KERA ほど生活を覗いてみたい“忙しそうな人”はなかなかいない。ナイロン100℃を主宰する劇作家・演出家としての圧倒的な活躍はもはや言うに及ばず、2013年にナゴムレコードを再起動させてからは音楽活動も極めて精力的。
有頂天 、ケラ&
ザ・シンセサイザーズ 、
鈴木慶一 との
No Lie-Sense と三つのバンドを率い、さらにソロ活動もあるとなれば、いったいいつ眠っているのか?とベタな疑問も湧いてくる。
このほど発売されたソロ・アルバム『
LANDSCAPE 』は、2016年の前作『
Brown, White & Black 』に続くジャズ・ソング集だ。それもビバップ以前のスウィング、ディキシーランドといったクラシック・ジャズの色合いが濃い。亡父がジャズ・ミュージシャンだったKERAがハネるリズムに乗せて歌うのは、カヴァー曲も含めてパーソナルでノスタルジックな世界。CD(13曲入り)に加え、アナログ(2枚組17曲入り)でもリリースされる。
KERA『LANDSCAPE』CD Ver.
――前作に続くジャズ・アルバムですね。
「連作みたいな気分ではありました。これは前作のときもさんざん話したんだけど、ジャズはずっと昔からやりたかったんです。父親がジャズ・ミュージシャンで、子供のころずっと家ではビバップ以前のスウィング・ジャズやディキシーランド・ジャズのレコードが流れていました。だから僕にとってそうしたオールド・ジャズは、〈ブルーライト・ヨコハマ〉とか〈帰って来たヨッパライ〉とか〈黒猫のタンゴ〉と並列みたいな(笑)、とても親しみのあるものなんですよ」
――幼少期の記憶に濃厚に残っているわけですね。
「ですね。父は僕が25歳のときに亡くなりました。前々年に有頂天でデビューして、ソロ・アルバム(1988年の『
原色 』)を作ろうって話になったときに、もう先が長くないことがわかってたんで、最後に父親と共有できるようなものが作れないかなと思って、B面だけジャズにできないかってレコード会社に提案をしたんです。ところがいろいろな大人の事情で結果的にボツになっちゃって、結局ジャズを歌う息子の声は聞かせられないまま父は逝ってしまった。今だからフツーに話せるけど、当時はあまりにも悔しかったし、父親ももういないから、やろうって気持ちになかなかなれなかったんです。それからずいぶん時が経って、ふと、“今ならできるんじゃないか”と思ったのが5年ぐらい前のことです。鈴木慶一さんとダブル・オーナーという形でナゴムレコードも復活することになって、周囲のミュージシャンにもジャズ畑の人がそれなりに揃っていた。うまくは歌えないだろうけど、エノケン(
榎本健一 )あたりをお手本にして、やってみよう、と」
――2015年に一度、別媒体でインタビューさせていただいたんですけど、そのとき“父親が亡くなった年齢が近づいてきて、死を強く意識するようになった”とおっしゃっていたのをよく覚えています。
「今よりも40代後半から50歳になったばかりのころのほうが、そういう思いは強かったと思いますね。うちは早逝の家系で、親父は59歳、祖父も58歳で亡くなってるんです。“平均寿命まで生きられるだろう”なんて思ってマゴマゴしてるとあれもこれもできずに終わっちゃうな、と焦っていたんですよ(笑)。今はもう、ジタバタしてもしょうがないからがんばって長生きしよう、と思いながらコツコツやってます」
――ぜひ長生きしてください。今回のアルバムはとてもパーソナルでノスタルジックな空気を湛えていますが、そうなったきっかけがご実家で幼少期の写真を見つけたことだそうで。
「実家はこの近く(渋谷)なんですけどね。30年以上空家状態だったんです。ある程度の価格で売れれば何十年も前に売ってたと思うんだけど、ほっそーい私道の奥に建っているもので、建築法で新築が不可能なんですよ。それだと二束三文でしか売れないっていうんでずっとほっといてたんです。去年ようやく隣の家の人が買ってくれることになって、若干手元に残ることになったので、今回そのお金でアナログ盤を作りました(笑)。それで去年の秋に久しぶりに入ってみたら、空き巣に入られたのか何者かが住みついていたのかわからないけど、テレビでよくやってるゴミ屋敷みたいになってて、いろいろ引き上げたいものはあったんだけど、とてもそこまでたどり着けない。とにかく写真のアルバムだけ引き上げてきまして。その時期の写真はそれまで手元に2、3枚しかなかったんですけどね」
――そのアルバムを繰るうちに構想ができてきた?
