昨年めでたく創業10周年を迎えた
キノコホテル。その2017年には、ライヴ
Blu-ray&
DVD『実録・ゲバゲバ大革命』やセルフカヴァー・アルバム『
プレイガール大魔境』のリリース、台湾、マカオ、韓国から熱海の温泉まで国内外を股にかけた実演会など、アニヴァーサリーを飾るに相応しい精力的な活動が繰り広げられた。中でもハイライトとなったのが〈サロン・ド・キノコ〜飼い慣らされない女たち〉と題された10周年記念ツアー、特に6月24日の赤坂ブリッツ公演だ。当夜の模様をCD2枚とDVDに収めた『
飼い慣らされない女たち〜実況録音盤』の発売にあたり、キノコホテルの支配人マリアンヌ東雲に話を聞いた。
――2017年3月にも『ゲバゲバ大革命』という実録映像作品(ライヴDVD)を出しましたが、今回の『飼い慣らされない女たち』は“CD+DVD”という形での作品化となりましたね。特にコンセプトの違いなどはあるのでしょうか?
「いや、そもそもブリッツが決まった時点では何も出すっていう話はなくて……というか、ワタクシが拒否していたの。とりあえず、そういうのは無しで普通に実演会(ライヴ)をやらせてちょうだいって。やっぱり目の前にいる胞子たち(ファン)のためだけに集中したいし、それが映像やCDになった時のこととかを考えながら歌ったり演奏するのは絶対イヤで、レコード会社の人が、どう?と言ってくれても、お願いだからそういう話はしないで!と拒絶してた。なのに、“いちおう記録用だから”って……記録用にしちゃカメラたくさんいるなあと思ったんだけど(笑)……まあリリースの話は出てなかったので、集中してステージはできたわけ。で、終わってから案の定“これ折角いいライヴだったんだから出そうよ”って話がきたとき、聴いてみて問題なければ、CDだったら出してもいいですよとお伝えしまして、じゃあCDは決定でという話が最初に決まったのね。そのあと、記録用にしては妙に多い(笑)カメラで撮られた映像を見たら、ああ逆に『ゲバゲバ大革命』を出しておいて、こっちを出さないのは不自然じゃないか?っていうくらい、いいステージだった。会場も広くて、お客さんもいっぱい入って、ダンサーもいて、ゲスト・ピアニストもいて、照明もすごく綺麗で。だから、とりあえずざくっと編集して、イケそうだったら映像も何曲か入れようかってことになり……ほんとに数曲で手を打つつもりだったんだけど、その数曲を選ぶのにかなり難儀して、結果、15曲も入れることになって。案外捨てきれなかったのね」
Photo By 大参久人
――もともと支配人は、ライヴ映像作品というものがあまり好きじゃないと話していたので、こうして比較的短い期間に続けて発売されることになったのは、キノコホテルとしては異例という印象も受けました。
「そうですね、その夜限りのものを後からまた見るだなんて邪道だと思ってるクチだったので。普段から毎回自分のステージを振り返って反省したりするべきなのかも知れないけど、もう終わったものには向き合いたくない、終わったらそれまでっていうタイプなの。普段の生活においてもそうだし。その夜にすべてを捧げたんだから、それでいいじゃないのっていう。だけど今回は10周年というのと、きちっと作品として残しておくことで、20年後、30年後に自分でも取り出して楽しめるくらいにはしておいても良いような気もいたしまして。でも、もう実演映像をまとめて出すっていうのは今後やらないと思う。映像作品も本当はプロモーション・ビデオとか納得いくまで作り込んだものを、お出しする方が好きですし」
――逆に、この日のライヴは、御自身でも充分に満足できる内容だったということですよね。こうして作品になったものを見た感想を、あらためて聞かせていただけますか?
