――アルバム本当に素晴らしかったです。本作をリリースするまでの流れなのですが、MARBLE SHEEPはいま休んでるんですかね? それとも解散なのでしょうか。
KEN 「休んでますね。これをやる前にソロ(KEN MATSUTANI『
AFTER THE RUSH』2015年)を作ったでしょ? あん時はMARBLE SHEEPとは違う感じで作ってみようと思ってやったんだけど、それをライヴ・ショウで再現する時にメンバーを集めてきてね。それが今回の作品になっていくわけなんですよ」
――ではソロの延長線上にあるということですかね。
KEN 「僕が作ってるからみんな同じって言われるんだよね(笑)。あまり意識して変えようとしたことはないかな」
――MARBLE SHEEPもこれも“KEN MATSUTANIサウンド”にはなってると思いました。
KEN 「あぁ、でもそれはいいことだよね。ただ、ソロの延長ではもうぜんぜんないです。だから名前も(KEN MATSUTANI BANDから)KEN & THE STRANGE MOONに変えて作ったんで」
――さて、松谷さんといえば、かのCAPTAIN TRIPの代表でもありますし、日本のアンダーグラウンドの……なんというか……帝王的な(笑)。
KEN 「いやいやいや(笑)。アンダーグラウンドって売れてないってことだよね」
――そんなことないですよ。それはアンダーグラウンドじゃなくてマイナーです。
KEN 「そっか。いやでもアンダーグラウンドが別に好きなわけじゃなくて、ポジションがただそこだっただけで」
――ただ純粋に好きなものが単純にそっちに押し込まれがちだったと。それが今回メジャー・レーベルであるテイチクエンタテイメントからのリリースなのは?
KEN 「テイチクのディレクターとの付き合いもあって、なんとなくこんな感じになってしまいましたが、とにかく広がっていけばいいと思ったんだよ。メジャーだからって特になにを変えたってわけじゃないんだけど」
――どんなアルバムにしたかったですか?
KEN 「このCDのようなものにしたかったですね。特になにになりたいとかいう目標もなくて出来たものを。曲を作ってみんながいいって言ってくれたものがあったらそれをのばすみたいな。あと、いまやってることを上手に伝えれるようなポップさを入れて。まぁ、でも元々ポップなんだよね、俺が作るのは」
――ですよね。ポップでキャッチーです。
KEN 「だよね。むしろどんどんポップになっていってる。モダーン・ミュージック / P.S.F.で働いていたんで真っ黒いカッコした人たちが周りにたくさんいるんだけど(笑)、これがきっかけで広まればいいね」
――あと、これ聴き手のみなさんに通じるかわかりませんが、グラムロックですよね。
KEN 「それ、3人くらいに言われたね(笑)」
――MARBLE SHEEPの時からその傾向はあったと思います。
KEN 「そうなんだよね。ただね、ギターが一人代わったり、ベースやドラムが代わると、バンド全部の音が変わっちゃうからさ。それでMARBLE SHEEPの時は、いまよりもうちょっとハードロックになってたかもしれない。ただ、やってることはあまり変わんない。僕の頭のなかでは。全部同じ」
――ギターのKEIJI RONSONさんはどういう経緯で参加したんですか?
KEIJI RONSON 「まぁ、家が近所だからですかね(笑)」
KEN 「ソロをバンド形態でやり始めた時、僕はエレキを弾いてたの。その後ギターでAJIMAが入って。そこにアコースティック・ギターを入れてやったらおもしろいなと思って俺がアコギを持って。そしたらギターがもう一人いるなと思って声をかけて」
――参加してみていかがでしたか?
