生まれ変わる必要なく、いつでも少年の心に戻れる――KOJOE『2nd Childhood』

KOJOE   2018/08/21掲載
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 多くの客演を迎え、彼らの魅力を生かす“プロデューサー”としての力量もみせた前作『here』から一転、KOJOEが自身のラップとメロディにフォーカスしたニュー・アルバム『2nd Childhood』をリリース。先行配信された、スムースでリラックスしたサマー・チューン「24」を筆頭に、これまでよりいっそう自由な世界を楽しめる作品となっている。毎月配信されるトーク番組「Joe's Kitchen」の舞台となるJ.STUDIOにて、アルバムに込められた想いや、かつて過ごしたニューヨークでの日々についても語ってもらった。
――ジャケットのお子さんはKOJOEさんご自身ですか?
 「この写真のころは“1st Childhood”。で、今に至るってことで昔の写真を使いました」
――前作はプロデュースに重心を置かれていたように思うのですが、今回は客演も5lack仙人掌RUDEBWOY FACEと少ないですね。
 「『here』は客演も多かったので、それを生かそうと心がけてました。今回はより自分が作りたいものを自由に出来た。ちょっとラガっぽい、レゲエっぽいテイストもあれば、ゴリゴリしたイケイケのラップも、裏声で歌ってるのも、ほんと自由に作ろうと思って。いろんな人が『here』を聴いてくれたから地方でもお客さんが入ってくれて、全国を回ってすごく自由になれた。みんなが楽しんでくれたから自分も楽しかった。音楽という“居場所”を見つけた後に、第二の思春期を謳歌している自分がいて。素直になれたのかな? とにかく心機一転した直後の作品ですね」
――“生まれ変われたらいいのに”って思うならば、自分の気持ち次第で何度でも生き返ることができる、これが今回の柱となるコンセプトですね。
 「誰だって“やだなこの人生、生まれ変わりたいな”って一度くらいは考えることがあると思う。大人になればなるほど責任がついてくるけど、そういう状況を作っているのは社会じゃなくて自分なんだよ、誰でもみんな生まれ変わる必要なんてなくて、心の持ちかた次第でいつでも少年の心に戻れるってことも伝えたかった。このアルバムを聴いて解き放たれてくれたらいいなって」
――「6秒ルール」はアンガー・マネージメントでよく使われる言葉なので怒りについての曲なのかな?なんて想像して裏切られ、さらに続く「WARnin'」はいきなりノーティで、まるでクラブで声をかけてきた男性が、次にステージでやんちゃしているところを目の当たりにするような構成で(笑)。すごくセクシーなアルバムでした。
 「セクシー!(笑)嬉しいです。〈6秒ルール〉は、人の印象は最初の6秒で決まるからあとでどうあがいてもダメって話を聞いて。最初の6秒で口説き倒して連れてくってだけの歌ですけど(笑)」
――そんなやんちゃな男性が「inori」であんな風に“生まれ変われたらいいのに”なんて歌っていて……だいぶモテますよ(笑)。
 「マジすか(笑)あれは一応ゴスペルですね。だから“Lord”って言葉も使ってます。昔のレコーダーで録音して。頭の中、思考回路を音にしたらあんな感じだなってざらっとした音にしました」
――今回のアルバムはNARISKさんプロデュースの曲が多く収録されていますが、どんな方でしょう?
 「NARISKは福岡が地元のビートメイカーで、OLIVE OILくんを通じて、今年知り合いました。たまたま送ってくれた〈to my unborn child〉(『here』収録曲)のリミックスがあったんですけど、ビートがすごく良かったから、それを使って新しい曲を作りたいって思って(笑)。ソッコーで作って送り返した曲が〈24〉です」
――じゃあ「24」はこの作品のスターターとなった曲ですね。タイトルは24カラットの意味ですか?
 「そう、一番最初に録った曲。24カラットの意味もあるし、24インチのでかいホイールだったり。めっちゃデカい、シャイニーな、イケてるみたいなニュアンス。NARISKはビートメイカーとしてスタイルがありつつも一方通行にならない。たとえば俺から“哀愁漂うちょっとさみしい感じ、だけど暗くない曲送ってよ”ってオファーと、リファレンスになるような曲をいくつか渡したら、それを真似せず空気感を拾って自分なりのビートにしてハメてくることができるやつです。最初はEPを作る予定だったのに曲が増えて“KOJOEさん、俺が絶対アルバムにしてみせますよ”なんてバンバン送ってきましたね」
――「24」から、コンセプトに近づいていったきっかけになった曲はどれですか?
 「コンセプトは最初からあったんですけど、それを落とし込んだのは、1曲目の〈inori〉と2曲目〈Sacrifice Pt. I〉、13曲目〈Sacrifice Pt.II〉ですね。“生まれ変わりたいなら……”と語りかけてくる存在が、最終的には自分の闇だって気が付いて。“お前殺すぞ”フィジカルに殺すように見せかけて、そいつがラップしだすというストーリーのセットアップがあって。この3曲とラスト〈2nd Childhood〉で挟んでいる曲は、関連してないんですよ。自由にいろんな曲を書いて、コンセプトでサンドウィッチしてあげた」
――なるほど。
