前作『俺たちは真心だ!』から3年半。昨年は初のアコースティック・ツアーで各地を回りながら、新曲を披露してきた
真心ブラザーズが、ニュー・アルバム
『Keep on traveling』をリリースした。弾き語りから生まれた曲が多いせいか、歌に焦点を当てたシンプルで胸に染み入る曲をメインに置きつつ、
桜井秀俊のラップ・ユニットやMB’Sの弾けるポップ・チューンなど全19曲の真心ワールドは濃密にして奥深い。デビュー20周年を超えて、いまなおフレッシュに音楽に向き合い、遊び心を失わない希有な二人に23年目の心境とアルバムに込められた思いを聞いた。
――前作から3年半ぶりの新作になりますが、20周年を越えての次の一手を考えるところはあったんでしょうか?
桜井秀俊(以下、桜井) 「20周年の後どうしようかという時に、アルバムの前にまず全国にご挨拶を兼ねて今まで行ったことのない街でライヴをしようと、<真心道中歌栗毛>というツアーを企画したんですよ。そもそもワンマンで二人だけの弾き語りのツアー自体、初めての経験で」
YO-KING 「僕ら、バンド・ブーム世代でもあるから、最初からバンドでしかライヴをやったことなくて、二人で弾き語りなんて怖くてできなかった」
桜井 「“弾き語りって一体どこで盛り上がるわけ?”みたいな(笑)。前はライヴにはフィジカルな盛り上がりのピークがなくてはいけないと思いこんでいたから」
――20年の実績があっても、そこに踏み出すには勇気が必要だったんですね。
YO-KING 「ようやく芸人としての覚悟ができたんだと思う。舞台でお客さんを喜ばす技が20年かけてやっと身についたというか。たぶん、若い頃に同じことをやってたら自滅していただろうね(笑)。ぱっと見の盛り上がりはなくて地味だけど、一人一人は絶対楽しんでいるって思えるようになりましたよ」
――ツアーでは各会場一人1曲の新曲を毎回披露すると決めて。
桜井 「アマチュアみたいにまずライヴで新曲を演奏してお客さんの反応をみて吟味してから制作に入ることも実は初めてで、せっかく身軽なライヴができるようになったんだから、新曲コーナーを設けて次のアルバムの素材作りになればいいかなと。これまでは制作してから、さあ召し上がれだったからね。本来はお客さんの前に出して、食べてもらって、はじめて料理として成立するものじゃないかと」
――各地のライヴで演奏した新曲は相当な数に上るのでは?
桜井 「計50曲はあったんじゃないかな。お客さんも、“今日聴いた新曲はアルバムに入るのかな?”と、楽しみにしたり、心配したり。ツイッターで“本日は爆弾投下されました!”みたいな書き込みがあったり、こういうご時世ならではの盛り上がりもあるわけで」
――それにしても毎回新曲を作るのもプレッシャーがかかりますよね?
桜井 「YO-KINGさんは多作の人だからまだしも、俺は地獄でしたね」
YO-KING 「僕はハードルが低いから、数は打てるんですよ。前に作った曲とテーマがダダかぶりでも全然構わない。大体、言いたいことって、多い人で三つくらいじゃない? 自分の芸風ってそんなに幅はないし、次のアルバムは今までとまったく違うメッセージを伝えたいとかないんだよね」
――そういうYO-KINGさんの主要なテーマとは?
YO-KING 「僕でいえば、楽しく生きるとか……もしかしたら、それだけかもしれない。それを手を替え品を変え言ってるだけ。その繰り返しのなかで、これはスゴイという曲が出てくればそれに越したことはない」
桜井 「僕は数打つタイプじゃないけど、言いたいことは三つくらいというのは一緒。イメージとしては三つの山があって、その山をいろんな道からいろんな方法で登っていく感じ。そんなことを続けていくとあっという間に爺さんになってるような気がする」
――前作
『俺たちは真心だ!』が非常にバラエティに富んだ内容のアルバムだっただけに、今回はシンプルに骨太に聞こえますね。
YO-KING 「その反動はあるね。あれはバカだなぁってアルバムでしょ。ジャケットからして、脂が抜けた感じするよね。『俺たち』はギトギトだもん(笑)」
桜井 「今回はシンプルにしようとはしたね。弾き語りツアーを経てできた曲だけあって、歌の部分を生かしたかったから、その歌にふさわしい素直なサウンドを着せてあげようと。やっぱり、お客さんの前で演る過程を経ると、迷いがなくなって素材で勝負する自信がついた。曲数が多いから1曲1曲の盛りを多くしちゃうと食べきれないから、全皿8分盛りで。今回は俺は完全にフォーク・アルバムだと思ってます」
YO-KING 「フォークを通ってきたのは僕だけだったからね」
桜井 「僕はフォーク=ダサいものだと思春期の頃から擦り込まれていたから。ここ何年かですよ、フォークって身軽で格好いいなって素直に思えるようになったのは」
YO-KING 「ま、フォーク・アルバムといっても、ロックもあるし、ラップもやってますしね」
――桜井さん=MC.Saku率いる噂のラップ・ユニット“50円玉”ですね。
桜井 「ラップは前作からの流れではあるんだけど、昔はいわゆるヒップホップ・マナーになじめなかったというか、俺向きじゃないと思っていたんだけど、それこそ『SRサイタマノラッパー』を観て感銘を受けたこともあり、一途な思いさえあれば俺にもラップはできる!と、MB’Sの上野一郎と首藤晃志を引き込んで」
YO-KING 「結果的にはマナーやスキルうんぬんよりナイスな二人を引き連れたMC.Sakuがはしゃいでいるという絵がいいわけですよ (笑)」
桜井 「元々飲み友達の3人だから楽しいんだけど、あの二人に思いもよらない言葉の才能があったんだという衝撃!」
YO-KING 「僕らはぶっちゃけ、この20年以上言葉と格闘とまではいかないにせよ試行錯誤を重ねてきたというのに、あの二人の吐き出す言葉にはヤラれましたから。50円玉は、あんまりお仕事にならないで遊びながらアマチュア感を磨いてほしいですよ。それが真心にフィードバックすればいい」
――キャリアが長くなってくると、新鮮さをいかにキープするかは重要な課題ですね。
YO-KING 「そうそう。歳をとると恥をかくことにビビっちゃうんだよね。もしかしたら、それで大事なことを失ってしまっているのかもしれないのに。僕も前は上手く歌うことに照れや偏見があったけど、ここに来て歌を上手く歌う楽しさがわかってきた」
桜井 「今回はファーストを作ったときのイケイケ感や投げっぱなし感もあって、そういうステージに乗っかっていこうかなという感覚はある。昔より責任持ってボールは投げるけど、基本的に好きなボールを投げますという姿勢で当面はいきたいですね」
取材・文/佐野郷子(2012年4月)