先日行なわれた第52回グラミー賞の最優秀トラディショナル・ポップ・ヴォーカル・アルバムを、ライヴ・アルバム『Michael Buble meets Madison Square Garden』で受賞したカナダのシンガー、
マイケル・ブーブレ。
トニー・ベネットや
ライザ・ミネリ、
ハリー・コニックJr.らを押さえての名誉ある受賞となった。そしてなにより、ライヴ・パフォーマンスが高く評価されての受賞というのが、彼らしい。日本での最新作
『クレイジー・ラヴ』は全米で第1位となり、ヨーロッパ・ツアーのチケットが57秒で完売するなど、世界で圧倒的な人気を誇る彼にインタビューした。
――日本で発売された最新アルバム『クレイジー・ラヴ』では、オーガニック・サウンドを重視したそうですね? 「僕がこれまで好きだったレコードも、コンピュータやトラックをたくさん使わないで作られたものだったからさ。
ビートルズ、
フランク・シナトラ、
エルヴィス・プレスリー、モータウン・レコーズ……すべてシンプルに作られていた。それはとてもオーガニックで生々しかった。時にはミスもあるかもしれないけど、それでもすごく美しいし、すごく心地よく感じられるんだ。僕は自分のCDを、すごく気持ちよく感じられるもの、本物でリアルに感じられるものにしたかったんだ」
――オリジナル・アルバムは今回で4作目になりますが、音楽性はどう変わってきたと感じますか?
「デビュー作
『マイケル・ブーブレ』は全部スタンダード曲だった。それがアルバム毎に進歩して、若々しくなって、僕という人間により近いもの、僕の年齢や僕が受けた影響により近いものになっていった。だって僕は1935年生まれじゃないからね。僕に多大な影響を与えたのは、
マイケル・ジャクソンであり、
AC/DCやビートルズ。シナトラとか、そういう音楽はその後で聴くようになったんだよ。だからポップスを融合したジャズをやるより、ジャズを融合したポップ・ミュージックを作るほうが、僕にとってはずっと自然なんだ」
――プロデューサーではボブ・ロックとの作品が増えましたが、彼との作業のどこを気に入っていますか? 「僕はボブの髪が好きなんだ(笑)。ギリシャ神みたいな金髪の持ち主なんだよ。それと、彼が優れたミュージシャンである点も気に入っているし、彼はあらゆるタイプの音楽を愛している。僕がボブと仕事し始めた時、皆にはちょっと驚かれた。
メタリカや
ボン・ジョヴィのアルバム、AC/DCとか
オフスプリングとか、数々の名バンドの作品で知られた人だったからね。でも実際は、彼もミュージシャンなんだ。仲の良い友人の一人だし、すごく一緒に仕事がしやすい。僕のヴィジョンを理解してくれたしね。僕たちが作った曲がNo.1になったのは、これで2度目なんだ。彼との作業は楽しいよ」
――そのボブ・ロックがプロデュースし、あなたが曲作りに参加した大ヒット曲「素顔のきみに(Haven't Met You Yet)」ですが、どのあたりをとくに気に入っていますか?
「メロディが歌詞を引き立てているところかな。この曲は、独り身の人たちのためのアンセムにしたかったんだ。みんなに、“その人”はいつかやって来るんだって信じてもらいたかった。来るべき時にね。だから前向きでハッピーでいれば、“その人”は現れる。そういう希望を出していくことって、クールなことだと思うんだ。人々がインスピレーションを得たり、自分たちの可能性にインスパイアされる手助けになるようにね。とても軽くて、フワフワした感じのハッピーな曲だよ。今までに僕が書いた中で一番好きな曲だな」
――ビデオ撮影中のエピソードはありますか?
「すごく楽しかったよ。僕のフィアンセ(ルイサナ・ロピラト、アルゼンチンの女優)が共演者だったし。この曲のインスピレーションは彼女だったから、ビデオに出てほしいと思っていたんだ。僕がビデオの中でありのままの自分でいられるように、とにかくのびのびと楽しめるように彼女に一緒にやってほしかった。本当に楽しくて、最初から最後まで最高だったよ」
――この曲を歌うことで、あなたは実際に婚約するなどハッピーになっているわけですが、この曲の魅力は何だと思いますか?
「<素顔のきみに>は人をハッピーにするために作られたんだと思う。すごくシンプルなポップ・ソングだけど、人々に喜びと希望を与えるものであってほしいと思うよ。今は誰にとっても大変な時代だからね。僕にはこれしかできないけど」
――今後のコンサートでチャレンジしたいことはありますか?
「あるけど、教えられない。日本で公演する時に、みんなを驚かせたいからね。僕がワイヤーで吊られてピーターパンみたいに飛ぶのを観るはずだよ。ああ今、言っちゃったね。しまった!(笑)」
――マイケルさんは歌のほかに俳優もやってますが、俳優業も続けていくつもりですか?
「うん、俳優もやりたいと思ってるよ。でも音楽キャリアのための時間を犠牲にしてまでやるつもりはないんだ。各国の僕を応援してくれている人たちのところへ行く時間はちゃんと確保したいから、3ヵ月もの映画の撮影は今の僕にはできない。そんなことをしたら、日本やオーストラリアや、どこかの国へ行けなくなるからね。その時が来たら、何か役をもらって、少しずつやっていくよ。それで皆が僕を受け入れてくれるのを願うよ。タフなことだからね。シンガーで俳優をやりたい人も、俳優でシンガーをやりたい人も、みんな苦労してる。誰もができることじゃないんだよね。だから僕もうまくやれるかもしれないし、やれないかもしれない。あとは……ずっとやってみたかったのは、飛ぶことなんだ(笑)」
取材・文/伊藤なつみ(2010年2月)