 「喜怒哀楽を全部入れたかったんです。悲しみはほぼないけど一番近いのは〈back in da day〉。失恋でもないけど男と女が別れた、彼女が別れる引き金を引いたから“Murderer”って言葉も使って」
――確かに、様々なアプローチで“喜怒哀楽”が豊かに表現されています。KOJOEさんのように、黒人音楽のスタイルでラップと歌、どちらもできる日本のミュージシャンは少ないと思うのですが、意識はされますか?
 「歌謡曲にラップを足したようなアーティストは別モノとして悪くないと思う。俺にとって黒人の音楽スタイルは失いたくないエッセンスだけど、歌いたいから歌っているだけです。仲間だけど、5lackとかPUNPEEが使ってるメロディはすごく黒い、スムースなR&Bをやってるから俺だけじゃない。でもほかにいるかっていったら確かに少ないですね」
――ちなみに、アメリカに行かれる前はどんな音楽を聴いていましたか?
 「中学生のころは長渕 剛が超好きだったり、チャゲアスドリカムとか歌がうまい人がとにかく好きでしたね。洋楽はビルボード・トップ20とかのヒットチャート。ガンズ(アンド・ローゼズ)とかニルヴァーナも好きだったし。ボビー・ブラウンクリス・クロスN.W.A.パブリック・エナミーなんかもポップスとして普通に聴いてましたね」
――90年代の、ラップがヒットチャートに登場するようになった時代ですね。
 「B'Zがラップしてたもん、間奏で。全然聴いてたし、全然好き。クリス・クロスのラップを真似してカタカナでラップするような中学生でした」
――なぜNYへ行かれたんですか?
 「スキーをやっていて、推薦でアメリカの学校に行けることになって、最初はバーモント州に。同じころダンサーの姉貴が家出みたいにNYに行ってたんですよ。日本の高校を中退してその学校が始まるまでの期間、居候させてもらって。空港からアップタウンの姉の家のドア開けたらもう黒人がいて“YO!”(笑)。“あ、これ彼氏〜”みたいな(笑)。ラップとかDJとかターンテーブルを目の当たりにしたのはそれが最初。休みはNYへ通ってちょっとずつヒップホップに近づいて。学校が終わった瞬間、運動はもういい、音楽やりたいってNYへ引っ越してスキーは引退しました」
――NYではどんな暮らしをされていたんですか?
 「住んだ場所はゲットーで不良が多かったんで、かっこいい不良に憧れましたね。そんな中で音楽をやろうと思っても、運動するためにアメリカまで行かせてもらえるような恵まれた環境にあった俺に何ができるか、何を歌えるか。平和ボケして運動ばっかしていた俺には自信がなかったです。音楽は音楽だから自由にやってりゃ良かったんだけど、人としてまずコミュニティで認めてもらうことが音楽をやるためのチケットだと思ってました。常にレコーディングもしていたから、マンハッタンに行っていろんなイベントに顔を出して知り合い作ってりゃいいのにずっと居続けて。周りは、2030年くらいまでアメリカから出られないようなやつらばっかりでしたけど、そういう人たちに認めてもらいたくて。とはいっても、そのフッドも地元じゃねえのにって思いつつ。結婚したり、音楽的に認めてもらえればもらえるほど俺はジャップだし、どこに向かってるんだろうって」
――葛藤もあったんですね。
 「前の奥さんのおかげで英語でラップできるようになったね。相手もラッパーだったし、6歳年上だったから言葉でかなうわけがなくて。でも絶対勝ってやろうって(笑)。口喧嘩とかでちょっと勝てるようになり始めたころにラップも良くなってきて。なんか歌詞も自分の言葉でいいじゃんってなったら認めてもらえるようになった。英語でいい感じの歌詞を書けるようになったんですね。スラングとかも自分や仲間が思いついたものを使うようになって、“あれ、結構これいいじゃん?”って思えたり、言われたりするようになった。劇的に別人くらい良くなったと思う」
――アルバムの最後で英語と日本語でコメントがありますが、日本人として、イングリッシュ・スピーカーとしてそれぞれリスナーに向き合った言葉なんだなって感じられるものでした。
 「でもバイリンガルでいる自分っていうのはあんまり意識してない。場所は関係なくて常に日本人である自分が強くいて。NYでも日本の国旗を持ち歩いたり、ネイティブみたいに喋るけどキレるときは日本語を使ってた。でも少なからずまったく英語が喋れない人からしたら、英語と日本語がスウィッチすることに“なんだよこいつ、ここ日本なのによ”って思うやつがいることも知っているし、そいつらの気持ちもわかるというか。俺は日本語を音楽の中ではあえて英語発音にしてるけど、でもしょうがねえじゃん、自分なんだから。英語も日本語もただの言葉で、相手が気持ちいいやつだったらそんなことは関係ないし」
――作品もかっこいいものであれば、関係ないですね。
 「そう、1〜2年アメリカにいただけで英語なまりでしゃべったりするようなうさんくさいやつはバレるよ。日本に帰ってきて9年くらい経つけど、当時と違って今の10代、20代の子たちは、日本語ラップは日本語じゃなきゃいけないみたいな気持ちをまったくもってない。英語っぽいバイリンガルの曲だったり、超日本語なヒップホップも受け入れてる。“俺たちの作ってきた日本語ラップにバイリンガルは入るな”みたいなのは全くなくなった。そこが変わらないやつらはこれからは生き残れないと思う」
取材・文 / 服部真由子(2018年8月)
Live Info
KOJOE「here」RELEASE PARTY in FUKUOKA
Supported by COCALERO


