ポップ・マエストロ、松尾清憲 新章の幕開けを飾る『All the World is Made of Stories』

松尾清憲   2018/09/25掲載
はてなブックマークに追加
 リーダー・バンドであるCINEMAにてデビュー以降、長きにわたって優れたメロディメイカーとして第一線で活躍を続ける松尾清憲が約3年ぶり、ソロでは11作目となるアルバム『All the World is Made of Stories』を9月26日にリリースする。“ずっと同じようなことをやるのが苦手なんです”という本人の言葉に象徴されるように、Languageの掛川陽介と本澤尚之をサウンドプロデューサーに迎え、エレクトロニカにチャレンジするなど、原点回帰にも似た、音楽への強い意欲を感じさせる作品だ。
――表題曲でもある1曲目「All the World is Made of Stories」を聴いて、“これから何が起こるんだろう”とワクワクしました。
 「タイトルは、アメリカの女性詩人Muriel Rukeyserの言葉がヒントになっていて、まるでアルバム自体も導かれたようなフレーズでしたね。サウンド的には、サビにコーラスを入れてポップな雰囲気。このビートに生ドラムが欲しくて、鈴木さえ子さんにお願いしました。そうそう、今回プロデュースしてくれたLanguageの掛川さんと本澤さんは、さえ子さんを通じて知り合ったんです。掛川さんは〈愛しのロージー〉のころにはもう面識がありますね。仕事としては、本澤さんには『One More Smile』(2011年)や、CDブックの『チョコレート・ラヴ』(2010年)のミックスをしてもらったり」
――旧知の方々だったんですね。
 「制作面では、掛川さんと本澤さんとキャッチボールができる空間があるといいなと思って、あまり曲は作りこまず、未完成でもとりあえず渡して、イメージを先に伝えました。さらに要素が必要になったら、その都度考えるような」
――エレクトロニカを取り入れたのはご自身のアイディアですか?
 「僕は、ずっと同じようなことをやるのが苦手なんです。80年代イギリスのバグルスやトニー・マンスフィールド、それにスクリッティ・ポリッティライトニング・シーズとか、ポップだけど哀愁があって、大好きで。そういうエレクトロ・ポップな音楽も、機会があったらやってみたかった。例えばビートルズはアルバムごとにフォーマットが違っていて“この曲とあの曲は同じ人が作ったの?”って思わせてくれるでしょう? 僕もその足元には及びたい(笑)。そこで、挑戦したんです。でも最初は本当に手探り。僕自身完全なイメージを持っていなかったので、Languageのふたりも悩んでいましたね」
拡大表示
――一番最初に出来た曲はどれですか?
 「去年の夏にミーティングして“数曲ずつでもゆっくり始めてみましょうか”って出来たのが〈I Love You, Girl〉かな。〈雨のスペースロケット〉もかなり最初のほうですね」
――「I Love You, Girl」はシンセとギターの音色がコラージュされたような曲ですね。
 「口笛なんかも入って、ちょっとアナログな感触。この曲が出来たことで、お互いに“こういう感じでやろう”という手がかりになった。その後〈All the World is Made of Stories〉で、力強くてポップなアルバムとしてのイメージがはっきりしました。それまでは"アルバムに出来たらいいね"って感じで、確信は持てていなかったなあ……。2曲目〈Midnight Train Called Desire〉はパワフルなドラムと女性コーラスが華やかでいいでしょ? これは、さえ子さんとLanguageのkaoriさんにお願いしました」
――続く「恋するテレフォン」も混線する電話がキュート。
 「“電話”がなんとなく好きというか、近未来のモチーフとして欲しかったんですね(笑)。このアルバムにスーパーバイザーとして参加しているVelvet Tea Setsのキーボード、小泉(信彦)さんが、まだ手探りだった最初のころLanguageのふたりに“CINEMAの〈電話・電話・電話〉をイメージするとうまくいくんじゃない”ってアドバイスしてくれたみたい」
――「アンダーグラウンド・アイドル」はまるで、「雨のスペースロケット」を作詞された姫乃たまさんを描いたような詞ですが、偶然ですか?
 「詞は鈴木博文さんにお願いしたんですけど、姫乃さんのこと知ってたのかな?(笑) 偶然シンクロしたみたいです。誰を想像して書いたんでしょうね? 今度訊いてみよう(笑)」
――姫乃さんの詞を実際に歌われていかがでしたか?
 「符割りがユニークで面白かったですね。姫乃さんと博文さんにお願いしたテーマは“近未来のカフェで流れてきたような音楽”。おふたりともピッタリな雰囲気の詞をくださって。〈雨のスペースロケット〉はこのアルバムのジャケットにも合うでしょう?」
――秋田和徳さんがデザインされたジャケットですね。
 「具体的なオーダーはせず、音源を送ったら“歌詞も見たい”って言ってくださって、イメージを膨らませてくれました。アビイ・ロードを僕が歩いていたり、掛川さん、本澤さんがたたずんでいたり。近未来的で気に入ってます」
――個人的に「イエロー・グリーン・パープル」は後半の讃美歌のところで松尾さんらしい豪華さに抑制が効いているのが新鮮で、とても好きな曲です。
 「この曲を気に入ってくれている人が結構多いですね。今回のアルバムはゴージャスな箇所はとてもゴージャスなんですが、対称的にスカスカなところは本当にスカスカなんです(笑)。それが面白いというかむしろ未来っぽい」
――そのイメージは「透明人間の告白(インビジブル・マン)」にも色濃く感じました。
 「〈透明人間の告白〉のドラマーは、Languageのライヴに参加しているMasaaki Kobayashiさん。人間的なものと無機的なものがうまくバランスとれたと思っています。Languageの感覚とうまくミックスできた。僕がただシンセとやるだけだったら面白くないし」
――結果、アルバムを通して“松尾清憲らしい”メロディラインが、これまでと違う軽やかな印象になっていることがとても鮮烈です。
 「僕自身も大成功だと思っています。バンドに加えて今回のような、全然違うフォーマットもできる“二刀流”になりました。新しいことができて自分でも嬉しいですね」
――なるほど。新しい世界が生まれましたね!
 「特に今回はみんな心配してくれていると思うし、実際、賛否両論あってもおかしくないアルバムですね。みんなもっと冷たい、無機的なものを想像するのかもしれない。ポップさが消えちゃうっていうか。むしろ、ポップさは強調したと思います」
――松尾さんの“ポップさ”にはヴォーカルの甘さもあると思いますが、近年は苦みも混ざってきたというか、まるでヴィンテージ・ギターの音色のようですね。
 「昔は“郷ひろみみたいだ”ってよく言われたんですけどね(笑)。ヴォーカルのことって実は全然考えてなくて、もともとあんまり興味がないのに結果的にヴォーカリストになっちゃった(笑)」
――そうなんですか?!
 「歌ってくれる人がいなかったから、歌ってただけ(笑)。昔は、今と違って簡単に音楽を始められる時代じゃありませんでしたし。僕は理系の大学に入ったのに、全く弾けないピアノを買ってしまうほどだったんですけど(笑)、動き出したのはビートルズが解散したあと。そのころは、デヴィッド・ボウイロキシー・ミュージック10ccとか、イギリスの音楽が一番パワフルで華やかだった。ビートルズの撒いた種が花開いた時代のモダン・ミュージック。ビートルズの解散で逆に、みんなが立ち上がったんじゃないかな。当時の音楽のポップさみたいなものに一番影響を受けていますね。今回の挑戦も“音楽をやりたい、やらなきゃ”って思った時の気持ちに重なって、原点回帰というか。だからCINEMA初期の感じがこのアルバムにあるかもしれないですね。最初、さえ子さんにもちょっと相談したし」
――なんておっしゃっていましたか?
 「エレクトロニカってコード展開が実はあまりないから“そこは大丈夫なの?”って鋭いアドバイスをいただいて。最初僕はそんなに細かくわかってなかったから、そこから僕の持ち味である、メロディとコード展開を生かすことも考えました」
――鈴木さえ子さんならではのご意見ですね。このアルバムのライヴも楽しみです。
 「いままでとは全然違うから、どうやって演奏するかは考え中ですね。かっこいいドラムとヴォーカルでも参加してくれたさえ子さんにもぜひ登場してもらいたいです」
取材・文 / 服部真由子(2018年8月)
Live Schedule
『All the World is Made of Stories』
発売記念トーク&ミニライヴ


