ジャンルの壁を超越したオールジャンル・ミックスで熱烈な支持を受けるDJ、
クボタタケシ。そんな彼が約5年ぶりとなるミックスCD
『NEO CLASSICS 2』を発表! 今回の特集では、新作にまつわるロング・インタビュー、7人のDJ/クリエイターによるコメント、彼が所属する伝説のヒップホップ・グループ、
キミドリ(現在は活動休止中)に関するコラムを通じて、唯一無二の存在感を放つDJ、クボタタケシの魅力に迫ります。
この5年間、リミックス/プロデュースのオファーは全部断ってた
真夜中から朝に向け、レコードを繋いで混ぜた先に果たして何があるのか? “人の音楽をただかけてるだけじゃん”。もしかすると、そう思うリスナーもいるかもしれない。しかし、60年代後半にニューヨークのDJ、
フランシス・グラッソが2台のターンテーブルを用いたミキシングを行ってから約40年。ターンテーブル上で国籍やジャンル、時代性を剥ぎ取った音楽のパッチワークによって、まったく新しいエンタテインメントや体験を提供するDJという表現形態は長い年月をかけ、ひとつのアート・フォームへと高められてきた。選曲の妙はもちろんのこと、プレイの技術やその場の空気を読むセンス、蓄積された経験など、さまざまな条件をすべて兼ね備えたDJこそが街の噂になり、人を集めることができるし」、逆に言えば、そのひとつでも欠ければ、たちまち背を向けられてしまうという非常にシビアな職業でもある。
そんなDJの世界に80年代後半から身を置き、長きにわたって東京を中心に全国各地の数え切れない夜を揺らし続けてきたのがDJのクボタタケシだ。ワン・アンド・オンリーのオール・ミックス DJと評される彼は、端からジャンルなど気にせず、その場、その瞬間のグルーヴやムードを圧倒的な説得力でもって生み出すことによって、高い評価を長年にわたって維持し続けてきた希有なDJである。そんな彼が2003年の『NEO CLASSICS』以来、5年ぶりとなる2作目のミックスCD『NEO CLASSICS 2』を発表した。
「この5年、リミックス/プロデュースのオファーは、いろいろあったんですよ。でも、日本には、音も作ってこそ一人前のDJっていう風潮があるでしょ。それが寒いなと思ったんですよ。だから、あえて、オファーを断って、1回、DJだけで挑戦してみようかなって。普通、作品を何も出さなかったら、消えちゃうと思うんですよ。でも、2年、3年……作品は何も出してないのに、あちこちから呼んでもらったり、お客さんが来てくれたり。ホントそういう人たちのお陰だなって思いますね」
そう謙遜する彼だが、新旧あらゆるジャンルのレコードをチェックし続けながら、そうした音楽の神髄をさまざまな角度から体感的に追求し続けてきたからこそ成立する真のオールミックス・プレイは一聴して、それと分かるほどに突出している。
「内容は基本的に、ここ最近、自分が好んでかけてるもの。構成は録音当日に考えて、レコーディングは一発録り。できるだけ普段現場でやってるニュアンスを出したかったってことはありますね。過去のミックスCD/テープもみんなそうやって作ったんですよ。レコーディングは一人でやるのがイヤだから、誰かを呼んで、1曲終わるごとにレコードを渡して、曲目を書き留めてもらっているんですけど、今回は針飛びの激しい箇所があって、初めて2回録らざるをえなくて、一人で落ち込みましたね。自分の中にはそういうルールが気持ち悪いこだわりとしてあるんですよ」
今回のミックスCDは自分の中にあるブライト・サイド
そうした職人的こだわりが随所に見受けられる本作だが、その作品世界はカラっと明るく陽気でありながら、ジャンルを右に左に横断する選曲とプレイは灼熱の太陽のもとでテキーラを煽っているかのような、ナチュラルなサイケデリック感覚が楽しめる。全体の印象としてはラテン寄りであるものの、全24曲からなる一続きの流れの中でネオ・ロカビリー・シンガー、
ロバート・ゴードンと
スライ&ロビー、
スカ・フレイムスや
ザ・ブームが平然と同居し、聴き手の脳内ジャンルはぐらぐらと音を立てて崩れていく。
