謎の失踪から15年、リッチーの残した散文を歌詞に使用した、4人のマニックスによる最新作

マニック・ストリート・プリーチャーズ   2009/05/18掲載
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 その過激な言動と天才的な作詞能力で、初期マニックスに知性と美しさと危うい輝きをもたらしていたリッチー・ジェイムス(g)。謎の失踪から15年、リッチーの不在という心の空洞をメンバーとともに乗り越えてきたファンにこの上ない喜びと驚きをもたらすであろうマニック・ストリート・プリーチャーズの新作『ジャーナル・フォー・プレイグ・ラヴァーズ』が発売された。“All Lyrics Richard Edwards”とクレジットされたこのアルバムについて、デビューからリッチーとともに作詞を手掛けていたニッキー・ワイアー(b)に話を訊いた。


 一昨年の好アルバム『センド・アウェイ・ザ・タイガーズ』に続くマニック・ストリート・プリーチャーズの新作はドラマチックな運命を辿ってきたグループにとっても特別な一枚だ。というのも95年、27歳の時に謎の失踪をとげ、昨年11月、両親が法律上の死亡宣告を受け入れたことで正式に死亡が認定された元メンバーのリッチー・ジェイムスが書き残した歌詞に曲を付けているからだ。
 「今回の歌詞は、リッチーがいなくなる3〜4週間前に受け取ったもので、それ以来ずっと手元にあったんだ。彼の言葉は本当に素晴らしいもので、この天才的な作詞家を僕らがどれほど恋しく思っているかっていうことをあらためて気づかせてもくれたよ」


 僕が驚かされたのが、プロデューサーにニルヴァーナとの仕事で知られるスティーヴ・アルビニを起用したこと。世界中のインディ・バンドから大物まで分け隔てなくやる人だが、同時に数々の変人伝説でも知られる怪人で、今回もエピソードには事欠かなかったはず。
 「いっぱいあるよ(笑)。いつもスタジオにオーバーオールでやって来て、夜、作業が終わった後いっしょにMTVとかを観たりしたんだけど、そこで流れてる曲すべてに文句をつけるんだ。全部嫌いだって(笑)。でもそれはいい息抜きになったよ(笑)。それから食事は夜の一回しか食べないんだ。ほかは一切食べない。変わってるよ(笑)。でも適切なバンドと仕事をした場合は、素晴らしいサウンドを作り出すと思う。とくにドラムとベース、フィードバックに関しては、右に出る人はいないし素晴らしいよ。彼の起用にはいくつか理由があったけど、まず僕らがニルヴァーナの『イン・ユーテロ』の大ファンだからってのが大きかった。それはリッチーもそうで、実際94年にも彼にプロデュースしてもらおうっていう話をしたこともあったんだ」


 そのサウンドで特徴的なのは80年代前半のニューウェイヴとかポスト・パンクのニュアンスを持ったものが多いことで、それが僕にはとても心地よく響く。今の時代の音とは違うのだがそこが逆にとても新鮮なのだ。
 「そういってもらえてすごくうれしいよ。それこそが僕らがやろうとしたことだからね。僕らはあえて孤立感を味わいたいって思ってるんだ。『ホーリー・バイブル』当時、オアシスブラーがアルバムを出して、それらはいわゆるブリット・ポップと言われるものだったんだけど、僕らのやってることはそれとは全然違ってるって感じてた。そして僕らはこのアルバムでまたそういう状況になりたいと思ったんだ。ほかとはまったく違う、時代と全然関係ないものを作りたかった」

 このアルバムは彼らにとって特別な意味を持つものであったわけだが、さてこれが次のアルバムにどんな影響を与えるのだろうか。
 「それは、ホントにわからないな。今回は本当に楽しいものだったけど、つねに作れるような性質のアルバムではないし、今はクイーンアバしか聴いてないからね(笑)。でも次のアルバムはもっと楽しくて、もっと何か祝祭的なものになるんじゃないかな……」




Photo By MITCH IKEDA



取材・文/大鷹俊一(2009年5月)
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