いつまでも同じことやってんじゃねえ。新しい世代がすぐそこまで来てるぞ――MACKA-CHIN『MARIRIN CAFE BLUE』

MACKA-CHIN   2016/10/21掲載
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 今年7月に行なわれた〈さんピンCAMP20〉で復活を果たしたヒップホップ・グループ、NITRO MICROPHONE UNDERGROUND。その中心人物であるビートメイカーであり、ラッパーでもあるMACKA-CHINが2014年のアンビエント・アルバム『静かな月と夜』から約2年ぶりとなる新作ソロ・アルバム『MARIRIN CAFÉ BLUE』をリリースした。全国各地から架空のカフェに集った呂布カルマN.E.NTOKYO HEALTH CLUB、ガールズラップユニット、Y.I.MのMC恋してる、RAP BRAINSのHAZYら、“アスファルト原人”と称される新世代のアーティストたち。彼らにビートを提供し、マイクを握ったMACKA-CHINがヒップホップの枠組みにとらわれず、表現した独自の音楽世界の全貌とは果たして?
――今回のアルバム『MARIRIN CAFÉ BLUE』は2001年のソロファースト作『CHIN-ATTACK』に収録されている「MARIRIN CAFE」とタイトルが共通していますが、そこにはどんなコンセプトがあるんでしょうか?
 「今回のアルバムは、自分がトラックを作って、色んな人に歌ってもらうスタイルの作品なんですけど、そういう体裁のアルバムを作ったことがなかったんですね。そして、自分の作品は、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDとはセパレートで考えていて、NITROが王道なヒップホップ、アメリカ的なヒップホップを体現出来ているので、ソロでは好き勝手に、自由気ままにやらせてもらっています。さらに自分はクラブで音楽を知って、クラブで音楽を独学で学んできたので、音楽のセオリーが全く分からないまま、ヒップホップ黄金期に育まれたサンプリングの感覚や手法によって、自分の音楽をざっくり20年くらい表現してきた。そして、振り返った時、自分も過去にフックアップされたり、影響を受けたアーティストがいるし、一方で自分が40代を迎えて、俺が、俺がっていうテンションでもなくて。そこで、若い子とアルバムを作ってみよう、と思い立って、メロディや歌詞を担当した参加ラッパーやシンガーを主役、自分を架空のDJバーやカフェのマスターに設定して、“君ならこのトラックが合うんじゃないの”って提案するという変化球なコンセプトで作品をまとめることにしたんです」
――サンプル・オリエンテッドなヒップホップを土台にしつつ、ハウスやテクノなど、様々な音楽の影響を感じさせる作風という点で、MACKA-CHINさんの作風は『CHIN-ATTACK』の頃から一貫していますよね。
 「僕が洋楽と出会った80年代のチャートはほとんどロックが占めていたし、自分は背伸びして、ディスコに通っていた最後の世代でもあって、当時のディスコ、クラブカルチャーは今のように細分化してなくて、色んなジャンルの音楽がかかっていたんですよね。で、もっと言えば、レコードを買うために通っていた今なき渋谷のCISCOレコードもワンフロアでヒップホップ、R&B、ハウス、テクノ、旧譜を全部扱っていたし、サンプリング主体でトラックを作るようになると、必然的に雑食になるし、人前に立つ以上、色んなことを知ってなきゃって思う自分もいたし、NITROっていうヒップヒップの印籠を持ったことで、あれもやりたい、これもやりたいって感じで、色んなことを吸収したり、トライするようになって、今となってはヒップホップをやってるのに、ヒップホップはほとんど聴かないし、かけてないっていう。自分のなかで、“ヒップホップとはこういうものだ”と頑なに考えているわけではないんですけど、僕が夢中になった20年前のヒップホップと比べると、今は商業的になりすぎてて、ヒップホップがみんなのイメージやルールで狭められてしまって、いつからか、聴いていても、楽しくなくなってしまったんですよね」
――大局的に、日本のヒップホップは、USのトレンドを踏襲した目先だけの新しさの追求がずっと続いていて、本当にそれが新しいのかどうか。古今東西の音楽が聴けるようになった今、トレンドからはみ出した独自な音楽がこのアルバムでは提案されていると思います。
