吐息ひとつを取ってもいろんな種類がある――歌手デビュー10周年を迎えた加藤和樹の“声”の魅力

加藤和樹   2016/10/26掲載
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 ライヴ映像を観ると、立ち居振る舞いに華のあるロック・ヴォーカリスト。一方、俳優としては、映画と舞台版、いずれにも出演した『真田十勇士』のほか、『1789 バスティーユの恋人たち』といったミュージカルでも活躍。加藤和樹のそうした多彩な活動にあって、確実に“核”となっている、と感じさせるのが“声”の魅力だろう。一聴、クセのない、真っ直ぐな声質であり発声、と思わせながら、じつのところその表情は、曲や場面によって融通無碍に変化する。最新シングル「夏恋 / 秋恋」は、そんな声の魅力が、対照的な2曲にあって発揮された好サンプル。4月にリリースされた前作「春恋」に続き、一人の女性の心模様を歌い綴る連作シングル、その第2弾でもある。
加藤和樹「夏恋 / 秋恋」(「秋恋」ミュージックビデオver.)
「秋恋」ミュージックビデオver.
加藤和樹「夏恋 / 秋恋」(「夏恋」ミュージックビデオver.)
「夏恋」ミュージックビデオver.
加藤和樹「夏恋 / 秋恋」(通常盤)
通常盤
――最新シングルに先立って出たライヴDVDを観た時、何はさておき印象的だったのが、滑舌のよさだったんです。ヴィジュアル面での演出にこだわるヴォーカリストって、崩して発音するケースが圧倒的だと思うんですが、加藤さんの場合、驚くほど歌詞が聴き取りやすかった。
 「言葉を伝えようという意識は強いほうだと思います。歌詞カードで確認しなくても、言葉が見えて、浮かんでくる。お芝居の台詞もそうなんですけど、ライヴだと(バックの)音に負けないよう、一言一言はっきり歌おうと、心がけてはいます。心がけるようになった、というのが正しいかな」
――そう意識されるようになったのは、いつ頃から……。
 「ここ3年くらいですか」
――わりと最近ですね(笑)。
 「自分で歌詞を書いたりもしますし、他の方のライヴに行った、お芝居を観たという時、何を言ってるのかわからくてもどかしい思いをした経験が、けっこうあったんです。自分自身、ラジオ番組で喋っている時とか、よく指摘されるんですよ。どうしても早口になりがちなので。それだと、言葉の力って分散しちゃうんですよね。言葉を届けることを仕事にしている以上、この部分はしっかりしなくちゃと、最近特に思うようになってきました」
――DVDに収録されている「欲情 -libido-」は、リズム的にも、言葉を乗せていくのがむずかしいタイプの曲だと思うんですが。
 「逆に、はっきり歌わないと、歌えない曲なんですよ。一言一言はきはき発音することで、自分自身(何を歌っているのか)認識できるという感覚なので。かっこつけて、だらだら〜っと歌うやり方もありだとは思うんですけど、ノリがちゃんと出ていて、かつ言葉が立っている。そもそも、そういうアプローチがいいかな、と思って書いた曲でしたから」
――複合系のリズム自体、最初から構想にあったものなんですか。
 「ありました。ああいう、アップテンポで言葉が詰まっている曲って、それまでほとんど書いたことがなかったんです。バラードやミディアムしか経験がなかったので、自分の中でも遊びを入れながら、歌詞も書いていきました。じつは歌詞のアタマの文字が、あいうえお順になっているんですよ。残念ながら“ま”で終わっちゃってるんですけど(笑)。でも、そうすることで、言葉の始まりがちゃんとわかる。そういうつくりになってはいます」
――ラップだと、日本語であっても、脚韻を踏んでいくことが多いですよね。今おっしゃったような、アタマの音で揃えていく手法って、日本語ならではの特性を活かしていて、おもしろいですね。
 「たぶん、お芝居をやっていて身についたことだと思うんです。台詞でも、言葉のアタマとお尻をきちんと発声しないと、何を言いたかったのか結局わからない。そう、演出家の方から指摘されることも多いですから。何を言っているか伝えるためには、発音や発声にアタックを効かせる必要があるんですよね」
――役者さんと兼業されている歌い手の場合、ともすればご本人のキャラクターに寄りかかったプロダクションになりがち、という先入観があったんですが、加藤さんの場合、俳優業で培った経験と音楽をやることが、理想的な形でピンポンしている印象があります。
 「ありがとうございます。最初は、自分自身とまどいがあったんですよ。音楽と芝居はやっぱり別物だと、当初は思っていたし。でも、いざやってみたら、共通する部分がたしかにある。すごくいい相互作用があるんだなと、実感しつつあるところです」
――ミュージカルの舞台にも立たれてますよね。ご自分のライヴ・パフォーマンスとミュージカル、どう振り分けて演じられていますか。
 「じつは苦手だったんですよ、ミュージカル(笑)。急に歌い出すけど、ここで歌う必然性ってあるのかな、くらいの認識だった。実際やってみても、むずかしかったですね。歌い出す気持ちへと、自分を持っていくのが。なんでここで歌うんだろう?という疑念は、正直言って、まだ完全にはぬぐい切れてないです(笑)。ただ、段々わかってきたのは、歌というよりむしろ台詞に近いんですよね、ミュージカルの場合」
――ふ〜む。
 「歌なんですけど、自分の台詞でもある。実際、お客さんから見てシラケるのって、“歌っちゃってる”からなんです」
――ストイックな世界であるとも言える。
 「そこで、自分の気持ちと役柄の気持ちというのが、僕の場合まだ葛藤していて。楽曲的に自分ならこう歌いたい、という気持ちと、役として求められている表現が、合致するとはかぎらない。こういうアレンジなら、こう歌ったほうがかっこいいのに、とか、つい思ってしまう自分がいまだにいる(笑)」
――悩みながら取り組んでる感じなんでしょうか。
 「一方で、ミュージカルならでの経験が音楽に活かされてきた部分も、たしかにあるんです。ライヴでのステージ・アクションがまさにそう。自分のライヴをやり始めた当初は、手の置き場所ひとつ取っても、わかんなかったですから」
――映像を観るかぎり、とてもそうは思えないですけど。
