ジャズ、オルタナ、R&Bをはじめ国内外、さまざまな年代の音楽を自由に吸収し、際立った独創性、奔放な実験性、色彩豊かなポップネスを併せ持った楽曲へと昇華。和声、メロディ、音の位相、アレンジ、そしてジェンダーレスな手触りの歌声を含め、一聴した瞬間から、その圧倒的な新しさに驚かされるアンファンテリブルが登場した。
その名はMeg Bonus。君島大空、CRCK/LCKSなどを擁するレーベル、APOLLO SOUNDSから登場した、野本慶(vo、g。key etc.)によるソロ・ユニットだ。
20歳になる2ヵ月前にリリースされた1stフル・アルバム『New,Man』には、配信シングル「喝采」「Jet」「春になれ」「Vitaminc」を含む11曲を収録。鋭利なギターが空間を切り裂くオルタナ系ナンバー「?Rof」から、詩情豊かなメロディと美しい日本語の響きが共存する「魔法」などの楽曲からは、彼の才能がさらに拡張し続けていることがはっきりと伝わってくる。
アーティスト/音楽家としての道を歩み始めたMeg BonusにCDジャーナル初のインタビュー。どんなに尖ったヤツかと待ち構えていたのだが、取材の場に現れたのは、穏やかで爽やか、そして、音楽へのディープな愛を持った19歳の少年だった。
――1stアルバム『New,Man』、素晴らしいです。
「ありがとうございます。すごくうれしいです」
――音楽的な多様性、ソングライティングの独創性、サウンド・メイクの個性を含めて、「19歳でこんなすごいものが作れるのか」と驚きました。音楽に興味を持ったきっかけは何だったんですか?
「母親がクイーンが好きだったり、父親もギターを弾いていたり、小さい頃からいろんな音楽を聴いていました。小学生のときにサブスクを使うようになって、そこからはさらに雑多に聴くようになって。King Gnuやヨルシカ、ずっと真夜中でいいのに。とかからはじまって、どんどん掘っていって。レディオヘッドとかのオルタナだったり、フランク・オーシャン、Odd FUTUREとか。高校になるとボン・イヴェール、ブラック・ミディ、フライング・ロータスなど本当にいろいろ聴いていました」
――音楽を習ったりはしてなかった?
「小3から合唱団に入っていたので、そこで和声の感じを覚えたのかもしれないです。といっても、絶対音感とかじゃなくて、“外れてるのがわかる”くらいですけど(笑)。高校のときに音大に行くためにピアノをちょっと習ったんですけど、クラシックのピアノが苦手で。声楽科に進んだんですけど、1年の夏で辞めてしまいました」
――作曲はいつから始めたんですか?
「作り始めたのは高1の終わりです。軽音部に入ってギターをはじめたんですけど、“オリジナル曲を作らないと文化祭に出られない”ということだったので作り始めたんです。でも、顧問の先生や先輩にコメントをもらわなくちゃいけないのが嫌すぎてすぐ辞めちゃったんです(笑)。そこからは一人で打ち込みで作り始めました」
――Meg Bonusの楽曲には先鋭性とポップ感が絶妙に混ざっていて。その感覚はどこから来ていると思いますか?
「本当にいろんなものを聴いてきたので、その影響が出ているんだと思います。中学のときはクリープハイプやマカロニえんぴつなどが流行っていて、給食の時間に流れていたんです。そういうポップなJロックもいいなと思っていたし、今聴いても好きだし。そういう音楽も摂取してたから、それも(オリジナル曲に)出てるんじゃないかと思ってます」
――基本的に歌モノだし、歌うのは好きなんですよね?
