これまでWeb上での作品発表をメインとしてきた、ミック・ジョーンズ×トニー・ジェイムスのスーパー・ユニット“Carbon/Silicon”が、ついにCD作品としてフル・アルバムを発表! そのユニットの音楽性にちなんで、“ダンス×ロック”というスタイルを築いた時期に焦点を絞り、中心人物であるミック・ジョーンズの軌跡を紹介する。
ミック・ジョーンズ(本名マイケル・ジェフリー・ジョーンズ)は、英国のブリクストン生まれ(1955年6月26日)。祖母によって育てられたという彼のミュージシャンとしてのキャリアは、
クラッシュの前身バンドとして知られるロンドンSS(London SS/75年3月結成)からスタートした。彼とトニー・ジェイムスがメンバー募集の広告を出したことをキッカケに結成されたが、ライヴでプレイすることは一度もなく終焉。だが、その“幻のバンド”をキッカケに、幾多のプロセスを経て、クラッシュが誕生する。
クラッシュでは、バンド結成の76年から解雇される83年まで、リード・ギターとヴォーカルを担当。さまざまな音楽的要素を取り入れたクラッシュの、キャッチーとも言えるメロディは、彼の手によるところが大きいのは、誰しも認めるところだろう。
Big Audio Dynamite
*1984年〜
『THIS IS BIG AUDIO DYNAMITE』
1985年
Big Audio Dynamite II
*1989年〜
英国限定アルバム『KOOL-AID』
1990年
ライヴ・アルバム『ALLY PALLY PARADISO (The live official bootleg) 』(1991年)
ミニ・ライヴ・アルバム『オン・ザ・ロード・ライヴ'92』(1993年)
レア・コンピ『THE LOST TREASURES OF BIG AUDIO DYNAMITE I & II』(1993年)
Big Audio
*1994年
Big Audio Dynamite
*1995年〜
ベスト・アルバム『PLANET B.A.D. - GREATEST HITS』(1995年)
ネット限定アルバム『Entering a New Ride』(1997年)
クラッシュ脱退後の1984年には、映像作家でもある
ドン・レッツ、ベースメント5のレオ・ウィリアムス(b)、ダン・ドノヴァン(key)、グレッグ・ロバーツ(ds)とともに、
ビッグ・オーディオ・ダイナマイト(BIG AUDIO DYNAMITE/B.A.D)を結成。ヒップホップ〜ハウスまでをも飲み込んだダンサブルなロックが特徴で、ダンス・ミュージックとロックを融合させた先駆的グループとして知られている。
また、メンバー・チェンジを行なうたびにバンド名が変化することでも知られ、“ビッグ・オーディオ・ダイナマイト ⇒ ビッグ・オーディオ・ダイナマイトII(89年〜) ⇒ ビッグ・オーディオ(94年) ⇒ ビッグ・オーディオ・ダイナマイト(95年〜)”と、まるで“出世魚”かのように変化している。
クラッシュとはまた違った意味での雑多な音楽性で一部に高い支持を得ていたB.A.Dだが、97年頃から活動は停滞気味になる。これは、同年制作のアルバム『Entering a New Ride』がレーベルからリリースを拒否されたのが原因。この影響で、ミック・ジョーンズは音楽ビジネスにすっかり幻滅してしまい、長い沈黙の時期が訪れる。
沈黙期には、もともと興味があった映像製作や、リミックス・ワーク(ハリケーン#1、DeeJay Punk-Roc他)、プロデュース・ワーク(ザ・リバティーンズ他)などを行なっていたが、2004年になって、ミュージシャンとして原点をともにしたトニー・ジェイムスとネット上での作品発表を主にする新グループ、Carbon/Siliconを結成。
もともと97年には、先述のB.A.Dの“お蔵入り”アルバム『Entering a New Ride』を公式サイト上で公開するという、当時のネット界の状況からみて、相当早い“ヴァーチャル・アルバム”を発表(そういう意味でも先駆的!)していたミック・ジョーンズだが、Carbon/Siliconでは、さらにそれを発展させ、レコード会社やマネジメント、TV、ラジオなど、従来の音楽ビジネスに関わるシステムから離れ、ネットを通じてユーザーに新曲を届ける(しかも無料!)という活動を行なった。彼らの信念は、“無料でも曲が気にいればライヴに来てくれるはず”“ライヴが気に入れば、今度はCDも出してほしいと思うはず”で、そんな信念と地道な活動が実を結び、ついにCD作品としては初のフル・アルバムとなる『The Last Post』が10月に英国で発売される。
無数のアイディアを贅沢にちりばめた、ロックとダンス音楽が融合した本作は、クラッシュ〜B.A.Dと歩んだミック・ジョーンズと、
ジェネレーションX〜
ジグ・ジグ・スパトニックと歩んだトニー・ジェイムスの両巨匠が、これまでに歩んできたキャリアを凝縮させたかのような仕上がり。以前にも増して、自由な雰囲気が加速し、彼らの現在の充実ぶりが伝わってくる。
「年寄りが新しいことをやり、システムから離れて取り組むのさ」と、Carbon/Siliconに懸ける意気込みを以前に語っていた、ミック・ジョーンズ。『The Last Post』は、彼の新たな章の幕開けを遂げる、そんな一作といえるだろう。