透明感と温もりを併せ持つ声で、のびやかに歌うシンガーとしての力量。自身の内面を映しながら時代や社会を肯定するソングライターとしての個性。オーディエンスにプロセスを公開するステージ・レコーディングなど、新機軸を打ち出すプロデューサーとしての手腕。いずれもが高く評価される
KOKIAが新作をリリースする。シングルのカップリング曲、配信でリリースされた曲、オリジナル・アルバムの初回限定盤スペシャルCD収録曲を集めた2枚組の
『心ばかり』だ。そこからは時間をかけて確固たるスタイルを築いてきたKOKIAの歩みが見てとれる。
――10年以上の期間にわたるシングルのカップリング曲や配信リリース曲が中心の2枚組で、曲調もポップな「tell tell坊主」があったり、アコースティック・ギターとのデュオ「クルマレテ」があったりと多彩ですが、KOKIAさんのアーティスト性が伝わる、一つの作品という印象を受けました。
「カップリング曲については、A面に対して不足しているなと思う部分を出すように心がけてきました。それは歌詞の世界観のときもあるし、音楽的アプローチのときもあります。配信リリースについては、リリースの形が変わっても曲作りに影響するということはありません。それは、いずれCDに収めるという意識があるからなんですね。シングルや配信曲はパズルの1ピースです。アルバムを聴いてもらうことで一つのコンセプトが完成すると、私の中では位置づけられています」
――KOKIAさんにとって、アルバムという形態の魅力はなんですか?
「1曲に込められる思いやメッセージは一つです。楽しい曲、悲しい曲、いろんな曲がありますけど、1曲の曲で知ってもらえるのは、私が持っているある一部分だけ。けれど、アルバムでは、シングルに比べて多面的に私という人を知ってもらえる。そんなアイテムのような気がします。私がどんな人なのかということをシングルよりもアルバムの方が多少でもわかってもらえるのではないでしょうか。アルバムを通してどんな人が歌っているのかというところに興味をもってもらえたら嬉しいです。シンガーソングライターKOKIAが歌っている歌だから聴きたいっと言ってもらえるような人で居たいと思っています」
――ご自身によるライナーノーツ(2008年刊のメモリアルブックより抜粋加筆)を興味深く読みました。これまでに所属した3つの事務所のこと、2006年に独立して以降のこと、それぞれの状況と創作活動の関わりが率直に述べられていて、自作曲の歌詞においても内面を率直に表明するKOKIAさんらしいと感じました。
「音楽をつくるとき、自分のやりたいことをやればいいのかというと、そうではありません。自分のやりたいこと、こういうKOKIAを聴きたいというリスナーの要望、スタッフの提案、タイアップ先の作品(映画やTV番組など)との出会い、そういうことの積み重ねの中で音楽はつくられます。いろんなことのバランスが取れていることが大事だと思うんですね。そうやってつくられた音楽は、何をやっても結局は私というフィルターを通っているので、KOKIA印の音楽になっていると思います。タイプの異なる事務所で多くの体験をさせてもらったことが自分のスタイルを見つけることにつながったので、今回、ブックレットにあえて移籍のことやデビューしてから辿ってきた道を言葉として残しました」
――近作と同様、今作「心ばかり」のアルバム・カヴァーのデザインもご自身で手掛けているのですか?
「今回はデザインだけでなく、写真も自分で撮りました。実はこれ、自宅で撮った写真を使っています。アルバムのコンセプトを考えて、タイトルが決まった時点でジャケットのイメージが浮かびました。和紙を何枚か買ってきて、“心ばかり”という思いにふさわしい質感はどういうのだろう、どんな色だろうと考え、紙を選んだんです。折り方も試行錯誤して・・・なんとなくめでたいかなっと、縁起担ぎでお正月に撮ってみました(笑)。独立してから、ジャケットも音そのものと同じように手間をかけてつくっています。まるで街の和菓子職人がお菓子作り同様に、最後のパッケージまで考えるように」
――収録曲でとくに思い出深い曲はありますか?
「独立する直前にあたるDISC-1の終盤と、独立して間もないDISC-2の最初のほうですね。突き動かされて、短時間でつくった曲も、そのときのことが思い出に残っています。<ありがとう…>は飼っていた犬が死んでしまって、無意識の心の声のようにして生まれた曲です。映画のエンディング・テーマとして書いた<愛のメロディー>は、自分の波長と、タイアップのためにいただいたお題の波長が合いました。経験的に、短い時間で書けた曲のほうが、のちのち皆さんに愛してもらえる曲になりますね。おそらくそれは、言いたいこととか伝えたいことが明確にあって、それをただ音に変換しているからだと思うんです」
――DISC-2の最後の曲「世界を包む Ribbon in our heart」はNHKの紀行番組『地球イチバン』のエンディング・テーマですね。スケールの大きい曲調がアルバムを締めくくるのにぴったりだと感じます。
「そもそもは番組のパイロット版で、『REAL WORLD』に入っている<この地球がまるいお陰で>を使ってくださっていたんです。番組が伝えたいコンセプト(の表現)とワールド・ミュージック的な表現ができるということで、番組用に曲を書いてほしいとお話をいただきました」
――番組のスタッフからはどんな要望があったのですか?
「世界を感じられて、壮大な感じがあり、それでいて包み込むようなやさしさの感じられる曲ということでした。私の中では区切りとなった作品で、この曲で『心ばかり』をくくれたことがうれしいんです。アレンジャーの浦(清英)さんとは、いろいろなタイプの作品や、(前作『moment』の)ステージ・レコーディングを通して共通言語が以前に比べ大分できあがってきています。今回はまた新しい方向性だったと思うのですけど、そこに期待して浦さんにアレンジを頼んだのですが、見事に応えてくれました」
取材・文/浅羽晃(2012年2月)
<「心ばかり」発売記念インストア・フリーライブ>[東京]●日時:3月10日(土)13:00〜
●場所:東京・タワーレコード新宿店 7F
●内容:フリーライヴ&握手、CDジャケットサイン会 ※観覧無料
※問い合わせ先:タワーレコード新宿店:03-5360-7811(11:00 - 23:00)
[兵庫]●日時:3月11日(土)15:00〜
●場所:兵庫・阪急西宮ガーデンズ 4階スカイガーデン・木の葉のステージ
●内容:フリーライヴ&握手、CDジャケットサイン会 ※観覧無料
<「心ばかり」発売記念プレミアムライブ】>●日時:4月6日(金)18:30〜
●場所:銀座山野楽器 本店 7F イベントスペース“JamSpot”
●内容:弾き語りライヴ&CDジャケットサイン会
※問い合わせ先:山野楽器イベント係 03-3861-8775 9:30〜18:20
上記イベントの参加方法は下記HPをご確認下さい。
http://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A012051/-.html<KOKIA concert tour 2012「History」>日時: 6月2日(土)
会場:東京国際フォーラム ホールC
開場17:30/開演18:30
料金:6,800円(税込) 全席指定
日時: 6月8日(金)
会場:大阪サンケイホール ブリーゼ
料金:6,800円(税込) 全席指定
開場18:00/開演19:00
※未就学児入場不可
【チケット一般発売日】3月22日
http://www.kokia.com/