森重樹一のアルバム『KING'S ROAD』が興味深い。本作はZIGGYが結成25周年を迎えたタイミングでのセルフ・カヴァー作品だが、彼自身はとてもフラットな心情のようだ。
「実は僕自身は25周年というのは忘れてたんですよ。だけど、たまたまスタッフからそういう話を持ちかけられてね。今、ZIGGYとしては動けないけど、解散したわけではない。でも、ここで他の(新旧)メンバーを集めてというのはちょっと仰々しい。そんな中で、ソロ・アーティストとしてのキャリアはバンドとはまた別のものだし、今回みたいな方法論もありなのかなぁと。レコード会社は資料とかで、25周年であることを当然、謳い文句にするでしょうけど、本人の中ではそういう気負いはあまりなくてね。もちろん、ZIGGYというものが自分の中からなくなることはないし、大げさに考えることでも、変に蓋をすることでもない。ごく普通に接しているだけなんですよ。やっぱり作品を残すことがアーティストとしての第一義だと思うし、その辺はフレキシブルにいたいんですよね」
今回は外部のアレンジャーに楽曲を投げ掛けた制作手法も特徴の一つ。結果論でしかないのかもしれないが、客観的に森重樹一らしさがさまざまな側面から見えてくる点が面白い。
「森重樹一のストレートは、どのぐらいの球威があるのかとか、制球力はどれぐらいなのかとか、なぜゆえに僕が20年以上もシンガーとしてやってきたのかということを、ある種、わかってくれたうえで、“解体できるところは解体してみよう、新しい側面を出してみよう”といった判断だったと思うんですよね。まったくの新人をプロデュースするのとは違う視点で、みなさん曲に対してアプローチしてくれたなと思うんですよ。それに対して、僕はシンガーとして、ホントにシンプルな臨み方をしてみたんですね」
初期ZIGGYを象徴する「HOW」、バラード・ヴァージョンの「GLORIA」、ボサ・ノヴァ風に生まれ変わった「君をのせて」、デビュー・アルバムのオープニング曲でもあった「それゆけ! R&R BAND」を始めとして、いわゆる代表曲と捉えられるものも少なくないが、選ばれたマテリアルそのものにも、彼の揺るぎない思いや個性が随所から感じ取れる。
「たとえば、「天のくれたメロディ(LOVE IS EVERYTHING)」は、自分が今後示していきたい方向性を、内容的に示唆するものを入れたいと思って、あえて選曲したんですよ。自分が書いたZIGGYの曲の中では、わりとソロ的なテイストがすごく強い。アルバムの最後にはボーナス・トラックとして、書き下ろしの「JOY OF LIFE」も入ってますけど、ただ代表曲の羅列じゃなくて、意味合いとして、自分の精神的な一貫性みたいなものを感じさせられる曲は、できれば織り込みたい気はしたんですよ。やっぱり森重樹一の歌は森重樹一にしか歌えない、そういうものをこれからも探していきたいですしね。
「Without...」みたいな、自分らしいメロディ・ラインだなぁと思って選んだ曲もありますね。この曲はちょうどメンバー・チェンジやレコード会社の移籍などで、どさくさにまぎれて消えてしまったようなところもあって……。
SNAKE HIP SHAKESのときにもやってはみたんですけど、自分のキャリアの中でなかなかスタンダード化していかないというか(笑)。だから逆に、曲としても好きなものだし、ここに入れておこうかなと」
セルフ・カヴァーに挑んだ場合、オリジナル・ヴァージョンとの乖離がファンの間で賛否両論を巻き起こすこともあるが、本作はそういった議論の対象とは別の次元にある作品と言える。そんな思いを強くさせるのが、先ほども話題に出た「JOY OF LIFE」だろう。今、森重が何を訴えようとしているのか、生み出したいのか。そういった彼の精神性が如実に伝わってくるはずだ。
