき「あ、スチャのライヴで、そういえば体操したことあった(笑)。あれ観てたんだ」
しまお「はい。たぶん最前列ぐらいで。ちょうど、その頃、『MORE BETTER』って音楽雑誌を読んだら、“かせきさいだぁ≡っていうソロ・ユニットを始めます”みたいな記事が載ってたり」
本「へ〜、じゃあ結構、昔から、かせきさんの存在自体は知ってたんだね」
しまお「はい。そういえば高校時代、スチャのライヴで仲良くなった女のコが、かせきさんの生写真を送ってきたこともありましたよ(笑)」
かせき「え〜!」
しまお「たぶん、タワレコかなんかのインストア・イベントで撮ったやつ。“加藤くんの写真だよ〜”って(笑)」
かせき「何それ(笑)。メールとかない時代でしょ?」
しまお「そうそう。文通してたの(笑)。同じ“まほ”って名前のちょっとぽっちゃりしたコと」
かせき「“あ、同じ名前なんだ〜”とか言って(笑)?」
しまお「そう(笑)。そしたら、かせきさんの写真が送られてきた(笑)。わたしは
SHINCOさんのが欲しかったんだけど(笑)」
かせき「よりによって(笑)。でも、当時、LBネイション(※注2)の中では、俺とか完全に隅っこキャラだったと思うんだけど」
しまお「いや、みんな輝いてたよ(笑)」
(一同爆笑)
かせき「鬱屈した女子高生から見ればでしょ(笑)。俺たち、自分が輝いてるとか誰も思ってなかったからね。ポテチとジュースを大量に用意して、誰かの部屋に集まっちゃ、ドラマの『高校教師』観て大騒ぎしたり。ホントそんな感じだったから(笑)。そういう人たちがスチャのお陰で渋谷公会堂のステージに立つことができたんだよ(笑)」
しまお「でも、私も写真撮ったりしてましたよ。シャシャミンなんて自分の中では超スターだったから」
かせき「それがいまや、まほちゃんの中では、ガリガリの男として……(笑)。どんどん評価下がってるでしょ?」
しまお「下がってないよ(笑)」
かせき「僕の評価も同じように下がってるんじゃないですか?」
しまお「そんなことないって(笑)」
本「でも、幸せだよね。高校時代のスターと今ではこんなに仲良くなって。初心を忘れちゃいけない。まほちゃんだって最初に、かせきさんと話したときは緊張したでしょ?」
しまお「緊張しました。初めて送ったメールの内容も覚えてるし」
かせき「本当?」
しまお「うん。“自分が好きだった人たちと、こんなに近づけるなんて、すごく幸せです”ってメールを送って、そのあと“気持ち悪くてごめんなさい”ってメールをさらに送った気がする」
(一同爆笑)
本「でも、僕もミュージシャンの方に会うと、いまだに緊張しますよ。かせきさんから電話がかかってくると僕はものすごく緊張するからね。この前、初めて飛行機の中で電話取っちゃったから」
かせき「それマズくないですか(笑)」
本「飛ぶ前だったからよかったんだけど。そうそう。僕、初期のかせきさんについて、すごく印象に残ってることがあるんですよ。たしか1stアルバムのレコ発って渋谷のクアトロですよね?」
かせき「そうです」
本「僕、当時『ミュージックマガジン』の仕事してたので、見本誌が送られてきて、かせきさんのライヴ評を読んだんですよ」
かせき「あ、覚えてる。ライヴ評載ってた」
本「で、さっき言ったように、かせきさいだぁ≡って文化系の人だと思ってたら、“かなりマッチョなMCで”みたいな評が書いてあって、すごく意外だなと思ったんです」
かせき「結構、勘違いされがちなんですよね。たしかに歌詞は文化系なんですけど、ライヴはずっとやってたから。当時は、なんとなくのイメージだけで、“文化系宅録派”って書かれちゃうようなことが多かったんですよ」
本「僕もそう思ってたから、ステージはかっこいいんだって、認識がそこで一気に変わって。それでさらに興味を持ったんです」
かせき「ありがとうございます。でも、“文化系宅録派”って、ライヴがド下手みたいなイメージがありますよね。ライヴを月に4、5本やってたのに」
本「じゃあ、そのライヴ評は嬉しかったんですね」
かせき「はい、嬉しかったです」
本「“見直した”って書いてありました、確か。まぁ、本当びっくりしました。それ読んで。考えを改めなきゃなと思って」
しまお「わたしも、かせきさんのライヴすごく好きですよ。でも、やっぱり最初は驚いたかも。“声張ってる!”って(笑)。わたしも文科系だと思っていたから」
本「ちなみに、ニュー・アルバムのレコ発はあるんですか?」
かせき「はい。9月3日に原宿アストロホールでやります」
本「それは観たい。マッチョなかせきさんのライヴをぜひとも観てみたいなあ。あと、合同展覧会もよろしくお願いします」
かせき「そうですね。そっちも話を詰めていきましょう」
しまお「あと一緒に香港行く話も(笑)」
かせき「何? またその話になるの(笑)?」
しまお「行きましょうよー」
本「じゃあ、誰が一緒だったら行きます?」
かせき「え〜! 誰って……」
しまお「BOSEさんが一緒だったら心強いんじゃない? しっかりしてるし」
かせき「あ〜、ボーちゃんなぁ」
しまお「でも、かせきさんを口説き落とすより、BOSEさんを口説き落とすのが難しいか(笑)」
かせき「確かにハードル高いかも。……ていうか、意味が変わっちゃってるよね(笑)。俺、そんな絶対、香港行かないとダメなの?(笑)」
取材・文/望月 哲(2011年6月)
注1:シャシャミン
イラストレーター。木村カエラ<Samantha>のミュージック・ビデオのアニメーション等を担当。ヒップホップ・グループ、ザ・カートゥンズの元メンバー。かせきとは旧知の仲。
注2:LBネイション(リトル・バード・ネイション)
スチャダラパー、TOKYO No.1 SOUL SETらが中心になっていたヒップホップ・コミューン。かせきさいだぁが所属していたヒップホップ・グループTONEPAYSもメンバーだった。