maco marets 気鋭のラッパーが語る、ひとくぎりの3枚目『Circles』までの道のり

maco marets   2020/01/15掲載
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 maco marets(マコ・マレッツ)は1995年福岡県生まれのヒップホップ・アーティスト。大学進学とともに上京し、2016年6月にアルバム『Orang.Pendek』で金沢のRallye Labelからデビュー、“オシャレ”“メロウ”“チル”などと評される音楽性で話題を集めた。その後、自主レーベル“Woodlands Circle”を設立し、2年後の2018年11月に2作目『KINŌ』、さらに1年後の2019年12月には3作目『Circles』をリリースしている。
 中目黒solfaを拠点に、パーティ“Woodlands Circle Club”を不定期で主催してもいるが、ラッパー、シンガー、ミュージシャン、DJ、写真家などなど、出演者は多岐にわたる。そのメンツを見ても、只者ではない美意識の持ち主であることはあきらかだ。
 彼にとって、あらたまった形でのインタビューは初めてとのこと。心強い味方として、ファースト以来ずっとトラックメーカー/プロデューサーを務めている東里起(Small Circle Of Friends / STUDIO75)にも同席してもらい、最新作『Circles』の内容はもちろん、これまでのことについても話を聞いた。
New Album
maco marets
『Circles』

WLCCD-002
東さんはラスボスみたいな存在
――ラップに触れたのは中学生のときだそうですね。
maco「はい。たまたま友だちのお兄ちゃんにラッパーがいて、自分たちもやってみようっていう話になって、3年生ぐらいのときに曲を作り始めました」
――当時は今よりも“ワルい”スタイルだったとか。
maco「当時の印象ですが、福岡では地元のストリートに根ざした、クラシカルなヒップホップのスタイルが主流で。福岡でラップやるならこういうスタイルなのかなと思って、最初はトラックもラップもわりとそういう方向でした」
――そこから現在のスタイルに移行したきっかけは?
maco「大学進学で上京したとき、地元の仲間が誰も一緒に来なかったんです。ひとりで東京でラップをやることになって、“このスタイルでやるのか?”と一回考えるタイミングがありまして」
――その際に参考にしたり影響を受けたラッパーはいますか?
maco「5lackさんですかね。当時、福岡にいらっしゃって、僕が初めてライヴをやったときにたまたま見てくださったりとかのご縁もあって、ずっと好きで聴いていました。あと、ちょっとスタイルは違いますけど、環ROYさんもずっと好きです。ソロで独自のスタイルとポジションをキープして、アンダーグラウンド的な存在でありつつオーバーグラウンドでも活躍されてるお二人ですね」
――上京してから『Orang.Pendek』をリリースするまでの3年間はどんな活動を?
maco「最初はありもののビートに乗っけたりとか、自分でも少し作ったりしてました。パーティによく遊びに行っていたので、あっちこっちの小さなクラブで15分くらいのライヴをやらせてもらうみたいな日々ですね」
東里起
東里起
――東さんとの出会いは?
「彼が音楽をしてることを知る前から知り合いだったんですよ。東京で最初にやったライヴも見に行ったりしました。あとイベントとかパーティをよく主催してて、そういうことも好きなんだなっていうイメージがありました。で、あるとき相談されたんですけど、“アルバムを作りたい”だったっけ、それとも“曲を作りたい”だったっけ?」
maco「アルバムだった気がします。最初は“全曲プロデュースお願いします”ではなくて、たしか“数曲トラック提供お願いできませんか?”っていう言い方でした。で、やっていくうちにフルでやってみようと」
「ただ、最初は作ってどうするかっていうアイディアはなかったんですよ。とりあえず一曲一曲形にしていこう、みたいなところからのスタートでした。出来上がったらみんなに聴いてもらって、リリースできたらと」
maco「それで、前から好きだったRallye Labelに試しに送ってみたら、“すぐやりましょう”って言ってもらえたんです」
――東さんは福岡の若手ミュージシャンにとって頼れる先輩というかお兄さん的な存在なのかなと思ったことがあるんですが、どうなんでしょう?
