ソウル、ジャズ、ブルースなどのテイストを生々しく融合したバンド・サウンド、心地よく、奥深いグルーヴと日本語の良さをたっぷり体感できる歌。名古屋を中心に活動している5人組バンド、Melting potが1stアルバム『YURERUFLOOR』をリリースした。
ヴォーカル/オルガンのサカイショウイチを中心に、名古屋のバンド・シーンで活動していた面々により結成されたMelting pot。バンドの成り立ちからアルバム『YURERUFLOOR』に至る経緯をサカイに語ってもらった。
――Melting potの結成は2017年。サカイさんは当初、どんなバンドを作ろうと思っていたんですか?
「YOUR SONG IS GOODや思い出野郎Aチーム、(音楽レーベル)カクバリズムのバンドがすごく好きで。愛知にはカクバリズム・フォロワーみたいなバンドがそんなになかったので、“やってみようかな”と思ったんですよね。僕自身はRCサクセション、忌野清志郎さんも好きで、ソウル、リズム&ブルースみたいなエッセンスを感じる音楽をやりたいという気持ちもありました」
――RCサクセションはもちろんリアルタイムではないですよね?
「そうですね。でも僕、清志郎さんと会ったことがあるんですよ。小学校の頃に清志郎さんが“ラフィータフィー”で地元のライヴハウスに来て。チケットは取れなかったんですけど、とりあえず会場に足を運んでみたら、清志郎さんたちが自転車でやってきたんです。思い切って“チケット取れなかったんですけど、来ました”って話しかけたら、優しく握手してくれたんです。そのとき“音楽をやってる人って優しいんだな”って思って。僕は優しい人間になりたかったから、“やっぱり音楽やりたいな”と思いました」
――優しくなるために音楽をやろう、と。小さい頃から音楽は好きだったんですね。
「そうですね。父親がビートルズやキャロルが好きで、スリー・コードのロックンロールをよく聴いていて。僕はおぼろげにしか覚えてないんだけど、リズムを“裏”で取ってたみたいで、それを見た親がすごく喜んでたっていう(笑)。そのせいかわからないけど、いろんな音楽を聴かせてくれました。その後、日本のロックに興味を持って。60年代のグループ・サウンズ、ザ・テンプターズやザ・タイガースからはじまって、ザ・ダイナマイツ、村八分と聴いていくなかで、中学生の頃にブルーハーツの再評価があったり、自分たちの周りでGOING STEADYが流行ったりして、そこからパンク・カルチャーにも興味を持ったり。〈ユアソンのサイトウ“JxJx”ジュンさんはFRUITYっていうスカ・パンク・バンドをやっていたらしい〉みたいなことも知って、その文化を遡ったり」
――なるほど。Melting potの曲を聴くと、フィッシュマンズの影響もあるのかなと思ったのですが。
「大好きです。でも、フィッシュマンズを聴いたのはわりと最近なんです。ドキュメンタリー映画(『映画:フィッシュマンズ』)を見て、号泣しちゃって。そこからいろいろとフィッシュマンズの曲を聴くようになりました」
――フィッシュマンズの茂木欣一さんも、めちゃくちゃいい人です。
「やっぱりそうなんだ。……って、こういう音楽をやっているひとの話をするのもすごい好きなんです(笑)。それが音楽をやっている理由の一つかもしれないです」
――Melting potを結成する前は、愛知のパンク・シーンで活動していたとか。
「そうです。パンク・カルチャ―のDIY精神がすごく好きだし、パンク・シーンの人たちって、こっちからアプローチするとすぐに拾ってくれたり、一緒にやろうよって言ってくれる度量の深さがあるんです。僕みたいに急にバンドを始めた人間にも優しく接してくれるというか。ただ、前にやってたバンドもパンク・ミュージックとはちょっと違っていたし、“浮いてるかも”と感じることもありました。なので、Meliting potを組んで、“こういうバンドです”とわかってもらえる作品を作りたいと思うようになったんです」
――なるほど。メンバーのみなさんはもともと知り合いだったんですか?
