新しいアルバムはバルトークの「弦楽のためのディヴェルティメント」「ルーマニア民族舞曲」、そしてピアソラの「ブエノスアイレスの四季」という選曲によるもの。いずれもベルリンのコンツェルトハウスでライブ録音された。 「この室内オーケストラを結成して以来、ベルリンのコンツェルトハウスで年3回ほどの定期演奏会を行なっています。プログラミングはいつも工夫していますが、コンツェルトハウスのディレクターもいろいろなアイディアを持っている方で、相談に乗ってくれています。さらにコンツェルトハウスが企画するコンサートも多く、コンツェルトハウス室内オーケストラも誘われて参加しています。ピアソラの〈ブエノスアイレスの四季〉は南米音楽の音楽祭を行なった時に演奏したものです」
ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」はホセ・ブラガートが編曲したピアノとオーケストラによる版を使っている。母体のオーケストラではコンサートマスター、そしてこの室内オーケストラでは芸術監督を任されている。
「コンサートマスターの役割は、指揮者の意図を理解してオーケストラをリードすることですが、室内オーケストラの芸術監督というのは、自分自身の音楽的なアイディアをはっきりと持ち、それをメンバーにまず伝えて行くことがとても重要になります。だから、事前の準備が大変になりますね。演奏する作品を自分はどう解釈するか、そしてどういう方向性で演奏するか。その点がはっきりしていないと、リハーサルもスムーズに進みません。とくに今回の作品のなかでも、バルトークの〈弦楽のためのディヴェルティメント〉は、弦楽アンサンブルのための作品のなかでもっとも難しいもののひとつで、準備もかなり大変でした。音楽的なアイディアに関しては、コンツェルトハウス管弦楽団の現在の首席指揮者である
イヴァン・フィッシャーにも相談に乗っていただきました」
ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」は、単にアルゼンチンタンゴの傑作という枠を超えて、すでにヴィヴァルディの「四季」と並ぶ位置を獲得したようにさえ思える。
「この作品は、じつは私がアメリカに留学していた時代から演奏していたんです。だから自分の演奏経験もたくさんある作品ということになりますね。アルゼンチンタンゴはドイツでもとても人気があって、ピアソラ作品もよく知られています。この録音をする前に、興味のある人はアルゼンチンタンゴの踊りを習いに行っていたようでした。今回録音したホセ・ブラガートの編曲にはピアノが入っているのですが、この版での録音はまだ少ないかもしれません」
「ベルリンという都市には、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を始めとして、優れたオーケストラがあり、また活発なオペラハウスも2つあります。音楽的な競争が激しい都市だと思います。ただ、ひとつの交響楽団を母体とする室内オーケストラは、このベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラだけなのです。そういう点で、このオーケストラはユニークな存在だと思います。また楽員の意欲もとても高く、自分たちでやりたいことをつねに持っているオーケストラで、それを発信して行くことに喜びを感じています。自主独立のオーケストラというのは運営も大変なのですが、これからも独自の活動を続けて行きたいですね」
ドイツではまだシーズン中なのだそうが、その合間を縫っての今回の来日公演。7月16日(木)の東京・武蔵野市民文化会館小ホールを皮切りに、横浜のフィリアホール、群馬の笠懸野文化ホール、福岡の宗像ユリックスホールを巡回する。プログラムには、弦楽アンサンブルの傑作チャイコフスキーの「弦楽セレナード」とドヴォルザークの「弦楽セレナード」をそれぞれメインに据えた2種類が用意されている。録音をお聴きいただけばわかるように、とても精度の高いアンサンブルであり、活き活きとした表現が魅力的。弦楽アンサンブルの魅力を再発見できるコンサートとなるだろう。