 「そう。みんな、声も顔も違うように、作る音楽も独自であるべきだと思うし、もっと自由にやったらいいと思うんですよ。でも、ネットで集団リンチをするような日本人の傾向であったり、ヒップホップの誕生から時が経てば経つほど、蓄積された歴史や知識、ルールがみんなの音楽観を狭めてしまっている気がするし、自分自身、ヒップホップの人っていう言われ方や見られ方が居心地悪く感じることがあるんです。初期衝動を大切にしている自分の音楽は、トレンドや特定のジャンルに寄せるつもりが全くなくて、“なんか変なことやってますね”って言われるのが一番のエネルギーだったりするし、常に挑戦、冒険を意識して、変なものが出来た時は途中で止めずにそのまま押し進めるし、きれいにまとまりかけたら、振り切るように意識しているんですよ。そうやって、自分のタイムラインで作っている音楽が人のタイムラインに合うかどうかは分からないし、シングル曲も自分の希望とレコード会社の希望が合わなかったり、作るのは出来ても売るのは苦手なので、その辺は周りに委ねつつ、そうやってナチュラルに生まれてきたものの方がシンクロした時の度合いは高いと思いますね」
――ただ、近年のヒップホップは形骸化しつつある一方で、形にとらわれず、ヒップホップの自由を謳歌している若手も増えてきていて、今回のゲストはそういうアーティストたちですよね。
 「ホントそうなんですよね。NITROでは自分が年上ということもあって、リーダーとして見られていたりもするんですけど、自分は最初からハウスだったり、レゲエだったり、好きに作ったトラックにラップが乗れば、ヒップホップだぜっていうことをやってきて、友達は多いのに、音楽的には孤独を感じることが多かったんですね。でも、ここ5年くらいかな。今回のアルバムに参加してくれた自分の10個下、30歳前後くらいの子たちが、“USヒップホップ全盛の時代にドラムが入ってない曲でラップしてたり、ラップの内容も狂ってたMACKA-CHINさんに影響を受けて、いま僕たちはこんなことやってるんです”って言ってくれて。そういう新世代の才能をこのアルバムでは“ASPHALT GENJIN”(アスファルト原人)って呼んでいるんですけど、そういう子たちとは、自分を呼んでくれた地方のクラブで知り合ったんですけど、彼らはテクノのトラックでラップしてたり、とにかくスゴくて(笑)。それこそ、自分が最初にヒップホップと出会った時に感じた初期衝動と同じものを感じるし、それぞれが孤独を感じていた自分と彼らがつながって、孤独の会みたいな、そういう太いネットワークがなってきているんですよね」
――例えば、呂布カルマなんかはラップが超絶的に上手いけど、格好はオールバックにスカジャンっていうラッパーらしからぬスタイルだったりしますし。
 「彼がフリースタイルのバトルに強いのはよく知っているんですけど、フローやライミングと同じように彼の柔軟な考え方が好きだったので、〈ODD RARE HALL〉では彼にはヒップホップのビートを当てるんじゃなく、4つ打ちで歌わせようと思ったんですよ。それから〈男と女の純喫茶〉に参加してもらったHAZYは、普段、RAP BRAINSっていうグループで、ジュークのようなビートでラップしている子なんですけど、敢えて、生音っぽいトラックで歌ってもらったり、そうやって合いそうなビートを提供したのがこのアルバムなんですよ」
――呂布カルマが参加した「ODD RARE HALL」も単に4つ打ちということではなく、長尺のトラックでじわじわとハメていくアプローチがまさにダンスミュージック的ですもんね。
 「ジェイ・ディラを崇拝した彼にそっくりなトラックメイカーがまだまだ沢山いる今という時代にあって、俺の場合、MUROくんやTwiGyにも“曲が長い。イントロも超長いし、アウトロもなかなか終わらない”って、よく言われるんですよね(笑)。ヒップホップは瞬発力が大事だと教わってきて、ハウス・オブ・ペイン〈Jump Around〉じゃないけど、ドンって鳴った瞬間に“来たー!”って感じのトラックが求められているなか、ここ最近は特にジャズ、アフロビートやミニマル・ミュージックの影響を受けた8分とか、そういう長尺のトラックを作るのが好きだったりするんですよ」
――アルバムでは、三味線とかディジュリドゥの音を使ったり、トライバルな、ワールドミュージックもお好きなんですか?