「ちょうどほぼオケが完パケしつつある時期で、カヴァー曲については歌入れも始まってたんですけど、一番の課題はオリジナル曲にどんな歌詞をつけるか。そこがもうひとつボンヤリしていた。で、何十年も開いてなかったアルバムを見て、一気にイメージが広がったんですよね。“音で聴く回想録”みたいな、セルフ・ポートレート的なアルバムを1枚作ってもいいかなと。ジャケット写真もここから選べばいいや、と。幼少期の写真を使ったジャケットってたまにあって、
オノ・ヨーコ の『
STORY 』とか
松村雄策 の『
UNFINISHED REMEMBERS 』とか。自分ではそういうことはやるまいと思ってたんだけど(笑)。ほら、“KERAの音楽っていったら有頂天聴いときゃいいだろ”みたいな風潮もあるんで、ニュー・ウェイヴ / パンク的なものからいかに離れるか、みたいなことはあるわけですよ、ジャケットにおいても。聴けばきっと何か引っかかってくれる人たちをみすみす逃してしまうことになるので。だからけっこう今回は思い切ったことをしてますね。アナログもCDも表裏は子供の写真だけで、内ジャケを開いてやっと今の自分が出てくるという(笑)」
KERA『LANDSCAPE』12inch Ver.
――そういう内容のアルバムに『LANDSCAPE』というタイトルをつけたのは?
「大げさなタイトルはつけたくなかったんですよ。少し客観的にしたかった」
――歌がすごくいいと思いました。
「ありがとうございます。前作では、曲毎にいろんな歌い方をして、自分の唱法のショーケース的なものにしようっていう気持ちがどこかにあったんですけど、今回はあんまり考えてないですね。カヴァーにしても、なにしろ有頂天は〈心の旅〉から出てきましたから、あえてストレンジな感じに、ギミックを利かせて歌うみたいなことが昔はあったんですけど、今回はさらっと聴かれてもいいからちゃんと歌おうと。自分なりに消化するってことを大切にしましたけど、英語の歌はやっぱり難しいんですよね。追っつくのがやっとというか、歌わされてる感じがなかなか抜けなくて(笑)。〈Stardust〉は一回けっこう苦心して歌入れしたんですけど、納得いかなくて、全部ボツにしてもう一回歌い直しました」
――英語の歌も僕は好きです。本格的なのとカタカナ英語のちょうど中間で、入念に調整されたんだろうなと。
「前作ではもっとカタカナ英語に徹してましたけど、今回は1曲目に英語のスタンダードを持ってきてますからね。CDが〈Cheek to Cheek〉で、アナログが〈Stardust〉。これも個人的にはかなりの英断(笑)。今作は自分のプライヴェートな思い出を、どうしたってある程度ノスタルジックな印象を与える音に乗せて歌ってるわけだから、マッチングを考えたときに、まずドーンと胸を張って英詞のカヴァーから入るってのもアリだと考えてのことです」
――失礼かもしれませんけど、歌手らしくなったというか、歌手と思われてもいいや、という覚悟のようなものを感じました。
「到底かなわないんだけど、やっぱり
美空ひばり さんや
江利チエミ さんを参考にするんですよ。参考にするというより、ここまで歌えちゃう人がいるんだから、って痛感してから歌う。前作を作り始める時には“エノケンでいいや”だったものが、今は、できることなら、いや、できはしないんだけどさ(笑)、ひばりやチエミに少しでも追いつきたいですね。本気でそう思ってる。やっぱり僕は多くの人から演劇人として見られてるから。“演劇人が戯れごとで音楽をやってる”みたいな。かつては正反対だったんですけどね。僕の中では音楽も演劇もまったく均等にあって、できれば時間も労力も同じぐらい使ってやっていきたいんです。いまはものすごく興味が細分化されてて、受け取りたくない情報はみんな受け取らないですよね。だからKERAとケラリーノ・サンドロヴィッチが同一人物だって知らない人もいっぱいいる。紫綬褒章をもらったとき、報道で有頂天とか出るじゃないですか。“えっ、同じ人なの?”ってそこで初めて気づいた人も多いんですよ」
――ご自身としては、最初からいままで同じ感覚ですか?
