クラシックやクロスオーヴァーなど幅広いジャンルの音楽を手掛け、オリジナル曲の作曲・演奏も行なうインストゥルメンタル・ユニット“
TSUKEMEN”のリーダー、
TAIRIKUと、日本を代表するオーケストラ、
東京交響楽団のコンサートマスターを務める
水谷 晃。ともに桐朋学園大学で学んだ二人はそれぞれ異なるステージに立ちながら、日本の音楽界を背負う存在として活躍を続けている。そんな二人が共演し、彼らの“原点”であり、大切にしてきたクラシックの作品に真っ向から向き合った。今回はTAIRIKU、水谷の二人に、この
共演に対する熱い想いを伺った。
――お二人は学生時代から室内楽などでご一緒の機会が多かったそうですね。
水谷 「そうですね。学生時代から色々な編成の室内楽を組んできましたが、TAIRIKU君とはいつも一緒でした」
TAIRIKU 「大切な友人でもあり、音楽的な面もすごく感性が合うんです。学生時代にはヴァイオリン二挺でコンクールを受けて最高位をいただいたこともありました」
――TAIRIKUさんはオリジナル曲も書かれていますし、あらゆるジャンルの作品に取り組まれていますが、今回すべてクラシックの曲にされたのはなぜですか?
TAIRIKU 「とくに意識したわけではなく、自然と決まりました。僕ももともとはずっとクラシックを学んできましたし、今も演奏する機会はありますから、やはり欠かすことはできません」
水谷 「確かにどの曲も“クラシック”に属する曲なのですが、僕にとっては、ふだんオーケストラで演奏するときとはまったく違うものに仕上がっているので、かなり新鮮な感覚がありました」
TAIRIKU 「たしかに、まったく違う曲に生まれ変わっているものもあるので、二人にとっての“中継地点”のような感じになっているかもしれないです」
――かなり多くの編曲者が携わっていますね。
TAIRIKU 「基本的に編曲をお願いする人は僕が決めました。編曲そのものについての希望は出さずおまかせしたところ、原曲の雰囲気にかなり忠実なものや、まったく違う“第3の次元”ともいえるような仕上がりになっていたりと、本当に面白いものができあがってきましたね」
水谷 「とくに原曲に忠実なものは
チャイコフスキーの〈アンダンテ・カンタービレ〉になると思いますが、もともとひじょうにシンプルな弦楽四重奏のために書かれた曲をさらに少ない二人で演奏するので、原曲の雰囲気を少ない音で作り出す工夫はかなりしました」
――その点、お二人ともアンサンブルを主体とした活動をされているためか、ものすごく自然かつ密度のあるアンサンブルだなと感じました。
TAIRIKU 「ありがとうございます。これは昔からなのですが、お互い“こうしよう”と相談するようなことはあまりないんです。自然と役割を交代しながら演奏できている感じです」
水谷 「初めての曲を合わせてみても、初回ですでにほぼ同じ景色を見ている感じになるんですよね」
――それぞれいろいろな難しさがあると思いますが、チャイコフスキー以外でとくに大変だった曲はあるのでしょうか?
TAIRIKU 「テクニックの面でいえばやはり〈ツィゴイネルワイゼン〉ですね……。今回僕はヴィオラで演奏していますが、ヴァイオリンで弾くときのポジションと違うので、一度原曲を忘れる努力をしました。ヴァイオリニストが誰しも弾く曲だからこその大変さがありましたね」
水谷 「本当に大変だったと思います。前人未踏ですよ(笑)。そしてこの曲はアンサンブルの面でも瞬発力が求められますね」
――全体の選曲についてはどのように組まれたのですか?
TAIRIKU 「もともとヴァイオリンとヴィオラのために書かれた
モーツァルトの作品を中心に選曲していきました」
――ディスクの最後をモルダウにしたのはなぜだったのでしょうか?
水谷 「この曲はオーケストラでたくさん弾いてきていて、大編成のこの曲をたった二人でどんなふうにできるんだろうと思っていたのですが、あがってきた編曲をみて、原曲とはまったく違う世界が広がっていて感激すると同時に、“自分たちの曲だ”というアイデンティティが生まれたんです」
TAIRIKU 「たしかに初演をしている感覚がありますし、“これが自分たちの音楽だ!”というものを提示できる曲になっていますね」
水谷 「TAIRIKU君は作曲もされますが、僕はすでに長く存在する曲を演奏することがほとんどなので、まったく新しい作品に取り組めた、というのはすごく大きな喜びでした」
TAIRIKU 「その喜びは演奏にも表れていると思います。それもあって最後にしてみました」
――お二人には“音楽バトル”というキャッチコピーがついていますが、ご様子を拝見しているとすごく仲が良くて自然体ですよね。演奏にものびやかさを感じます。
水谷 「演奏の様子を見たり聴いたりするとバチバチしているように感じられる部分はたくさんあると思いますが、実際は最上級に楽しんでいるんです」
TAIRIKU 「自分のすべてを出すことができるアンサンブルですね。彼とは絶えず発信しあっている状態で、さまざまな発見や喜びがあります。これからも一緒にいろいろな挑戦をしていきたいです」
取材・文/長井進之介(2018年1月)
2018年2月14日(水)発売KICC-1437 3,000円 + 税
収録曲
01. パッサカリア(作曲 G.ヘンデル / 編曲 J.ハルヴォルセン)
02. シチリアーノ(作曲 G.フォーレ / 編曲 木村 裕)
03. ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 ト長調 K.423 第一楽章:アレグロ(作曲 W.A.モーツアルト)
04. ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 ト長調 K.423 第二楽章:アダージョ(作曲 W.A.モーツアルト)
05. ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 ト長調 K.423 第三楽章:ロンド、アレグロ(作曲 W.A.モーツアルト)
06. アンダンテ・カンタービレ(作曲 P.チャイコフスキー / 編曲 木村裕)
07. ユーモレスク(作曲 A.ドヴォルザーク / 編曲 木村 裕)
08. 誰も寝てはならぬ(作曲 G.プッチーニ / 編曲 鷹羽弘晃)
09. ロンドンデリーの歌(伝承曲 / 編曲 長生 淳)
10.ツィゴイネルワイゼン(作曲 P.サラサーテ / 編曲 チョー・タイシン)
11.モルダウ(作曲 B.スメタナ / 編曲 長生 淳) 2018年2月17日(土)
東京 赤坂 サントリーホールブルーローズ
開場 13:30 / 開演 14:00
全席指定 5,000円
※3歳未満入場不可
出演
TAIRIKU(vn, va) / 水谷 晃(vn)
※お問合せ: チケットポート 03-5561-9001