「そうですね。でも、最近は作るほうが楽しいというか、自分以上に自分の作る曲に合う声の人がいたら、その人に歌ってもらってもいいなとも思っています。自分の曲をもっとうまく歌えるシンガーがいるはずだと思っていて。ただ“自分で歌っているから形になっている”という部分もあるんですよね。今回のアルバムもそうですけど、曲によってサウンドの感じが違うし、自分が歌うことでまとまっているというか。フランク・オーシャンの『ブロンド』とか、タイラー・ザ・クリエイターの『CHROMAKOPIA』とかはそのへんすごいなと思いますけど」
――どちらもいろいろなゲスト・ヴォーカリストが参加してますからね。昨年10月に1st EP「18PERSONAL」をリリース。こちらもAPOLLO SOUNDSからのリリースでした。
「自分でAPOLLO SOUNDSに音源を送ったんです。君島大空さんがすごく好きだし、DTMP(常田大希のソロ・プロジェクト)もよく聴いていて。以前一緒にやっていたドラムの子もCRCK/LCKSが好きだし、APOLLO SOUNDSからリリースしたいなと思って。そうしたらレーベルの方が興味を持ってくれて。〈18PERSONAL〉はもともと自分で作っていたデモ音源をもとにしているんです。18歳までに作った曲ばかりだったので、このタイトルにしました」
――アルバム『New,Man』の収録曲は、「18PERSONAL」のリリース以降に作った曲が中心なんですか?
「そうですね。(配信シングルの)〈喝采〉だけはかなりラフな状態で以前からあったんですけど、それ以外はEPを出してから作った曲です」
――半年足らずで10曲作ったんですか?
「そうですね。本当は最初、もう1枚EPを出すという話だったんですけど、10代のうちにフルアルバムを出したくて、ギリギリ滑り込みました。アルバムの最後に入っている〈魔法〉は当初ぜんぜん違う感じだったんですけど、“これが10代最後の曲になるのは違うな”と思って、タイトルだけ残して、全部作り直して。締め切りまで1週間だったからヤバかったです」
――半年足らずでこれだけのクオリティを揃えられるとは……。冴えていた時期だったんですね。
「モードには入ってましたね」
――収録曲についてもいくつか聞かせてください。「喝采」はファルセットを活かした歌が印象的な、美しい多幸感が広がるミディアム・チューンです。ギター、ピアノ、サックスの絡み方も斬新ですが、どんなイメージで制作したんですか?
「この曲を作った頃、『大豆田とわ子と三人の元夫』のサントラとか坂東祐太さんをよく聴いていて“こういう感じで作ってみたいな”と思っていました。あとはジェイコブ・コリアとかニーナ・シモンの感じも入ってるかも。作り方としては、ピアノのコードと歌、ラフなベースとサックス、ドラムを入れてデモを作って。楽曲の展開は……なんとなくです」
――なんとなく(笑)。やっぱりいろんな音楽の要素が入ってるんですね。
「このアルバムは、10代で好きだったものを全部詰め込むというのがテーマなので」
――それを一人で作り上げようと。
「一人だから作れたところもあると思うんです。誰かの意見が入っていたら違っただろうし、バンドで作っていたらたぶんケンカしちゃってるんじゃないかなって思います」
――確かにそうかも。すでにライヴで披露されている「Vitaminc」はR&B系のトラック、ややレイドバックしたヴォーカルを軸にした楽曲です。
「これはトラックが先です。最初は英語の歌詞を乗せようと思ってたんですけど、うまくハマらなくて。今までは英語の歌詞のほうがメロディが出てきやすいから、英語で書くことが多かったんです。でも〈Vitaminc〉はうまいくいかなくて、試しに日本語でやってみたらハマったんです」
――アルバム『New,Man』の楽曲は日本語の歌詞が多めですよね。
「やっぱり日本語のほうが感情を乗せやすいし、日本語が話せるというアイデンティティは使ったほうがいいなと思いました。〈Vitaminc〉はそれがうまくいった最初の曲かもしれないです」