「ええ、基本的にはずっと均等ですよ、僕の中で音楽と演劇は。もちろん波はあるけど。有頂天の後に結成したロング・バケーションでは劇伴をいっぱいやって、その頃は音楽活動と演劇活動がかなり近づいたというか、リンクした感じがあったんですよ。ロンバケが活動休止したのが95年。そのあとの10年は、たしかに音楽系としてのモチベーションが落ちてはいましたね。ケラ&ザ・シンセサイザーズで出した『
隣の女 』(06年)でやや持ち直し、次の『
15 ELEPHANTS 』で完全に復調したと自分では思ってますけど、きっと世間的にはその10年間でKERAは完全に演劇界の住人として定着してしまったんでしょうね。そうそう、今回カヴァーしてる
BOØWY の〈B・BLUE〉はロンバケでも僕、歌ってたみたいなんですよね(笑)。すっかり忘れてたのを、ファンの人のツイートで思い出した。88年のソロのライヴで歌ったのは憶えてたんですけど、だから、今回は三度目のアレンジですね。88年のソロともロンバケともまったく違う」
――アコースティック・スウィング調というんでしょうか、このカヴァーには驚きました。
「ロック・アレンジじゃなくてもちゃんと曲の良さは伝わるから。サビのコードとかはちょっと変えさせてもらいましたけど、歌詞を変えられないという制約がある中で、いかに違う風景を見せるか。演劇のワークショップなんかで、ある簡単なセリフのやりとりを“これを悲しい会話にして”“楽しい会話にして”“バカバカしい会話にして”ってやることがありますけど、カヴァーにおけるアレンジとか歌い方はそれと同じことなんじゃないかなと思います。ちなみにBOØWYは一枚目しかちゃんと聴いてないんですけどね(笑)」
――幼少時代を中心に、お父さんのことを歌った「アンパンとジャズ」(アナログ盤のみに収録)やナゴムの仲間たちに捧げた「シリーウォーカー」など、KERAさんのノスタルジアの射程にその前後も収まっているわけですね。
「まったくイレギュラーな曲は〈食神鬼〉かな。外そうかとも考えたんですけど、あまりにも出来がよかったし、他の人はやれない、やらないような曲だから、これは入れるべきだろうと。この曲は
鈴木光介 (時々自動)くんとの共作。いつも芝居の音楽をやってくれてる人です。僕が作ったAメロとBメロを彼に渡して C、Dメロを作ってもらい、アレンジもお願いしました。そしたら、どこか江戸っぽいというか、弥次さん喜多さんっぽい編曲になってた(笑)。おかげで、江戸時代を舞台にした不条理劇を中近東の人が語ってるみたいな(笑)、なんとも言えない仕上がりになりました」
――「食神鬼」ほどではないけど「ビバップ・バトン・ビバップ」と「ベルリンレゲエ」(アナログ盤のみに収録)もちょっと違いますね。
「〈ビバップ・バトン・ビバップ〉はね、なんとなく遊んでるうちにできちゃった曲で、“
オザケン みたいな曲を作ろう”って言ってたんだけど、まったくオザケンにはならなかった(笑)。唯一、未来に力点を置いた歌ですけど、そこにはネガティヴな要素もあるんですよね。やっぱり自分たちのしてきたことや放置してきたことによって、いま現在の子供たちや、これから生まれてくる人たちに背負わせてしまうものがあるわけだから。もっとも顕著なのは核の問題で、半減期が何十万年とかね……。(しばし沈黙)責任を負えないようなことにはそもそも手を出すべきじゃなかったと僕なんかは思うんだけど……。子供のころ読んでたSFの“世界最後の日”“人類滅亡”みたいな世界がいよいよリアルに感じられますよね。そんなイメージを抱えながら書いた詞ですね。でも、そうは言ってもやっぱり、がんばって生きてくれることに希望を託すしかないわけで」
――“歪んだバトン”ではあるけど、渡すしかないから。
「だからと言って“ごめん、ごめん”なんて歌う曲にはしたくなかった(笑)。〈ベルリンレゲエ〉はかなりデタラメかつというか抽象的な歌ですよね。あれがナチスの話だとしたら、当時まだレゲエはないわけで(笑)。ヒトラーにはいろいろな意味で興味があるんだよね。僕が大好きなカフカも
バスター・キートン やマルクス兄弟も、皆ユダヤ人。カフカの家族は彼が病死した後、強制収容所で皆殺しにされてるんですよ。そんなこともあって。ナチスのイメージは割と頻繁に作品に落とし込んでますね。シンセサイザーズにも〈機械じかけの子供たち〉って曲があります」
――「LANDSCAPE SKA」には過去の曲のフレーズをちりばめてありますが、ライナーノーツに“もちろん意図的”と書いてらっしゃいます。どんな意図かうかがえますか?