KEIJI 「いまは新曲の方が比率が多くなってて。それは自分が加入後の曲なんでサポートという感覚ではなく一緒に作り上げてる感じです。まぁ、とはいっても曲の8割は松谷さんの中で出来てて、メロディやギターのリフを“これを上手に弾いて”とか言われたのを弾いて。あと、ハモる練習をスタジオでひたすら20分くらいやらされたりとか(笑)。でも、作り上げてる感じがあって楽しいですよ。ライナーにも書かれてますが、このバンドは僕にとっては“洋楽”ですね。最初に思ったのは、ハードロックでグラムロックでブルースロックでサザンロック……だから、俺が一番好きな“長髪ロック”なんです。子供の頃、思い描いてた髪の長い洋楽。人生で初めて長髪のバンドが出来て嬉しい」
――長髪ロックってのはわかりやすいです。でも、埃くさくはないですよね。
KEN 「うん。なんでだろうね?」
――敢えて言ってるわけでもなく、精神論でもなく“パンク”ですよね。ミック・ファーレンがやってたことがパンクであるのと同じく。私はそう思います。
KEN 「そうなんだよね。もともとパンクが出てきた時にはすぐに飛びついたよね。1977年当時は17歳だったから一番吸収したし、一番おもしろかった。その頃、髪が長かったからどうしようかなー?って思ったな。切ったやつもいたけど、
デッド・ボーイズとか
ラモーンズをみたら“長いな、これでもいいのかな?”とか思ったり。パンク大好きなんだよね」
――CAPTAIN TRIPもサイケやプログレ中心と思われがちだと思いますけど、パンクも多数リリースしてますよね。
KEN 「そう。やっぱなんていうの? プログレつっても、そうなる前にみんなガレージ・バンドやってた人たちでしょ。人を踊らせてなんぼって音楽をやってた人たちがやったプログレとかハードロックは他のとはぜんぜん違う」
――なるほど!
KEN 「新しい人ってその後の部分をコピーするからぜんぜんグルーヴもないしちっとも良くないんだよね。70年代のロックが素晴らしいのは、60年代にみんなをダンスホールで躍らせてたやつがそのまんま枝分かれしたからで。全部おもしろいんだよ。それが90年代になると上っぺらばかりになっちゃって良くない」
――すごくわかりやすいです。本作収録の「GOLDEN FLYING SAUCER」なんかは60'sガレージが進化したような曲ですね。
KEIJI 「あの曲は別名“
MC5”って呼んでましたからね」
――○○風みたいなのがあるんですか。
KEN 「うん。でも、どうせそんな風になんないんだから」
KEIJI 「そうですよね。その具合がいいんですよ」
――結果オリジナルなものになると。ロックの歴史からみると王道なことをやってますよね。
KEN 「そうなんだけど、あんまりこういうことをやってる人はいないよね。日本はどんどんジャンルが分かれちゃって」
――そうですね。海外だと普通にサイケとか70年代っぽいハードロックをやってる若いバンドがメインストリームにいて、そういうのがFUJI ROCKとかにも来てるのに日本にはいないし、マニアックに見えるのが不思議です。
KEIJI 「松谷さん家に行くといいのが、玄関あけると
エアロスミスのポスターがあって、部屋にいくと
T.REXのポスターがあって。この人は昔からぜんぜん変わんないだろうなって。松谷さんは色々音楽知ってて俺はそんなに知らないけど、一番趣味があうと思うんですね。
キッスが好きでエアロスミスが好きで。だから、ほんとにいろんな世界観があるなかでも“これアリス・クーパー風に”って言われたら話早いし。松谷さんの世界観を俺がギターで通訳じゃないですけど、そういう部分でいい感じでいけてるんじゃないかなと思います」
――松谷さんは海外でもよくライヴをやってますが、向こうでの客層はどんな感じなんですか?
KEN 「いや、外国に行くとぜんぜん違うね。パンクやモヒカンもいっぱいいるし、特にヨーロッパ、ドイツではけっこういい思いをさせてもらって、何千人もの前でやったりとかして。すごいうけたし」
――ぜんぜんアンダーグラウンドじゃないんですね。
KEN 「アンダーグラウンドはアンダーグラウンドでも人の数の規模が違うんじゃないかな。東京が100人だとすると5,000人くらいの比率で。山の麓のフェスに出たりしたけど、何人いるの?ってきいたら、一万くらいかな?って(笑)。ちょっと規模が違うよね」
――すごいですね……。それから先ほども話にでましたが徹底して、一貫して“洋楽”的なロックをやってますが、その辺りは意識的ですか?
