ギター・インストゥルメンタルという最小限のフォーマットで独自のサウンドを展開し、世界中のポスト・ロック系バンドに多大な影響を与えて続けてきた
モグワイ。そんな彼らが2年半ぶりとなるニュー・アルバム
『ザ・ホーク・イズ・ハウリング』をリリース。“轟音ギター・サウンド”という言葉では表現し得ないほどに、深遠かつイマジネイティヴな音世界が広がる今作について、メンバーのバリー・バーンズに話を訊いた。
“ノイジー”だの“轟音”だのという喩えはもうやめてくれ。
モグワイのニュー・アルバム『ザ・ホーク・イズ・ハウリング』から感じ取ることが出来るのは、約13年にわたるキャリアを持つ彼らからのそんな本音ではないか。そのくらい6作目を数える今作は、指向の振れ幅を明確に打ち出した1枚。プロデューサーは初期の彼らを支えたアンディ・ミラーだが、曲によっては
スティーヴ・ライヒや
ブライアン・イーノからの影響さえ見てとれるほど、音の壁によってグルーヴを作り上げるような側面は薄くなっている。
「僕らはたしかに昔からノイジーだとか轟音だとかって言われてきたよ。実際、
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインにも影響を受けたしね。でも、少なくとも僕とスチュアート(・ブレイスウェイト)はいろいろな音楽を聴いてきている。言ってくれたようにライヒやイーノも大好きだ。今回のアルバムにそういう要素を感じ取ってくれたのはとても嬉しいよ。僕らは聴き手に集中して音楽を聴いてもらいたいんだ。何かをしながらとかじゃなくて、僕らの音楽だけを全身で感じ取ってほしい。今回のアルバムは特にそこが強かったかな」
と、今回、取材に答えてくれたバリー・バーンズ。とはいえ、“轟音ギター・サウンド”というイメージで00年代以降に切り込んで来たモグワイの功罪は大きい。今や、世界中のあちこちでモグワイの影響を受けたと自認するポスト・ロック系バンドは後を絶たず、特にヴィジョンもなく延々とギターを弾き続けるようなインスト・グループがはびこっているのも事実。言葉を放棄して適当に音を鳴らせば格好がつく、そんな勘違いが増えていることに当人はどこまで気付いているのだろうか。
「たしかに“影響を受けました”って貰うCDの多くは自分たちのやっていることのコピーみたいだなって思うことが多いよ(苦笑)。でも、同時にそういう時にこそモグワイというバンドの責任の大きさを実感したりもするんだ。同じようなものを作っちゃいけない、常に刺激的でいないとってね。もちろん僕らはアルバムごとに劇的に方向性を変えるようなバンドじゃない。でも、時間をかけて自分たちの中で確実に新しいものを消化していっている。そこに気付いてほしいね」
ところで、アルバムの中に「Scotlands Shame」(スコットランドの恥)なる曲が収録されている。常日頃からスコティッシュとしてのプライドを強く持っている彼らにしては意外なタイトルだなーと奇妙 に思っていたら……。
「あー、あの曲はグラスゴーのサッカー・クラブ、レンジャーズについての歌なんだ(笑)。いや、僕らはみんな同じ地元のもう一つのクラブ、セルティック(中村俊輔も所属!)のサポーターなんだよ。ところが、レンジャーズがマンチェスターで試合をやった時に相手チームの会場をメチャクチャにしちゃってね。それで“なんて恥ずべき連中なんだ!”って気持ちを歌にしたってわけ(笑)。スコティッシュの風上にもおけないってね! 僕ら自身の誇りは変わらないよ」
取材/文・岡村詩野(2008年8月)