ともにストリートピアノ動画から屈指の人気ピアノYouTuberとなったみやけんとヒビキpianoが、4度目となるコラボ・コンサートを開催する。みやけんは年代、ジャンルとも幅広くポップスをカヴァーする『俺のヒットパレード!』シリーズの第5弾をリリース。ヒビキは爆速の超絶技巧で注目されつつ、最新作『Essential Classics〜クラシック名曲セレクション〜』では全編にわたりクラシックの名曲に挑んだ。スタイルは違うが絶妙な共鳴を生み出す2人のピアニストの関係性から、コラボでの志向まで語ってもらった。
――2人の初対面はどんな形だったのでしょうか?
ヒビキ「都庁ピアノでお会いしました。順番を待って並んでいたら、みやけんさんがKing Gnuの〈白日〉を弾いていて。すごく上手に弾いているなと思って、“なんていう曲ですか?”と声を掛けたのが最初だったと思います」
みやけん「覚えています。話し掛けてくれてビックリしました。その後、ヒビキさんもすぐ〈白日〉の動画を出していたよね?」
ヒビキ「すごくいい曲だなと思って、自分でも弾いてみようと思いました」
――それ以前からお互いのことを知ってはいたんですか?
ヒビキ「SNS上でなんとなく知っていましたね」
みやけん「YouTubeでなんとなく観ていました」
――世代的にはどうなんでしたっけ?
ヒビキ「ぼくの方が歳下ですが、ほぼ同世代です」
みやけん「ほぼ同世代です」
ヒビキ「でも、性格は正反対。みやけんさんは友だちがたくさんいて、社交的な印象があります。僕は内向的なので(笑)」
みやけん「ヒビキさんは真面目そうで、もの静かなイメージでした。それは今も変わりません」
――お互いのピアニストとしての印象は?
みやけん「やっぱりヒビキさんは速弾きが印象的で、プロの中でもすごいレベルです。ただ、知っていくとそれだけではなくて。クラシック音楽として弱奏や柔らかい部分の表現力も本当に高い。同じホールで同じピアノを弾いても、“この音は出せないな”という音色の使い方があります」
ヒビキ「みやけんさんはポップスを原曲に忠実にアレンジされていて、音数がとにかく多くて。それをピアノ1台で表現するのは音量もパワーも必要ですけど、音の広がりがすごくて曲が華々しくなって。みやけんさんにしかできない演奏だと思います」
――みやけんさんが奏でるピアノは、音符が踊っているような印象があります。
ヒビキ「そこはテクニックというより、アレンジかもしれないですね。音符が踊っているように感じられるのはリズム感も抜群だからで、クラシック・ピアニストとは全然違う弾き方のように感じます。何度も共演させていただいてますけど、オーケストラが本業だけにアンサンブルにも長けていて」
――ピアノとトロンボーンの二刀流というのも、相当すごいことですよね。
ヒビキ「めちゃめちゃすごいです。ほかの楽器をやっていてピアノも多少弾ける方はいますけど、ここまでしっかり弾ける方はなかなかいません。本当に器用ですね」
みやけん「今はピアノがメインになってきていますが、ありがたいことにプロのオーケストラからトロンボーンのお仕事のご依頼をいただくこともあり、練習もコツコツやっております。コンサートもピアノが多い分、どちらも続けていきたいと、トロンボーンを吹くたびに思います。両方できるのを武器にしていこうと」
――幼稚園の頃に先生の代わりにピアノを弾いたとか、高1で鹿児島県のソロのトロンボーンのコンクールに優勝とか、音大を首席で卒業とか、みやけんさんには天才ぶりを物語るエピソードが多々あります。
みやけん「いやいや。音楽は全般的に好きで楽器も弾けるタイプだとは思いますけど、もっとすごい方はいっぱいいらっしゃるので。いろいろ吸収していきたいです」
――ピアノを弾くときとトロンボーンを吹くときで、モードは全然違いますか?
