――この4年間は息子さんの誕生と母親のケイト(ケイト&アンナ・マッガリグル)の死を体験して、感情のローラーコースターのような月日だったと思います。それらの感情を消化してソングライティングに注ぎ込むまでに、どのくらいの期間が必要でしたか?
「前作から時間が経っていたので、新しいレコードを作りたいのはわかっていた。でも、最初はギターを手にすることもできなかったわ。自分の口から出てくる言葉があまりに悲しいものだったから。でも、数ヵ月後には再び曲を書き始められた。ほんとうににたくさんのことが起こったから、それらを曲に注ぎ込ませたの。たくさんの悲しみがあったけど、怒りや憤りもあった。それにユーモアや優しさも。母の死から数ヵ月経って、最初に書き出した曲が〈All Your Clothes〉だった。というのは、これは彼女がもうこの世におらず、その存在なしでどうやって生きていくかについてのレコードだから。でも、アルバムのトーンを決めたのは、彼女の曲〈Proserpina(プロセルピナ)〉だと思う」
――制作に取りかかる前に、どんなアルバムを作るかという明確な考えはありました?
「女性アーティストと一緒にやりたかったの。女性のプロデューサーはとても少ないから、想像するのはむずかしかったけど、夫のブラッドがゆかを薦めてくれた! 完璧なアイディアだったわ。というのも、もう少しエレクトロニクスを使って音を重ねたレコードを作りたいとも望んでいたから」
――彼女のことは以前から良く知っていたんですか? 彼女との共同作業はどうでした?
「ゆかとは長年の知り合いで、音楽における親族の一員みたいなものよ。ショーンとゆかは15年間私たちの人生にいる。ずっとお互いのファンだったの。彼女と一緒に働くのは素晴らしい体験だったわ。女性がプロデューサーであることが違いを作ったと思う。私はとても快適だったし、楽な気持ちにさせてくれた。それはたぶん彼女が日本人だからかも。彼女はとても親切で助けになってくれる。彼女の態度とショーンとゆかのホーム・スタジオでのしきたりを楽しんだ。彼女はいつもとても美味しい緑茶を入れてくれたし、とても美味しい食事をしたわ。私は食べることが好きだから、幸せな気分にさせられたの」
――「Proserpina」はケイトが生前に書いた最後の曲だそうですね。
「曲中の物語は、死と再生を含む季節と時間の経過の物語なの。これは明らかに母が自分の人生の最期が近いことについて考えていた特別な曲ね。プロセルピナとはローマ神話の女神で、ギリシア神話のペルセポネーにあたる。それは母と娘の物語でもあり、私にとっては心を激しく動かされるものね。ある意味では、母が私のためにその曲を書いたと感じるの。本当かどうかはもうわからないけど。彼女が人生の最期に、それは冬だったけど、私は彼女と一緒にいられなかった。彼女も私も一緒にいたいと望んでいたことはわかってるの」
――「All Your Clothes」は?
「〈All Your Clothes〉は私が母と交わそうと試みている会話なの。彼女がこの世にいなくなってしまったので、人生における助言を求められない。彼女の導きが得られないことが残念だから、もし私に何かを言っているのなら、いつだってそれに耳を傾ける努力をする。彼女の服は私にとってとても重要なもの。だって、今は私がそれらを着て、それが慰めになっているから」
――このアルバムを完成させたことがカタルシスになったでしょうか?
「自分にとって作ることがとても重要だった特別な作品を完成させられて、とても幸せだと感じている。ゆかと私が作り上げた作品を誇りに思うし、これが私の音楽におけるキャリアと母親としての人生の新しい始まりだと感じているわ」
取材・文/五十嵐 正(2012年10月)