――夏フェスにも参加したり、1st アルバム『PHILOSOPHY』発表以降はライヴ活動も積極的に展開していますね。 清竜人(以下、同) 「はい。3月に初めてアルバムを出して、リスナーの方が自分のCDを聴いてくださっているというのは事実としては分かっていたものの、あまり実感が湧いていなくて。でも、ライヴでは自分の曲を一緒に口ずさんでいるお客さんがいたり、そういう光景を直接見ることできて、すごく嬉しかったです」
――以前は“自分の音楽がリスナーに届いていないんじゃないか?”という不安のようなものがあったんですか。
「不安というか……半信半疑な気持ちがあったのかなと思います。たとえば、みなさんのiPodに僕の曲が入っているんだろうかとか」
――でも、お客さんが一緒に口ずさんでいたということは、ライヴに来る前から曲を聴いて歌詞を覚えているわけで。
「そうなんですよね。それが本当に嬉しくて」
――そういった経験が音楽制作に何か影響を及ぼしたりは?
「今のところ手に取るようにハッキリと現われていないんですけど、今後の創作活動に何らかの形で、きっと影響が出てくるんだと思います」
――これまでの作品にはどこか薄いヴェールがかかっているような印象があったんですが、ニュー・シングル「ヘルプミーヘルプミーヘルプミー」は、歌詞やヴォーカルがすごく生々しく伝わってきて。そのあたりはあえて意識したんですか。
「特に意識したわけではないんですけど……やっぱり3月にアルバムが出たことが自分の中ではすごく大きかったんです。特に歌詞を書く上で、変なフィルターをかけなくなったというか。以前は無我夢中なあまり肩に力が入っていたと思うんです。でも、アルバムを1枚出せたことによって、ある意味、充足感、ある意味、虚無感を覚えたというか」
――虚無感?
「はい。やっぱり16歳から続けてきたことが20歳を前に作品という形で一旦、実を結んで。嬉しい反面、そこに対する脱力感みたいなものがあって。今は、また別の自分の表現がここからスタートする気分になっているんですけど。大人にならなくちゃっていう気持ちが、ちょっとずつ出てきています」
――ある意味、モラトリアムからの脱却というか。
「いや、モラトリアムは終わってない気がするんですけど(笑)。まあ、ちょっとずつ……(笑)」
――なるほど(笑)。ところで今回の「ヘルプミーヘルプミーヘルプミー」は、どんなところから着想を得て書いた曲なんですか。
「メロディを口ずさんでいるときに、サビの部分で自然と“ヘルプミー”という言葉が出てきて。そこから自問自答みたいなものをテーマに歌詞を膨らませていった感じです」
――この曲では、“満たされているのに満足できない自分”みたいなものがテーマになっているわけですが、清さんの歌には日常の中で感じる漠然とした不安だったり、そこから見いだす小さな幸せのようなものがテーマになっていることが多いですよね。
「そうですね。日常について考えることは多いかもしれません。僕は悲観的な人間なのかもしれないですけど、悲観的であるからこその楽観みたなものが、どこかにあるんです。最終的には“どうにかなるかな”と思うタイプなので、あまり思い詰めたりはしないんですけど……ただ、そんな中にも……という感じです(笑)」
――曲はどういうときに書くことが多いですか。
「家で楽器を弾いているときとか、暇なときに自然に出てくることが多いです」
――ギターと鍵盤で曲を作っているみたいですけど、今回の「ヘルプミーヘルプミーヘルプミー」は?
「ピアノで作りました。最初はピアノの弾き語りみたいな感じだったんですけど」
――でも、実際の作品ではラフなバンド・サウンドが全面に押し出されていますよね。
「はい。いつもは最初のイメージをもとにアレンジを決めることが多いんですけど、今回は、これまでとまったく違うアプローチをしてみてもいいかなと思って。ふと思い浮かんだアイディアだったんですけど、すごくうまくいきました」
――普段、音楽を作る上でインスパイアを受けるものは何かありますか。
「そうですね……最近は児童音楽が好きで、子どもが歌っている曲をよく聴いています。家でNHKの番組をよく観てるんですけど、1年半ぐらい前から子ども番組にハマってしまって。もっぱら、『天才てれびくんMAX』をよく観ています」
――児童音楽のどのあたりに魅力を感じているんですか。
「子どもの歌には人間性がそのまま歌に現われているというか。すごく単調だったりするんですけど、それがすごく良かったりして。無意識な部分でのパワーを凄く感じます」
――自分の作る音楽も“かくありたい”と。
「そうですね。“稚拙美”みたいなものを自分なりに追求していけたら。“拙いんだけど美しい”という感じを自分の言葉やメロディで表現できればいいなと思っています」
取材・文/望月 哲(2009年10月)