みやけん「まったく違いますね。トロンボーンでやる楽曲は基本クラシックで、ピアノで弾くのはほとんどJ-POPや歌謡曲。頭を切り替えています。トロンボーンは4人組のグループをやっていたり、ほかの誰かとセッションをしていて、ピアノは完全にソロ。アンテナの量が違うというか、ピアノは自分の思うまま、トロンボーンではほかの人の音を聴きながら演奏するのも大きな違いです」
――以前は「トロンボーンが本業でピアノは趣味」と発言されていました。
ヒビキ「ピアニスト仲間の間では、あれだけピアノで活躍されていて“趣味”と言われてしまうなんて……と話していました(笑)。それくらい実力のある方だと認めていたからですけど」
みやけん「『俺のヒットパレード!』のVol.1や2の頃は照れ隠しもあり、“趣味”と言っていました。でも、“趣味ってどういうつもり?”と言われるようになってきて(笑)。失礼がないように、最近は“ピアノもちゃんとやっています”と話しています」

みやけん

ヒビキpiano
――CDで初めて共演したのは、『俺のヒットパレード! Vol.1』収録の「地球最後の告白を」でしょうか?
ヒビキ「そうでした。僕が爆速で弾いていた頃で、すごく速いパッセージのアレンジをしてくださって。弾きやすかったし、僕の個性を活かしてもらいました」
――最新作の Vol.5でも、久石譲さんのカヴァー曲「Asian Dream Song」でコラボされています。こちらはバラードですが、やはりきちんとアレンジされたそうですね。
みやけん「ヒビキさんとやるなら即興的なものでなく、きっちりやりたいというのがありました。すごく好きな曲で、コンサートで何回かソロで弾いてますけど、“ここで手がもう1本あったら”と思う瞬間があって。その夢をヒビキさんに叶えてもらいました」
ヒビキ「みやけんさんが僕と演奏したいと言ってくれて、この曲になりました」
みやけん「原曲がオーケストラとピアノの演奏で、ピアノ・ソロとオーケストラ的に奏でる部分がどっちもできるからいいなと思いました」
ヒビキ「みやけんさんとの連弾は“真剣にやらなきゃ”という空気ではなく、お互いにあまり気をつかわず、遠慮なく弾ける空気感を出してくれます。僕が曲をあまり知らなかったので、“ここはもう2拍延ばして”みたいな指摘があったくらい。あとはみやけんさんの伴奏に合わせて好きに弾けて、楽しいレコーディングでした」
みやけん「楽譜を書いて、実際にレコーディングをしたら、ここはちょっと手がぶつかりそうとかありましたけど、基本的には難なく弾いてもらいました。逆に僕のほうが自分でアレンジしておきながら、“なんでこんなにいっぱい音を入れているんだ?”と、ひとりでアタフタしていたところがありました(笑)」
ヒビキ「ライヴで一度2台ピアノで弾いて、レコーディング後にライヴでも連弾で披露しましたけど、移動が大変でしたね」
みやけん「手が交差する部分で、入れ替わるのをなんとか成功させました。曲自体はセカセカしてないのに、自分たちはセカセカ動いていて(笑)、冷静さを保ちながら弾くのは結構難しいです」
――『俺のヒットパレード Vol.5』は“旅”や“はじまり”がテーマとされています。
みやけん「去年の9月に、それまで個人事業として活動していたのを、事務所を設立して法人化したんです。ツアーも自主公演で挑戦しようと、自分たちでやり取りしてホール探しをしました。 “New Journey”というタイトルで自分たちで作り上げたコンサート・ツアーを基盤に、このCDもできた感じです」
――選曲はスラスラと行きました?
みやけん「〈グレイテスト・ショーマン〉のメドレーをメインに、あとは自分が演奏した動画の中で人気の曲と、今まで皆さんが聴いたことのない曲と両方入れています。昭和、平成、令和それぞれの曲にアニソンや洋楽も入れたのは、今までと変わりません」
――70年代の山口百恵さんのアーティスト提供曲のメドレーも収録されましたが、音楽的にどんな印象がありましたか?
