ももすももすは、インディーズ・シーンで活躍したバンド、メランコリック写楽を経て2018年にソロ活動をスタート、2019年2月にシングル「木馬」でメジャー・デビューしたシンガー・ソングライターである。
2020年3月にファースト・アルバム『彗星吟遊』をリリース、2021年に入ってからも「ねんねこねんね」(2月)、「アネクドット(ペルシャ猫ピアノver.)2021.2.26 LIVE」(3月)と順調にシングルを配信してきた。6月にはYouTubeで自主制作曲「真夏のツンドラ」のミュージック・ビデオを公開してもいる。
10月20日にリリースされたニュー・シングル「サーモクライン」はMBSドラマ特区『どうせもう逃げられない』のエンディング・テーマ。ももすももす自身は“『どうせもう逃げられない』の原作を読み、自分なりの解釈に加え、大切な人を失ってしまった経験を元に書いた曲です”とコメントしている(レーベル資料より)。同曲の話題を中心に、コロナ禍での過ごし方など、あれこれ聞いてみた。
――コロナ禍の1年半、いかがお過ごしでしたか?
「猫とずっと遊んでました(笑)」
――去年の2月にインタビューしたとき
「猫を飼いたい」と言っていたのを覚えていますが、「夏至のツンドラ」のMVに登場しているのはももすさんちの猫ちゃんなんですか?
「そうです!去年の4月に飼い始めました。保護猫で、2歳か3歳とうかがっていたんですが、健康診断で病院に連れて行ったら7歳だということが発覚しまして。おじさんです(笑)。コロナになってからライヴを一回もしてなくて、ファンの方とも全然会ってないので、実在するのかもわからなくなってしまって。寂しさを癒してもらってます」
――基本的に在宅なんですね。
「そうですね。〈夏至のツンドラ〉も完全に自宅でヴォーカルもギターも全部録って、MVも家で撮って、家で何でもできるんだなってことがわかりました」
――「サーモクライン」の冒頭で“君が破り捨てた図鑑”と歌っていますね。この図鑑は2月にリリースした「ねんねこねんね」で“図鑑の表紙になる”と歌ったのと同じ一冊なのかな?と思いました。
「フフ、まったく別の曲として作ったんですけど、どっちも自分が作ったので、心の中でつながっていると思います」
――ドラマ『どうせもう逃げられない』(MBS系)の主題歌ですよね。
「一度アニメの主題歌をやらせていただいたことがあって(『旗揚!けものみち』エンディング・テーマ〈アネクドット〉)、タイアップは2回目ですね。恋愛ドラマとはいいつつ人間関係を描いたものでもあるので、あんまり恋愛を意識せずに作らせていただきました」
――ドラマから得たインスピレーションはどのあたりに入っていますか?
「それを言うとドラマのネタバレになっちゃうので言えないんですが、自分のストーリーとドラマのストーリーがかなり重なるところがあったんです。時間とか人生のはかなさを実感することが最近多くて、感傷に浸ることがよくあるので、それが曲のなかにかなり含まれていると思います」
――何かつらいことがあったんですか?
「友達が亡くなったり、コロナだから誰とも会えなかったり、自分自身が入院して何もできなくなったり、あと入院していた病棟の近くで亡くなった人がいたり。そういうのを見て人生観が変わりました」
――どう変わりましたか?
「公私ともにお世話になっていて影響を受けてるアーティストのハルカ ハミングバードさんに“人生は4回ある”って言われたとき、“あ、自分は絶対4回目だ”って直感的に思って。今までは読みたい本も我慢して、音楽を作ることとかほかの雑務に徹していたんですが、それをやめて、読みたい本はすぐに読むようになりました(笑)」
――猫は9回生きるらしいですが、人間も4回生きると。
「“あ、これ前にもあったな”みたいなことや、選択を迫られたときに直感で“こっちに行ったほうがいい”ってわかることもよくあるので、たしかに4回目だろうなって思うんです。これが最後の人生なら、人とのつながりを大事にしたいなって思いますし、家にある本は“棺桶に入れてね”なんて言わずにいま読みます(笑)。ここが棺桶かもしれないので」
――“サーモクライン”という言葉を僕はこの曲で初めて知りました。水温躍層といって、水温が大きく違う水が混在する時にできる層のことだそうですね。
「海のあったかい水と冷たい水が混ざり合うところなんです。海が大好きだっていうのもあるし、いま自分が生きてる人生が絵になっていくのだとしたら、ちゃんと海のなかに沈んで、溶けてなくなってほしいなって思ったりするんです」
――それで“渚に溶かす絵画と サーモクラインの中へ”なんですね。
「まるごと海に沈んで大きな魚に食べられたいのです(笑)。強者の一部になりたい。そのときはこの身体じゃなくて、自分の人生が絵になっていたらいいなって思って。前のアルバム(『彗星吟遊』)に入っている〈Confession〉という曲を作ったときからずーっと思っていて、なんならその前から無意識的に願ってることなんです」
――無意識的に?
