美しいメロディ・ラインが引き立つ透明感のあるサウンドが魅力の
ラスト・デイズ・オブ・エイプリルが、前作
『マイト・アズ・ウェル・リブ』以来3年ぶりに、ニュー・アルバム
『Gooey』をリリース。自然豊かなスウェーデンの情景が浮かぶような、優しく心地よいポップネスはそのままに、ペダルスティール、オルガン、アナログシンセサイザーの導入で、より奥行きのある新たな世界観を表現している。今回、初のセルフ・プロデュースに挑戦した、中心人物のカール・ラーソン(vo、g)に話を聞いた。
――前作発表後の2008年初頭に初のベスト・アルバム
『ベスト・オブ・LDOA』が発売されました。自身の楽曲を振り返ることは、新作『Gooey』になにか影響を及ぼしましたか?
カール・ラーソン(以下、同)「過去の作品に引きずられたくないし、つねに新しい発見をしたいと思っているから、たぶんあまりなかったんじゃないかな。たとえば、デビュー・アルバム『Last Days Of April』はかなりハードな作品だし、けっこうスクリーム・ヴォーカルが入っているけど、さすがにあれはもうできない(笑)。17歳の自分には戻れないし、戻ろうとも思わないよ。31歳の今の僕にできることを最大限にやったからこそできたのが、新作なんじゃないかな」
(C)Henrik Walse
――こんな作品にしたいという、新作の具体的なアイディアはあったのでしょうか?
「これまでの作品よりいいものにしたいという思いしかなかったけど、今作は僕自身でプロデュースしたから、すごく責任が重たかった。大きなプロジェクトの舵取りをひとりでやらねばならず、パイロットにでもなった気分だったよ」
――最初は不安もあったのでは?
「曲作り、レコーディング、プロデュース、それにエンジニアリングまでしなきゃいけないわけだから、最初は大変だった。自信がある一方で、本当にこれでいいんだろうかと自分自身を疑ってしまう瞬間もあった。でも、最近また聴き直してみたところ、完璧に近いサウンドだったから、僕の方向性は間違っていなかったと思う(笑)」
(C)Johan Dahlro
――前作はギターがベースの比較的シンプルな作風でしたが、新作では60年代の古いシンセサイザーなどさまざまな楽器を駆使し、エクスペリメンタルな要素が増えていますね。
「演奏の仕方がわからないような楽器に挑戦するのは大好きだし、過去にもエクスペリメンタルな要素を少し作品へ取り入れたことがあったせいか、またやりたくなったんだ。2004年頃から一緒に仕事をしてきた友人のマーカスにいろいろ助けてもらったよ。彼は古いアナログのシンセサイザーをいろいろ持っているエキスパートで、前作でも2曲、彼にミックスに参加してもらった曲があるんだ」
――カール(ds)、フレドリック(p)など、おなじみのミュージシャンが参加している一方で、初参加となるアーティストも制作に関わっていますが?
「今回、ベースを主に弾いてくれたジョハンは、演奏の仕方がすごくおもしろくてね。偶然同じ時期にスタジオにいたから、いろいろ手伝ってもらったんだ。彼の演奏のおかげで自分が思っていなかった方向に曲が進んだりして、新体験ができた。ペダルスティールを演奏してくれたアンダースもすばらしいギタリストなんだ。今度ツアーに出るときは、ぜひ彼をバンドに加えたいと思っている」
――7曲目の「Why So Hasty?」の展開がすごくおもしろいですね。即興的なエレクトロサウンドで始まったかと思えば、温かいギター・ポップに変貌し、中盤以降、両者が歩み寄って融合するような感じで。
「クレイジーなシンセサイザーはすべてマーカスが演奏したんだけど、あのおかしなイントロは僕のせい(笑)。曲が終わったあともマーカスが即興的に演奏を続けたことがあり、テープを止めていなかったから、その部分もすべて録音されていたんだ。あとで聴き直したらすごくおもしろくて、その部分を曲の冒頭に使うことにした。マーカスにはまだ伝えてないから、この曲を聴いたら驚くんじゃないかな(笑)」
(C)Johan Dahlro
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レモンヘッズのエヴァン・ダンドがゲスト・ヴォーカルで参加していますね。
「以前に一緒にツアーして以来の仲なんだけど、エヴァンと作品でもコラボできたら楽しいだろうなと思い、〈All The Same〉の音源をメールしたんだ。そしたらこの曲をすごく気に入ってくれて、レコーディングのためにストックホルムのスタジオにまで来てくれた。今では、自身のライヴでこの曲をプレイしているんだって。すごく光栄なことだよね」
取材・文/権田アスカ(2010年11月)