松井秀太郎 やりたいことを詰め込んだアルバムを携え、新世代のジャズ・トランペッターがデビュー!

松井秀太郎   2023/07/26掲載
はてなブックマークに追加
 1999年生まれ、今年24歳になるトランペッター、松井秀太郎が初リーダー作『STEPS OF THE BLUE』を7月26日(水)にリリースする。高校時代はクラシックのトランペットを学び、国立音楽大学でジャズを専攻した松井に、音楽との出会いと今日まで、そしてアルバムについての話を聞いた。
Debut Album
松井秀太郎
『STEPS OF THE BLUE』

AVCL-84147 / CD
AVJL-84151 / LP / 8月30日(水)発売
――音楽を始めたきっかけを覚えていますか?
「家におもちゃの小さいキーボードがあって、幼稚園に入る前からそれが好きで遊んでいたんです。それを見た親がもう少し本格的なキーボードを買ってくれて、一人でずっと弾いていました」
――どんな曲を弾いていたんですか?
「幼稚園で先生が歌ってくれた曲を自分で弾いて歌ったり、『おかあさんといっしょ』の曲を歌ったりしてました。両親はとくに音楽好きというわけではなくて、童謡やクラシックのCDはたくさん買ってもらって聴いていたんですけど、親がよく音楽を聴いていたということではないです」
――楽譜がなくても、耳で覚えて弾けたんですね。
「なんとなく、聴いたら和音も弾けたんですね。先生について本格的にピアノを習ったのは、音大の附属高校の受験のときからです」
――トランペットは9歳のときに始めたんですね?
「小学校3年のときに、学校に高学年の子が入れる金管バンドがあったので、そこに入って始めました。オーディションがあって希望楽器を書かされるんですが、トランペットがいちばんかっこよさそうだなあ、と思いまして。でも、みんなトランペットって書くんですよね(笑)。それでオーディションに受かってトランペットを吹きはじめました」
松井秀太郎
――トランペットという楽器は自分に合っている、と思いましたか?
「最初はあまりわからなかったですね。それよりも、それまではずっと一人で音楽をやっていたので、仲間と一緒に合奏したり、音楽室で音楽の話をしたりするのが楽しかったです」
――小学校のバンドではどんな曲をやってたんですか?
「マーチとか、嵐の曲をやった記憶があります。あまり本格的に練習するという感じでもなくて、運動会のときに行進曲を演奏したりとか。でも中学の吹奏楽部は地域では強豪だったので、部活漬けになりました。その吹奏楽の先生がオーケストラ作品を吹奏楽で演奏するのが好きで、チャイコフスキーをいろいろ演奏して、それがきっかけとなって、クラシックのオーケストラに興味を持つようになりました。その後、セルゲイ・ナカリャコフの存在を知って、はじめてトランペットのソリストという人がいる、ということを知ったんです。それで中学2年のときに吹奏楽部をやめて、クラシックのトランペッターを目指して音大の附属高校に入ろうと思って、先生にレッスンを受けるようになりました。ですから、本格的にトランペットを演奏していこうと思ったのは、そのときからです」
――高校時代の活動はどうだったんですか?
「学校でソリストとしての勉強とオーケストラ、そして“日本モーツァルト青少年管弦楽団”という組織に入ってモーツァルトをはじめとするオーケストラ曲を演奏して、それ以外にもいろいろな高校の生徒たちとオーケストラに参加したり。クラシックを演奏していました」
――そして国立音楽大学ではジャズを専攻することになるわけですね。
「クラシック以外にもポップスとかジャズのビッグバンドをやってみたいと思ったんですね。自分が好きなミュージシャンの方々が、国立のジャズ専修の先生でたくさんいらっしゃったので、ここでジャズを学んでみようと思いました」
――クラシックとジャズでは違うことがいっぱいあると思いますが、どうでした?
「ビッグバンドは譜面があるので、最初はビッグバンドが楽しかったですね。でもアドリブについては、何をやっていいか最初はわからなかった。小曽根真さんのアンサンブルの授業で、楽譜なしにメロディを覚えて、次は自由にアドリブを吹いてみよう、となりまして、その時小曽根さんは、このコードではこの音を使っていいとかダメとかはおっしゃらずに、自分が音楽の中に入っていってどれだけ楽しめるかが大事なんだ、と教えてくれたんですね。それを知って、ジャズが本当に好きになれた、と思っています」
――ジャズ理論的なことについてはいかがでした?
「高校時代から和声学が好きだったので、理論についてはクラシックもジャズもあまり違わないのでやりやすかったです」
――さて、7月26日にリリースされる松井さんのアルバム『STEPS OF THE BLUE』についておうかがいします。松井さんのトランペット、中林俊也さんのサックス、兼松衆さんのピアノ、小川晋平さんのベース、小田桐和寛さんのドラムス、そしてゲストとして中川英二郎さんがトロンボーンで4曲に、小曽根真さんがピアノで2曲に参加されています。
「中林さんは大学の2年先輩で、自分がジャズを始めるときから知っている間柄です。小川さんは小曽根さんの“FROM OZONE TILL DAWN”でご一緒して、この人しかいない、と思ってオファーしました。兼松さんと小田桐さんは大学のビッグバンドの先輩に当たる方々です。兼松さんは作曲家としても活躍されていて、いろいろな音楽に詳しい方です。演奏していると、いろんな場所に音で連れて行ってくれるんですね。小田桐さんもジャズ・ドラマーとしても素晴らしいんですが、クラシックやほかの音楽も広く見ることができる方だと思います」
――中川英二郎さんは4曲に参加していますね。
「中川さんも国立音大で教えられてて、ビッグバンドの指導をしていただきました。今はブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラでご一緒させていただいています。とにかく素晴らしい金管楽器奏者で、どんな音楽もできますし、本当に憧れています」
――そして小曽根真さんは2曲でピアノを弾いています。小曽根さんから教わったことって何ですか?
「先ほども言いましたが、相手と対話することがジャズなんだ、ということでしょうか。大学時代、レッスン室を訪ねてトランペットを聞いていただいたんですが、やりたいことをしっかり聞いてくれて、ただ合わせるのではなく対等にピアノを弾いてくれました。一回演奏して、ああ、こういうものだよなあ、と思わせてくれました。以前は、いいソロを吹くことが大事だと思っていましたけど、それだけじゃないんだ、ということを演奏を通じて教えてくださった、と思います。自分の価値観をかたち作ってくれた方ですね」
――それは素晴らしい先生ですよね。さて、『STEPS OF THE BLUE』では、さまざまなスタイルのジャズが演奏されていますね。いろんなタイプの曲を書いてレコーディングに臨んだ、ということですか?
「大学を卒業してすぐ、5月にBODY&SOUL(東京・渋谷のジャズ・クラブ)でコンサートをやって、小曽根さんが聴きに来てくださったんですが、アルバムの曲はそのセットリストが元になっています。小曽根さんはコンサートを聴いて、このセットリストでリーダー作を録音しよう、と提案してくれて、8月に録音が実現しました。これから自分の音楽をやっていくスタートラインのようなアルバムなので、自分が今やりたいことを詰め込んだ作品になっています」
――レコーディングには時間がかかったんですか?
「いえ、ほとんどがワン・テイクかツー・テイクだと思います。その場で起きる音楽を大事にするとファースト・テイクがいちばんよかったりしますね」
――タイトル曲を聴いて、デキシーやスウィング的なサウンドがとても素敵だな、と思ったんですが、松井さんはこういうジャズとコンテンポラリーなジャズ、どっちも好きなんですよね?
「どちらかといえば、デキシーやスウィングのほうがしっくり来るかもしれません。小曽根さんがアンサンブルの授業でデキシーをやってくださったということもありますが。大学のジャズ専修の人たちは、もっと後の時代のジャズが好きな人が多かったと思うけど。小曽根さんも中川さんも、デキシーやスウィングの大家でもありますもんね。アメリカのミュージシャンって、若い人でもデキシーやスウィングに詳しい人がけっこう多いですし」
松井秀太郎
――ところで、松井さんがいちばん好きなジャズ・トランペッターって誰ですか?
「ウィントン・マルサリスがずっといちばん好きです。最初はハイドンのコンチェルトを聴いて、その後ジャズを演奏しているものを聴いたんですけど、音楽はもちろん、楽器のうまさも素晴らしくて音も素敵ですし、つねにずっと聴いているミュージシャンです」
――なるほど、じつは松井さんのアルバムを聴いて、ウィントンがやっていることに近いのかな、と思ったんですよ。クラシックとジャズ、という点でも似ていますし、コンテンポラリーなジャズもスウィングやデキシーもやる、というところも。
「楽曲や演奏はもちろん、音楽に対してとてもリスペクトしていることを尊敬しています。ウィントンそっくりになりたい、というより、音楽家として憧れの対象なんだと思います」
――3月の来日公演は行かれましたか?
「はい。すごかったですね! この前に来日したときは大学1年か2年だったんですけど、その時よりすごさがよくわかったように思います」
――さて、これからの長い音楽家人生、どんなミュージシャンになっていきたいと思っていますか?
「これからもトランペットを吹いていきますけど、たんにトランペッターというのではなく、自分ならではの音楽を作っていくことのできるミュージシャンになりたい、と思っています。それがジャズであったり、ジャズ以外の音楽であったりするかもしれませんが」
――とても期待しています!