KEN 「昔、普通に日本のバンドを観に行っても好きなのがあんまりなくて限られてて……なんかみんなフォークに聴こえて。新譜を買って“ロック”って書いてるのに、なんだフォークじゃん、これ……みたいな。そんななかでも
(サディスティック・)ミカ・バンドとか
キャロルとか
外道とか、あと、偶然観た
ウォッカ・コリンズなんかは、すごくかっこよかったよ。ほんとにかっこよかった。でもフォークが多かったね。なんだこりゃ?みたいな。『ミュージックライフ』に広告が載ってて、日本の新しいロック・バンドとか書いてあるから買ったらみんなフォークなんだよ。フォークじゃないかもしれないけど、俺はフォークだと思った」
KEIJI 「なんで洋楽っぽいのかな?と思って考えてたら、意外とリフ・ロックだからじゃないですか? どの曲もリフが呪文のように入ってくるし」
KEN 「そうだね。そうなのかな?」
――洋楽っぽいものの日本語詞の曲もありますね。違和感がまったくないです。
KEN 「違和感がある日本語のロックが全然好きじゃなかったからね。日本語の歌詞を乗せるときに一番参考になったのは、
クール・ファイブ」
――へー!
KEN 「クール・ファイブはコード進行もけっこうリズム&ブルースだったりして、レコードにあわせてギター・ソロとか全然普通に弾けるよ」
――そうなんですね。
前川 清さんって元々ロック好らしいからそれもあるのかな? サウンドはMARBLE SHEEP時代からそうですけど、光の粒子が舞ってるような、天の川みたいなサウンドですが、“天空”とか“ヘヴン”といったワードがよく登場しますよね。そういう世界観みたいなのが自身の中にあるんですか?
KEN 「ありますね。ロックンロールのパワーは自然のものを取り入れて放つもので、そういうのが必要だし。でも、普通のヒッピー的なものをじゃつまんねえしね。ずっと永久にある普通のことだと思う。スピリチュアルな音楽って正直いってつまんないものばっかじゃん? でも、ロックンロールの中にもそういう部分があっても絶対いいはずだし」
――このアルバムはそういうパワーと楽しそうなのが伝わってきます。
KEN 「ありがとう。やっぱりロックンロールはパワー、生命力だと思ってるから。聴いた人がイキイキしてきたり、ニッコリしたり、嬉しくてワクワクしたりするのがロックンロールで、それを与えるものをずっと作ろうと思ってる。MARBLE SHEEPの時もそうだし、ずっとそう」
――レーベルでリリースしてきたものもそうじゃないでしょうか。
KEN 「昔から言ってるんだけど、レーベルやってるのとバンドやってるのは同じで。好きなことを自分でライヴ・ショウでやるのも表現だし、好きな音楽をリリースするのもそうで、そこはあまり差がない」
――生き方そのものなんでしょうね。では、最後にメッセージをお願いいたします!
KEN 「みんなが楽しめるレコードになればいいと思うな。あと俺くらいの世代の人が聴いたときに、その歳でもまだ大丈夫なんだって元気になったらいいね」
KEIJI 「メジャーから出てうれしいし、たくさんの人に聴いてもらえるチャンスになるんで。あと、松谷さんの横で弾いててグッとくる歌詞があって……それは“Rock'n'roll is only our god”っていうとこなんですけど」
KEN 「はははは!」
KEIJI 「そこで、よっしゃ!って思いますよね。ロックの神に忠誠を誓った身としては」
KEN 「やっぱりロックがなきゃダメだったり、ロックンロールを知らなかったら死んじゃいそうなことが人生でいっぱいあったから、ほんとに僕は救われてきてます。ロックンロールは生きていくことの中心なんです」
取材・文 / 恒遠聖文(2019年3月)
KEN & THE STRANGE MOON
『IN THE STORMY NIGHT』発売記念ライヴwww.showboat1993.com/2019年4月26日(金)東京 高円寺 ShowBoat
出演: KEN & THE STRANGE MOON / The Buzzers / Hellivision開場 19:00 / 開演 19:30
前売 2,500円 / 当日 3,000円(税込 / 別途ドリンク代)