「パンク・シーンのなかで共演したり、出会った人たちです。“僕と一緒にこういう音楽をやりませんか?”と声をかけていきました」
――トロンボーン奏者(早川 拓郎)がメンバーにいるのもポイントですよね。
「どうしてもトロンボーンが欲しくて、知り合いのツテを辿って、早川さんに入ってもらったんです。ユアソンやSAKEROCKにトロンボーン奏者がいるっていうのもあったし、トロンボーンって、人間の声にいちばん近い管楽器らしいんですよ。なので歌とも相性がいいのかなと思って」
――早川さんのトロンボーン、かなり歌ってますよね。ソリストみたいな立ち位置というか。
「そこはわりと意図的なところがあるんです。バンドに“なじむ”というより、“俺が俺がで吹いてほしい”というのは、事あるごとに言ってます。それもパンク・カルチャ―から学んだことかもしれないけど、“俺がやらねば、誰がやる”みたいな精神性が好きなんですよ。それぞれが好きなことをやるほうがバンドっぽいし、それが面白いところだと思うんです」
――本当にバンドというスタイルが好きなんですね。
「好きですね!お笑い芸人が楽屋で仲良さそうにしてるのを見るだけでグッと来ちゃうんですけど(笑)、バンドのメンバーが内輪でしかわからないような感じで会話しているのを聞くのも好きだし、熱くなっちゃう。自分たちのアルバムを聴いて、“自分もバンドやりたいな”と思う人がいるといいなっていう気持ちもあります」
――では、アルバム『YURERUFLOOR』について聞かせてください。バンド結成から約6年が経っていますが、収録曲はどうやってセレクトしたんですか?
「メンバーで集まって曲を作り始めて、1年くらいはずっとスタジオに入ってたんです。2018年からライヴをはじめて、レパートリーとして定着した曲から厳選した感じです」
――バンドの音楽性が定まってきた、きっかけになった曲は?
「6曲目の〈Community〉かな。ジャンプ・ブルース的な曲調なんですけど、その頃、吾妻光良&The Swinging Boppersをよく聴いてて。“こういう感じでやれないかな”と思って作ったのが〈Community〉。それが形になったときに、“この編成だったら、やりたいことが具現化できるかもしれない”と思いました」
――アレンジは実際に音を出しながら作ってるんですか?
「そうです。作詞・作曲は僕がやっていて、弾き語りで作ったデモをメンバーに共有して。自分の頭の中にあるものを説明したら、あとは各々のパートに任せる感じです。そこで細かく指示してしまうと、バンドでやってる意味がないので。全員が持っている引き出しをみんなで共有したいんです」
――それがだんだんといい感じに混ざってきたと。
「混ざる過程も面白いんです。“だんだん僕の頭の中の音に似てきたぞ”とか(笑)。もちろん想像を超えることもあるし、ちょっと違う感じになっても、それはそれでよくて。スタジオでやっているのが楽しいんですね、僕は(笑)。頭の中にあるもので完結していいんだったら一人でやったほうがいい。そうじゃなくて、やっぱりバンドがやりたいんです」
――メンバー同士の考え方の違いとか、そういうことは気にならない?
「前にやってたバンドではいきなりメンバーが抜けちゃったり、活動が停滞することもあったり、揉めたこともあったけど、そういうことも忘れちゃうくらい、“バンドって楽しいな”というのが鮮明に残ってるんです。バンド・マジックというか、ワクワクさせられる何かがある。どっちに転んでも、仮にその日の演奏がよくなかったとしても、ワクワクできた時点で120点なんです」
――素敵です!リード曲「Don't Leave Me Alone」は、題名通り、ひたすら“一人にしないで”と歌ってますね。
「はい(笑)。妻が“ポケモンGO”にハマってた時期があって、“やることないな”“つまんないな”と思って(笑)。この経験や感情をただ浮かばせておくのはもったいないぞと思って、書き殴ってみたのがこの曲の歌詞です」
――ちょっと情けない感じがいいですね。そういうことを素直に表現できるって、素晴らしいと思います。
「よかった。男性でも女性でも、“さみしい”とか“つまんない”って言っていいんじゃないかな?と思ってます。筋肉量とか体質的な違いはあるけど、精神的な部分、価値観は性別という枠に捉われなくてもいいんじゃないかって」
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――タイトル・トラックの「YURERUFLOOR」はまさに揺れるようなグルーヴが心地いい楽曲。
「じつはこの曲、ライヴで演奏したことがなくて、レコーディング・セッション中にできた曲なんです。今話したことにもつながるかもしれないけど、細分化する価値観のなかで、正解というものが目まぐるしく変わってるじゃないですか。そこに安心感を覚える人も当然いるだろうし、逆に今までの一般常識に寄り添って歩んできた人は、つらい思いをしているのかなと。僕としては“どっちもOKじゃん”って思うんだけど、たぶん多くの人が揺らぎながら生きているような気がして。“そのことを書いておかないとマズいな”と思って作ったのが、〈YURERUFLOOR〉なんです。とくにメッセージがあるわけではなくて、僕はただ“音楽が楽しい”っていうだけなんですけど。価値観が揺れてる感じが音楽のノリとリンクしたら、悲観的に捉えるのではなくて、楽しく進んでいけるかもしれないなと思って」
――なるほど。「YURERUFLOOR」にはジャズのテイストもありますが、ジャズも以前から聴いてたんですか?
