「この曲の着想のきっかけは、UKのポップシンガー、Will Joseph Cookの〈Plastic〉っていう曲なんですね。BPMが速くて、スティールパンを用いているその曲をリファレンスとして、みんなで聴いてから、バンドでゼロから曲作りを始めたんですけど、その時点では(小林)うてなさんがいなかったので、佐藤(優介)さんにKorgのキーボードでスティールパンの音を弾いてもらったんですけど、そこから先の作業は変拍子のリズムも含め、斎藤さんがYasei Collectiveでやってることを持ち込んでくれたんです。そのリズムは石若(駿)くんがあの超絶的なドラムで合わせてくれて。その後、スティールパン奏者として、うてなさんが加わって、ラップのヴァース部分に関しては佐藤さんがキーボードで作ったスティールパンのループなんですけど、それ以外の部分に関しては、うてなさんが自由に弾いてくれて、特に間奏部分の着地のさせ方はみんな舌を巻いていました。そして、変拍子に変化していく曲に対して、ラップは最初から最後まで一気に録ったわけではなく、4小節単位で考え、構成していったので、そこまで難しい作業ではなかったですね。それからこの曲の“例えば〜”っていう歌い出しは、映画『NANA』の劇中歌で伊藤由奈が〈ENDLESS STORY〉という曲を歌っていて、そのフックが“たとえば誰かの〜”っていう一節から始まるんですけど、その“例えば”を曲の頭に持ってきたら、新しい曲になるんじゃないかなって思ったんです」
――バンド形態の画期的な曲である「Coincidence」から曲間を空けずにたたみかける2曲目の「Cherry pie for ài qíng」は、Seihoによるベース系トラックに絡むラップがスリリングな1曲です。
「この曲はNate Doggの〈Hardest Man In Town〉を聴いてもらったら、斎藤さんがすぐに最初の4小節を弾いてくれて、“それでいこう!”という感じで制作が始まって。この曲は、今回のアルバムで一番凝った曲なんですけど、ドラムは石若くんにわざとオフビートで叩いてもらったり、聴き心地としてはちょっと変わっていると感じるであろう三浦さんのベースの進行も実は弾いてもらったベースのパターンを一小節ごと組み替えて弾き直してもらったんですよ。そこにさらにうてなさんのスティールパンを足したんですけど、録音していた時にどうしてもジブリ映画みたいな印象になってしまって、どうしたものかと思ったんですけど、MPCで音を扱うように、レコーディング卓で音の余韻が残る部分を俺がミュートすることでヒップホップっぽくなりましたね。だから、この曲ではバンドアレンジもプロダクションに関しても、今までやってきたことの進化形を形に出来たと思います。フィーチャリングでお願いしたISSUGIくんは自分の先輩であって、ケンドリック・ラマーが〈M.A.A.D City〉で地元コンプトンの先輩であるMC Eihtをフィーチャーしているようなイメージです」
――続く、Aru-2によるインタールードは?
「今回のアルバムで、Aru-2に頼むことは考えていなかったんですけど、KEITA SANOとか、ふとしたタイミングで“Aru-2とやったアルバム『Backward Decision for Kid Fresino』が一番好き”と言われることがあって。Aru-2といえば、その昔、同い年で音楽をやってるやつがいないって話を5lackさんにしたら、“Olive (Oil)くんの下にいる子が同い年だと思うよ”って言って、Aru-2がビートライヴをやるクラブに連れて行ってくれたんです。そこで初めて会って、ビートライヴを観て以来の古い仲だったりするし、今回のアルバムにも参加してもらおうかなと考えていたら、同じタイミングでAru-2からビートがまとめて送られてきたので、そこからアルバムの流れに合うトラックを選ばせてもらいました」
Photo By Kazuhiko Fujita&Kid Fresino
――C.O.S.A.をフィーチャーした「Nothing is still」は、2人のエモーショナルなラップが緊張感溢れるミニマムなバンドサウンドに映えますね。
「この曲はバンド形態のライヴの冒頭にインストとして演奏していたんですけど、この曲の肝は石若くんのドラムですね。フィーチャリングで参加してもらったC.O.S.A.くんは、本人に参加をお願いする前に、公開したアルバムの情報に名前を載せたんですよ。自分の中で彼が参加することは決めていたんですけど、自分の中でのタイミングがあって、それまで〈Nothing is still〉のインストを人に聴かせたくなかったので、それならアルバムの情報で名前を出すしかないなって(笑)。C.O.S.A.くんとはアルバムも出したし、ライヴも沢山やってきましたけど、今はだいぶ向いている方向が違いますよね。この曲で彼も同じことをラップしているんですけど、でも、今までと変わらず彼のことは見ているし、見てくれてるし、そんな間柄ですね」
――意外な人選であるケンモチヒデフミが手がけた「Way too nice」は鳴りの素晴らしいオリエンタルかつメランコリックなトラックにおける、Fla$hBackS時代からの仲間であり、ライバルでもあるJJJとのマイク・リレーはメランコリックななかに高揚感が感じられるドラマチックなものです。