「自分の過去を歌うってテーマなんだけど、まぁ幼少期に集中してて、ナゴムの時代も歌ってますけど、近過去が抜けてるなと思って。自分が歌ってきたフレーズを入れることが、80年代や90年代の自分を反芻することになるんじゃないかなっていう発想ですね」
――カヴァー曲の選び方は?
「ひとつには、過去にライヴで歌ったり、一回手をつけたことがある曲をきちんと形にしたかった。〈見上げてごらん夜の星を〉と〈Cheek to Cheek〉、〈B・BLUE〉がそうかな。〈夢で逢いましょう〉(アナログ盤のみに収録)もライヴでやったことがあるか。コンセプトに沿ってイチから作るというよりは、こういう曲があるからあとは何が必要かとか、写真が見つかったからそうした世界観に持っていくためにどんな曲があればいいかとか、いろんな位相で固めていく感じだったんで、カヴァーに関してもはっきりした基準はなかったんですけど、なんとなく、子供のころの自分に影響を与えた、子供のころ印象に残った曲とは言えるでしょうね。自ずとそうなっていった部分もある。ジャケット写真に写ってる年代の自分に訊いたら“知ってるよ”って言うような曲ばっかりだと思います、BOØWY以外は」
――幼少期のKERAさんってちょっと実年齢よりも大人びているような気がします。
「よく、六つ上の
田口トモロヲ さんに“なんで君は僕と記憶が一緒なんだ”って言われてました(笑)。5歳まで喘息で寝たきりだったことは大きいと思うんですよね。寝たきりの赤ん坊は吸収力がすごい(笑)。親父のおかげで知った曲にしても、何をレクチャーするでもなくただひたすら垂れ流してただけなんだけど、そういうのがいちばん影響を受けますね。〈Stardust〉は『シャボン玉ホリデー』のエンディングで
ザ・ピーナッツ が歌うのを聴いてたんだけど、
中村八大 さんの演奏はもろスタンダードじゃなくて、ちょっとラテン風のアレンジなんですよ。あの曲はピアノと歌だけとかでしっとり歌われることが多いけど、今回はロンバケにホーン・セクションで参加してくれてた
上石(統) くんに速めのテンポでスウィンギーな感じに仕上げてもらいました。彼は熱烈な
サッチモ ・ファンだから、サッチモの録音でももっとも古い、1930年代初頭のやつを参考に渡したんですよ。そのサッチモのヴァージョンが、
ウディ・アレン の『
スターダスト・メモリー 』(1980年)っていう映画で流れてたのがずっと記憶にあって。そうやって記憶や印象に残っている小さい引き出しをちょっとずつ開けていったようなアルバムですね」
――「Cheek to Cheek」はCDとアナログの両方に入っていますけど、CDのほうだけ映写機の音が頭に流れますね。
「あれは〈キネマと恋人〉という、2016年初演でまもなく再演する芝居で使った曲なんです。ウディ・アレンの『
カイロの紫のバラ 』(1985年)の翻案なんですが、その元になった映画の中で主人公の女性が『
トップ・ハット 』(1935年)という映画を見てて、その中で
フレッド・アステア が〈Cheek to Cheek〉を歌ってるので、芝居でもその曲を使ったんですね。CDのほうは、その舞台のサウンドトラックを導入にくっつけたんです。ロンバケで一緒にやっていた
中野テルヲ が作ってくれた〈キネマ・ブラボー〉といい、歌の中で映画に対する思いをここまで強く訴えたのは初めてかもしれませんね」
VIDEO
――「見上げてごらん夜の星を」を“汚した”のは、そのままだときれいになりすぎてしまうからでしょうか。
「そう。最後の最後にヴァイオリンをダビングしたんです。最初、オケを録って仮のボーカルを入れたんですけど、ちょっと主観的というか、歌に酔ってるような感じがしたんです。この曲って1960年初演のミュージカルの主題歌だから、日本は高度成長期でした。まだ戦争の後の焼け野原がみんなの記憶に生々しく残っていた時代です。でもきっと、国民は希望に満ちていた。これからは良くなるばかりだろうと。焼け野原から立ち上がって希望を見据える力強さ、それゆえの美しさみたいなものを、とても感じる歌ですよね。悲しい哉、今と真逆と言えるんじゃないですかね。