「そう言ってもらえるのはすごく嬉しいし、あの曲の有無って、すごく大きいと思うんですよね。自分の好きなアーティストは早くに亡くなっている人も多いですけど、刹那的な美しさや儚さ、その裏にある尋常じゃない強さとかってありますよね。今もそういったものへの思いはあるんだけど、僕には46歳になったシンガーとしての目線がある。自分なりに関わってきた音楽業界の中に対して、感謝もしてるし、いろんな思いがあるけれども、基本的にはこの世界で歌を歌ってこれたのは幸せだったと思ってるんですよ。シンガーができる最良のことは歌うこと、歌に魂を込めることだと思うんですけど、本当の意味で自分に自信を持ちたいし、そうすれば、ねたみやそねみ、逆に言えばおごりや傲慢などからも解放されるだろうし。解放されるってことは、多くの人の耳に届くだろうし、胸に響くだろうし。その意味では僕はまだまだひよっ子ですけど、自分に与えられた時間の中でできる精一杯のことは、これからもやりたいんですね。〈JOY OF LIFE〉も歌うべくして歌ったものだと思いますし、自分の46年はどんなものだったか、それは人と比べようもないですけど、今回はそういうものが反映される作品を形にできたと思うんですよね」
取材・文/土屋京輔(2009年10月)
【Column】
コンポーザーとしての森重樹一
〜楽曲から垣間見える、作曲家としてのポテンシャル
いわゆるロック・スターと称するのに相応しい佇まい――。そんな森重樹一のキャリアを語るうえでは、もちろん、日本の代表的なバンドの一つに数えられるZIGGYについては避けて通れない。1984年の結成時から幾度かのメンバー・チェンジを経ているものの、彼は唯一、その名を背負ってきた人物でもある。当時、東京・渋谷ラママ界隈で、多くの“バッド・ボーイズ・ロック”と形容されるスタイルの若手が鎬を削る中、ZIGGYは先鋒的な存在として台頭。インディーズ・リリースの『それゆけ! R&R BAND』の後、すぐさま『ZIGGY -IN WITH THE TIMES-』(1987年)でメジャー進出を果たすと、「GLORIA」のシングル・ヒットなども追い風となり、活動規模は瞬く間に広がっていった。
その森重は1990年代半ばから、ZIGGYと並行してソロ・アーティストとしての歩みもスタートさせた。これまでにアルバムだけでも
『LOVE SOMEBODY』(1996年)、
『HEART OF GOLD』(1997年)、
『BUTTERFLY』(1999年)、
『LOOKING FOR MY PARADISE』(2002年)、
『ROCK & ROLL SiNGER』(2004年)、
『CHRONIC LAY ABOUT』(2007年)という6作品を残している。発表時期などによって多少の音楽的振り幅の違いはあるが、元来からコンポーザーとしての評価も高かった彼のポテンシャルは、これら一連の創作物を通しても改めて確認できるだろう。
さらに2004年からは戸城憲夫(b/元ZIGGY)と
THE DUST'N'BONEZを、2006年からは松尾宗仁(g/ZIGGY)と
THE PRODIGAL SONSも結成。2008年2月をもってZIGGYは活動を休止した状態にあるとはいえ、現時点では(少なくとも)4つの顔を持つシンガーとして活躍を続けている。
では、そこまで彼を音楽に駆り立てるものは何なのか。答えを見出すのは決して簡単ではないが、いずれにしても確かなのは、自身の内面にあるさまざまな感情を表現するものとして、それぞれの作品群が機能している点だろう。音楽性は違えども、おそらく根本にある軸は同じはずなのだ。それはソロとしての最新アルバム『KING'S ROAD』に触れてみても感じられる。新たな視点から再構築されたZIGGYのマテリアルを純粋に堪能できる一方で、特に最後を締め括る書き下ろしの「JOY OF LIFE」に耳を傾けたい。ZIGGYを起点に、シンガーの森重樹一が積み重ねてきた25年間を総括しながら、あるべき未来像まで想起させる歌の力。綴られた素直な心情は聴き手へのメッセージとなり、そのまま新たな境地に至った姿をも表しているようだ。今だからこそ冠されたと思しき“人生の楽しみ”なるタイトルと同様の深遠さがそこにはある。
文/土屋京輔