“あの花”スタッフが贈る劇場アニメ『心が叫びたがってるんだ。』公開――物語のキーとなる音楽を手がけたミトが語る

MITO(クラムボン)   2015/09/18掲載
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 監督・長井龍雪×脚本・岡田麿里×キャラクターデザイン・田中将賀。アニメファンの枠を超えて大ヒットを記録した『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の制作陣が再び結集し、“あの花”と同じく秩父を舞台に作り上げた9月19日(土)公開の映画『心が叫びたがってるんだ。』。

 幼い頃に何気なく発した言葉によって家族が崩壊、そのトラウマで心を閉ざしてしまった少女・成瀬 順を中心に、心に傷を持った高校生たちが、交流会の出し物であるミュージカルを通じてそれぞれの心の殻を破っていく。そのクライマックスのミュージカル・シーンをはじめ物語のなかで非常に大きな役割を担っている音楽を手がけたのは、これが劇場アニメの劇伴は初挑戦となるミトクラムボン)。近年アニメ作品を中心に活躍の幅を広げている彼に、ミュージカル・シーンに込めた想い、そして普段とは異なるフィールドでの活動がもたらす化学反応について語ってもらいました。
――まずはこの作品に参加することになったきっかけからお聞きしたいんですけど、脚本の岡田麿里さんは『花咲くいろは』(エンディング・テーマ: クラムボン「はなさくいろは」)でご一緒にお仕事をされてますよね?
 「まさに2年前の〈湯涌ぼんぼり祭り〉に行くときの飛行機で、麿里ちゃんから“劇場用のアニメでミュージカルをテーマにした作品を作りたいんだ”っていう話をされて。僕は両親がスタンダードを演奏するお店をやってたので、同世代の人間のなかではおそらくミュージカルには詳しいだろうし、選曲アドバイザーみたいな立場であれば、ということで受けたんです。それでいろいろとやっていくうちに、“劇伴もやってもらえませんか?”と」
――最初に話をもらった時点では、このチームでやるよっていうのは聞いてたんですか?
 「長井(龍雪)監督と麿里ちゃんでやるよっていうのは聞いてて、“あの花”チームだなとは思ってたけど、まさか仁さん(明田川 仁 / 音響監督)とか田中さんも含めて全員が関わってるとは知らなくて」
――そうだったんですね。でも、もともとアニメファンのミトさんからしたら、ものすごくなじみのあるチームですよね。
 「麿里ちゃんと長井監督と僕って同い年なんですよ。だからなのか、作品を見てても、すごく“わかる”っていうか、語彙的なことで障害が起きたことが3人でいるときは一度もなくて。今までの現場のなかでは、クラムボンの次に伝わりやすかったですね」
――作業としては、ミュージカルの曲を選曲するところからすべて関わって。
 「シナリオとして、ミュージカルを替え歌でやる、ということにはなっていたので、雰囲気に合うものをボンボンあげていくことからはじめました」
――ということは、作品のクライマックスとなっている「Over the Rainbow」とベートーヴェンのピアノソナタ第8番「悲愴」を重ねて歌うっていうアイディアも、ミトさんからのものだったんですか?
 「うちの両親の話に戻るんですけど、オヤジが音楽家(=カコとカツミ)になったきっかけっていうのが、『5つの銅貨』っていうダニー・ケイルイ・アームストロングが出てた映画なんです。その映画で異なる3曲を同時に歌うシーンがあって、いつか自分が家族をもったら、父母子の3人で同時に違う曲を披露するっていうのが彼らの夢だったみたいで」
――あぁ、そこにルーツがあるんですね。
 「実際、小さい頃にお店でやったんですよ。なので、自分のなかでは、いわゆるクロスメロディと言われてるものにはすごくなじみがあって。最後にクライマックスとしてこの曲を、というなかで、ぼくがパッと“こういうことをやったらみんなビックリすると思うんですよ”と。ミュージカルのなかでは十八番というか、ミュージカルくらいしか使わない手法なんだけど、これをみんなにカジュアルに見せることができたらみんな喜ぶと思うんだよねって話をしてたんです」
――そういう意味では、その狙いは完璧にハマっていると思います。
 「クラムボンがNHK『The Covers』に出たときにも、ユーミンの〈青いエアメイル〉に〈里見八犬伝〉を入れたり、ライヴのときにも同じコードのところで違う曲をやったりとか、そういうふうにして遊ぶのが自分的には日常茶飯事で。だから〈Over the Rainbow〉と〈悲愴〉はもう聴いた段階で一緒になるなっていうのはわかったんですよね。でも、なかなかそういったやり方がカジュアルに伝わらないなというのは思っていて」
――いわゆるコラージュ的な手法、ですよね。