取材・文/村井康司
Photo by Tadayuki Minamoto
Information
〈CD発売記念LIVE「STEPS OF THE BLUE」〉
9月22日(金)東京・ブルーノート東京
出演:松井秀太郎(tp)、兼松衆(p)、小川晋平(b)、小田桐和寛(ds)、中林俊也(sax)、スペシャル・ゲスト:中川英二郎(tb)
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/shutaro-matsui/


〈サントリーホール ARKクラシックス〜ARK JAZZ スタンダード・ジャズの魅力〉
9月30日(土)東京・サントリーホール ブルーローズ
出演:松井秀太郎(tp)、兼松衆(p)、小川晋平(b)、小田桐和寛(ds)、ゲスト・ヴォーカル:田中彩子(ソプラノ)
https://avex.jp/shutaro-matsui/


〈松井秀太郎 CONCERT HALL LIVE TOUR〉
2024年1月14日(日)愛知・名古屋 三井住友海上しらかわホール
1月20日(土)東京・サントリーホール ブルーローズ
1月27日(土)大阪・あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール
1月28日(日)福岡・FFGホール
2月2日(金)神奈川・横浜みなとみらいホール 小ホール
2月10日(土)石川・金沢 石川県立音楽堂 交流ホール
3月31日(日)北海道・札幌コンサートホールKitara 小ホール
https://avex.jp/shutaro-matsui/
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 中国のプログレッシヴ・メタル・バンド 精神幻象(Mentism)、日本デビュー盤[インタビュー] シネマティックな115分のマインドトリップ 井出靖のリミックス・アルバム
[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く
[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん
[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催
[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表[インタビュー] YOYOKA    世界が注目する14歳のドラマーが語る、アメリカでの音楽活動と「Layfic Tone®」のヘッドフォン
[インタビュー] 松尾清憲 ソロ・デビュー40周年 めくるめくポップ・ワールド全開の新作[インタビュー] AATA  過去と現在の自分を全肯定してあげたい 10年間の集大成となる自信の一枚が完成
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015