海外の著名オーケストラと指揮者、世界の第一線で活躍するソリストたちの豪華共演による“東芝グランドコンサート”が来年39回目を迎える。今回出演するのは、スウェーデンの名門エーテボリ交響楽団と、同楽団の首席指揮者であり、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団をはじめとする世界のトップ・オーケストラとの共演でも注目を集める俊英、サントゥ=マティアス・ロウヴァリ。ソリストには難関“ハノーファー国際コンクール”で2009年に史上最年少で優勝を果たした三浦文彰(ヴァイオリン)と、ヨーロッパを拠点に世界中で演奏活動を展開する児玉麻里(ピアノ)を迎える。各方面から注目を集めるのは間違いない。今回はこの豪華出演陣から、児玉に出演にあたっての想いを伺った。彼女が演奏するのはベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番。児玉はすでにベートーヴェンのピアノ・ソナタとピアノ協奏曲の全曲録音を完遂しているベートーヴェンのスペシャリストである。
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――ベートーヴェンのピアノ協奏曲は5曲ありますが、今回選ばれたのはいちばん演奏機会が少なく、最初に書かれた第2番(※出版順の関係で第2番となっているが、実際には第1番よりも早く書かれている)ですね。
「私にとって第2番は“不当に”弾かれない曲だと思っています。ベートーヴェンの若い時の作品ということもあって、最も理想にあふれたものですし、彼の“遊び心”も聞えてきます。本当に魅力的な作品です。ただ、ソリストとオーケストラの呼吸が真に合わないと、この曲の魅力は聞こえてきません。演奏機会が少ないのにはそれも関係しているのかもしれませんね」
――今回共演される指揮者のロウヴァリさんとエーテボリ交響楽団とは、このアンサンブルが難しい第2番をやれる、という確信のようなものがあったのでしょうか?
「エーテボリ交響楽団とは3年前にヴィルヘルム・ステンハンマルのピアノ協奏曲を協演したことがあり、とても素晴らしいオーケストラだと感じました。ロウヴァリさんとはまだ共演したことがないのですが、録音を聴いたことがあり、魅力的な演奏でしたので、今回ご一緒できるのが楽しみですし、絶対にいいものになるはずです」
――ピアノ協奏曲第2番は編成が小さいこともあり、室内楽的な作品ですから、たしかに密なアンサンブルが求められますよね。
「とても会話が多い協奏曲です。しかも、ただ掛け合いをしていくのではなく、互いに発言を遮るような場面もあり、非常にタイミングが重要になってきます。それが少しでもズレてしまうとまったく面白さが出てきません。今回の演奏で、この作品の魅力を多くの方に届けられたらと思っています」
©sho kato
――ベートーヴェンが10代から着手したとても若い頃の作品ということもあり、モーツァルトの影響も感じられるのですが、意識はされていますか?
「そういわれることが多いですよね。でも私はこの曲からモーツァルトの要素は感じません。これはベートーヴェンそのものだと思います。ベートーヴェンといえば“重くてズッシリした曲を書く人”というイメージが強いので、そう思われるのかもしれないのですが……。私がベートーヴェンを研究してきた観点からいえば、それは誤解です。もちろん彼は男性的な作曲家ですが、勢いがあって、重さやメランコリーよりも芯の強さがある、筋肉質な作曲家なのです。この第2番の協奏曲には“青年ベートーヴェン”の力強さがみなぎっていると思います」
――10年をかけてベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音に取り組まれた児玉さんならではのご意見ですね。研究の成果ということは、以前は違うイメージだったのでしょうか?
「最初はやはり重々しいイメージを持っていました。ただ、師アルフレッド・ブレンデルと話して、ベートーヴェンに対する視点が変わり、彼のいろいろな顔が見えるようになったのです」
――ピアノ協奏曲も全曲録音されていますが、生涯にわたって書かれたソナタと協奏曲では何か違いはあるのでしょうか?
「最初のピアノ・ソナタは、まだハイドンの影響が強く出ていますが、協奏曲の場合は第2番(本当の1番)からベートーヴェンは自分自身の言葉で書いています。おそらくかなりの勇気をもって書いたのではないでしょうか。第1番のピアノ・ソナタには、師匠のハイドンに遠慮している部分がまだありましたが、協奏曲では最初からベートーヴェン自身の、誰にも遠慮しない言葉が聞こえてくるのです」
――ベートーヴェンの作品を幾度も演奏されてきた児玉さんですが、やはり弾くたびに解釈は変わってくるのでしょうか。
「もちろんです。共演者が変われば新しいアイディアもいただけますから。協奏曲は“ソロと伴奏”ではなく、対等に主張をぶつけあって組み立てていくものです。とくに今回演奏する第2番はそれを発揮できる作品なので、どんな演奏になるか今から楽しみです」
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今回のコンサートを前に、児玉によるベートーヴェンのピアノ協奏曲の全曲録音が11月にキングインターナショナルから国内仕様盤で発売予定だ。ぜひコンサートの前にベートーヴェンの書法の変遷と、児玉の描くベートーヴェン像を予習してみてはいかがだろう。
取材・文 / 長井進之介(2019年9月)
■東芝グランドコンサート2020サントゥ=マティアス・ロウヴァリ指揮
エーテボリ交響楽団
http://www.t-gc.jp/index.html2020年
2月28日(金)19:00〜 | 神奈川・川崎 ミューザ川崎シンフォニーホール <プログラムA> |
2月29日(土) 15:00〜 | 兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール <プログラムA> |
3月1日(日)14:00〜 | 愛知・名古屋 愛知県芸術劇場コンサートホール <プログラムA> |
3月2日(月)19:00〜 | 石川・金沢 石川県立音楽堂コンサートホール <プログラムA> |
3月5日(木)19:00〜 | 福岡・福岡シンフォニーホール <プログラムA> |
3月6日(金)19:00〜 | 広島・上野学園ホール <プログラムB> |
3月8日(日)14:00〜 | 東京・赤坂 サントリーホール <プログラムB> |
3月10日(火)19:00〜 | 宮城・仙台 仙台銀行ホール イズミティ 21 <プログラム B> |
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<プログラムA>
ステンハンマル: 交響的序曲「エクセルシオール!(天の高みに昇らん)」Op.13
ショスタコーヴィチ: ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 Op.77
シベリウス:交響曲第2番 ニ長調 Op.43
<プログラムB>
R.シュトラウス: 交響詩「ドン・ファン」 Op.20
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調Op.19
ショスタコーヴィチ: 交響曲第5番 二短調 Op.47
[出演]
サントゥ=マティアス・ロウヴァリ指揮エーテボリ交響楽団
三浦文彰(vn)<プログラムA>
児玉麻里(p)<プログラムB>