 「スティングくらいだよね。だから、それができたらおもしろいよって話をしてたら、そこでまたシナリオがガラっと変わったりして。すごく音楽的な隙間をもらえたというか、音楽の作用によってストーリーをすごくキレイにまとめてくれて。普通の作品よりも、音楽の置きどころがいっぱいあったんじゃないかな」
――ミトさんはもともと、作曲家を志望していたんですよね?
 「そうですね。サントラを作る、ということはやりたかった。実写の映画(『マイ・バック・ページ』)やTVアニメ(『スペース☆ダンディ』ほか)は何度かやらせてもらってますけど」
――アニメでいうと、ミトさんは主題歌だったりキャラソンだったりはすごくたくさん手がけているじゃないですか。そういったものと劇伴って、やっぱりモードは違うものなんですか?
 「全然違いますね。1曲のなかに相反する感情を一緒に入れたりとかするので、いまだに難しいなとは思います。今回、ミラクルバス横山(克)君とかにも入ってもらったんです。『マイ・バック・ページ』の時にも、劇伴のしっかりした作曲家の人に参加してもらったんだけど、そうすることによってコントラストが出て面白い効果が生まれるんですよ。そういうやり方も普通の映画だとなかなかないですし、特にアニメ業界では少ないから」
――アニメと実写でも違うものなんですか?
 「全然違うかも。実写の場合は、映像の尺がほとんど変わらないんです。極端に変わる場合は、ここは変わるかもしれないです、って目星がついてることが多くて。アニメの場合は、絵がついて、セリフが入って、音楽が入って、音響が全部入ったうえで、初めてこのシーンはいらないかも、っていう話になるんです。だからフレームに合わせ過ぎたり、音楽的にいうとコーネリアス的な発想で作ってしまうと、すごく大変なんですよ」
――映像に対してハメすぎてしまうと、変更があったときに齟齬がでてくる可能性がある。
 「そう。ぼくも実際そこに陥って、しっかり作ったほうがいいのかなと最初は思ったのですが、仁さんとかからすると逆に作りづらい。もっと余白があったほうが、その分で調整していけるから。横山君はそういうところプロいから、“そうか、そういうことか!”って終わった後に気付きましたね(笑)」
――作品のなかで拓実が言っていた“歌だからこそいえることがある”“歌は感情を増幅させる”というようなセリフがすごく印象に残ったんですけど、ミュージシャンの方って少なからずそういう部分持っていますよね。
 「まず、コミュ障じゃないやつに音楽やってもらいたくないっていうのが僕のなかのポリシーとしてあるんですけど」
――ははは(笑)。
 「コミュニケーション能力に長けてる人間は、芸人さんやほかのことをやったほうがいいんですよ。そうじゃない人間が、言うに言えなくて、どんどん閉じこもっていって、それで音楽をやるっていうのがおもしろいことを生み出すというか。なにかこう……トラウマだったり、そういうものを持っていないと、おもしろいものにはならないですよ。だからそれは、見事に今回の主人公である順にあてはまっているなと思います」
――まさにですね。閉じ込めた感情があふれ出すというか。“中の人”としてではなく、いちアニメファンとして、この作品はどう感じましたか?
 「あくまで今の時点(編注: インタビューは8月中旬)で、ということですけど、田中さんの絵が“あの花”以降、ものすごいリアリティを持ち始めていて、クオリティが格段にあがってますよね」
――そうですね。絵が持つ力自体が、すさまじい進化を遂げているような。
 「表情からなにから、もう格段に。麿里ちゃんの脚本だったり長井監督の演出って、本当に細かい現実の描写をフォーカスする、ということが多いじゃないですか。そういう物語のうえで、あの絵が動くっていうのが強烈だなって。表情のすごさというか、俗にいう“作画感”のすごさにはびっくりすると思います」
――音楽を作ってる最中は、絵自体は線画なんですよね?
 「そうそう。でも、コンテの段階でもすごくしっかりしてるから。白黒の状態でも人を感動させる力ってすごいですよね」
――音楽を含め、個人的にハマったなっていうシーンはどこですか?
 「やっぱりクライマックスのミュージカルかな。個人的には、ぼくらより全然下の世代に、スタンダードを、しかもアニメという分野から届けられるっていうのは嬉しいですよね。親父がミュージカル好きで、自分がそれを受け継いで、それをさらに下の世代の子たちに伝えてバトンできたとしたら、それこそ冥利に尽きるってことじゃないかな」
――近年ではアニメの仕事がすごく増えて、「yet」のストリングス・アレンジを菅野よう子さんが手がけたり、『triology』には井上勝己(Tune Studio / ミックス・エンジニア)さんが参加したりと、そこからすごくフィードバックを受けている印象がありますが、そういう他ジャンルの方々に影響を受けた部分は大きいですか?
