――日本は初めてだそうですね。行ってみたい場所はありますか? 「秋葉原に行ってみたいわ。“ナード(オタク)・ストリート”だって聞いたから(笑)。電化製品の新しいものも見たいし」
――機械には強いほうなんですか?
「そうね。子供の頃からレコード・プレイヤーで遊んだり、カメラを持ち歩いたりしていたわ」
――じゃあ、機材を改造したりも?
「改造というより、いろんな実験をするの。ハープの弦に紙を通してみたり、コンデンスマイクを水につけて音を拾ってみたり。どんな音が出せるのか、いろいろ試してみるのよ」
――今回のアルバムでも、そういった実験をしているのですか?
『Choose Your Own Adventure』
「どちらかというと、ファースト(『Choose Your Own Adventure』2010年)のほうが実験的な音が入っていたわ。今回はシンセで気に入った音があって、それをよく使っていた。そういえば〈Successive Mutations〉という曲で、スプレー缶を吹きつける“シューッ”っていう音が入っているけど、それは意図的に入れたんじゃなくて、たまたまスタジオの近くで作業していた音が入ってしまっていたの。後で気付いたけど、気に入ったからそのまま入れることにしたのよ(笑)」
――幸運なアクシデントですね(笑)。ファーストではいろんな実験をしたそうですが、今回のアルバムは生音を中心にしたオーガニックなサウンドが印象的です。それは意識したことだったのですか?
「そうよ。自分のクセでつい音を重ねてしまいがちだから、今回はそれをちょっと抑えて、楽器も決まったものを使うことでアルバムにまとまりをもたせたかったの」
――アルバム全体に60年代ソウルやジャズのフィーリングを感じますが。そういったサウンドのどんなところに惹かれますか?
「ヴァイブスだったり、歌詞だったり。楽器にしても、ヴォーカルにしても、ソウル・ミュージックというだけで、すごくしっくりくるものがあるの」
――そういった音楽を聴くようになったきっかけは?
「一番上の姉がヴァイナルを集めていて、その影響がいちばん大きいと思う。小学校の頃から聴いていたわ。まわりの友だちはもっとモダンな音楽を聴いていたから、ちょっと浮いてたかもね(笑)」
――『セサミ・ストリート』で使われていたポインター・シスターズ「Pinball Number Count」のカヴァーが収録されていますが、子供の頃から好きな曲なのですか?
「ええ。自分にとってはすごく身近な曲で、ライヴでもよくやっていたの。この曲は私が面倒見ている子供たちを集めてレコーディングしたの。子供たちにそれぞれ違った拍子で数を数えさせたりして大騒ぎだったけど、すごく楽しかったわ。ただ、子供たちは自由奔放にエネルギーを爆発させるけど、大人たちが恥ずかしがって(笑)。“面白い声を出してみて!”って頼んでも、照れてなかなかやってくれなかった」
――ちなみに、あなたはどんな子供だったんですか?
「どうしようもないクソガキだったわ(笑)。学校でも変わり者扱いだった。でも、変わり者だと思われることで、自由に振る舞えたし、自分であり続けることができたと思う。嫌なことを言われた時はウィットとユーモアで返したり、自分が変っていることを前向きに捉えることが大切だと思うわ」
――お祖父さんが奇術師で、お父さんがモノマネ芸人という家庭環境も、ちょっと変ってますよね。
「父親はよく芸をして私を笑わせてくれたし、ブラジル音楽が大好きで私にギターの弾き方を教えてくれたの。祖父は実際に会ったことはないけど、祖父が残した奇術の道具や衣装が家に残っていて噂はいろいろ聞いたわ。晩年はUFOに興味を持っていたらしくて、それで一度、新聞に載ったこともあるのよ。その記事は今でも残っているけど、祖父は車体の一部がへこんだ車と一緒に写真に写っていて、車にUFOが当たってへこんだと主張してるの(笑)。私のちょっとコズミックなサウンドと祖父のUFOへの興味がリンクしているみたいで面白いわね」
――そういえば、今回のアルバム・タイトル『エスカポロジー(=縄抜け術)』はお祖父さんの脱出芸からとられたそうですね。そこで最後の質問。いろんなことに行き詰まって“ここから脱出したい!”と思った時、あなたならどうしますか? 「旅をするのはいいかもしれないわね、新しい価値観が生まれるから。〈Successive Mutations〉はブラジル旅行にインスパイアされた曲なの。それまで人生や恋愛やいろんなことに悩んで思わず頭を丸坊主にしたこともあったけど、ブラジルを旅したことで価値観がリフレッシュされたわ。旅ができない時は、やっぱり音楽。音楽にのめりこむことで、別世界に行くことができるの」