「ハモンドオルガンをはじめたのは20歳のときなんですけど、ちょうどその頃にオルガン・ジャズみたいなジャンルの名盤をずっと聴いてたんです。それが自分のなかに浸透してるのかもしれないです」
――ハモンドオルガン以前に、何か鍵盤楽器はやってたんですか?
「いえ全然!やっぱりユアソンの影響なんですけど、“バンドやるんだったら、オルガンを入れたいよね”と思って。僕、両親にモノをねだったことがなかったんですけど、“オルガン買いたいから、お金貸してください”ってお願いしたんです。何も言わずにパッと貸してくれて、すごくありがたかったです。あ、もちろんお金はちゃんと返しましたよ(笑)」
――「The Letter」はまさにライヴ感にあふれたアッパーチューン。もちろん“オーディエンスを盛り上げたい”という気持ちもある?
「そうですね。僕はバンドをやるようなタイプに見えないかもしれないけど、根はお調子者で、祭り上げられるとハシャいじゃうところがあるんです。テンポの速い曲をライヴで演奏しながらハシャいでると、お客さんも喜んでくれる。そうやって楽しんでくれるんだったら、それでいいと思ってます」
――せっかくだから神輿に乗っちゃおう、と。
「神輿に乗せられたのにハシャいでなかったら、神輿を担いでくれてる人たちに申し訳ないので。さっきも話しましたが、曲を作って、スタジオに入ってるだけで、自分のなかの音楽活動の夢は叶ってるんです。でも、“アルバムを出そうよ”と言ってくれたレーベルの方だったり、こうやってインタビューしてくれる媒体の方々に対して、“いや、僕はスタジオワークで満足してるんで”なんて言ったら身も蓋もない。ありがたいことに楽器が弾けて、バンドをやってるので、それをうまく活かしたほうが人生楽しいですから」
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――もう一つのリード曲「SHINE A NIGHT BEAT」は、メロディ・ラインが素晴らしいなと。
「ありがとうございます。僕も素晴らしいと思ってます(笑)。この曲もアルバムを作ることが決まってから書いた曲なんですよ。けっこう下積みが長かったし、陽の目を見るタイミングをことごとく逃してきたので、幅広い人に聴いてもらえるような曲を書いてみようと思って書いた曲です。しかもこの曲、7インチ・シングルを切ってもらえることになって。みんなに聴いてもらえたらうれしいです」
――どの曲もしっかり歌があるし、リスナーを置いてけぼりにしない音楽だと思います。
「そう言ってもらえるとうれしいです。歌に関しては……清志郎さんも歌詞の力が強くて、言葉の力をすごく信じている人だなって思うんです。そういうところは自分も体現していきたい」
――サカイさん自身も言葉の力を信じている、と。
「そうですね。今はどちらかというと、短い言葉だけを切り取って、前後の文脈を置いていってしまうことが多いと思っていて。そこからイザコザや争いにつながることも増えているし、それはたぶん、言葉の真意を読み取る時間や余裕がないんだろうなと。効率性を追求しすぎている時代の弊害ですよね」
――確かにそうですね。
「たとえば辛辣なことを言っていても、その前後にちょっと優しさや愛が見えたら、受け取り方も変わってくる。そういう灯りみたいなものを信じていかないと、人と人は仲良くなれないと思うんです。言葉の力をもっと信じたほうがいいし、疑ったほうがいいんじゃないかなって思います」
――“タイムパフォーマンス”みたいな言葉が流行ってますからね、今は。そういう意味ではバンドってすごく手間がかかるし、コスパも良くなくて。
「そうですね(笑)。でも、カルチャーってもともと、効率の悪さが美学だったりするじゃないですか。一つの作品を具現化するために費やした時間も愛しいというか、かけた時間の分だけ思い出せることが増える。それを短縮してしまったら、何が残るんだろうって気がするんです。僕の考え方が時代錯誤なのかもしれないけど、人生100年あるんだったら、そんなに焦らなくてもいいんじゃないのかなって思います」
――アルバム『YURERUFLOOR』も長く愛される作品になると思います。今後の展開は?
「まだまだ曲のストックはあるので、レーベルの方が神輿に乗せてくれるのであれば(笑)、がんばって作ろうと思います」
――フェスにも似合うバンドだと思うので、ライヴもぜひ増やしてほしいです。
「フェスは出たいですね。ただ、日焼けするとすぐに肌が赤くなっちゃうんで、そこだけ気をつけて(笑)、フェスに出てみたいですね!」
取材・文/森 朋之