今年前半の全米の音楽シーンを席巻したのが、米カントリー音楽の拠点で知られるテネシー州ナッシュビル出身の男女混成3人組ユニット、レディ・アンテベラムだ。米で1月に発売された約2年ぶり2作目となるアルバム
『ニード・ユー・ナウ〜いま君を愛してる』は全米チャートで4週連続1位を記録し、100万枚以上を売った。その話題作が5月26日、ついに日本で発売された。ヴォーカル担当のチャールズ・ケリーは本作について「日本の音楽ファンに聴いてもらえるのは本当に嬉しい。みなさんの心にも必ず届く作品と自負しているよ」と誇らしげに語った。
ナッシュビルで2006年に結成。紅一点のヴォーカリスト、ヒラリー・スコットとケリー、そしてバック・ヴォーカル兼ピアノ/ギター担当のデイヴ・ヘイウッドの3人が聴かせる楽曲は、誰もが口ずさめる親しみやすさと端正なコーラス・ワーク、そしてスケールの大きさが魅力だが、米カントリー音楽の伝統を守りながらも、アレンジ面では現代のロック音楽寄りのモダンな感覚も随所に取り入れ、幅広い世代にアピールするサウンドに仕上げているのが特徴だ。
そんな3人はステージ上でも華のある存在。とりわけ、神秘的な美貌の持ち主、ヒラリーと、ワイルドな外見で優しい歌声を披露するケリーが互いに見つめ合いながら掛け合いで歌うパフォーマンスはドラマの一場面のようでもある。楽曲の素晴らしさに加え、こうした豪快で繊細なステージ・アクトが全米の音楽ファンに幅広く支持された。今年のグラミー賞では最優秀カントリー・パフォーマンス賞(ヴォーカル、デュオまたはグループ)に輝き、最新アルバムもミリオン・セラー。ちなみにアルバムの発売に先駆け2009年8月に発売された4枚目のシングル(本アルバムのタイトル曲)は330万ダウンロードを記録した。
チャールズ・ケリー(以下、同) 「本当に誇らしい気分だよ。結成から4年だけど、中学生の頃から歌手になりたくて、プロ契約の前は地元(ナッシュビル)のライヴ・ハウスなんかで頑張って……。つまり音楽に携わって以来の長年の夢がようやく叶ったという感じかな」
そんな大成功をもたらした本作だが、全13曲、すべてがシングル・カットできる質の高さ。
「作品を貫く大きなコンセプトのようなものはとくにないんだ。逆に、さまざまな要素(楽曲)を盛り込んであるよ。楽しくうきうきするような楽曲から辛い失恋が題材の楽曲まで、多彩だね。極めてベーシックな作風だと思うよ」
ここ数年、米では彼らのような新世代のカントリー音楽が一大ムーヴメントを築いている。ファッション・モデル顔負けの美貌の
シャナイア・トゥエインを筆頭に、
キース・アーバンやティム・マグロウ、グラミー賞を獲得した
テイラー・スウィフトらは古典的なカントリー音楽のイメージを覆しつつある。ロック/ポップス畑のミュージシャンも
ジョン・メイヤーのようにカントリー音楽の要素が濃い作品を発売している。
「本当にエキサイティングだと思うよ。米ではカントリー音楽は90年代から根強く支持されているけれど、最近さらに注目されているのはやはり、非常に基本に忠実な音楽ジャンルだからだと思うな。楽曲作りの面でも、音楽への誠実な接し方という意味でも……」
とはいえ、新世代は決してカントリー音楽だけにこだわらない。
「人生で最も大切なアルバム? 何と言っても
フリートウッド・マックの『噂』(77年)だな。あと2作? うーん、後は
ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(67年)。それからティム・マグロウのアルバムは大体好きだな」
こんな彼だけに、自分たちのサウンドがカントリー音楽に分類されることには抵抗があるようだ。
「カントリー音楽の楽曲作りの方法や要素を取り入れているのは確かだけど、だからと言って我々をカントリーのグループと呼ぶのはどうかと思うよ。たとえば
オールマン・ブラザーズ・バンドのようなサザン・ロックのバンドをカントリー・グループとは呼ばないよね?」
将来はハリウッド映画やTVドラマにもオファーがあれば出演したいという彼だが日本のファンにメッセージをくれた。
「遠い異国のみなさんが我々の音楽を聴いてくれることを感謝しているよ。日本のみなさんにも絶対アピールする作品だと確信している」
取材・文/アンジェラ・J.マッコール(2010年5月)
カントリーの枠を越え、世界中で大ヒット。その理由は?
ビッグ・イン・アメリカ(つまり“アメリカでしか流行らない”)の典型的音楽。カントリー・ミュージックがそういう解釈をくだされて久しい。カントリーがアメリカで猛威を振るう時代は90年代から存在した。事実、
ガース・ブルックスだって米国内のCD売り上げだけで見れば、
ニルヴァーナさえ大きく上回っている。しかし、そんなガースの時代でさえ、カントリーは世界的には浸透しなかった。だがついに、カントリーの前に立ちふさがっていた巨大な“壁”を突き動かそうとする存在が登場したのだ。それが男2人女1人による3人組、レディ・アンテベラム。
彼らの最新作『ニード・ユー・ナウ〜いま君を愛してる』は全米1位を記録したほか、現在全世界で大ヒット中である。彼らはいかにして、その偉業を可能にしたのか。“サウンドがモダンだから?”。いい線はついているが、それならば90年代のガースも同様で、彼もロックっぽいアプローチを当時からごく普通に取り入れていた。両者の間にある決定的な差、それは“どこにカントリーを感じさせるか”である。ガースの場合、音はたしかにロックっぽかったが、意匠となったのはそのヨーデル的な歌い回しやコッテコテのカウボーイ・ファッションであった。つまり、元がカントリーなものを、ロックで過剰包装したようなイメージだったのだ。
一方、レディ・アンテベラムが目指したのは、そうした表向きな“カントリーらしさ”ではなかった。彼らが奏でたのは、アメリカ人の心に昔から自然にスーッと響く音楽。それはフリートウッド・マック、
イーグルス、
ジャーニー、
ボン・ジョヴィと多様な匂いはたしかにするのであるが、これらのロック・アンセムの中には共通して、土埃を感じさせる、乾いた、かつ、温かみにあふれたフィーリングがしっかりと感じられる。そういう、どこかホッとする普遍的な味わいの中に、その昔の人々が当時のカントリー・ミュージックから感じていた“やすらぎ”なり“なつかしさ”を覚え、世界的なヒットにつながったのではないだろうか。それは奇しくも、シャナイア・トゥエインが
マドンナ風な出で立ちでカントリーをショウアップしたところで都会の女心まではつかめなかったところに対し、テイラー・スウィフトがカントリー独自のストーリー・テリングの手法をまるで女の子たちが寝る前につける日記のようなスタイルで、ごくごく当たり前に世に知らしめたのと同じように。つまり大事なのは、カントリーのステレオタイプを派手に装飾して伝えることでなく、カントリーがそもそも内に持っていた意味合い。それを今現在の時代に合わせて表現すること。それができたから、やっと世の中を動かすことができたのだ。だからレディ・アンテベラムを聴く時、ロックを聴く時と同じように、あなたは何も身構える必要がない。そこに自然や人間のぬくもりが感じられた時。その時こそ、あなたが“カントリー”を感じ得る時なのだ。
文/沢田太陽
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