「自分の中でブライト・サイドとダーク・サイドがあって、今回のミックスCDはブライト・サイドなんだけど、その辺の選曲だとラテンめな曲が多いかな。アフリカ系の人って、リズムの表だけじゃなく、裏で合わせたり、それを組み合わせたりするよね。クンビアのリズムもスカのリズムとかレゲエのリズムに近かったりするし、面白いから買ったりもするんだけど、最近、一部のラテン好きはクンビア一辺倒だったりするから、その辺は付かず離れず。ドラムンベースも日本だと、そのままのリズムで踊ってる人が多くてしんどそうだなって感じだけど、アフリカ系の人はベース・ラインでゆっくり踊るんだよね。口で説明するのは難しいけど、そういうリズムのいろんな解釈が入ってるんじゃなかな。でも、パーティによって、テクノやハウス、ダブで頼まれることがあって、そういう時にダーク・サイドが出たりするんだけど、それは恐ろしかったり、重かったり、暗かったりする選曲。俺は
SWANSみたいなドーンとしたのも大好きなんですよ。最近だと、
ソニック・ユースが変名でやってたチコネ・ユースのアルバムに入ってる1曲がダークなハウスと混ぜられるってことを発見して。今考えると早かったんだなって。そうやって、新譜とか中古レコードを買ってきて、家で1曲聴くと、そこからインスパイアされて、“あ、確か、こういうの持ってたな”って感じで自分のレコード棚を掘り返してみたり、1枚のレコードが他の4枚につながる、みたいなことはしょっちゅうある」
上記の発言からもうかがえるクリエイティヴな音楽の捉え方もさることながら、音響に対する鋭敏な感覚もまた本作を特別なものにしている、ひとつの要因である。
「今回もアナログ感が出てる、というか、マスタリングでも出してもらったんですけど、あえて音質とか音域をまとめないでやれたのがよかったなって。パソコンDJ? テクノとか打ち込みものだったらいいのかもしれないけど、こういう音楽だったらどうなんだろうね? たとえば、今回のアルバムに入れたスカ・フレイムスの〈Rip Van Winkle〉なんて、ディレクターがもってきたCDと、何千回とか けてる俺のアナログを聞き比べたら、全然、アナログの方が音が良かったですからね。だから、そういう部分がクリアできて、俺がパソコン買って、それをマスターして、なおかつレコードも活かせて、人工知能で俺が思ってることをパッとやってくれるのであれば、パソコンでDJをやるかもしれない(笑)」
今、俺の中ではすごいワクワクしてるんですけどね
音楽不況の煽りを受け、レコード・ショップも次々に姿を消す激動の音楽シーンにあって、長年レコードを扱ってきたDJの中にはダウンロードでトラックを買い、パソコンでプレイするスタイルにスウィッチする者も出てきているが、彼は自らのスタイルを貫き通すだけでなく、どうやら、その活動を活発化するつもりらしい。アンド・ビート・ゴーズ・オン……。
「今、俺の中ではすごいワクワクしてるんですけどね。DJでレギュラーをもらったりキミドリでデビューしたのは、バブルが弾けた後の1991〜1992年。暗い感じだったけど、うちらはそんなの関係ないし、自分たちでやっていくのがすごい楽しかった。なんか“やるぞ!”って感じがあったんですけど、今またそれが一周した気がするんですよ。自分の中ではレコードからCDに変わっていった1988年から1990年くらいの感じ。ある日、レコード屋からレコードが全部消えて、CDになった時期。みんな、どうなっちゃうんだろうって言ってたけど、レコードはなくなってないでしょ。いまもCDが売れないとかなんとか言われてるけど、ツールが変わったくらいで音楽を聴く人が減ったわけじゃないからね。(『NEO CLASSICS 2』の)ジャケットも、前作では、しゃがみこんで泣いてたイラストが5年を経て立ち上がってるでしょ。次はどうなるんだろうな。次はどこに行かせようかな。ミックスCDは『NEO CLASSICS 3』ももちろん構想中ですよ。去年からまた、いろいろ創りたくなってきたから、とりあえず、このシリーズをどんどん出して、作品制作の方もやっていきたいし、未発表曲だったり、今までのリミックス集なんかも出せたらいいなって。てかやりますけど」
取材・文/小野田 雄(2008年9月)
●7人のDJ/クリエイターが語るDJクボタタケシ
小西康陽
いまDJで、まったく誰にも似ていないセットをやる人、何をかけてもその人の音楽になる人、というと、やはりまずクボタくん、ということになる。そして須永辰緒さん、チャーべくん、それにオレ。かな。ドサクサに紛れて、売り込んだりしてスミマセン。
