Moonの待望の新作『Tenderly』は、スタンダードからグリーン・デイまで歌うカヴァー集

Moon(Haewon)   2019/07/04掲載
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 昨年、アルバム『Kiss Me』でソロ・デビューを飾り、香港ではテイラー・スウィフトを抜いて総合アルバム・チャート1位を獲得した元WINTERPLAYのヘウォンあらためMoon。日本でも大注目となり、WINTERPLAY時代からのファンが一気に拡大。その喜びを噛みしめながらも自分のペースを崩さず、2019年7月10日にセカンド・ソロ・アルバム『Tenderly』をリリース。伊藤ゴローにふたたびプロデュースを依頼し、前作の流れを汲んだソフトなジャズ・アルバムは、彼女のポリシーでもある“自然体で歌う”ことにこだわっている。
――ソロ・デビュー・アルバム『Kiss Me』は香港で大ブレイクしたんですよね! おめでとうございます。
 「私も驚きました。日本同様、香港でもWINTERPLAY時代からときどきコンサートを開催していましたが、まさか、テイラー・スウィフトを抜いてチャート1位をいただけるとは、本当にびっくりです。最初は信じられなくて、何度もチャートを見返したぐらい(笑)。たぶん、香港の方たちはアルバム『Kiss Me』をジャズというより、ポップス感覚で楽しんでくれたように思います。いずれにしても、作品がたくさんの人から愛されたことは本当に光栄です」
――幸先の良い再スタートとなりましたね。
「WINTERPLAYを離れ、ソロで活動を始めるということは、ある意味、イチから、いえ、ゼロからのスタートだと思っていたので、少し不安も抱えていたんです。でも、多くの方に支持していただき、日本でもライヴ会場などでファンの方たちから温かい言葉をかけてもらい、本当に励みになりました」
――セカンド・アルバム『Tenderly』を作る際のパワーになったのでは?
「次はもっと良い作品にしたいと気持ちが高まりました。それによるプレッシャーも多少あったのは事実ですが、弱気にならず、レコーディングに集中できたのはある人から“アナタはちゃんと独自のスピードで進んでいるね”と言われたからです。そのお陰で自分を信じることができました」
――プロデューサーは前作に引き続き、ギタリスト / 作曲家の伊藤ゴローさんです。ご自身の演奏活動のほか、原田知世さんのプロデュース・ワークや映画音楽を手がけるなど、多方面で大活躍中のアーティストですが、Moonさんは以前からゴローさんのファンだったんですよね。
「仕事をご一緒する前から彼の音楽が大好きで、私が母国でパーソナリティを担当していたラジオ番組でも曲を紹介していました。そんなふうに長年聴き続けているからこそ言えるのですが、ゴローさんは大きな意味で音楽が“上手い”方だと思います。私にとっては憧れとも言えるゴローさんに前作『Kiss Me』をプロデュースしていただき、彼の心が非常にオープンだと気付きました。斬新なものでも柔軟に受け入れ、意外なチャレンジでも拒むことはありません。とても気持ちよく音楽制作ができたので、セカンド・アルバムのプロデュースもお願いしました。今回も私の意見や考え、アイディアを臆することなく伝えられたし、それをそのまま受け止め、よりよく表現してくださいました」
――演奏は伊藤ゴローさんの新ユニット「land & quiet」(伊藤ゴロー〈g〉、佐藤浩一〈p〉、福盛進也〈ds〉)を中心に、鳥越啓介(b)さん、伊藤 彩ストリングカルテット、小川慶太(perc)さん、鈴木 圭(fl、バスcl、sax)さんが参加されています。
「福盛さんとは今回初めての共演でしたので、録音前にコミュニケーションを深めようとSNSやメールでやり取りをさせていただきましたし、彼の韓国公演にも足を運びました。その甲斐あってか、レコーディングでは私のイメージを熟知した繊細な表現をしてくれて、本当に感謝しています。時間をかけて築いた関係性が演奏にも表れていると思います」
――収録曲はすべてMoonさんが選んだのですか?
