ケイコ・リー、デビュー25周年、“かけがえのない”ジャズ・クラブで録音したライヴ盤を発表

ケイコ・リー   2020/10/21掲載
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 日本を代表するジャズ・ヴォーカリスト、ケイコ・リーが2020年2月16日と17日に名古屋の老舗ジャズ・クラブ「jazz inn LOVELY」で毎年恒例のバースデー・ライヴを行なった。野力奏一(p)、岡沢章(b)、渡嘉敷祐一(ds)と繰り広げたパフォーマンスは記録され、デビュー25周年記念ライヴ・アルバム『ライヴ・アット・ジャズ・イン・ラブリー』として10月21日(水)に発表。オーディエンスの熱狂的な歓声も捉えた作品の舞台jazz inn LOVELYは今年オープン50周年である。ケイコ・リーに店との関係をまず訊いてみた。
――jazz inn LOVELYにはデビュー前から通っていたそうですね。
「今から35年ぐらい前かな。当時、私は別の店でピアノを弾いていて、仕事帰りによくお店に寄っていたんです。すでにライヴは終わっていましたが、店にはいつもおかしな人たちがたくさんいて、いわる名物親父みたいな人や、今の時代ではあまりお目にかかれないような個性的なメンツが揃っていたの。そういう人たちと話をしたり飲んだりするのがすごく楽しくて、自然と店に足が向いていたんです。気が付けば常連(笑)。ほかの場所でライヴを終えたミュージシャンたちも続々と集まって来て、ようは、放し飼いの動物が“あそこに行けば楽しいことがあるぞ”と匂いを嗅ぎつけて檻の中に入ってくる感じ(笑)。いつの間にか20人ぐらいのミュージシャンが大集合、まるでジャズ・フェスの楽屋みたい、なんてこともめずらしくありませんでした。そうすると当然、セッションも始まるわけです。私もピアノを弾いたり歌ったりしていたら、東京在住のミュージシャンが帰京した際に“ケイコ・リー”の噂を広めてくれて、そのお陰でレコード会社と出合い、CDデビューが決まりました。本当にご縁をいっぱいいただき、お客さま、そしてマスターにも育ててもらったかけがえのないお店です」
ケイコ・リー
――海外のジャズ・ミュージシャンもかなり出演されていますよね。
「錚々たるジャズメンが演奏しています。私がライヴをしていた時も〈100ゴールド・フィンガーズ〉で来日していたミュージシャンが来てくださったことがあるんですよ」
――100ゴールド・フィンガーズといえば、ニューヨークで活躍する人気ジャズ・ピアニスト10人が日本のステージで一堂に会するというスペシャルな企画コンサートで、1990年にスタート、その後シリーズ化されました。
「1997年だったかな、彼らの公演を観た後、楽屋にお邪魔してご挨拶したとき、jazz inn LOVELYでライヴをやるよと言ったら、みんな“行く、行く!”と言ってくださり、まさかのご来店! トミー・フラナガン、マルグリュー・ミラー、ケニー・バロン、レイ・ブライアントら。皆さん、1曲ずつ、私の歌伴をしてくださったんです」
――すごい! 音源があるならアルバムにしてほしいです。
「写真だけはたくさん残っているんですけどね」
――ところで、今年2月6日にビルボードライブ東京で行なわれたアルバム『The Golden Rule』の発売記念ライヴで、10日後のバースデー・ライヴ&レコーディングに関するお知らせをされていました。それを会場で聞いていただけに今回のライヴ盤をとても楽しみにしていたんです。
「2月中旬は新型コロナウイルスの感染拡大が懸念され始めた頃で、お客さまは皆さんマスクをしていましたけれどすごく盛り上がりました。もし、ライヴが4月だったら延期、もしくは中止になっていたでしょうね。運が良かったです、私」
ケイコ・リー
――今回はケイコさんのお誕生日のライヴというだけでなく、デビュー25周年、そしてお店の50周年とアニバーサリーづくし、特別なライヴ盤ですね。
「私、ライヴ盤がすごく好きなんですよ。聴いているだけで興奮してくるというか、歓声や拍手だけでゾクゾクしちゃうの」
――同感です! ケイコさんの新作がまさにそうでした。ただ、発表する側となると、いつもとは別の緊張感が生まれるのでは?
「たしかに緊張しましたね。CD化するということで、ライヴの初日は通常長く演奏している部分をちょっと短くしてみたり。でも、姑息なことをするとロクなことにならないんです(笑)。2日目はレコーディングしていることを忘れて演奏しました。その2日間で録った音源からアルバム用に曲順を決めています。お聴きになった方がひとつのコンサートを体感した気持ちになっていただけたらなとイメージして完成させたんです。このご時世というだけではなく、いろいろな事情で会場に足を運べない方がいらっしゃると思います。そういう方たちに私たちのライヴの音をそのまま届けたいという気持ちもありました。いつか会場で直接お会いできる日を思い描きながら聴いていただきたい。私たちはいつもお待ちしています」
――メンバーもあらためて最高だなと。
「私の自慢です! 結成からかなり時を重ねていますが、このまま日本一の長寿バンドになりたいです。そして、4人で日本中、できたら以前のように海外でも活動できる日を夢見て心身ともに健やかに音楽をしていきたいです」
ケイコ・リー
――ところで、緊急事態宣言中はどうされていましたか?
「家でワークアウトをしたり、音楽を聴いたり、ご飯を作ったり。散歩を1日2時間ぐらいしたり、そんな毎日を過ごしていました。今、思い返すとかなり落ち込んでいたと思います。たとえば、新しいフレーズをいくら覚えたとしても使わないとカラダには残らないですよね。アウトプットというのは本当に大事だと思い知りました。私だけでなく、あの頃は皆さん、それぞれの立場でキツかったと想像しています」
――ライヴができない状況はミュージシャンにとって本当に辛いだろうと胸を痛めていました。
「7月から少しずつライヴを始めさせてもらっていますが、お越しになったお客さまで“今年、初めてのライヴです〜”と涙を流してくださる方もいて。本当にありがたいなと思います。もちろん、会場ではマスクをされているので口元は見えませんが、そのぶん、幸せそうな視線をステージに送ってくださり、皆さんのお気持ちをしっかりと受け止めています。私は以前から、カラダが自然に揺れているお客さまを見た時に最高の悦びを感じていました。だって、私たちと同じ波長になっているわけですから。メンバーもみんな、見ていますよ、お客さまを。そうそう、ライヴが終わってからの達成感が以前よりも、とてつもなくて! それが今も続いています。いつも終演後、喉のアイシングの為に飲んでいた薄〜いハイボールが叫びたくなるぐらい美味しいの。アウトプットしたカラダに沁みわたり、その喜びに暫く浸っていられるぐらい(笑)」
――今年も含め、この25年いろいろなことがあったと思います。
「25年というのはミュージシャンじゃなくても、みんな激動の人生を送ってきたのではないでしょうか。社会に出て伴侶を見つけ、結婚して子供ができて……。私も自分の音楽ライフを振り返ると間違いなく激動でしたね。ものすごい数の人と出会い、関わらせていただき、音楽を続けてこられました。努力はしていますよ。というより、努力して当たり前なので、普通に努力。まあ、貪欲ではありますね。四六時中、音楽のことばかり考えていますから。これからもそれは変わらないでしょうね」
取材・文/菅野 聖
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