この久々のミックスCDを聴いても、彼が作った音楽じゃないのに、完全に彼の色に染まっているトラックばかり。どの曲も、クボタくんにプレイしてもらうことを目的として作られたような曲に聴こえるのがスゴイ。
でも、彼の選曲芸風も、時代の空気を敏感に反応して、日々変わっていくわけで、いまのクボタくんのスタイルが、何年か後にも聴けるわけではない。その意味では、こうして2008年夏から秋の気分を見事に真空パックしてくれた、このCDはとても貴重だ。いま聴いて楽しく、なおかつそれはいつか、たとえば古今亭志ん朝のテレビ出演時の記録映像、のように素晴らしい記録となるだろう。
瀧見憲司
(Crue-L/Luger E-Go)
クボタタケシのことを考えると、『仁義なき戦い 広島死闘編』の山中を思い出す。以上。え? もうひと声? 音も含めて、ファッションではないルードとは、こういう事なのではないだろうか。以上。
川辺ヒロシ
(TOKYO No.1 SOUL SET/InK)
クボタタケシのDJを最初に聞いたのは遥か昔のような気もするけど、最初に思ったのは自分とすごく近い感じがする、ということ。それから、何度も一緒にDJしたり、音楽を作ったりしてきたけど、そのときから印象は全くかわっていない。クボタは昔からこうだった。
そうとは気付かせないまま、無理なく、ジャンルを横断していく手腕。気がつくと、80分で世界一周を楽しんでいた、という感じ。
まだ、彼のDJを体験したことがないのであれば是非、手に取って聴いてみてほしい。
新たな視点を手に入れることができる。
森 雅樹
(EGO-WRAPPIN')
クボタさんには踊れるビートを常にいろんなレコードから探している印象があります。 “BOΦWYの、ある曲のビートがモータウンっぽい”とか、そういう感覚で幅広く音楽をとらえられるセンスがすごいなと思います。まったくジャンルの違うレコードを違和感なく繋げてしまうというか。知らず知らず踊っているんだけど、ふと我に返って“これって、あの曲やん!”みたいなことがクボタさんのDJでは本当に多いんです。あとは、やっぱり人柄ですかね。僕も普段から、すごくよくしてもらってるんですけど、そういう人柄のよさがポップな選曲に繋がってるような気がします。(談)
松田“chabe”岳二
(CUBISMO GRAFICO)
やっと出た! 365日、ほぼ毎晩どこかのハコで特殊極まりない世界旅行に連れて行ってくれる彼、クボタタケシのNEO MIXが。大箱のみならず小箱でも4つ打ちの呪縛に捕われているような印象を受けることが多い昨今のクラブ・シーンにおいて、彼のような存在は希有であると同時にとても不良でもあり、尚かつ健康であると思います。だからこそDJが彼に変わった瞬間に場の空気が変わるのでしょう。
そして、今こそこんな不良先生の一風変わったエデュケーションが必要なのです。だから、ボタさん。次も早く作ってください。
サイトウ“JxJx”ジュン
(YOUR SONG IS GOOD)
ガキんちょの頃に友達が作ってくれたテープはソウルとセンスとガッツとメッセージに満ち溢れていたが、クボタさんの『CLASSICS』『NEO CLASSICS』シリーズってのは、自分にとってそんなかけがいのないお宝の最高峰的な存在で、MIX TAPE、CDの範疇を超えたシロモノであります。なもんで1曲1曲にいちいちシビれたり、ドッキンドッキンしたり、すごく考えさせられたり、猛烈に踊り倒したくなったり、挙げ句の果てには、人生の大幅な変更を余儀なくされてしまったりと毎度大変な騒ぎなのでありまして、待ちに待った『NEO CLASSICS 2』、これでまたどうにかなってしまうわけっす。ありがとうございましたっ!
Profile:YOUR SONG IS GOODのオルガン担当/リーダー。FRUITYのヴォーカルだったサイトウと、NUTS& MILKのヨシザワ“モーリス”マサトモ(ギター)、シライシコウジ(ギター)、タナカ“ズィ〜レイ”レイジらが結成したSCOOL JACKETSが母体となり1998年に結成。クボタタケシのミックスCD『NEO CLASSICS』に彼らの楽曲「SUPER SOUL MEETIN'」が収録されている。最新アルバム
『THE ACTION』が好評発売中。9月からはアルバムを引っ提げたワンマン・ツアーもスタート!