「ワタクシはステージに立っている側で、やっている自分のことは見られないから、映像を見て初めて、照明いいなあとか、お客さんは意外とこういうリアクションだったんだとか気づいたことが色々あった。グッとくる場面もあったし……キノコホテルとしてはなかなか健闘したと思ったわ(笑)。せっかく普段より広い会場でやらせて頂くわけだし、本当に特別な夜にしたくて。今後こういう機会があるかもわからないので、“それは予算的に無理!”とか色々ボヤかれつつも、そこをなんとかって、だいぶワガママも聞いてもらった。10周年をいっしょに祝ってもらう胞子たちにも、本当に忘れられないようなステージにしたいっていう気持ちが一番にあって、そのためにはまず自分も心から楽しみたいし。準備から何から色々けっこう大変で、なんだかうまく言えないような心境ではあったわね、この日は」
Photo By 大参久人
――結果、『ゲバゲバ大革命』とはかなり雰囲気の違う作品になったというか、全体的に“サービス満点”な印象を受けました。
「今回はやっぱり、ダンサーさんが盛り上げてくれたので。よかったですよ、広いステージをダンサーさんたちが賑やかにしてくれたから。10周年という節目なので、お祭り感というか、祝賀モードというか、なんかこうおめでたい雰囲気に持っていきたいという気持ちが意識せずともあったんだと思う。それに『プレイガール大魔境』も自分としては本当に好きな作品で、私生活でも珍しく何度も聴き返すくらいでしたし。それなりに充実した気持ちでツアーに出て、各地とも今まででは最高の動員を記録しまして。10年くらい続いてるバンドはたくさんいるけど、自分がここまで続けるとは思っていなかったので、どこか信じられないような気持ちもあったりしてね」
――現在のバンドの状態に納得できているということも大きいのではないでしょうか。今回、ライヴCDで昔の曲を聴くと、かなりテンポが上がっていて、「もえつきたいの」とか体感では倍速になってるような気さえします。
「確かに当時と比べたら格段に上がってる。今はあんなタルいテンポでできないわ」
――では、ここで2017年を総括してみると、いかがですか?
「本当に今年は、なんというんでしょうか、色々ありましたけど充実はしてたんじゃないですかね。自分を追い込みつつ、それを楽しみつつという1年で。海外公演も3箇所やりましたし。いかにモチベーションというかテンションというか、気分をできるだけ上げて全力を出しきらないとこなせないようなことの連続でした。でも、この10周年という特別な年は1度しかないわけで、20周年、30周年まで頑張れるかと聞かれたら、そんなことわからないし。だから今年はやり残しとか後悔ができるだけ無い年にしようと、最初は無理やり自分を鼓舞させてはじまったんだけど、10周年ツアーを成功させて、9月には熱海のホテルで念願の温泉実演会も開催しましたし。それが、昨日と一昨日の新宿ロフト〈サロン・ド・キノコ〜マリアンヌ東雲性誕祭〉で、この1年ずっと高い部分で張り詰めていたものが、いい意味で爆発したというか(笑)」
――(笑)性誕祭は僕も拝見させていただきましたが、本当に楽しかったです。
「チケットを買って頂いて、他人の楽曲を演奏して……そこで何が求められるのか?って。それほど難しく考えはしなかったものの、それは他の3人もそうで、生真面目にやるものでもないし、楽しみたいという気持ちと緊張感がないまぜになって、なかなかスリリングだった。10年やってて、こういう気持ちでまだできるっていうのは良いものだと思ったわね」
――ファンからリクエストされた曲をたくさんカヴァー演奏したわけですが、選曲は大変だったようですね?
「いちおうマジメに選びましたよ。これをやっているキノコホテルって想像できないんじゃないかしらっていうものから、わりとすんなりいかにもハマりそうなものまで、けっこう幅広くやりたかった。どっちかだけに偏らせたくなかったというか。そして、自分たちがやって楽しめるかどうか。あと、なにせ練習期間がなかったし、直感で意外にフィットしそうな曲を」
――年代的にも幅広い選曲で、あのカヴァー大会で見せた多様な音楽性は、今後のキノコホテルの要素としても、かなりアリなのでは?