「どうなんでしょう(笑)。お兄さんというより友だちです。maco maretsが少なからず、Small Circle Of Friends(以下、SCOF)とかSTUDIO75を気に入ってくれてたっていう」
maco「いちばん聴いてました」
「だから、いろんな点でよかったんじゃないですか。初めてまとまった作品を作ることにして、どうしようと思ったときに、ちょうどそばにいたから」
――macoさんは東さんの音楽のどういうところが好きでしたか?
maco「地元のゴリッとしたラップから始まった者からすると新鮮だったんです。僕も性格自体がオラついてるわけではなかったので(笑)、フィットするのはSCOFや環ROYさんみたいに、やわらかい言葉の使い方をするラップのほうだったっていうのもありますし、トラックも洗練されていながらもしっかりヒップホップというか、ブラック・ミュージック的なかっこよさもすごく感じる。とにかくいろんな面でいちばんかっこいいなって思える音楽がSCOFでした。いまでも僕のなかのかっこいい音楽のひとつの指標になってます。一回SNSに書いたんですけど、ラスボスみたいな存在なので(笑)、ご一緒するのは自分のルーツと対峙するような感覚があります」
「僕もうれしくて、“じゃあやってみよう”っていう感じでやり始めました。結果的にアルバムという形になりましたけど、じつはそのときも、彼の個性や特徴はよくわかってなかったんです。だから聴いた人の反応までは想像がつかなかったんですけど、いざリリースされたらいろんなところからの好評が耳に入って、“あ、そうなんだ……これ、いいんだ”みたいな(笑)」
――かなり手探りだったんですね。
「で、2枚目の『KINŌ』を作りながら、どういう部分がみんなに好きって言われてるのかが、だんだんわかってきたという」
maco「僕もファーストのときは東さんに近い感覚でした。最初はとにかくいただいたトラックから選んで作っていって、とりあえず10曲になったね、っていう感じだったので、アルバムとして“こういうコンセプトで、こういう人に聴いてもらいたいです”みたいな話もあんまりできなかったんです。自主リリースくらいのつもりでしたし」
――聴いた人たちの感想を耳にしながら、徐々にイメージを固めていった感じですね。
maco「僕的には2枚目もまだちょっとブレがあったと思います。2曲シングルとして先に出してて、じつはわりと長い期間で作った曲が並んでるアルバムなんですよね。2枚目も東さんとご一緒できるということも最初は思ってなかったので、ファーストの後すぐに、別のトラックメーカーの方たちと作ったEP(『Waterslide:2』2016年10月)を限定でリリースしたんです。デビューはできたけど、この先のことはまだ模索してました。そのなかで“また1曲お願いしてもいいですか?”くらいの感じで〈Hum!〉(2016年12月)と、翌年の夏ぐらいに〈Summerluck〉(2017年8月)を東さんと作らせていただいたんですけど、そのころには“次のアルバムは東さんと作るのがいちばんいいのかな”って僕のなかでは固まってきて、あらためてお願いしたと」
「そうでしたね。2017年の秋ごろ」
maco「それで中身は2018年の春にはできたんですけど、どこからどうリリースするかってところでけっこう時間がかかって。結局、2018年11月に自分のレーベルから出すことになりました」
『Circles』は迷わず、あっという間にできた
――それから『Circles』まで約1年。今度は順調でしたね。
「“2019年も出したい”とは聞いてたんですけど、3月ぐらいになってまだ動いてなかったので、そろそろやらないと間に合わないな、と思って」
maco「4月ぐらいからでしたよね、作り始めたの」
「今日ここに来る前にフォルダを見たら、99個ビートを送ってました。あと前に渡してたなかからも選んだよね。〈D.O.L.O.R.〉は〈Summerluck〉とかと同じフォルダに入ってたし。〈Wash〉はどこで見つけたんだったっけ?」
maco「あれも以前送ってくださったビートのフォルダに入ってました」
「そんな感じでダダダダーッとデモが送られてきて」
maco「はい。どんどん送りつけました(笑)」
「4〜5月には8曲ぐらい本人的には固まってて、あと2曲は後から送ったやつから決めて、すぐにレコーディングに入ったから、3枚目は本当にあっという間にできちゃったんですよ」
maco「早かったですね。さっきセカンドのときはまだ迷いがあったって言いましたけど、あれを出したころに自分のなかで“こういうことかな”ってひとつつかめた感覚があって、3枚目はあんまり迷わなかったです。やりたいことが明確だったので、トラックを選ぶときもリリックやメロディを書くときも時間がかからなかったっていうか、スルスルっといけちゃった感じがあります」
――“こういうことかな”というのはどういうことだったんですか?