みやけん「山口百恵さんご本人のクールな世界観が素敵だと思います。〈秋桜〉はさだまさしさん、〈いい日旅立ち〉は谷村新司さんとか、作曲された方の特徴は曲に出ていますけど、山口百恵感はまったく消してない感じがします。そこをピアノでどう違和感なく繋げるか考えるのは楽しくて。昔の歌謡曲はオーケストラやバンドを使ったアレンジが多いので、その充実感は損なわないように、いっぱい音を入れていこうとしたら、また大変なことになりました(笑)」
――それでも入れずにはいられないと。
みやけん「そうですね。自分がトロンボーンをやっていることもあって、歌の合いの手で入る金管とかのバッキングは絶対抜かないようにしたくて。裏の音は全部入れることは意識しています。僕が生まれる前の音楽ですけど、今聴いても名曲で、聴き継がれてきたんだなと。自分でアレンジして、引き継いでいくつもりで弾きました」
――そもそも生まれる前の昭和歌謡に思い入れがあるのは、ご両親の影響ですか?
みやけん「両親の影響もありますし、うちは二世帯住宅で祖母の部屋に行くと、テレビの歌謡ショーみたいな番組が大音量で流れていたんです。僕はおばあちゃん子だったので、よく一緒に観ていました。父もピアノの調律をやっていて歌ったりもしていて、車でも80年代歌謡曲とかのオムニバスCDがずっと流れていて」
――J-POPにない昭和歌謡の良さはどんなところだと思いますか?
みやけん「曲の作りがいい意味でベタベタな感じで、ストレートに来る歌詞が多いなと思います。今回カヴァーした〈君は薔薇より美しい〉も普段は絶対言わない言葉じゃないですか(笑)。そこが逆にカッコいい。あと、布施明さんの太い声も今の歌手にはあまりないですよね。そこをちょっとジャズっぽく気だるい感じで、ゆっくりめのアレンジにしました。それこそNHKの歌謡ショーのイメージで、ビッグバンドふうにしています」
――歌謡ショーと言えば、みやけんさんのピアノには、歌はなくても歌心を感じます。
みやけん「ありがとうございます。嬉しいです。トロンボーンは一度にひとつの音しか出せなくて、ひとりだと成り立たない楽器ですけど、その分、1音だけでもメロディを紡ぐことは、ピアノでも同じように意識しています。ピアノは一気にいっぱい音が出せて、音色は全部同じでも、右手で弾いているメロディ・ラインだけは別に聞こえさせたいイメージがあって。実際に口で歌っているように弾いているところはあります」
――一方で、今回だとMrs. GREEN APPLEのメドレーも収録されましたが、流行りのJ-POPにもアンテナを張っているようですね。
みやけん「好きで聴いています。最近はミセスにハマっていますけど、ヒゲダン(Official髭男dism)も好きで、2組ともファンクラブに入っていて。ライヴチケットの争奪戦も参加しています」
――ライヴはどんなノリで観ているんですか?
みやけん「サイリウムも持っていきますし、会場に入ったらグッズのTシャツに着替えて、タオルも首に掛けて、ただのガチなファンです(笑)。でも、嬉しいことに、ヒゲダンのファンの方にも自分を認知してくれているひとがいて。日本武道館で列に並んでいて、“みやけんさんですよね? ヒゲダンの曲をいっぱい弾いてくれてありがとうございます”と言ってもらったりもしました。サポートのキーボードの方とも定期的にライヴをやらせていただいていて、“ヒゲダンに近づいている?”とワクワクしています(笑)」
――アルバムでは1曲目の「New Journey」にラストの「また会おうね。」とオリジナル曲もいいですね。「また会おうね。」はトロンボーン・カルテットのThrow Line用に書かれたとか。
みやけん「4人のトロンボーンのバックにギター、ベース、ドラム、キーボードのバンドが付いてライヴ活動をしていて、僕は去年の1月に加入しました。アルバムを出すことになって、1人2曲ずつ作ってくるように言われて、僕は毎年自分のアルバムで1曲ずつしか作曲してなかったので、プレッシャーがありました。途中加入して受け入れてもらえるような、アンコールソング的なものを作りたかったんです」
――なるほど。
みやけん「僕はライヴやイベントをやりすぎていて(笑)、ファンの皆さんと会う回数がすごく多くて、“次はあそこのライヴで。またね”という会話が好きなんです。“さよなら”だと次いつ会えるかわからないし、悲しい言葉に聞こえますけど、“また会おうね”は約束ができて嬉しくて。皆さんと自分、皆さん同士が自分のライヴでまた会えるように……という気持ちで、アンコールの最後に演奏しようと作った曲でした。切なさもあるけど、明るい希望も込めています」
