――前作『WEEKEND』から今作までの約3年の間に本当に色々な仕事をされていましたが、中でも印象に残っているものは? 「〈TOKYO TRIBE〉の音楽監督ですね。全部で20シーンくらいあったんですけど、このシーンは主人公が親友と出会ったところだとか、このシーンは過去を振り返ってるところだとか、シーンごとに日本語ラップを振っていくっていう作業をして。ヒット曲で構成されているので1曲ずつは完結してるんですけど、この順番で聴くと別のストーリーが浮かんできて、それがすごく刺激的だったんです。最後の方に流れる曲もこの流れで聴くと過去の色んなシーンを思い出して、これまで曲単体で聴いていた時以上にグッときたりして。同じ曲なのに全然聴こえ方が変わるんだってすごくアルバムのヒントになったし、勉強にもなりました」
――アルバムへのヒントとは具体的にいうと?
「今の時代ってコンセプトがしっかりしていたり、何か意義みたいなものないとアルバムで出す必要がないんじゃないかと思っていて。僕自身もSpotifyとかでしか音楽をほぼ聴かなくなっていて、自分でプレイリスト組んじゃうし、誰かが組んだプレイリストを聴いたりしていて。アルバムを出すならこの順番でこの曲目じゃないとダメだっていう理由がないといけないと思うけど、それってどうすればいいんだっけって考えてた時に〈TOKYO TRIBE〉の仕事があって。1曲1曲は完結してるんだけど、別軸でストーリーラインが聴こえてくるっていう経験をして、アルバムもそういうものを作りたいなと思ったんです。だから1曲の中で出会って別れるような曲は無しにして。出会った曲は出会ったところまで、仲良くなる曲は仲良くなるまでって瞬間を切り取って、ちゃんと段階の時間軸を作り上げたかったし、そうすることでアルバムとして出す意味があるかなと思ったんです。それで去年の夏くらいに舞台の作曲をしながらアルバムに手を付け始めました。これならアルバム1枚いけるぞって」
――アルバム・タイトルもまさにこのコンセプトを表していますね。
「物語風のアルバムにしようって思った時に、全体のストーリーを俯瞰してまとめられるような言葉をタイトルにしようと思って。あの時超大変だったなとか、めっちゃ楽しかったなとか、生きていく中で何度もリフレインしてしまう瞬間を切り取った11曲にしたかったし、リフレインできるような瞬間が積み重なって今に至っていて、且つこれから先ももっと思い出す瞬間を積み重ねていきたいなっていうメッセージを込めてこのタイトルにしました。構成を考えると同時にこのタイトルも考えていたし、歌おうって決めた場面を全部最初に書き出して1曲目からその通りに作っていきました。(表題曲)〈リフレイン〉で3バース目に16小節くらいのラップのパートがあるんだけど、アルバムで言いたいことをこの16小節に詰め込んだので、そこを聴くとアルバムで言いたいことはほぼわかると思います(笑)」
――切なさを感じる曲が多いですね。
「そうですね。それは去年5月のミニ・アルバム『
五月雨の君に』の音色の世界観込みで引っ張ってる感じです。アメリカのヒップホップも好きなんですけど、それを僕なりにうまく和訳して解釈するのはどうしたらいいかと常に考えていて。今のアメリカのトレンドというか、世界的にみてもトラップっぽいBPM遅めの曲は避けて通れないし、ドラッグ・カルチャーから来たとかそんな次元じゃなく、どんなポップ・ミュージックにも入っていて。そういうものはどんどん自分の中でも消化していきたいんですけど、向こうのヒップホップって憂鬱で寂し気なトラックで、でも歌ってる内容はすごくドラッギーだったり、失恋レベルじゃない喪失を歌ってたりするじゃないですか。それを自分がやるってなった時に、音色のイメージとか世界観自体はそのままやりたいけど、すごくドラッギーだったり、誰かが死ぬとかそこまでドラマティックな経験は僕もないし、自分が歌ってリアリティもないし。だったら女性との関係の喪失を歌った方が今のサウンド・イメージに合う歌詞で自分なりにリアリティを持って響かせられるんじゃないかなと思ったんです」
――けど今作のようなストレートなラブ・ソングを書くラッパーって実はまだまだ少ないですよね。
「自分も昔だったら恥ずかしかったですけど、今は初めて積極的に書けてるかもしれない。大人になったってのもあるし、そこにもクリエイティヴィティを見いだせるようになったというか。今のヒップホップって女の子ネタは多いけど“デッカいお尻”みたいなのが多すぎて、普通の恋愛の曲を今っぽいサウンドに乗せて歌う人はほぼいないから、そこは全然チャレンジしたいなと。こういうビートだとどうしてもハードな性描写にいく人が多くて、ほぼそこしかないから、逆に今ならこれをやった方が新しいんじゃないかと思ったんです。もちろんハードなラップも魅力的ではあるんだけど、それをやってる若いラッパーと自分を比べてもしょうがないし、彼らには彼らの持ち味があって、自分は自分の持ち味があるので」
――一方で「インファイトfeat. ERONE、FORK、裂固、Mr.Q」のようなマイク・リレーものも収録。
「アルバムの流れに沿わないので、ボーナス・トラック的に最後にしか入れられなかったんですけどね(笑)。ヒップホップってコンペティション(競い合い)みたいなところがすごくあって、それが曲の中で行われていて、且つそれがエンタテインメントとかアートになってるじゃないですか。それって他のジャンルではないことだし、ヒップホップの魅力をすごく体現してるなと思ってて。だからマイク・リレーは好きだし、ずっとやっていきたいと思ってます。けどこれって場と人選が超大事で、このバトル・フィールドでこの面子でやるのってヤバいでしょみたいなところも込みでの面白さなんで、そこを考えるのは単純にワクワクするし常に考えてますね」
――なぜ今回はこの4人を選んだのですか?