「歌いたい曲をリストにし、みなさんと相談して決めました。〈私を愛したスパイ〉だけはゴローさんの推薦曲です。今回、初めて知った曲で、たしかに素敵なメロディでした。ただ、自分が歌うとしたら、いったいどんなアプローチにすればいいか最初は戸惑ったんです。ある時、ピアノとのデュオ、しかも、スウィングで歌ってみたらいいんじゃないかと思いつき、結果、かなり気に入った仕上がりになりました」
――アイルランド出身のバンド、コアーズが1997年に発表した「ホワット・キャン・アイ・ドゥ」で幕を開け、ミニー・バートンのヒット曲「ラヴィン・ユー」、ディオンヌ・ワーウィックの代表曲「ウォーク・オン・バイ」、マイケル・フランクスの「レディ・ウォンツ・トゥ・ノウ(淑女の想い)」、ノラ・ジョーンズの「ゾーズ・スイート・ワーズ」など、本当にさまざまな時代の名曲をカヴァーしています。
「ジャズ・ミュージシャンは普段ジャズばかりを聴いていると思われがちですが、私はジャンルにこだわらず、いろいろな音楽を吸収しています。その中から自分が歌いたい曲をチョイスし、実際歌ってみます。ところが、曲の良さをどうしても表現できない場合もあるんです。そんな時は、もっと年齢を重ねたらトライしようと心の奥に曲をしまい込みます(笑)。たとえば、ジャズ・スタンダード曲〈ユー・ドント・ノウ・ホワット・イズ・ラヴ〉は先送りにしている一曲で、40代になったら歌えるんじゃないかと思っているんですよ。音楽というのは自分の経験があふれ出るものですし、ヴォーカリストは歌詞に共感し、身に迫るモノがないと表現できませんからね。つまり、歌うには経験不足な曲というのもあるんです(笑)」
Moon
©Katsunari Kawai
――「ビー・トゥルー・トゥ・ミー」はメキシコのソングライター、アルバロ・カリージョが生んだ「サボール・ア・ミ」の英語ヴァージョンですよね。
「本当は、原曲どおりスペイン語でカヴァーしたかったのですが、正しい発音で歌える自信がなかったため、英語で歌うことにしました。それで、ドリス・デイのヴァージョンを参考にしたんです。もともと、彼女の歌唱法が好きでしたから。だからといって真似をするのではなく、あくまでも私のアプローチで録音しています」
――グリーン・デイの「ウェイク・ミー・アップ・ホウェン・センテンバー・エンズ」を取り上げていたのには驚きました。
「多くの方から意外だと言われましたが、普段ロックを聴くこともあるんですよ。たとえば、ちょっとストレスを感じた時に聴くとスッキリするんです。〈ウェイク〜〉は以前、韓国のラジオ番組でアコースティックな編成で歌う機会があり、原曲との違いも味わっていただけるんじゃないかと、迷うことなく収録しました」
――ところで、ジャズ・スタンダード曲からは「スワンダフル」と「テンダリー」をピックアップされています。曲名の「テンダリー」をあえてアルバム・タイトルにした理由は?
「私が追い求めている音楽は“あるがまま、無理することなく自然なスタイル”です。それを表しているワードがずばり“テンダリー”だと思ったんですよ。ただ、“あるがまま”というのは簡単なようで難しいんですよね。自然体に見えるためには、人知れず努力しなければいけないこともあります。たとえるなら白鳥のような感じかしら。一見、優雅に見えたとしても水面下では必死に水かきを動かしている(笑)。そんなふうに隠れたところでつねに自分を磨いていかなければ、私の求めている音楽は作れないと思っています。それと、私はヴォーカリストなので、かならずプレイヤーのサポートが必要です。無伴奏で歌うことも可能ですが、基本的にはミュージシャンとの共同作業。ですから、私が音楽をするうえでもっとも重要視しているのはアンサンブルと言っても過言ではありません。そのアンサンブルというのは音楽だけでなく、生きていく上でも大事なことだと思っています」
取材・文/菅野 聖
Concert Schedule
Moon
©Katsunari Kawai
■Moon 『Tenderly』発売記念ライブ
2019年8月16日(金)
神奈川 横浜 モーションブルー横浜
開場 16:30 / 開演 18:00
http://www.motionblue.co.jp/artists/moon/

[メンバー]
Moon(vo)
伊藤ゴロー(g)
佐藤浩一(p)
鳥越啓介(b)
福盛進也(ds)
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