――卒業っぽい雰囲気もあって、今回の旅立ちのテーマにもピッタリですね。
みやけん「この曲でアルバムを締めるのがいいなと、入れてみました」
――そういうことを言葉でなく、ピアノで表現できるのがプロの技でしょうか。
みやけん「僕はおしゃべりですけど、感動的な話は上手でなくて。どうにかして音で伝えられないかとメロディラインを考えましたし、芸大を出ているので、繰り返しがなかなか終わらないようなコード進行も意識しました」
――これまでのアルバムのオリジナル曲は、レコーディング当日にスタジオで作られたとか。
みやけん「今回のもう1曲の〈New Journey〉もそうです。もっと前もって考えておけって話ですけど(笑)、レコーディング最終日はその1曲だけに当てるようにしていて、行きの電車で“どういうふうに始めようか”とずっと考えています。最初の1フレーズが浮かべば意外とスラスラと行けちゃうので、自分で言うのもナンですけど、作曲のポテンシャルを感じています」
――やっぱり天才肌なんでしょうね。
みやけん「いやいや。毎回コンセプトだけは持っていっています。Vol.2では地元・鹿児島や親のことを書こうと思ってスタジオに入りました。Vol.3ではツアーをいっぱいやるようになっていたから、ライヴのオープニングのイメージで、『笑っていいとも!』の〈ウキウキWATCHING〉的な曲を作ろうと。4曲目は先にジャケットで自転車に乗っていたのに合わせて、今回はツアー・タイトルが“New Journey”なので旅立ちっぽい曲にしています。ただ、Vol.5の収録曲はそれぞれ長めで、CDに入る80分以内に収めるには、最後の自作曲を2分半くらいにしないといけなくて。その制約がありました」
――さわやかで聴き心地のいい曲になりました。
みやけん「みやけんはカヴァーだけでなく、自分で曲も作れると見せられるのは、このシリーズしかないので、続けていきたいです」
――ちなみに今回、ジャケットのテイストが急に正調に変わったのはどうしてですか?
みやけん「今まではイラストだったり自転車に乗っていたり、ピアノのアルバムという目線で見たら、ふざけているイメージでしたけど(笑)、ポップなのが自分のカラーでもあって。今回は逆に、ジャケットだけ見たら、クラシック・ピアノのCDだと間違えてしまいそうですね(笑)」
――確かに(笑)。
みやけん「いつもは自虐的に“ピアノを弾きそうにないジャケットですけど、真面目に弾いているCDです”と言っていたのが、今回はファンの皆さんも“なんで急に?”とビックリしています。これに関しては、僕も30代半ばになって、節目の5枚目でカッチリしたジャケットにしようと思ったんです。ちゃんと自分はピアニストだと見せるのがコンセプトでした」
――貴公子っぽさも出ています。
みやけん「そこはヒビキさんへの憧れもありました。僕はそういうキャラではないですけど、中のページも自分の写真ばかりで、カッコつけてみました(笑)」
――そんなヒビキさんの新作『Essential Classics』は、オールクラシックの名曲セレクションになりました。
ヒビキ「今までオールジャンルでやってきましたけど、今年はクラシックの年にしようと思ったんです。やっぱり自分の中でクラシックが一番合っていたのと、ファンの方にもオールクラシックのコンサートが評判良くて。それもきっかけになり、すべてクラシックを演奏するツアーを回り、そんなCDも出そうと考えました」
――「ラ・カンパネラ」や「英雄ポロネーズ」など有名な楽曲を中心にセレクトされていて。
ヒビキ「なるべく多くの方に聴いていただきたくて、誰もが一度は耳にしたことがあるような曲を集めました。今までYouTubeに動画を出してきた中でも、再生数が多かった曲がたくさんあります。ただ、今回は僕のファン向けというより、広く大衆向けにしたくて。今までのCDとは別ものになっています」
――そんな中でも、ヒビキさんならではの超絶技巧も発揮されています。
ヒビキ「もともと速弾きということでCDを出していて、〈英雄ポロネーズ〉や〈ラ・カンパネラ〉に関しては、そっち寄りにしました。一般のクラシック・ピアニストよりも速く弾けるところは速く弾いたり、そういうところで自分の色を出していった感じです。特に〈英雄ポロネーズ〉はずっと弾いてきて、自分のメインの曲みたいなところもありました」
――こうしたクラシックの名曲のアレンジは楽しいものですか? プレッシャーもありますか?