「maco maretsの僕が思う特徴っていうのが、アルバム3枚でだんだんと作られてきたイメージがあるんです。語り口は柔らかいけど、リズム感がめちゃくちゃいいんですよ。ずっと柔らかい感じで、撫でられるように聴けるんだけど、それでも飽きないのは、リズムの取り方のヴァリエーションが豊かで、そこがみんな好きなんだろうなって。“ゆるくていい”とか“チル”とか言われてるのは、たぶんそういうことなんだろうなと思うんです。じつはすごく情報量が多くて、一辺倒じゃないんですよね」
maco「僕自身としては、はやりのトラックやラップのスタイルは、自分のやってるものとは違うなって思うんです。同世代のラッパーを見ていると、もっとポップスに寄せてたり、USの現行のスタイルに寄せてたりする子たちが多いなと。実際によく聴かれてるのはそういう人たちなので、自分もそういう要素をもっと入れなきゃ、と思ってた時期もありました。でも、2枚目を出した後に1年かけてMVを全曲作って公開したんですけど、その反応を見ながら、僕のスタイルが好きだって言ってくれる人がいることがわかって、これでいいんだと思えたんです。3枚目でガラッと変えることもできたと思うんですけど、わりとセカンドから地続きにしたのは、派手さのないこのスタイルでも聴いてくれる人がいるという確信があったからこそできたことですね」
――自信が持てたんですね。東さんに指摘されたリズム感の部分に関しては?
maco「あんまり自覚はないです(笑)。でも、できるかぎり曲によっていろんなラップをしたいという思いはありますね。わりとトラックに寄せていく書き方をするんです。詞も書き溜めてはいなくて、トラックを聴いてから書くので」
――トラックに内在するリズムを解釈して言葉の絡ませ方を工夫していくと。そう聞くと「リズムの取り方のヴァリエーションが豊富」という東さんの指摘に納得がいきます。
「彼自身はじつはすごく自信を持ってやってると思うんですけど、それを前面に出さずにサラリと聴かせられるところを、みんなかっこいいと感じてるんじゃないかなと思います」
――僕が聴いた感想を言いますと、これ悪口ではまったくないんですが、全体に言葉があまり聴き取れないなかで、ところどころポッ、ポッと明確に聴き取れるフレーズが出てくるのが面白いなと思いました。もうひとつ、声がいいので音響的に心地よくて、それでスムーズに聴けてしまう。
maco「“何を言ってるかわからない”はファーストからずっと言われ続けてて(笑)、意識的に日本語を崩して歌ってるわけでもないんですけど、滑舌だったり歌い方のレベルでそうなっちゃってる部分もあって」
maco marets
Photo by SARU(SARUYA AYUMI)
――僕は意図的にそうしているのかなと思ったんです。
maco「言葉をバシッ、バシッとはめていくラップは、聴くのもやるのも苦手というか、“これが俺のオピニオンだ、聴け!”みたいなのはあんまりやりたくなかったので、ところどころ聴き取れるぐらいっていうのが僕は好きというか、自分ではそうしたいなと思ってやってます。もちろんリリックを意味のないものにするとかっていうことではなく、聞こえ方として多少崩すっていう。もっとはきはきラップできたらそういうこともやったのかな、とはちょっと思いますけど(笑)。そもそもモチャモチャしたラップしかできないので」
「でも、それがいいんだと思うよ。ファースト、セカンド、サードとどんどん録音するときも音量が小さくなってきてて、いまやカヒミ・カリィさんみたいな(笑)」
maco「3枚目はとくに小さいというか低いですよね」
――おかげで歌詞を見て2度楽しめるみたいなところもありますし。
