――子供のころはどんな音楽を聴いてたんですか。 Hayashi(vo/以下同)「
ガンズ・アンド・ローゼズや
メタリカ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなんかはみんな聴いてた。僕もエアロスミスが好きでね。それとシンガポールやマレーシア、中国のトラディショナル・ミュージック。僕はガムランが好きだったな。おばあちゃんがよく聴いてたんで、僕も子供のころから自然に耳にしていたんだよ」
――2008年にヴァケーションのため来日したことがこのバンドの結成のきっかけになったそうですが、それ以前には何回日本に来ていたんですか。
「8回かな。とにかく日本が好きだったからね。東京はとてもエキサイティングな町だし、たくさんのことにインスパイアされたよ。人々はとてもフレンドリーで、まるで昔からの友人のように接してくれる。食べ物も素晴らしいし、音楽も刺激的だ。代々木公園を歩いていたとき、いくつかのバンドが演奏していたんだけど、それにビックリしちゃって……歌詞の内容はわからなかったんだけど、そういう演奏場所があること自体にインスパイアされたんだ」
――シンガポールのストリートでは演奏できないんですか。
「ストリートで演奏しようとすると、政府からライセンスをもらう必要があるんだ。誰もそんなものを取ろうとはしないよね。シンガポールは少しずつ開けてはいるけれど、インディ・アーティストは自由にできない環境にあるし、そういうこともあって現地のストリート・ミュージシャンはポップなものばかりなんだ」
――Moochie Mac&Superfriendsみたいなバンドはシンガポールにあまりいないんですか。
「本当にわずかだね。ほかはソフトなポップ・バンドばかりで、僕らのようなミクスチャー・バンドはほとんどいないんだ。唯一、僕がリスペクトしているのがCaracal(カラカル)というバンド。彼らはすごくいいよ。ハードコアとかロックンロールをミックスしてフレッシュなサウンドを作り上げてるんだ。でも、僕が知ってるのは彼らぐらいだな」
――シンガポールのクラブ・カルチャーは結構盛り上がってるって聞きますけど。
「うん、DJは多いし、クラブ・ミュージックはとても人気があるね。Zoukというクラブはクレイジーだし、海外の大物DJもたくさんやってくる。大規模なフェスも毎年行なわれているし、僕もハウスは好きだよ。シンガポールの若者は多かれ少なかれクラブ・ミュージックに刺激を受けてると思う」
――Hayashiさんみたいにハード・ロックからハウス、トラディショナルまで聴いてるのは普通なんですか?
「いや、普通じゃないね(笑)。トラディショナルを聴いてる人はあまりいないから」
――今回の『Somerset Roppongi』というアルバムについてなんですが、日本語のタイトルも多いですね。
「そうだね。今回は日本の旅で感じたものをそれぞれの曲に落とし込んでいった感じなんだ。〈Odaiba〉という曲は当然お台場をイメージして作った曲だしね」
――僕には日本へのラヴレターのような感じがしましたよ。
「そうだね(笑)。なによりも大きかったのは、日本の人たちとの出会いと繋がり。シンガポールと同じようにホームを感じるのは、地球上に2つだけなんだ。ひとつはラスヴェガス、もうひとつは日本。成田に降り立つたびに家に帰ってきたような安心感を感じるんだよ。みんなフレンドリーだしね」
――日本とシンガポールの架け橋になりたい、という気持ちも?
「まさにそれが僕のゴールなんだ。シンガポールやタイのバンドを日本に連れてきたいと思ってるし、僕らのカルチャーを日本の人たちに紹介したいとも思ってる。アジア各国の文化をシェアすべきだし、そこで力になれたら……まさに僕の夢だね」
――その一方で、日本は大変な状況にあります。
「僕の国は、こんなに大変な状況を体験したことがない。でも、日本人の辛抱強さには本当に頭が下がるよ。震災直後、新宿駅で何時間も待ち続けている人々を見て驚いたね。シンガポールだったら、みんなあっという間にクレイジーになってるはず。本当に感動したよ。今回のアルバムで南アジアと日本の文化を広く紹介できればと願っているし、それがある種の追悼になってくれたら……」
取材・文/大石 始(2011年5月)