リトル・クリーチャーズ   2010/12/22掲載
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 4週連続でお届けしているリトル・クリーチャーズの20周年ヒストリー企画『The Story Of Little Creatures』。最終回となる今回は、2000年以降から現在に至るリトル・クリーチャーズの歴史をメンバー3人に振り返ってもらうことに。2011年1月19日にはコーネリアスUAハナレグミくるりクラムボンtoeなど、錚々たる顔ぶれが参加したカヴァー・アルバム『Re:TTILE CREATURES』も完成。彼らを魅了してやまない、リトル・クリーチャーズならではの時代性に左右されないオリジナリティ溢れるサウンドの源泉に迫ります。


新宿リキッドルームでのライヴ(99年)


――4週連続インタビューの最終回は、2000年以降から現在に至るリトル・クリーチャーズの歴史を掘り下げていきたいと思います。まず最初に登場したのはゴールディによるドラムンベースの名曲「Inner City Life」のカヴァーを含む2000年11月のミニ・アルバム『Chordiary』と2001年3月リリースの4thフル・アルバム『Future Shocking Pink』です。

『Future Shocking Pink』(01年)

『Chordiary』(00年)

 青柳 「ハードディスク・レコーディング時代の到来ですね」
 栗原 「『Chordiary』と『Future Shocking Pink』は編集が作曲に含まれていたし、作業は終わりなく続いちゃってたよね」
 鈴木 「うん、ホント、きりがなかった(笑)。作業は曲を作った人がメインになって進めていったんですけど、このレコーディングに関してはちゃちゃっと演奏して、あとは延々とパソコンをいじってたっていう記憶しかないですからね(笑)」
 青柳 「もういいっていうくらいね(笑)」
『Future Shocking Pink』PV撮影時のひとこま(01年)
 栗原 「俺らはまだいいよ。青柳が作業してる間、俺と正人は『三国志』を読んだりしてて、それが終わると俺が作業を始めて、あとの2人が休む。それが終わると今度は正人が作業を始めて……つまり、エンジニアの関口(正樹)くんは3人の作業に延々と付き合わされた挙げ句、腱鞘炎ですよ(笑)」
 鈴木 「逆にいうと、際限なく編集ができるなら、これくらい作り込まないと奥行きがある作品はできない気がしましたね」
――リズムのループを組んで、その上に編集した楽器のフレーズを重ねていくレコーディングは、極端に言えば、楽器のスキルが必要じゃなかったりしますからね。
 鈴木 「そう、だから、緻密にやっていくしかないんですよ」
『The Apex』(01年)
――ハードディスク・レコーディングは今の制作現場において、主流になっているわけですが、2001年の時点でリトル・クリーチャーズはその作業を極限まで突き詰めることによって、"ミュージシャンとは?"という究極的な命題に辿り着いたわけですね。
 栗原 「この作品はライヴで再現するのがとにかく大変でしたしね。だから、同じ年の9月に『The Apex』っていうライヴ盤を出すんですけど、スタジオ・ライヴをやるような気構えで、内容的には『Future Shocking Pink』の別ヴァージョンみたいな感じになりましたし、『Future Shocking Pink』の反動で『Night People』ができた」
 青柳 「そう。編集し尽くした末に、“今度は8トラックで録音しよう”ってことになったんですよね」
『Night People』発表時のアーティスト写真(05年)
――無制限に音を入れることができた『Future Shocking Pink』から2005年の『Night People』では8トラックのレコーディングに移行しつつ、この作品ではベーシストの正人さんがベースを弾いていませんよね?
 栗原 「1曲も弾いてないでしょ(笑)」
 鈴木 「その傾向はちょっと前からあったんですけどね」
『Night People』(05年)
 栗原 「『Night People』は制作時に制約を設けて、青柳はガット・ギターだけ、正人はベースを弾かないでフェンダー・ローズと鍵盤のベースだけ、俺は1曲を除いてドラム・スティックを捨てて、ブラシとか竹ひごスティックだけっていうアプローチからアイディアを出していったっていう」
 青柳 「だから、『Future Shocking Pink』から真逆に振り切りましたよね」
 栗原 「それに鍵盤ベースでのトリオって珍しい編成だから、それが面白いんじゃない?って」
 青柳 「あと、メンバーと楽器の関係が深くなってきたので、バンド初期にできなかったことができるんじゃないか?と思ったんですよね。だから、このアルバムでは、少ない楽器でひとつひとつの音をちゃんと鳴らそうってことになったんだと思います」



『15周年祭』@池上本門寺(2005年)

スウェーデン公演(2005年)