ヒビキ「初めて純粋にクラシックのカテゴリーでCDを出すということで、僕は専門的に勉強してきたわけでないので、自分がやっていいのか?みたいなところはありました。でも、そこは割り切って挑戦と思って取り組みました。いろいろな人が素晴らしいクラシックの演奏をされていますけど、それを参考にするより、ヒビキpianoだったらどうするのか?そう考えて弾いたほうが、興味は持ってもらえると思います。ストリートピアノもそこから始まって、速く弾くというところで一般の方が足を止めてくださいました。僕が普通に弾いただけでは、あまり聴いてもらえないかもしれない。そういうことも踏まえて、技巧は入れていきました」
――ラストに収められた「スペイン狂詩曲」には特別な想いもあったそうですね。
ヒビキ「いわゆる人気曲ではありませんし、一般の方には知られていません。すごく長い曲ですけど、一度聴けば耳にスッと入りやすい、というのはあります。同じ旋律が何回も繰り返されながらパターンが変わっていく、変奏曲的な部分もあって。そういう曲もひとつは入れたいと思っていました。そこでクラシックの深さにも興味を持っていただけたらうれしいなと」
――この曲のヒビキさんの演奏には威厳も感じました。
ヒビキ「本当にガチのクラシックというか、ボーナストラック的な感じで入れました」
――ヒビキさん自身には馴染みの曲だったんですか?
ヒビキ「自衛隊(音楽隊)時代に弾いたことがあって、ヒビキpianoになる前にソロで活動していた頃、コンサートで演奏もしました。そのときのお客様からは“良かった”という声が多くて。それもあって、クラシックは長い曲が多い中でも、〈スペイン狂詩曲〉は耳に馴染みやすい印象があって、今回入れることにしました」
――このアルバムはスタジオでなく、ホールでレコーディングされたとか。
ヒビキ「ホールだと使える日数が限られますけど、(レーベル主宰の)ジェイコブ(・コーラー)さんから“せっかく全部クラシック曲のCDを出すなら、ホール録音のほうが向いている”という話になって。ホールを4日間取ってもらって、限られた時間の中でレコーディングしました」
――心持ちは違いました?
ヒビキ「全然違いますね。ホール全体に響かせた音をCDに残せます。今まではスタジオで鳴る弾き方をしていましたけど、今回はそういうタッチでなく、コンサートで披露するように録音しています。弾き方をまったく変えました」
――5月にはお2人でのコンサートがあります。今回で4回目になりますが、過去の3回ではどんなことを覚えていますか?
ヒビキ「ソロも連弾も2台のピアノもあって、みやけんさんのトロンボーンに僕が伴奏したこともありました。レコーディングでは全部連弾で、手がぶつかってしまうとか制限がちょっと掛かりますけど、2台のピアノだと相手の音を聴きながら88鍵を自由に使えて、ゴージャスな感じでお届けできました。みやけんさんがピアノでクラシックを弾くことは、たぶん僕とのコンサートくらいなんです」
みやけん「そこを引き出しくれるのがヒビキさんとのペアですけど、クラシックはハードルが高くて(笑)。。楽譜が来て連符や調子記号がワーッと並んでいると、不安もありながら、ゾクゾクして“やってみよう”という感じになります」
ヒビキ「みやけんさんは最初、クラシック曲には抵抗していたんです(笑)。それがどんどんやる気になってきて、自分から“この曲ならやりたい”とおっしゃってくれたりもします」
――もともとクラシックの素養も、もちろんあったわけですよね?
みやけん「みんなが弾くような練習曲とかは、ひと通りやってきたつもりです。地元のピアノの先生にクラシックを教わりつつ、僕がJ-POPの本を持ってきたら、それも弾かせてくれたんです。“ツェルニーをやってから、そっちね”みたいな感じで。そんな先生だったからピアノがイヤにならず、今に活きているかもしれません」
――今回の選曲とかはこれからですか?