――先ほども話に出ていた「魔法」は歌詞の内容も素晴らしくて。“夜を埋める言葉はなくていい 朝がくるなんて思わなくていい”という。
「詩が好きなんです。詩だけで書くことはほぼないんですけど、曲を作るときに言葉をメモして、それが詩みたいだなと思うことがあって。それを歌とリンクさせるような感覚もあります。自分のなかでは歌詞は“心情”よりも“情景”に近いんです」
――リード・トラックの「春になれ」は、Meg Bonusのポップな側面がストレートに反映された楽曲。
「リードっぽい曲を作ろうと思って作った曲です。もちろん自分が納得できるもの、好きなものが入っているし、よく聴くとオルタナなところも入っているのかなと思います。音楽にあまり詳しくない人に〈春になれ〉を聴いてもらうと、“逆再生の声が怖い”とか“ドラムがうるさい”って言われたりするんですけど(笑)」
――この曲はドラマー(椿 三期)が参加してるし、サウンド的にはかなり攻めてますからね。そのあたりのバランスは難しいと思いますが。
「そこはまだわからないですね。これ以上ポップにするといろいろ失いそうな気もするので、〈春になれ〉はギリギリのラインなのかなと思っています」
――さらに「?Rof」は鋭利なオルタナティブ・ロックのテイストを反映した楽曲です。
「〈?Rof〉はもともと〈For?〉とつなげて〈For/roF〉という曲にしよう思ってたんです。でも“つながってる感”があまりなくなって、二つに分けました(笑)。この曲を作っていたときはスロウタイやイヴ・トゥモアを聴いていた時期だったので、パンクっぽくなったのかもしれないです」
――本当に“10代のうちに好きだったもの”が詰まってますね。『New,Man』というタイトルについては?
「今まで好きだったもの、自分の趣味を全部入れようと思ったときに、いちばんノスタルジックな気持ちになったのがディズニーの音楽だったんです。家族もすごいディズニー好きで、家でもよく曲が流れていたんですけど、たとえば『モンスターズ・インク』のジャズの感じが超カッコよくて。その作曲者のランディ・ニューマンから“ニューマン”って響きがいいなと思いついてタイトルにしました(笑)」
――ランディ・ニューマンが由来だったとは(笑)。てっきり“新しい人”、新しい音楽や価値を提示していくという意味かと。
「“ニューマン”を思い付いた30秒後くらいに“新しい男”だなって思いましたけどね(笑)」
――もちろん「いいアルバムができた」という手ごたえはありますよね?
「そうですね。作っていくなかで“雑多な感じなってるな”という感じがあったし、“ずっと同じ匂いのアルバムではないね”という話はエンジニアの方ともしていて。自分の現時点での趣味を詰め込むことはできたと思うし、もっと良くできるなという部分は次に活かしていけたらなと思っています」
――音楽家としての将来的なビジョンは?
「音楽で生活できたらいいなと思っていますけど、生活のために音楽を作るのは違うのかなとも思っています。プライドを持って、自分が好きな音楽でやっていきたい。目標を決めると、それを達成したときにやる気がなくなってしまいそうなので(笑)、全部が通過点というつもりでいます」
――ライヴに関してはどうですか?
「リキッド(恵比寿LIQUIDROOM)でやってみたいです。STUIDO COASTがいちばん好きだったんですけど、なくなってしまったので。最後、ペトロールズを見たんですけど、めっちゃいいハコでしたよね」
――大きいところでやりたい! みたいな気持ちはない?
「あまりないかもしれない。King Gnuのライヴハウス・ツアーに行ったんですけど、常田さんはスターじゃないですか。憧れはあるんですけど、自分はもっと内省的なのかなと思っていて。ロック・スターにはなれないし、なりたくないですね」
――目指すべきロール・モデルもなさそうですね。
「フランク・オーシャンはいいなと思ってますけど。前に出すぎることがなくて、プロデューサーみたいな立場なんだけど、明らかに1本芯があって、すごいオーラがある。あの存在感は理想です」
取材・文/森 朋之