maco「“歌詞を見てほしい”というのは、けっこういろんなところで言ってます」
――意外に毒吐いてるんだな、と思ったりして(笑)。
maco「そこもじつはけっこう意識してて、聴いてるだけだと“気持ちいいね”“チルだね”ってすぐ言われちゃうんですけど、歌詞に関してはそれだけじゃイヤだと思ってて、というか、そんなことは歌ってねえぞって言いたくて。歌詞を見ていただくと、そんなに優しくはないんです(笑)」
ずっと抱えている茫漠とした迷い
――「Kamakura」「A Day in Lisbon」などのストーリー系の曲は比較的、明確に聴き取れる。これも意図的ですよね。
maco「〈Kamakura〉だったら“彼”と“彼女”って登場人物がいて、いちおう、明確ではないですけど物語というか、聴いてほしい部分があって、あんまり聞こえづらいと本当によくわからなくなってしまうので。そういう意味では多少、ほかの曲よりはっきりと、というのはあったかもしれないです。〈A Day in Lisbon〉はアルバムのなかで唯一アップな感じの曲なので、多少はきはきとしゃべろうと。明るい曲でモジョモジョしてるとそれはそれでかっこよくないかなと思って、多少ゲインを上げました(笑)」
――当然ですけどとても繊細にアプローチしているんですね。
「トラックはいっぱい送ってて、彼が何を選ぶかはわからないし、どういうヴォーカルを乗せてくるかも予想してないし、デモをもらっても実はあんまりよくわからなかったりするんですよ(笑)。で、レコーディングしてミックス作業に入って初めて“あ、こういう曲なんだな”ってわかる。だから僕は録ってるときは何も言わないんですよね。ミックスの段階で、彼がいちばんよく聞こえるようにというか、言葉の意味はわからなくても感触がよく伝わるようにがんばる感じです。具体的には、とにかく小さい声なんで、サ行の音や歯の隙間のノイズのカットと、声が真ん中になるようにトラックにスペースを空けることだけ考えて。で、僕がやったことを彼が気に入らなかったら言うし、そしたらまた直すし、たとえば“ディレイかけてください”って言われたら、僕なりに解釈して“こういう感じでいい?”とか、“ギターを入れたいんです”って言ったら彼がギタリスト連れてきて自分で録って、もらったものに対してああだこうだ言うこともなく、ミックスの段階で自分なりの提案を盛り込んでいく。ミックスでディレクションしてるみたいな感覚です。かならずmaco maretsのOKをもらわないと僕はイヤなんで」
――そうすると、“トータルプロダクション”が東さんになっていますが、どっちかというとmacoさんがプロデューサーに近い?
「いちおうそうクレジットしてありますけど、“トータル”っていうのはトラック作りからレコーディング、ミックス・ダウン、マスタリングまで僕がやってるっていう意味で、ディレクションとかアルバムの方向性は本人が決めてます」
――同じ組み合わせで3枚作るってそんなにあるケースじゃないから、フィットするものがあるんでしょうね。
「たぶん、やりやすいんだと思います。すごく曖昧なものが出てきたとき、自分のなかでいいか悪いかもわからないけど、とりあえず出してみたいと思う感覚ってあるじゃないですか。そういうときに出せるような環境ではあると思うんです。“何、それ?”とか思ったこともないし、とにかくなんでもいいから、出してくれたらそれを形にしたいっていうか、あんまりカチッとしたものよりふんわりしてるほうが面白いかなと思うほうなんで。3枚目はとくにそんな感じですよね」
――歌やリリックの内容に関して東さんから意見したりは?