(坂本)九 ちゃんが歌ったのはその3年後。だからこそ、今これを歌うなら、生ぬるいロマンティシズムに耽溺したくなかったんです。で、結局、ヴァイオリンの
向島ゆり子 さんに“ちょっと汚してみてください”ってお願いしました(笑)。彼女から
TRI4TH っていうバリバリの若手ジャズ・インスト・バンドのメンバーまで、アルバムには多ジャンルなメンツが集まってくれましたけど、なかなかないことなんじゃないかな。
ヒカシュー の坂出(雅海)さんが入ってくれたり、
くるり のファンファンが吹いてくれたり、
ともさか(りえ) とか
犬山(イヌコ) 、
峯村(リエ) 、
緒川(たまき) といった演劇畑の人まで。ちょっと80年代っぽい集まり方かもね(笑)」
――そう言われればそうかもしれませんね。
「自然なつながりで集まってきてくれた人たちなんですよ。来りゃ当然ながらベテランも若手もなく一緒にやってるし。ニュートラルな関係でやれて、健全だと思います」
――「夢で逢いましょう」はアナログ盤だけ収録されていますが、これもアレンジが斬新です。
「〈夢で逢いましょう〉のオケは、ギターの伏見 蛍くんとピアノの佐藤真也くんに譜面を終わりから逆に“せーの”で演奏してもらって、それをリヴァース再生してサックスをダビングしたんです。普通リヴァースっていうとギター・ソロだけとかだけど、全編をひっくり返してるんですよ。珍しいんじゃないですかね。(
ビートルズ の)〈トゥモロー・ネヴァー・ノウズ〉ほど過度にはならないように気をつけて仕上げましたけど(笑)」
――さっき「Cheek to Cheek」はお芝居に使った曲だというお話がありましたが、「木の歌」も〈百年の秘密〉(2012年初演)の劇中歌ですよね。
「芝居の中ではもっと素朴なアレンジだったんですけど、なんとなく“これ、ディキシーランド調になるんじゃないかな”って思って。アルバムを演劇のファンに聴いてもらいたかったっていうのもありますね。自分にとってとても大切な舞台の挿入歌ということで。最近、自分の演劇作品や、ひいてはそこで使われてる音楽と、自分の音楽活動がようやくリンクしてきてるなって思います。昔は、劇中に流す音楽は自分が歌う音楽とは無関係だと思ってたんですけどね。芝居では
ジャンゴ・ラインハルト とか、クレズマーっぽい音楽をよく使うんですけど、そうした音楽を自分で歌うことが、いつの間にか不自然ではなくなってたんですね。おかげで今は僕が作る音楽と演劇、そのどちらにも興味を持ってくれる人が、少しずつ増えてきた気がする」
――僕もそう思います。最後に愚問ですが、アナログとCDどちらで聴いてもらいたいですか?
「最近ね、自分のアナログを聴くために、自宅のシステムを総グレード・アップしたんですよ。良い音で聴けるようになったんで、昔のを引っ張り出してきたり、新たに買ったりして聴いてるんですけど、つくづくいいんですよね、レコード。情報量がギュー詰めになってないから、聴いててホッとする。集中し音楽を鑑賞する時間を作れるようになった。『LANDSCAPE』はアナログとCDで、曲順も曲数もジャケットも違う。ミックスやテイクが異なる曲も多い。聴いたあとの印象もかなり異なると思います。贅沢ではありましょうが、ぜひ両方買って聴き較べてほしいですね」
取材・文 / 高岡洋詞(2019年3月)
世田谷パブリックシアター + KERA・MAP#009 「キネマと恋人」 setagaya-pt.jp/performances/kinema2019.html 2019年6月8日(土)〜23日(日) 東京 世田谷パブリックシアター
台本・演出: ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演: 妻夫木聡 / 緒川たまき / ともさかりえ / 三上市朗 / 佐藤 誓 / 橋本 淳 / 尾方宣久 / 廣川三憲 / 村岡希美 / 崎山莉奈 / 王下貴司 / 仁科 幸 / 北川 結 / 片山敦郎 ※北九州 / 兵庫 / 名古屋 / 盛岡 / 新潟公演あり