 「“手を動かせ”“足を動かせ”って、言われっぱなしだった(笑)。ミュージカルの舞台に立ったことで、手の動かし方だったり、立ち方ひとつで自分を大きく見せるノウハウを学びましたね。自分で興味を持ってやり始めたことではあるので、音楽にフィードバックされているとすれば、うれしいですよね」
――逆に、歌うことを通じて、ご自分の“声”の新しい響きを発見することはありますか? 今回の最新シングルも、「夏恋」と「秋恋」、カップリングの2曲で、まったく違う歌い方をされていると思うんですが。
 「意識してそうしたわけじゃなくて、曲を聴いて、さてどうアプローチしようかと考える。こう歌うのが合うんじゃないかと思った表現で歌ってみる。その積み重ねなんです。そのせいで、特に初期、“曲によって人が違ったように聞こえますね”と言われたこともあるんですけど(笑)」
――あ、悪い意味じゃなくてね(笑)。ヴォーカリストって、「自分はこの歌い方で行く」って、あくまで一点突破していくタイプの人もいれば……。
 「そうですね」
――反対に、もちろんその人なりの基盤はあるにせよ、そこに軸足を置きつつ、多彩なヴァリエーションを拡げていくタイプの歌い手がいてもいい。今回「夏恋」を聴いて、季節感の違いをも歌に反映させているのが、おもしろいと感じたんです。
 「それが自分のスタイルになっているのかな、とも思いますよね。うん」
――最新シングルの2曲を提供された時、それぞれどう歌おうと考えましたか。
 「〈夏恋〉の場合は、とにかく爽やかに。この上なく爽やかに歌おうと思いました。お前もう、そんなトシじゃねえよ、と言われるのは、覚悟してましたね(笑)。最初に聴いた時、海と青空が実際見えたような気がしたんです。だったら、とことん爽やかに、太陽の光が感じられるようなキラキラしたイメージで歌おう、と思った。〈秋恋〉は、対照的にしっとりしたバラード。歌詞自体、冬に向かっていく雰囲気があるので、柔らかさや温かみといったものを逆に意識しましたね。そこに一抹、苦しみだったり悩みだったりという、ほろ苦さが混じっている感じかな」
――「秋恋」でも聞かれる、ちょっと鼻にかかった発声をされる時って、それこそレディ・キラー的というか。
 「ははは(笑)。そこはあまり意識してないです(笑)」
――そこまで人はワルくないと(笑)。
 「今、声優のほうのキャラクターで、歌ったりもしているんですが、そこでは“こう歌ってみましょうか”みたいに、求められる部分が多いんです。でも自分の曲に関しては、そこまで意識的じゃないなあ……」
――ご自分の音楽をやっている時が、やっぱり一番“素”に近いんですね。
 「仕事でご一緒する声優さん、みなさんがおっしゃることなんですけど、キャラクターの声をつくって歌うのが、一番難しいそうなんです。僕自身、声の高さをワントーン上げて、アイドル・キャラを意識して歌いますけど、やっぱ大変だなと。時たま、“オレ、今何やってるんだろう?”って、思う瞬間があります(笑)」
――そう思うと、“声”というものを媒介にして、さまざまな世界を生きてらっしゃるというか……。
 「何においても、“声”って使うじゃないですか。ミュージカルにしてもお芝居にしても。使い方が違うだけ。いろんな表現があるんだなって。声優をやらせていただく中で感じたことなんですけど、それこそ吐息ひとつ取ってもいろんな種類がある。それを経験したからこそ、今度はお芝居の中で活かせることがある。それぞれ少しずつ違うけど、でもどこかでつながっているんだなと、すごく感じているところなんです。じゃああんた何者なの?って訊かれちゃうかもしれないけど、自分がやりたいこと、興味を持ったことは、とりあえずやっていきたい。“やればできる”がモットー、やってやれないことはない。そう信じてきているので、何事にも挑戦して吸収する。それがまた、音楽へと還ってきてくれればいいなと、今は思っています」
――最新シングルに話を戻すと、4月にリリースされた「春恋」があって、今回の「夏恋」と「秋恋」。連作の形でシングルを出すというのは、今年のテーマのひとつと受け取っていいんでしょうか。
 「ヴォーカリストとしてデビューして、今年が10周年。レコード会社も移籍したことでもあるし、何か新しいことをしたいなと。そこから、シンガー・ソングライターのCHIHIROさんに楽曲提供をお願いしてみよう、ということになった。今まで、女性目線で書かれた作品というのを、あまり歌ってこなかったので、ちょっと趣の違う視点であったり、温かみのある歌をお客さんに届けられるかもしれない。そんなねらいがありました」
――これは女性の書き手ならではだな、と思えたのは、どういった点ですか。
 「〈夏恋〉で言うと、身長の違い(笑)。女性の目の高さだから見える世界というのが、あるわけじゃないですか。そこから見える景色って、けっして僕の目には映らないものなので」
――加藤さん、長身でらっしゃるから(笑)。
 「そうか、女性からすると、男性に引っ張っていってほしい、という気持ちがあるのか、とか。そういう感覚って、やっぱり僕の中からは出てこない」
――そこを書かれちゃったら、それはそれでちょっと怖いです(笑)。
 「女性の気持ちになりきって歌っているわけでもないんですよね、だから。MVでもそうなんですが、どちらかと言えば、僕は別の空間にいて、遠くからそっと背中を押すようなスタンスかな」
――歌を通じて、主人公を見守るようなアプローチ。
 「そういう手法自体今までなかったものなので、あらたな挑戦でした」
――物語は“冬”で完結するんですか。
 「作品としては冬で終わるんですけど、二人の物語はそこからも続いていく。そういう気持ちで聴いてもらえたらいいな、と思っています。お客さんも、春から続いてきた成り行きを気にしてくれていて、握手会とかで言われるんですよ、“お願いですから、ハッピーエンドにしてくださいね”って。“ヒロインを、幸せにしてやってください”って。思わず“は、はいっ”って答えてるんですけど(笑)」
取材・文 / 真保みゆき(2016年9月)
Kazuki Kato Acoustic Live
“KK-station”Tour 2016 〜That day〜

