マーティ・フリードマンによる、J-POPのカヴァー・アルバム『TOKYO JUKEBOX』。90年代を代表するヘヴィメタルのギタリストであり、最近ではJ-POP評論家としても知られる彼にとって本作は、まさに念願のアルバムだったに違いない。
「テレビやラジオの企画で1曲だけカヴァーする、っていうことはあったんだけど、自分の好きな曲を好きなようにアレンジするのは無理だろうって思ってたんだよね。著作権のこととかも大変そうだし、好き勝手にカヴァーしたら(原曲を手掛けアーティストに)怒られるんじゃないかなって(笑)。“好きなようにアレンジしていいですよ”って言われたときは、“マジで? ホントにいいんですか?”って感じでした。ホントに大好きな曲ばかりだから、めちゃくちゃ楽しかったですね!」
中島美嘉のバラード「雪の華」は派手なギター・アンサンブルを軸にしたヘヴィ・ロック・チューンになり、竹内まりやの名曲「駅」はスラッシュ・メタルへと変身。アレンジにあたって彼は「両極端のアレンジにしないと意味がない」と思っていたという。
「まったく違うコンセプトでやらないと、“原曲を聴いてればいいじゃん”ってなっちゃうでしょう。一番難しかったのは〈ポリリズム〉(Perfume)。パッと聴いた感じはノリノリの曲なんだけど、メロディに変拍子が入ってるし、リズムはコードの構成も複雑なんですよ。この曲をナマのサウンドでアレンジできたことには、すごく達成感を感じます。レコーディングしてるときも“こんなギター・サウンドは聴いたことない!”って思いましたね」
しかし、このアルバムは決して、彼のギターのテクニックをひけらかすためのものではない。中心にあるのは、あくまでも“歌”。J-POPを愛好してきた彼は、そのことを十分に理解しているのだ。特に「天城越え」(石川さゆり)における彼のギター・プレイは、“絶唱”と呼ぶに相応しい(このヴァージョンは、イチロー選手の打席テーマ曲としても使用された)。
「石川さゆりさん、桑田さん(サザンオールスターズ「TSUNAMI」をカヴァー)、AIさん(「Story」をカヴァー)と、みなさん存在感のあるヴォーカリストばかり。そういう人たちと同じくらい、ギターで歌の感情を表現したいと思ってました。やっぱり、一番大事なのは歌ですからね」
また、「ロマンスの神様」(広瀬香美)はマーティがJ-POPにのめりこむ入口となった曲だとか。
「90年代の半ば、ツアーで日本に来たときにこの曲を聴いて、めちゃくちゃ驚いたんですよ。とにかく、(レコーディングに参加している)ミュージシャンのレベルが高い。こんなテクニックを持っている人たちが、“ボーイ・ミーツ・ガール”のキャピキャピしたポップスをやっていることに衝撃を受けたし、そのギャップが大好きだったんだよね。この曲がきっかけでJ-POPを深く知りたいと思うようになったし、日本に移ってくる理由の一つにもなってるね」
「まだまだ、やりたい曲はいっぱいある」と言うマーティ。ぜひ、続編を期待したい。
「アメリカでもリリースしたいと思ってるんですよ。J-POPの素晴らしさをアメリカ人にも伝えたいし、架け橋みたいな存在になれたらいいですね」
取材・文/森 朋之(2009年5月)