 「そうですね。カリンバや三味線、ディジュリドゥの音色を使ったり、日本だと大石 始さんの本『ニッポン大音頭時代』じゃないけど、そういう日本人の奥底に眠ってるルーツミュージックやリズム感にもすごく惹かれるし、DJ KRUSHさんじゃないけど、USやヨーロッパの物真似じゃない日本の音楽をレペゼンしたいとも思っているんですよね」
――「ASPHALT GENJIN」は、アフロミュージックのトライバル感を土台に、ビートアプローチは独自なものになっていますよね。
 「自分のなかで、イメージしていたのはデスメタルなんですよ。この曲をLUNCH TIME SPEAXGOCCIくんに聴かせたら、彼は“これはモロにジャズだね”って言ってくれて、すごいなって思いましたね。この曲は“いつまでも同じことやってんじゃねえぞ。新しい世代がすぐそこまで来てるぞ”っていう、現状に対する危機感と新世代による逆襲について表現したくて、自分でもデスヴォイスでラップしてみたり、ミックスをやってくれたエンジニアにはこんな感じにしてくれって、メタリカとかアンダーワールドを渡して、余計悩ませたり(笑)。声ってことでいえば、〈理屈じゃなくて感じるsympathy〉にフィーチャーしたY.I.MのMC恋してるも普段は可愛い声でラップしているんですけど、ふざけた感じでラップしている曲の存在を知って、そのふざけたモードで敢えて歌ってもらったり」
――音楽で遊んでいるんですね。
 「そう。ラップ、トラックを含め、自分は完全に遊びで音楽をやっているし、そこには自分はラッパーだから、NITROだからっていう発想は微塵もないんですよね。そういう音楽が出来るのも、自分がトラックメイクとラップを両方やっているからということも大きいと思うし、iTunesが誕生してから10年以上経って、色んな音楽を聴くのが当たり前になっていることも影響していると思いますよ。どんなハードコア・ラッパーでも抜き打ちでiTunesライブラリーのチェックをすれば、ヒップホップ以外の音楽も絶対聴いているはずなんですよ。“俺はヒップホップしか聴かねえぜ”って言えたら格好いいけど、それぞれにルーツや背景があるし、俺はファーストアルバムから一貫して、その部分を隠さず表現してきたけど、いよいよ、ハイブリッドな音楽性こそがスタンダードになってきて、今の時代はジャンルレス、ノーボーダーなスタンスこそがぴったりハマるし、面白くない?って。このアルバムではそういう新たな提案にもなったらいいですね」
取材・文 / 小野田 雄(2016年9月)
MACKA-CHIN presents ASPHALT GENJIN
www.facebook.com/events/946799158763490/
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2016年10月28日(金)
東京 新木場 ageHa(BOXエリア)
www.ageha.com/
開場 22:00
当日 4,000円 / 全身仮装 3,000円

[出演]
LIVE: TOKYO HEALTH CLUB / DALLJUB STEP CLUB / RAP BRAINS / Y.I.M. / N.E.N / underslowjams + DJ soma / バンヤローズ / HAVE A NICE DAY!
DJ: J.A.K.A.M.(NXS / CROSSPOINT) / B.D. a.k.a. KILLA TURNER / DJ D.A.I.
LIVE PAINT: 書道家 万美 / TADASAYAKA
VJ: NOBUNAGA

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