「これは全員韻が固い人たちで集めました。基本ベテランで、
裂固君だけフレッシュ枠にしたんですけど、バリバリ韻踏む人たちを集めて誰が一番ヤバいの踏んでますかねっていう戦いにしたいなってことで、
韻踏(合組合)、
ICE BAHN、
ラッパ我リヤっていう日本でも超韻が固いと言われてるクルーから一人ずつ選んだんです」
――アルバムを作るにあたってキーとなった曲は?
「〈夜が来るまで〉ですかね。この曲はBPMが85くらいで、今まではそういうトラックが来たら(今作の中でもゴリゴリめの)〈Go Now〉みたいに言葉を詰め込んでたんですけど、今回はスロウ・ビートに対して倍で取る(倍速で乗っかる)っていうことをやって。けどテンションの差をつけるっていう手法をこれまで取ってなかったので最初は苦戦したんですよ。何度も書き直して、何回かやった中でテンションをグッとぶち上げる感じが意外とハマるなと気づいてやり切ったんで、それが出来たおかげで扉が一つひらけて、次の曲からスムースに作ることが出来ました」
――「フリースタイル・ダンジョン」で審査員を務めている身として、今のフリースタイル・ブームはどう見ていますか?
「基本、僕はいいことしかないかなと思ってて。ヒップホップに興味を持つ人が増えたし、新しいラッパーも増えてるし。けど僕らもまさかこんなことになるとは思ってなくて。バトルってヒップホップの中の1つのジャンルだと思ってて、その中でもあまり人様に見せるものじゃないと思ってたんですね。言葉は汚いし差別的な発言も言葉のアヤも含めボコボコ飛び出してくるし、僕らだけで楽しいものであって、こんな鬼っ子を世にだしちゃいけないと思ってたら、テレビに乗っちゃってそれを逆にみんながすごく受け入れてくれて。ヒップホップに興味がない人達にどうキャッチ―に届けるかってことを僕らはこの10年やってきたけど、この鬼っ子みたいなやつがいきなり全部根こそぎ掴んじゃって、お前かよ!みたいな(笑)。けどバトルもこの10年ですごく進化していて、それこそ10年前のBボーイ・パークのMCバトルは1分ずつ各々自由演技をして、どちらがどれだけフリースタイルを上手く出来るか“型”を見せ合う感じだったじゃないですか。けど今のバトルって8小節20秒くらいで何ターンも繰り返して、あれは“型見せ”じゃなくてコミュニケーションなんですよね。この10年、地下でみんなでやってきた中で、より面白くするためにルールが変わったりとか、ずっと続けてきたからこそ花が開いたと思うし、確実に今ほどじゃなくなる時もくると思うけど、それでも今後もバトル自体は続いていくと思う。この10年、光が当たらなくてもやってきた人たちがいたように。それこそ10年経ってルールがまた変わったりするかもだし、それもまた面白いですよね。曲も同じで、僕らもこれから世の中にもっともっとヒップホップの楽曲を提示していかないといけないと思う。曲の方ではブームになってないと思うので。バトル・ブームをきっかけにもっとチャートにヒップホップが入って、各ラッパーのキャラクターが売れていったらいいなと思います」
――今後の動向は?
「ライヴをやりつつ、コンスタントに曲は出したいなと。アルバムって形になるとどれくらい間があくかはわからないけれど、シングルとかミニ・アルバム単位ではフットワーク軽めにいっぱい出したいです。コンスタントにリリースできたり、サウンドの流行りとかテーマの流行りとかに対してアジャストしていくのがヒップホップの面白さだと思っていて。他のジャンルなら“流行ってるからやってみよう”はNGかもしれないけど、逆にヒップホップって流行ってるものがわかってない方がダサいし、みんながイケてると思ったビート感があったら、そこに乗っかっていって、俺の方がヤベえって言っていくのがヒップホップだとも思うので。楽曲制作の刺激がすごくいっぱいあるし、クリエイティヴィティもゲーム性もあるし、そういったヒップホップの面白さをもう一回、自分も曲で体現したいし、世の中の人にもそれを伝えていきたいです」
取材・文 / 川口真紀(2018年2月)
4月1日(日)
東京 渋谷 SOUND MUSEUM VISION
開場 17:00 / 開演 18:00
前売 4,000円(Drink別途)
4月7日(土)
福岡 the voodoo lounge
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 3,500円(Drink別途)
4月29日(日)
愛知 名古屋 HeartLand
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 3,500円(Drink別途)
4月30日(月・祝)
大阪 心斎橋 CONPASS
開場 17:30 / 開演 18:00
前売 3,500円(Drink別途)