クレズマーを軸に多様なアコースティック・サウンドを奏でる流浪の個性派バンド、
こまっちゃクレズマ。一方、
おおたか静流は七色のヴォイスを駆使して独自のパフォーマンスを追求するノンジャンル系ヴォーカリスト。その初コラボレート作
『すっぽんぽん』はいかにして生まれたのか? バンド・リーダーの
梅津和時(サックス、クラリネット)とおおたか静流に話を聞いた――。
「やはり」というべきか、「さすが」というべきか。異能の才が触れあって生まれる作品は一筋縄ではいかない。梅津和時率いるこまっちゃクレズマとおおたか静流の初コラボレート・アルバム『すっぽんぽん』は、ユーモアと哀愁を混在させた色とりどりのサウンドを詰め込みながらも、首尾一貫した情緒的な美しさが全編を覆う稀有な作品に仕上がった。そもそも両者が出会ったきっかけは?
「こまっちゃクレズマとしては98年のアート・イベントで一緒にやったのが最初。でも僕はそれ以前におおたかさんと共演した経験があって、当時から絶対にこまっちゃクレズマに合うと思ってたんです。なにしろ声が美しいですからね」(梅津)
「バンドに入って歌うことが憧れだったので、声をかけてもらった時はすごく嬉かった。一緒にできるなんて想像さえしてなかったんですが、ライヴの後に“また呼んでください!”って」(おおたか)
お互いに抜群の相性を確信した一行はその後もライヴを続けざまに敢行。こまっちゃクレズマにとっておおたかはゲスト以上の存在となった。「念願のアルバム制作がやっと実現した」と二人は口をそろえるが、今作では特にコンセプトを決めずに「今の自分たちをポーンと出した」(梅津)という。
「そうしたら、“おおたかさんに歌ってほしい”と持ち寄った曲がメンバーそれぞれまったく違ったものになって、結果的に彼女のいろんな表情のヴォーカルを引き出すことができたんです。それがすごく面白かった」(梅津)
アルバム名になった冒頭の一曲「すっぽんぽん」は、クラシックの有名曲「ガヴォット」(ゴセック作曲)をこまっちゃ流にアレンジし、そこにおおたかが詞をつけたもの。ごった煮感覚の編曲もさることながら、ユーモラスで赤裸々すぎる歌詞が強烈だ。「まさかこんな詞がつくとは思わなかった。そういう驚きはいろいろありましたね」と梅津が語るように、おおたかの詞はその歌唱同様、一曲ごとに多彩なアプローチをみせる。梅津の名曲「ヴェトナミーズ・ゴスペル」につけた詞は、今にいたるベトナムの記憶を呼び起こす深遠な世界観を浮き立たせているし、「もてもて日記」では愉快な浅草オペラを披露している。
「その曲が欲している言葉があるんです。メロディを生かし、なおかつ言葉も生きるような。見た時には何ともなくても、歌った時や演奏した時に心地よく思える言葉を探しました。そういうことにはすごく敏感でいたい」(おおたか)
「こっちから何も注文を出さなくても一番いいことをやってくれた、という感じです」(梅津)
録音はほぼ一発録り。おおたかいわく「流浪の民ですからね(笑)。そうしないと臨場感がなくなってしまうんです。今回はまないたの鯉になって、スイッチを完全に“流浪系”に入れ替えました」
彼らの持ち味を“生”のままとらえた一枚。ユニークなアルバム名の真意がそこにある。
「なんにも飾りつけしてません、ってことで。僕らの素直な部分を前面に出せたし、今までのおおたかさんのアルバムは作り込んでいた印象があったけど、今回はすごく“素”を出させてもらったかな、と」(梅津)
「これ以上は裸になれません、みたいな(笑)」(おおたか)
さまざまなフィールドで活躍する二人にとって、こまっちゃクレズマの位置づけとは?
「僕としてはこれが一番新しい音楽なんです。もう始めてから10年近く経ちますが、まだすごく可能性がある。どの方面にもいけるバンドだし、なにか自分の原点に返っている感じもします」(梅津)
「ヴォーカルといえばフロントっていう位置づけがされがちですが、そうでもなく。今回はバンドの作業を家族っぽい匂いの中でできたことが新しい発見でした。そんなバンドに招かれて、幸せです」(おおたか)
取材・文/吉井 孝(2007年5月)
【ライヴ情報】
●5月26日(土)東京・代官山「晴れたら空に豆まいて」
●6月13日(水)大分・湯布院 見成寺
●6月15日(金)佐賀・エスプラッツホール(佐賀市交流センター3F)
●6月16日(土)福岡・小倉 スミックスホールESTA
●6月17日(日)福岡・石蔵酒造「博多百年蔵」
※詳細は
公式HPへ。