『Love Trio』(10年)
――エレクトリック・ピアノを使っていることもあって、エレクトリック・マイルスやリターン・トゥ・フォーエバーのような初期のフュージョンを彷彿とさせる『Night People』に対して、今回リリースされたニュー・アルバム『Love Trio』は一転してロックな質感の作品ですよね。
 栗原 「それもまた、ある種の反動なんですけど(笑)、『Night People』のように細かいところに神経を集中せず、がっつり演奏したのが『Love Trio』なんですよ」
 青柳 「あ、そうそう。今思い出したんですけど、『Night People』と『Love Trio』の間にぽつぽつライヴをやってたんですけど、ものすごいロックな時期があって。3段積みのマーシャル・アンプがそれぞれの後ろにあって、ギター、ベース、ドラムっていう編成だったんです」
『Springfields』@日比谷野外大音楽堂(2009年)
 栗原 「ロックンロールというか、ガレージ・パンクみたいな感じだったよね」
 鈴木 「エマーソン北村さんとか“あの感じがかなりいい!”って言ってくれてた人はいたんだけど、少数派だったよね(笑)」
 栗原 「しかも、正人は6弦のベースというか、(通常のギターより低い音域が特徴の)バリトン・ギターを使ってたもんね」
 青柳 「そういう時期を経て、ロックな気分を残しつつ、今度はシンセってやつを使ってみよう、と(笑)。イメージとしては60年代、70年代から80年代に飛んだ感じというか」
――じゃあ、今回のアルバムのロックな質感はその頃の名残なんですね。
 青柳 「ある種、ロッカーが大人になったみたいな感じというか(笑)」
――しかも、今回のアルバムで正人さんのクレジットはベースよりもキーボードの方が先に記載されていますよね。
 鈴木 「そうですよね。最近に至っては、そういうことがどうでもよくなっていて。作品が完成した時点で振り返ってみて始めて、弦のベースは2曲しか弾いてないことに気付いたっていう。だから、まぁ、曲に合っていれば、何でもいいんですよ」
最新アルバム『Love Trio』のアーティスト写真
(10年)
――そして、グレイトフル・デッド『ゴー・トゥ・ヘヴン』のジャケットをパロディ化したようなアーティスト写真やミュージック・ビデオしかり、アート・ワークしかり、今回のヴィジュアルはかつてない軽やかさや抜けがありますよね。20周年を迎えて、リトル・クリーチャーズはどうしちゃったんですか?(笑)
 栗原 「はははは。ミュージック・ビデオはちょっと前からおかしくなってきてはいたんですけど、今回は本気でふざけたもんね」
最新アーティスト写真の元ネタ、
グレイトフル・デッドの『ゴー・トゥ・ヘヴン』
 青柳 「知らない人はこういうバンドだと思うだろうし(笑)。打ち合わせでは、2枚目路線をことごとく排除しつつ、排除してる感じが出てるのもイヤだったんですよ。だから、最終的にアート・ワークは、(ヘヴィ・メタル・バンド)ホワイトスネイクのストーリー仕立てになったミュージック・ビデオで、何故かロン毛の3人がステージ上でシンセを弾いてる無駄な挿入画が5秒くらいあるんですけど、そのシーンに触発されたものになったという」
――では、今回のアート・ワークというのは、ロック感とシンセを象徴するものになっているわけですね。さらにこのアルバムは、ロックであると同時にメロディを突き詰めた作品でもあるように思いました。
 栗原 「そうですね。今回は完全に歌ものになっているもんね。あと、トリオ編成というのは、今のリトル・クリーチャーズの重要な要素ですよね」
 青柳 「それこそ『Little Creatures Meets Future Aliens』ではクラブ・ミュージックの影響を受けて、ちょっとしか歌わなかったり、『Future Shocking Pink』ではあまり演奏せずに作り込んでみたり、いろんなことを試した結果、シンプルなバンド・サウンド、歌が前にいるスタンダードな形に辿り着いたんですよ。そういうフォーマットであっても、新しいことができるんじゃないか?っていう思いが今回のレコーディングにはあったんです」
 鈴木 「自分だけでアレンジをしたら、自分の思い通りにやるだけなんですけど、この3人でやるとなったら、プレイやアイディアはそこまで作り込まなくても大丈夫なんですよ。それができてしまうリトル・クリーチャーズはやっぱり特別なんだなって。しかも、できあがったものがつまらなかったらしょうがないんですけど、絶対そうはならないんですよ。しかも、今回はオーソドックスに作ったつもりなのに、できあがってみたら、そんなことはなかった」
――今回のアルバムは、多様性を経たシンプリシティ、シンプルでありつつも豊かな響きをもった作品だと思います。
 青柳 「そうですね。少ない楽器、少ないフレーズの中にいろんなものがこもってる感じがしますよね。洒落で弾いてるライン、心を込めて弾いたフレーズ、いろんな時代の雰囲気……そういうものが自分たちでも感じられるんです」
ベスト・アルバム『オメガ・ヒッツ!!!』(10年)
――そんなリトル・クリーチャーズの20年を4週に渡って振り返ってきたわけですけど、この20年というのは、音楽産業が拡大しきった後、縮小へ向かった激動の時期ですよね。そうした状況の変化も含めて、お三方はどのように思いますか?
 鈴木 「しかし、20年やってきて、ヒット曲がないっていうのはね……」