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http://www.kakubarhythm.com/
サイプレス上野
(サイプレス上野とロベルト吉野)
テープの頃から曲目リストを見ても俺にはさっぱり! でも死ぬほどワクワク&ドキドキ&グワングワン!! 今回も爪のあかを煎じて一気飲みさせて頂きます!!! コメント書かせて頂けて最高です(泣)。あざっす!
Profile:サイプレス上野(マイクロフォン担当)、ロベルト吉野(ターンテーブル担当)のふたりからなるヒップホップ・ユニット。通称“サ上とロ吉”2000年夏、横浜ドリームランド出身の先輩(サ上)と後輩(ロ吉)で結成。“HIP HOPミーツallグッド何か”を座右の銘に掲げ、“決してHIPHOPを薄めないエンターテイメント”と称されるライヴ・パフォーマンスを武器に毎年120本近くのライヴを全国規模で展開。
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http://www.sauetoroyoshi.com/
●オルタナティヴな活動を展開した伝説のヒップホップ・グループ、キミドリとは?
クボタタケシはDJであると同時に、ヒップホップ・グループ、 キミドリでの活動で知られるトラック・メイカー/ラッパーでもある。1991年にMCの石黒景太 aka KURO-OVI(現デザイナー兼DJ)、DJの青木 誠と活動を開始した彼は、『CHECK YOUR MIKE』や『TVVA』といった、さまざまなコンピレーション・アルバムに参加。そして、1993年に発表された1stアルバム
『キミドリ』には、
ECDや四街道NATUREのKZA(現
FORCE OF NATURE)、
U.G MANの谷口 順と河南有治、そして、後に
STRUGGLE FOR PRIDEを結成することになる今里をフィーチャーした「大きなお世話」を収録。この曲に象徴されるように、彼らは黎明期のヒップホップ・シーンを越え、ハードコア・パンク/USインディーズやスケートボードといった広義のストリート・カルチャー・シーンにアピールした当時としては希有なグループであり、この作品はノンプロモーションで2万枚以上のセールスを記録したと言われている。
その後、彼らは下北沢のクラブ、SLITSで
BOREDOMSの
EYE、
ユウ・ザ・ロック、鍵盤奏者の堀江博久が在籍していたスタジオ・エイプスら、幅広いゲストをフィーチャーしたウィークリーのレギュラー・パーティ『カンフュージョン』を主宰(このパーティに関しては下北沢ZOO/SLITSのオーラル・バイオ本『LIFE AT SLITS』を参照のこと)。DJとライヴを行う一方、ECDの
『HOMESICK』と『LIVE AT SLITS』や
東京スカパラダイスオーケストラ『GRAND PRIX』収録の「Skung-fu Man '95」、
スチャダラパーの「GET UP AND DANCE」(アルバム
『スチャダラ外伝』収録)、TOKYO No.1 SOUL SET「SALSA TAXI」(アルバム
『Jr.』再発盤収録)といった作品に客演やサウンド・プロダクションで参加。そして、1996年にCUTTING EDGEよりミニ・アルバム
『OH, WHAT A NIGHT!』をリリース。この作品にはクラシック夜遊び讃歌「オ・ワ・ラ・ナイ(OH, WHAT A NIGHT!)」やダブ・トランペット奏者、
小玉和文がプロデュースとアレンジを手掛けた「なんてキミドリだ今日」ほか2曲を収録。海外の動向を横目で眺めつつも、ユニーク極まりないリリックとネタ使いやプロダクションが極めてオリジナルなトラックは、当時、盛り上がりつつあったヒップホップ・シーンにあってオルナタティヴな個性として突出したものがあった。しかし、さらなる活動が大いに期待されながらも、グループは活動休止。クボタはソロ・アーティストとしてDJ/プロデューサーとしてのキャリアを歩むことに。その後、キミドリは 2006年にSTRUGGLE FOR PRIDEのアルバム
『You Bark, We Bite』のリリース記念パーティで一夜限りの再結成を果たしたが、この日のパフォーマンスはフロアに溢れかえったオーディエンスで身動きとれないほどの盛り上がりを見せたことを付け加えさせて頂く。現在でこそクロスオーヴァーが当たり前のヒップホップ・シーンだが、その先駆的な存在である彼らが後続のヒップホップ・リスナーに与えた影響は決して小さなものではない。
文/小野田 雄