「わたし、ごはん食べるのが苦手なんですよ。だから無意識的に真逆のことをされたいって思ってるのかもしれないですね」
――食べるのが苦手だから食べられたい(笑)?
「そうです。これもひとに聞いた話なんですけど、自分の名前に入ってる言葉に人は一生こだわり続けるって。たとえばわたしだったら“もも”って食べ物が入ってるから、もしかしたらそれで食べるのが苦手になっちゃったのかもしれないです。自分ができないから、大食いファイターみたいな方の動画を見るのがめっちゃ好きなんですよ」
――だんだんわかってきました。
「食べられるのがいちばん美しいと思うんですよね。あと、命に対してとても礼儀正しいと思います。いただいた命なのだから、ちゃんと命に返したいって思ってます」
――大自然の一部になりたいんですね。
「自然界とか動物に対する憧れが強いです。でも絶対に人間でいたいので、本は読まなきゃいけないんですけど。頭はよくなれなくても、教養を捨てようという気分にはなかなかならないですね」
――教養を得ることは人間が授かった役目というか、得意なことを伸ばすことなので、それでいいと思います。
「わたしも思います。いろんなことを知りたいし、賢くなりたいけど、いつかは手放さなきゃいけないんですよね……ちゃんとボルダリングとかしておきたいですよね」
――ボルダリング?
「いつかはこの教養もなくなってしまうのであれば、難しいこと考えずに遊ぶのも大事だなと思うんです。ボルダリングは極端な例ですけど(笑)」
――それは両方正しいんじゃないかと思います。僕はことわざが好きで……。
「あー!わたしも大好きです!」
――逆の意味のことわざってあるじゃないですか。たとえば“善は急げ”と“急がば回れ”とか。それってどっちも正しいですよね。
「うんうん。そうですね」
――子供のときそういう本を読んでいて、解決方法がほしくて見ているのに、よけいイライラさせられました(笑)。
「それも先人たちの知恵ですね、きっと。わたしこないだ、ことわざ辞典を拾いました。“拾った”は語弊がありますけど、道に“ご自由にお持ちください”って置いてあったので持って帰ったんです。けっこう毒のあることわざが好きですね」
――たとえば?
「“毒を食らわば皿まで”」
――好きそうです(笑)。この曲はご自分でアレンジまでしていますが、最近はずっとそんな感じですか?
「全部家でやってますね。ドラムを打ち込んで、ギターとピアノを弾いて。ベースだけ弾いていただいたんですけど」
――ドラムのトラックがすごくかっこいいですね。
「本当ですか? うれしいなー。リズム隊の友達に聴かせると、みんな“ドラムがいいね”って言ってくれるんですよ」
――ちょっとマーチング・ドラムっぽい。
「いかついですよね(笑)」
――トラックはどこから作っていったんですか。
「ピアノからです。ピアノのリフの曲を作りたくて。なるべくシンプルなアレンジにしたほうが歌詞が伝わると思って、そこに気をつけて作りました」
――その結果がこのドラムだとしたらなかなか……。
「ドラムを打ち込むのが大好きなので、唯一ちょっと激しくなりますね(笑)。ドラムって歌心に合わせられるじゃないですか。足りないところを補ったり、逆もしかりで」
――大サビのところかな、ドラムがお休みの箇所もありますね。
「あそこはギターをかき鳴らしました。メロディと、何より歌詞と、歌の強さを前面に出したくて。キーがものすごく高くて、レコーディングは大変でしたけど」
――今回は歌詞を聴いてほしい曲という感じなんですね。
「はい。〈ねんねこねんね〉とは全然違う曲なので、そのコントラストが伝わったらいいなって」
――ドラマのタイアップということで、より多くの人に聴いてもらうことは意識しました?