 青柳 「それがセールス・ポイントというか(笑)。ヒットがなくても20年やれるぞ!っていう。かなり、皆様のおかげでっていう感じなんですけど(笑)。今回、MIDI時代のベスト・アルバム『オメガ・ヒッツ!!!』のマスタリング作業で過去の曲を聴き返してみて、その時期ごとに必死でやってたことを改めて気付かされましたね。今回のレコーディングにしたって、楽なことはまったくなかったですし、自分たちの中でも余裕でできてしまうものはつまらないんでしょうね」
 栗原 「毎回、レコーディングのときは修行みたいものだし」
 青柳 「今だったらできることも昔はできるかできないかのギリギリのところでやっていたし、その先に新しい世界や音楽の形があることを分かっているというか。だから、続けることができたんでしょうね」
――そして、もう一点。音楽シーンの変遷とリトル・クリーチャーズの変化は無関係ではないものの、3人がその時代のトレンドと一定の距離を置き続けた結果、時代性ということで片付けられないリトル・クリーチャーズのオリジナリティが長い時を経て、より明確に伝わってくるように思います。
 青柳 「そういう時代の流れは、横目で見ていた感じがするんですよね。自分たちの横を暴走列車が走っていくのを見送りつつ、自分たちは自分たちのペースで歩きながら、やれることをやってる感じ。その電車の存在自体は知ってるんだけど、その電車に乗る気はなかったんですよね」
 鈴木 「速すぎて乗れなかったってこともあるかもしれないけど(笑)」
 青柳 「幸か不幸か、売れた時に付いたバンドのイメージに葛藤するような経験は一切なかったし、こうあるべしっていう理想像が自分たちの中にすらなかったですから」
 鈴木 「そういう身軽さはあるよね。音楽性にしても、ひとつの道を追求していくようなバンドでもないし。まぁ、一生に一回くらいは葛藤してみたいなとも思うけど(笑)」
カヴァー・アルバム『Re:TTLE CREATURES』
(11年)
――そして、1月にはリトル・クリーチャーズの楽曲を他アーティストにカヴァーしてもらったアルバム『Re:TTLE CREATURES』もリリースされるわけですが、それこそ高校の先輩であるコーネリアスからUA、ハナレグミ、くるり、クラムボン、toeなど、全10アーティストが参加しています。
 青柳 「小山田先輩がホントいい先輩で、一番最初に仕上げてくれたんですよね(笑)」
 鈴木 「しかし、カヴァーしてもらうのが、こんなに面白いとは思わなかったですね」
 青柳 「参加してもらったアーティストの中には好きで聴いててくれた人が多くて、そういうのも嬉しかったですし。そういう手応えがこのアルバムからは感じられたんですよ」
――リトル・クリーチャーズという名前はトーキング・ヘッズの同名アルバムから取られたと思うんですけど、その手応えも含め、小さな生き物を意味するこのバンドはお三方にとってはどんな存在なんでしょうか?
 青柳 「いろんな意味で笑えるバンドですかね(笑)。音を出しながら笑えるし、ジャケットやミュージック・ビデオの撮影で遊んだりとかね」
 栗原 「そう、音で遊べるバンドだよね」
 青柳 「あと、この3人のコミュニケーションの取りやすさ、時代ごとに"あり / なし"の基準は変わっていくにしても、そのズレは少ないまま、同じように年を取っていってる感じもあったりするし」
――奇しくも、イカ天でPANTAさんはローリング・ストーンズを引き合いに出して、リトル・クリーチャーズを絶賛していましたが、ローリング・ストーンズとは別ものであっても、メンバーがバンドをライフワークと捉えている点では近いものがあるような。
 鈴木 「20年以上付き合っているのに、それでもやるたびに新しさを感じられるっていう経験は他にはないかもしれないですね」
 栗原 「青柳は沖縄に引っ越しちゃったし、正人の今の家には一回も行ったことがないとか、普段はまったく会わないし、生活も謎だったりするから、たまに集まってはその間のことを音でやりとりしているような(笑)」
 鈴木 「だから、ちょっと遠くに住んでる親戚みたいな感じですよね」
 栗原 「そうだよね。自分の人生を考えたとき、出会う前より出会ってからの時間の方が長いんだもんね」
 鈴木 「この先、葛藤はあるのかなぁ(笑)」
取材・文/小野田雄(2000年11月)




LITTLE CREATURES presents<Re:TTLE CREATURES>
●日時:2011年2月24日(木)
●会場:恵比寿リキッドルーム
●開場 / 開演 18:00 / 19:00
●出演:LITTLE CREATURES、toe ...and more
●料金:¥3,900【サンキュー!!】(前売/ドリンク別)
【チケット取扱】
チケットぴあ 0570-02-9999/Pコード:126-990
ローソンチケット 0570-08-4003/Lコード:78504
イープラス
岩盤 03-3477-5701
※チケット一般発売日:2011年1月15日(土)
※お問い合わせ:SMASH 03-3444-6751

【チケット先行予約情報】
受付期間:2011年1月6日(木)12:00〜1月10日(月)18:00 (抽選制)
受付URLはこちら

■リトル・クリーチャーズ オフィシャル・サイト
http://www.tone.jp/artists/littlecreatures/


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