www.katokazuki.com/
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2016年10月30日(日)
東京 新宿 FACE
開場 17:15 / 開演 18:00
着席指定席 7,000円 / 立見 5,500円(税込 / ドリンク代別)

2016年11月3日(祝・木)
宮城 仙台 Rensa
開場 17:15 / 開演 18:00
着席指定席 7,000円 / 立見 5,500円(税込 / ドリンク代別)

2016年11月5日(土)
大阪 梅田 AKASO
開場 17:15 / 開演 18:00
着席指定席 7,000円 / 立見 5,500円(税込 / ドリンク代別)

2016年11月6日(日)
愛知 名古屋 ダイアモンドホール
開場 17:15 / 開演 18:00
着席指定席 7,000円 / 立見 5,500円(税込 / ドリンク代別)

2016年11月12日(土)
福岡 DRUM LOGOS
開場 17:15 / 開演 18:00
着席指定席 7,000円 / 立見 5,500円(税込 / ドリンク代別)

2016年11月13日(日)
広島 CLUB QUATTRO
開場 17:15 / 開演 18:00
着席指定席 7,000円 / 立見 5,500円(税込 / ドリンク代別)

2016年11月19日(土)
東京 新宿 FACE
開場 17:15 / 開演 18:00
着席指定席 7,000円 / 立見 5,500円(税込 / ドリンク代別)
THE FINAL
Kazuki Kato 10th Anniversary Special Live“GIG”2017〜Laugh&Peace〜
www.katokazuki.com/
2017年3月4日(土)、5日(日)
東京 新宿 BLAZE
【4日】 開場 17:00 / 開演 18:00 【5日】 開場 16:00 / 開演 17:00
※加藤和樹の作詞&作詞・作曲(JOKER曲含む)で構成された2デイズLIVE



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