ベーシスト脱退を経て生まれ変わったMEW――この3人だけが紡ぎ出せる“美しい瞬間”、そこにある振れ幅の広いエモーション

MEW(Denmark)   2009/08/25掲載
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ベーシスト脱退を経て生まれ変わったMEW――この3人だけが紡ぎ出せる“美しい瞬間”、そこにある振れ幅の広いエモーション
 デンマークを代表するバンドとして、ワールドワイドにその才能を認められたMEWが、3年ぶりとなる最新アルバム『ノー・モア・ストーリーズ...』を完成させた。“今日これ以上話すことはない/ごめんなさい/洗い流されてしまった/もう物語はいらない/世界は灰色/疲れはてた/洗い流してしまおう”という長くて暗い原題がついている一方、ジャケットの絵はカラフルでどこかユーモラスな仕上がり。そんな相反する心情を幾重にも織り込んだような楽曲は、複雑でありながらも決して難解にはならない、極めてユニークなものだ。聴き返すたびに表情を変えていく深遠さを持ったサウンドは、かのトレント・レズナーをも魅了したようで、MEWは今夏のナイン・インチ・ネイルズのツアー・サポートに抜擢されている。

 サマーソニック2009の会場で、ギタリストのボウ・マドセンに新作についていろいろと訊いてみた。


――最新作は、まずユニークなジャケットの絵に目を引かれますが、あなた自身はこれについてどう思っていますか?
ボウ・マドセン(g/以下同)  「最初このアートワークを見た時には、思わず笑っちゃったね。もちろんいい意味でだよ。タイトルの方が物悲しい雰囲気を持っているから、この2つを組み合わせることによって今作の持っている感情の振れ幅を表わすことができると考えたんだ。この絵が意味することについては、リスナーそれぞれが自分なりに解釈しながらイメージを広げてもらえたらうれしいんだけど、ひとつだけ言っておくと、作品全体としては“誕生”というテーマがあるかもしれない。というのも、自分たちは今回のアルバムで生まれ変わったという意識があるからね」
――“悲しい”とか“楽しい”といった単一のエモーションでなく、それらが入り交じった複雑な感情をMEWの音楽として表現したいと思った理由は何でしょうか?
 「なんというか、自分たちは、バランスをとろうとしているんだ。なるべく大勢の人々に向けて音楽を作りたいのと同時に、聴く人に対してチャレンジングなものを提供したい。だから単に分かりやすくて聴きやすいだけの音楽ではなく、そこにもう少し複雑な、知的な好奇心を刺激するようなものを取り込んでいきたいんだ。そのうえで、できるだけ多くの人へ作品を届けて、同じような経験を持つ人たちと大きなファミリーを作りたいね。人生経験というのは人それぞれいろんな感情を含んだ複雑なもので、それでも根底にあるものはシンプルだとも思うし」





――そんな今作では、過去の作品と比べて曲の書き方も変わってきたのでしょうか?
 「そうだね。さっき、バンドとして生まれ変わったと言ったけど、それはつまり、ベーシストがいなくなったせいで、以前までとは違う曲の作り方とか、新しいアプローチに挑戦しなければいけなかったというのもあって。もともとのアイディアを用意したのが自分だとしても、仕上げる時はみんなでジャムりながら完成させることが多かったし、そういう場面でベースは重要な役割を担っていたからね。ベースって、その曲を決定づけ、がらっとムードを変えてしまう楽器だからさ。ただ今になって思えば、それもバンドが前へ進んでいくために必要なことだったんだよ」
――では、今作に収録された複雑な楽曲が、どんなふうにして生み出されたのか、具体的な作曲プロセスについて教えてください。
 「パズルみたいにいろいろなパートを組み合わせてみて、どれが一番うまくぴったりハマるか試していくんだ。たとえば2曲目の〈イントロデューシング・パレス・プレイヤーズ〉に関しては、最初の部分は僕とスィラス(・グレイ/ds)のセッション、その後の展開は全員で一緒に作ったんだけど、そうやってジャムの中でできたものをたくさんキープしておいて、それらを“こう組み合わせたらどうか、あれをここに持ってきたらどうか?”という感じで、さまざまな組み合わせを試してみる。じつは、今作にはその過程でボツにした素材がものすごくたくさんあるんだ。それ自体がダメとか出来が悪いっていうわけではなくて、とにかく途方もないプロセスを続けていくうちに、自然に落ちていってしまうんだよね」
――わかりました。MEWは今後どういう方向へ進んでいくのでしょう?
 「僕らはこれまでもつねに、レコーディングの仕方や音楽の作り方に関して新しい可能性を試してきたけれど、この次は、単純にできた曲を録音するというのではなく、曲を作りながらどんどんレコーディングしていくという方法を試してみたい。だから次の作品は100%自分たち自身の手でプロデュースすると思う」
――ということは、ますます創作意欲が暴走した作品になりそうですね。
 「まあ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。自分たちとしては、3人が一緒にプレイしている瞬間に生まれる美しい瞬間を形にしたい――そのことだけを常に考えているんだ」







取材・文/鈴木喜之(2009年8月)
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