2018年9月17日(月・祝)
福岡 天神 Early Believers
開場 / 開演 18:00
前売 3,400円 / 当日 4,000円(税込 / 別途ドリンク代)

出演
Release Live: KOJOE Feat. AKANE / Awich / BUPPON / ISSUGI / WAPPER
Guest Artist: Olive Oil & Popy Oil / BUPPON / illmore / YELLADIGOS
DJ: 3104st with DANCE SESSION
SHOP: JAZZY SPORT / Don't Find / Chilly Source




AFTER PARTY
開場 / 開演 22:30
福岡 舞鶴 Kieth Flack
前売 2,000円 / 当日 2,500円(税込 / 別途ドリンク代)
※Early Believersの半券提示: 1,000円

出演
GUEST: 16FLIP
DJ: SHOE / KLO-DO / DJ POM / NARISK / Lo-p / DJ PAULOS




前売チケット取り扱い
ローチケ(L 83191) / Livepocket / DARAHA BEATS(090-2867-1233) / Don't Find(092-405-0809) / House of Steel(houseofsteel093@yahoo.co.jp) / Kieth Flack(092-762-7733) / OP1(092-724-8882) / SQUASH DAIMYO(092-724-9552) / SQUASH IMAIZUMI(092-734-3037) / STS(092-523-7520) / TROOP RECORDS(092-725-7173)
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