「まったくしてないです(笑)。いけないことなんですけど、自分が作ろうと思う曲を作るのが、ドラマサイドの方たちに対する礼儀だと思っているので。さっきお話ししたとおり精神的にしんどかった時期なので、泣きながら作り終えました」
――迎合しないことが相手の期待に応えることだ、という考え方はかっこいいですね。
「いやいや、とんでもないです。でも、これもさっき言いましたけど、ドラマと自分自身で重なって、すごく響くところがありました。どういう部分かは言えないので(笑)、ドラマを見て“ここかな?”って思ってもらいたいです」
――もう放送中ですが、ご覧になってどう思われますか?
「感慨深いです。うれしいというか、少しでもこの作品の力になれていたら救われるな、と思いました」
――ももすさんの曲には全体的にちょっとストレンジな感じもありつつ親しみやすい印象があります。ずっと好きで影響を受けた音楽は何ですか?
「いちばん好きなのはsyrup16gです。根が暗いわたしを高校生のときから今までずっと支えてくれているバンドです。あとART-SCHOOLも好きで、根底にあるギター・ロック好きなところがいちばん影響を受けてると思います。どの曲にも絶対にギターを使ってますし」
――たしかに、ももすさんってふわふわしたイメージだけど、意外とって言うと失礼ですけど、ギターはガーンと弾いていますよね。
「性格もガーンとしてるんで、意外と(笑)。あと昭和歌謡が好きです。昔のアニソンとか、(山口)百恵ちゃんが大好きだったりとか。最近は高野寛さんにはまってます。いま聴いても全然色あせてなくて。あとSurfaceとか、ギターはロックだけどリズムはファンクだったりするみたいな曲も好きなんですけど、それはまだ自分では作れないので研究中です」
――最近もいろいろ摂取しているんですね。
「オアシスの映画(『オアシス:ネブワース1996』)もよかったです。9月23日限定公開とかだったのかな。あとデイヴィッド・バーンの映画がものすごくよかったです」
――『アメリカン・ユートピア』ですね。僕も見て感動しました。
「感動しますよね!ベーシストの人がうまかっこよすぎて、インスタグラムをフォローしてしまいました(笑)。パーカッションの人たちにも心を奪われましたし、全員がコーラスできたのもかっこよかったですね。デイヴィッド・バーンがものすごく天才で、発想力に富んだ人なんだなって思いました。考えられないですよね?あんなライヴのし方って」
――吾妻ひでおさんの漫画もお好きでしたよね。
「吾妻ひでおさん!敬愛してます。いまも着々と本棚に増えてます。吾妻ひでおさんの漫画に出てくる女性になりたいので、その気分で曲を作ったりすることがよくあります」
――かわいくて色っぽくて明るくて元気で……みたいな。
「はい。そういうふうに生きていきたいんです」
――あと、去年お話を聞いたときにいちばん印象的だったのが、リルケやランボーやコクトーの詩集が好きで、堀口大學さんに影響を受けたと。
「昨日も読んでました!わたしは詩集を読むときに文字の羅列を絵として見ることがよくあるんですけど、堀口大學さんの訳詩は絵として見たときのバランスがものすごく美しいんです」
――ももすさんが歌詞を書くときも絵的な美しさを意識しているんですよね。
「かなりしてます。意識的にも無意識的にも、きれいに並ぶようにしてます。変なふうに字が並ぶと気持ち悪くなってきちゃって、ほかの言葉を考えたりしますね」
――ブログに
「左利きの練習」というエントリーがありますが、本当に左手で書いたんですか?
「あんまり覚えてないです。もしかしたら右手で書いたかもしれない(笑)」
――前に絵が描けないと言っていましたが、文字が絵っぽいなと思いました。
「本当ですか? うれしいです」
――文字と絵を行ったり来たりするような感覚があるんですね。
「あります。〈サーモクライン〉のリリース日にMVが公開されるんですけど、今回は自分で監督させていただいて、小さい絵を描いたり手書きの歌詞を書いたりしているので、そういう部分が出ているかもしれないですね」
取材・文/高岡洋詞