 「たとえば今回は、アフレコの現場で歌を録ったりとかしたんですけど、アフレコのスタジオとレコーディングのスタジオのノウハウやルールがまったく違うんです。まずそこで僕はキョドる、みたいな(笑)。」
――ははは(笑)。まずそういう部分から違うんですね。
 「でも逆に、声優さんやタレントさんが音楽スタジオに行って感じることと同じなんだよなと。これだけ距離が離れてるんだなっていうことを感じて」
――たしかにそうですね。
 「音楽を作ってる、音を録っているということには変わりないんですけどね。でも明らかに方法論が違う。そういう作り方のアプローチが違うっていうことだけで、自分にとっては新鮮で。音楽スタジオは手足のように使えるようになったけど、そこに慣れてしまったことで、新鮮なクリエイティヴィティが出てこない。プロセスも異なれば求められてるものも違うから、そこから受ける影響や化学反応って強烈にあるんですよ。だから、声優さんだったりタレントさんの歌を録ったりすることにおもしろさを感じていて」
――それがすごく聞きたくて。歌手の方と声優さんの違いっていうのはどういうものなんでしょうか?
 「歌に特化した人間はやっぱり歌うことにスキルがある。でも表情を伝えたり人を揺さぶることをできる声っていうのも、すごいスキルなんです。でもそういう人に限って、音楽の現場にはなれてなかったりするんですよね。そういう“異質”と“異質”が混ざることによってでてくるものがすごいおもしろいなって。それは花澤(香菜)さんだったりにあると思うんですよ」
――なるほど。
 「今回アフレコ現場に行くのも初めてだったんですけど、僕らの場合はリップノイズだったり破裂音とかは、技術で消してしまうんです。でも、彼らは消さないでどーんとあるんですよ。それができるのは、テレビや映画っていうメディアの、音量の画角の広さがある。CDに比べたら、何倍も大きな音が出せるんですよね」
――CDにしたら割れたりノイズになってしまうような音ってことですか?
 「そうそう。そのままにすると、歌だと事故が起きちゃうんですよ。僕らはそういうところを気にするんですけど、タレントさんはまったく気にしてないし、アフレコ現場の人はまったく考えてないんですよね。そういう部分でのケミストリーはすごくて。今回ミュージカルパートをサントラ用に録り直したんですけど、新人さんもいらっしゃるので、みなさん戸惑うんですよ。でもそんな状況であっても、驚くほどの才能の持ち主もいて、事務所にかけあって、しっかりボイストレーナーを雇ってくださいって言いたくなるような人もいるんです。このまま続けたら、宝塚に入れますよっていうくらいのスキルを持ってる。でも、本人はまったく気付いてないんですよね」
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――いまサントラの話が出ましたけど、やっぱり規格の問題もあって、劇場用とサントラは違うんですね。
 「劇場版は5.1chなので、サントラは録り直してるんですよ。録ったはいいけど、どこに出すんだみたいなものまであるので」
――量的にはかなり作ってるんですよね?
 「数限りなくありますよ。このシーンいらないってカットしたものもあるし、仮歌は清浦夏実が歌ってくれたり、ぼくが歌ったりっていうデモもあったり、トレーラー用の音楽もあるので」
――そうでしたね。トレーラーでは清浦さんが歌ってる「悲愴」がありました。
 「そうなんですよ……〈ここさけライヴ〉ができますよ(笑)」
――そんなにあるんですか! それこそ、あのミュージカル実際にをやってほしいくらいです。
 「それアリですよね。全員出てもらって。細谷(佳正 / 田崎大樹役)君と玉子がバッチリあってそうだなぁ。来年、秩父でミュージカルやったらいいんですよね。生演奏でやるのも良さそうですし」
――映画のタイトルは『心が叫びたがってるんだ。』ですが、心から叫びたいことはありますか?
 「なんかスタッフさんがみんなざわざわしてますね(笑)(編注: 今作のインタビューで恒例となっていた質問)。さっきのインタビューでは、右肩がしびれて上がらないからそれを直したいっていうのを叫んだんですけど……」
――すごいミニマムな話題ですね(笑)。
 「だから……めっちゃプールにいきたいですね」
――ははは(笑)。
 「これからもサントラのミックスなんですけど、四六時中エンジニアの井上さんとメール交換してて。鳥がチュンチュンいってる時間までやってるので、プールで泳げる時間がほしいですね。“体が泳ぎたがってるんだ。”って書いておいてください(笑)」
取材・文 / 木村健太(2015年8月)
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■2015年9月19日(金)公開
『心が叫びたがってるんだ。』