ヒビキ「そうですね。タイトルが〈極上のPOPs&Classic〉なので、ポップスとクラシックが同じくらいのバランスになるようにします。僕がみやけんさんからポップスの曲を教えてもらったり、僕からクラシックの曲を“これはどうですか?”と提案したりしています」
みやけん「僕はどうしてもクラシックのピアノには疎くて。芸大に行っていたので曲は知っていても、弾く機会はありませんでした。このヒビキさんとのコンサートはせっかくなので、積極的に行きたいです」
ヒビキ「回を重ねて、レパートリーも増えてきて」
みやけん「今回も皆さんが驚く曲を入れたいと思っています。自分のリスナーさんもヒビキさんのリスナーさんも楽しめるように、ポピュラーなクラシックが毎回テーマになっていて。前回だと〈威風堂々〉のような、みんなが知っていてゴージャスな曲は必ずやりたいです」
ヒビキ「僕はいろいろな方とコラボしていますけど、みやけんさんとのコンサートは本当に評判が良くて」
みやけん「好評なのは僕も感じていますし、実際にチケットが売れるのも早いんです。僕もコラボは多いですけど、完全にクラシックを弾くことはほかではないので、皆さんも観たいのかもしれません」
ヒビキ「そこはもっと深くできたらいいのかなと思いますし、僕自身、みやけさんとのコラボは楽しくて。普段演奏しているジャンルは全然違うところもあるのに、連弾でもお互いの呼吸が合うというか、みやけんさんが本当に弾きやすくしてくれます」
みやけん「リハーサルから一緒に演奏するのが楽しいし、年齢も近いので、話していても気兼ねのない感じが一番します」
――ちなみに、ライヴの打ち合わせとかしていて、音楽以外の話題が出ることはありますか?
ヒビキ「仕事の話が多いですね」
みやけん「あとはそれぞれの近況報告ぐらいかなあ」
――共通の趣味があったりはしませんか?
みやけん「2人ともドラえもんは好きです(笑)。“同じスタンプを持ってるよ”って送ったりしています」
ヒビキ「ドラえもんのスタンプで会話したり(笑)。グッズもいろいろ持っています。僕のポーチやイヤホンケースはドラえもんです」
みやけん「好きだと公言しているので、ファンの方からのプレゼントにもドラえもんのものが多くて。本当に好きすぎて、去年(声優の)大山のぶ代さんが亡くなった頃は、2人で〈ドラえもんのうた〉を連弾しました」
――ちなみに、欲しいひみつ道具もありますか?
みやけん「小さい頃からいろいろありました。今はお互いツアーで忙しかったり、遠征が多いので、“どこでもドア”があればいいですね。“はい、名古屋”みたいに移動できたら直前まで寝られるのにな(笑)」
ヒビキ「本当にそうです(笑)」
――みやけんさんは体も鍛えているんですよね。腹筋バキバキの写真がSNSに上がっていました。
みやけん「6〜7年くらい、ぼちぼちジムに通っていたら、そうなっただけです。別に維持しようとは思っていませんけど、ストレス発散にはなりますよ。あまり溜め込まないタイプですけど、走ったりすると気が楽になります」
――ヒビキさんはトレーニングのほうは?
ヒビキ「自衛隊のときにはちょっとやっていましたけど、今は普段まったくしないです(笑)」
――本当に全然違う2人ですね。今後も長いスパンで、2人でのコラボ展開はありそうですか?
ヒビキ「いつか、みやけんさんとガチのクラシック曲をやってみたい、というのはあります。みやけんさんもお忙しくて、初見の譜面で弾くのは苦手とおっしゃってますけど、OKしてくれるなら難易度の高い曲もできたら面白いなと思います」
みやけん「そんな話もしています。僕は基本的に楽譜を見ないで演奏するタイプですけど、ちゃんと楽譜と向き合う練習時間を取ったうえで、やってみたい気持ちはあります。ヒビキさんとの2台ピアノでないと、なかなかできないことなので」
ヒビキ「今までもガチでやってましたけど(笑)、特に技術的なレベルが高くて時間も長いクラシック曲に挑戦できたらいいですね」
取材・文/斉藤貴志
■〈みやけん&ヒビキpiano 2台で奏でる極上のPOPs&Classic Vol.4〉
2025年5月3日(土・祝)
東京 成城ホール