2018年10月19日(金)
東京 新宿 dues
開場 19:00 / 開演 19:30

[参加方法]
ディスクユニオン対象店舗にて松尾清憲『All the World is Made of Stories』(CDSOL-1811)をお買い上げのお客様に先着でイベント参加券を配布。

[対象店舗]
新宿日本のロック・インディーズ館(BF) / 昭和歌謡館 / お茶の水駅前店 / 神保町店 / 下北沢店 / 吉祥寺店 / 中野店 / 立川店 / 町田店 / 高田馬場店 / 池袋店 / 横浜関内店 / 横浜西口店 / 千葉店 / 柏店 / 北浦和店 / 渋谷中古センター / 大宮店 / 大阪店 / オンラインショップ

※お問い合わせ: ディスクユニオン営業部
03-3511-9931(平日10:00〜19:00 土日祝日を除く)
jpop@diskunion.co.jp
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 中国のプログレッシヴ・メタル・バンド 精神幻象(Mentism)、日本デビュー盤[インタビュー] シネマティックな115分のマインドトリップ 井出靖のリミックス・アルバム
[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く
[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん
[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催
[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表[インタビュー] YOYOKA    世界が注目する14歳のドラマーが語る、アメリカでの音楽活動と「Layfic Tone®」のヘッドフォン
[インタビュー] 松尾清憲 ソロ・デビュー40周年 めくるめくポップ・ワールド全開の新作[インタビュー] AATA  過去と現在の自分を全肯定してあげたい 10年間の集大成となる自信の一枚が完成
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015