www.kokosake.jp/

[CAST]
成瀬 順: 水瀬いのり
坂上拓実: 内山昂輝
仁藤菜月: 雨宮 天
田崎大樹: 細谷佳正
城嶋一基: 藤原啓治
成瀬 泉: 吉田 羊

[STAFF]
原作: 超平和バスターズ
監督: 長井龍雪
脚本: 岡田麿里
キャラクターデザイン / 総作画監督: 田中将賀
音楽: ミト(クラムボン) 横山 克
主題歌: 乃木坂46「今、話したい誰かがいる」
(ソニー・ミュージックレコーズ)
製作: 「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会
(アニプレックス / フジテレビジョン / 電通 / 小学館 / A-1 Pictures / ローソンHMVエンタテイメント)
制作: A-1 Pictures
配給: アニプレックス
宣伝: KICCORIT

(C)KOKOSAKE PROJECT


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■2015年9月16日(水)発売
「心が叫びたがってるんだ。」オリジナルサウンドトラック

www.kokosake.jp/music/


SVWC 70100〜70101(2枚組) 3,240円 + 税
初回仕様限定特典: 三方背ケース

[店舗別購入者特典]
アニプレックス+: ミト(クラムボン)&横山克「メッセージ&セルフライナーノーツ」
アニメイト: 台紙付き2L判ポートレート
ゲーマーズ: 2L判ブロマイド
ソフマップ(CD取り扱い店、及びドットコム): ステッカー
タワーレコード: ポストカード
新星堂 / WonderGOO: しおり
アニメガ・文教堂(ECサイト含む): オリジナルノート
ノイタミナショップ(お台場店、オンライン): ブロマイド

※特典内容は予告無く変更になる場合がございます。あらかじめご了承下さい。
※特典はなくなり次第終了となります。

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