「そこらへんは実はよくわかってないんですよ。一応、歌詞ももらうんですけど、見てないんで(笑)。見ないで感覚で聴いたほうがいいだろうなって思って。たぶん完成形を聴く人もそうだろうなと思うから。彼の場合、とくに変なことは言ってないだろうと思ってますし」
――リリックに関して僕が強く感じたのは、ひとつひとつの言葉がどうこうというより、全体として、とにかく悲しそうだなぁと(笑)。
maco「3枚目は暗いですね。東京に出てきて6〜7年経ちますけど、まだなじめなさもあるし、そもそも“どう生きていこう”ってわりと考え込んでしまうタイプの人間でもあるし、大きなトラブルや絶望的な出来事に見舞われたこともないんですけど、ずっと茫漠とした迷いみたいなものを抱えてしまってて。普通に暮らしてても、どこかで“つらいね”とか“悲しいね”みたいなことがどうしてもあるので、曲を書くと“何も考えなくても楽しけりゃいいじゃん”みたいなことは言いづらいというか(笑)。とくに3枚目は自分のなかの暗い部分を昇華するっていうテーマがなんとなくあったので、あえてそこを避けずに書きました。逆に言うと、これを作ったことで次はいったん暗い部分からは離れられる気もしてますね」
――macoさんの人柄に正直なアルバムなんじゃないでしょうか。
maco「はい。嘘をつかないように作ろうと思いました」
――東さんがSNSに“「こちら側からの全曲解説」をしようかなと思います”と書いていましたね。
「ファーストから全部やろうかなと思って。3枚目がいちばん書きにくいんですよ。あっという間に終わったっていうか、ひとつの塊を作った感触があって」
maco「いままででいちばんそうだと思います。1、2枚目は細切れな曲の集まりって感じでしたけど、3枚目は10曲通してひとつの作品っていう気持ちが強かったので。好きだけど流れに沿わないからとボツにしたトラックが何曲もありました」
答えを出すより、問いだけ残すくらいの表現が好き
――話は変わりますが、文学がお好きだそうですね。
maco「父親が国語の教員だったこともあって、読書にはわりと慣れ親しんできました。大学でも小説の執筆や評論をおこなうゼミに所属したり、文学作品に触れて何かを考えるっていうことは小さいころからずっと続けてきましたね」
――好きなジャンルとかはありますか?
maco「定義も曖昧なのであまり好きな言葉ではないのですが、いわゆる“純文学”と呼ばれるような、物語性がそんなに強くないというか、何が起きてるのかわからないぐらいのなかで、センテンスひとつひとつから読み手が受ける印象がたくさんあるというか。そういう作品がいいなって思います」
――楽曲はもちろん、ミュージック・ビデオもそういえばそんな雰囲気ですよね。
maco「ものによりますけど、わりとそうですね。自分が出ないということはひとつ決めてます。感情をある程度、殺すというか。最近出したものは感傷的なのもありますけど、基本のトーンとしてはわりと無機質さを強く出したいというか、センチメンタルなことを歌ってはいても、それに寄り添いすぎる映像表現は避けてますね。あと自分の顔が自分の曲にはあんまり必要ないなと思ってて。聴いてもらうときに、語り手の存在感を必要としないというか、あんまり“僕の言葉”ってしたくない部分もあって」
――僕は無機質とはかならずしも思いませんが、みなまで言わない感じはあるなと。
maco「あんまり説明しすぎるのはスマートじゃないと思うので、ある程度、余白を設けて聴き手に委ねるっていうやり方がいいのかなって。受け手としてもそういう音楽や文章や映像が好きですし。答えをバーンと出すというよりかは、問いだけ残すくらいの表現が好きですね」
maco marets
――そこはトラックにも通じるのでは?