「そうかもしれない。初日は聖子ちゃん、2日目にはキョンキョンの曲をやったけど、わざとぶりっこしたり、普段と違う攻め方の自分を意外に受け入れて、楽しめてた。大マジメにギャグをやってるというか、ほかの3人も真剣に演奏してるし、ロフトで松田聖子を歌い上げてるっていう、その場面が面白くて仕方なくて(笑)。ぐっときたんですよね、〈ガラスの林檎〉。なんていい曲なんだとか思いながら。だから、キノコホテルはこうでなくてはいけないとか、年代とかジャンルの縛りみたいなものからは早々に脱却したつもりではいたけど、それをしておいてよかったな、と。だからこそ昨日一昨日のようなことができたので」
――それも、しっかりファンにとってはサービスになっていたと思います。
「かなりサービスだったわね。今年は確かにサービス過多だった感じ。まあでも、もともと意外とサービス好きなんだと思う。人が喜んでるのを見るのも悪くない(笑)」
――自分でもサービスすることを楽しめるし、そうすることに気を使わなくなったということでしょうか?
「そうね、気負わずに胞子たちへの感謝の気持ちを、臆することなく出せるようになってきたというか。本来は当たり前なんだけど、そういうのを渋ってたような時期もあったので。ようやく人間が丸くなってきたのかも(笑)」
――イメージを崩すかもと思いきや、意外とみんな楽しんでくれてるという。
「こちらが思っているよりも、意外とファンて寛容なんだとわかって、少し楽になれたり。あとはワタクシだったり他の3人だったりが本当に全力で楽しくやっている様子が伝わってくれてるのかしら。だったらもう、何でもアリで良いと思うんです。何をしてもキノコホテルはキノコホテルだねと言って頂けるのが、ワタクシにとってはしてやったりというか、嬉しいことなので、じゃあ、あんなこともこんなこともやるけどついてこれる?なんて挑発的な気分になったり、それもまたサービスなのよね、きっと」
――あと個人的には、性誕祭で披露されたカヴァーの中では、戸川純「パンク蛹化の女」で、最後の“どーもありがとうございました”っていうセリフを、タイミングとか言い方とか完璧に再現していたことに感動しました。
「そう、あれ、ちょっと真似てみたの。うふふ。気づいた? さすがね」
――恐縮です。キノコホテルの新曲に、今回やったカヴァーの経験が反映されてくる可能性もあったりするでしょうか?
「それはあるかもしれない。性誕祭でやったカヴァーは、もっと時間があればアレンジをもう少し練れたのに……という楽曲もなくはなかったので、じゃあ、そこで詰めたかったアレンジをもとに曲を作ろうかなんて考えたりとかはしたわ。そういう断片を拾い集めて曲にしていくことも多いから」
――楽しみにしてます。では最後に、2018年に向けての抱負というか、新たな野望などを聞かせてください。
「正直、個人的には来年のこととか何も考えてない。あえて考えないほうが楽しめるような気がして。まあでも、真面目なことを言うと、ちょっと落ち着いてじっくり曲を作ったりしたいわね。今年はよくも悪くも忙しい1年だったので、そろそろゆっくり曲を作ってみるタイミングかと。ただ、今の世の中あまりボケッとしているとすぐに忘れられてしまいますから、それなりに動きも出していかないと……根が真面目なんでそういうことも考えるの(笑)。今までも自分の気の向くままにマイペースでやってきたから、特別ああしようこうしようってのは無いですね。来年は来年の心境というか、今何かを宣言してもどうせ気が変わってしまうので。ただ、年明けの忙しさが落ち着いたあたりから何か見えてくるかもしれない、じわじわと自分の中で。来年は作品作りにベクトルを向けつつ、また新たな展開が欲しいですね。今年できなかったようなことが何かできたら。毎年なにかひとつそういうものを増やしていきたい」
取材・文 / 鈴木喜之(2017年12月)