湘南を拠点に活動し、絶大な人気を誇るアコースティック・ギターとマンドリンからなるユニットの
YoLeYoLe。そのヴォーカリストでもある
児玉奈央がアルバム
『MAKER』でソロ・デビュー! グループでは表現できなかった秘められた音楽世界が鮮やかに描かれた本作、ヴォーカリストとしてのポテンシャルの高さも窺える一枚だ。本作について彼女に話を訊いた。
児玉奈央は変わりゆく者のうたを歌う。そのキャリアそのものが変化の旅でもある彼女は現
SAKEROCKの
星野源とのユニット、Polypでの作品デビューを皮切りに、ジャム・バンド、
MAJESTIC CIRCUSにヴォーカリストとして参加し、極彩色のジャム・バンド・シーンの扉の先へと飛び込んでいった。
「もともと、
グレイトフル・デッドが好きだったんですけど、10代の終わりくらいに“日本にデッドの曲をやってるバンドがあるよ”ってことで
BIG FROGのライヴに連れて行ってもらったのをきっかけに、そういうカルチャーに惹かれていったんですけど、自分でも音楽をやりたかったから、やるとなったら、そういうシーンに身を置くのは自然なことでしたね」
その後、アコースティック・ギター/マンドリン・トリオ、YoLeYoLeに参加した彼女は移住した湘南を拠点に全国の野外フェスやカフェ、バーなどでライヴを行なう一方、アルバム
『ひかり』と
『KaNeYoLe』などを発表してきた。
「でも、活動を続けていくうちに、“海”とか“自然”とか“子供”がテーマになっていたYoLeYoLeっていうフィルターを通して表現していたものが、それだけでは収まらなくなってきた。フィルターを通さない自分の歌が出来てきたんです」
その響きに覚醒感のあるギターがレイヤー状に重ねられている曲「MAKER」で幕を開ける彼女の初ソロ・アルバム『MAKER』は音数を最小限に絞り込みながら、さり気なく手を加えた歌が伸び伸びと羽を広げている。ギターを抑制し、リズム隊が曲を引っ張っていく「さわりたい」とヴィブラフォンをフィーチャーしたジャジーなアシッド・フォーク・ナンバー「チャンドラ」のアレンジを
CARAVANや
細野晴臣のライヴや作品でお馴染みのベーシスト、伊賀航率いる
lakeが担当し、レゲエのリズムを崩した「名前なんて」、
スティーヴ・ライヒの影響がにじむ「サンシャイン」を
グッドラックヘイワのキーボーディストである野村卓史が担当。さらには録り音を活かすZAKとさり気なく音を加工する
パードン木村、デッドな鳴りの横浜はガンボスタジオの川瀬真司という3人のエンジニアを適材適所で使い分けた結果、彼女の秘められた音楽世界が全9曲を通じて色鮮やかに描かれている。
「大好きな
ダニエル・ラノワの〈THE MAKER〉(アルバム
『Acadie』収録)の曲を聴いている時に“変わり者だと 言われてもいいよ”っていう一節が思い浮かんだので、その曲の日本語版を作りたいっていうことでアルバム・タイトル曲〈MAKER〉が生まれたんです。そのタイトルから私がイメージするのは、ものを生み出す人ってどんどん変化をするし、変化することで非難を浴びたり、変な目で見られたりもすることもあったりすると思うんです。でも、そういうことを恐れないで変わっていこう、と。ものを生み出すのは何も音楽だけじゃなく、例えば、子供を産むことだったり、日々の生活にあることだと思うんですけど、私はそういうすべての人に向かって歌っているんです」
取材・文/小野田 雄(2009年2月)