「そうですね。作ってるときは勝手に手が動いてるんで、意図や狙いがあるときはそうしますけど、とくに彼にはそれ以前のものを渡すこともあります。言葉を乗せることを前提にした、出来上がってない、80%か70%ぐらいのものを渡してる感覚ですね」
maco「東さんのトラックにはワン・ループの美学を感じます。多少の進行はあっても基本的にワン・ループでひとつ、ふたつのフレーズを繰り返すものが多くて、それが自分のリリックだったりマインドの部分とすごくシンクロするんです。出口のないところでぐるぐる回ってるビートのなかでどう足掻くか、っていう。それでアルバム・タイトルも『Circles』(円環)にしてるんですけど」
――ラップってやっぱり顔がドーンと出てきて、ラッパーの存在感が前提になっているものが多いと思うので、その意味ではオルタナティヴなものかもしれませんね。
maco「いまだに“ラッパーです”“ヒップホップです”っていうスタンスにはいようと思ってるんですけどね。そういう文化もひっくるめて好きだし、このポジションからオルタナティヴなものを作っていきたいので。最近“ラッパーなんですね”ってよく言われるんですけど……あんまりラッパーだと思われてないみたいで(笑)」
――3月にワンマン・ライヴがあるそうですね。じつはアルバムを聴きながら“これでライヴはどうやるのかな?”って思っていたんですよ(笑)。
maco「そのご指摘は痛いところで(苦笑)、ライヴはずっと課題ではあるんです。『Circles』はとくに声が小さいので、作ってる途中から“ライヴどうしよう”って思ってました。音源では自分のスタイルとして成立してますけど、ライヴとなるとどうしてもそのままは難しくて。いまは曲によって変えていて、わりとガッとラップできる曲に関しては音源よりちょっとトーン高めに歌っちゃったりとか、オケもいろんなパターンのものを作っていただいて、その試行錯誤したりしてますね」
「いい機会じゃない? 僕もライヴに関してはずっと考えてるんですけど、3枚作ってmaco marets第1期完成のお披露目というか、集大成みたいな機会だと思うんで、これからさんざん悩もうかなと。これをやったらこのあとがまた開けると思うし」
――最後に、第1期の集大成を見せた後のmaco maretsはどうなるのか、話していただけますか?
「僕は興味があることは全部やったらいいと思ってるんですよ、音楽家としては。あんまり決めないで、思いついたらやってみて、ダメだったら別のこと考えて……っていうふうにやってほしいなと思いますね」
maco「3枚目ができて自分のなかでひと区切りつけられたと思うので、2020年はいい意味で聴く人のことを意識した曲作りもやってみたいです。これまでは、あくまで“自分のため”という面が強かったと思うんですよ。この先はもっと実験というか“いい曲”とか“かっこいい曲”って思えるのはどういう曲なんだろうとか、いろいろ考えていきたいと思ってます。いまさら友だちにコード理論を教わったりしてるんですけど、ミュージシャンとしてサボってきた部分がいろいろあると思うので、いろんな人とのコラボレーションなどを通してそれを探りつつ、ソロの曲もとにかくたくさん作りたいですね。いま好きって言ってもらえているスタイルもあったうえで、もうひとつ上の表現を見つけたいなと思っています。そのためにもワンマン・ライヴを通して何かしらの感触は得られるんじゃないかなと」
取材・文/高岡洋詞
Information
〈WOODLANDS CIRCLE CLUB / maco marets One Man Live 2020〉
2020年3月27日(金)
東京 代官山 SPACE ODD
開場 18:30 / 開演 19:30
前売 3,500円(税込 / 別途ドリンク代)
https://www.creativeman.co.jp/event/maco-marets/
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