石川県七尾市出身の画人、長谷川等伯に捧げた組曲を中心とした最新アルバム『
アート・イン・モーション』(2018年)が大好評の
守屋純子は、毎年2月にみずから率いるビッグバンドの定期公演を行なっている。メンバーは日本を代表するジャズ・ミュージシャン揃いで、この自主コンサートを楽しみにしているファンも多い。
次回は2019年2月22日(金)、東京・渋谷区大和田総合センター さくらホールでの開催が決定。どんなステージが繰り広げられるのか、さらに彼女が挑戦し続けている理由などをうかがった。
――次回の守屋純子オーケストラの定期公演はひとつの節目を迎えるんですよね。
「2000年から自主公演という形で毎年コンサートを行なってきましたので、次はちょうど20回目となります。自分名義のビッグバンドで初めてコンサートに出演したのが1999年ですから、そこから数えても丸20年です」
――おめでとうございます! あらためてうかがいますが、ビッグバンドを立ち上げたきっかけを教えてください。
「山野楽器さんから〈YAMANO BIG BAND JAZZ CONTEST〉の30周年記念企画として、コンテスト出身者のプロを集めたビッグバンドを組み、ゲスト演奏してくれないかと依頼されたのがきっかけでした。当時、私は6管編成のバンド・リーダーとして活動をしていたのでお声がかかったんだと思いますが、自分としてもビッグバンドならもっといろいろなことができるのでは、とイメージしていた矢先だったので快諾したんです。その初ステージが1999年8月。その後、ライヴハウス“Tokyo Tuc”の田中さんからオファーがあり出演、さらに日本ポピュラー音楽協会の前身である日本音楽家協会主催のコンサートにも出させていただきました。そんなある日、ジャズ評論家の児山紀芳先生に背中を押され、自主公演に向けて動き出したんですよ。でも、会場選びはもちろん、何もかも自分で決めなくてはいけないですし、右も左もまるでわからない状態だったので、想像していた以上に大変でしたが、相談に乗ってくださる方や優秀なスタッフの方に支えられて、初公演を無事、実現することができました」
――以降、毎年欠かさず、開催されているというのは本当に素晴らしいことだと思います。
「おかげ様で守屋純子オーケストラは多くの方や団体、ジャズ・フェスなどに依頼され、さまざまな場所でホール・コンサートを行なっていますが、それでも1年に1回ぐらいはみずから全責任を背負ってホールでコンサートをしたほうがいいと思っているんです。というのも、バンド・メンバーは誰もが認める一流のミュージシャンばかりなので、もしコンサートに不具合が生じたとしたら、それはすべてリーダーのせい。つまり定演は私にとって大事なチャレンジの場であり、だからこそやり甲斐も感じているんです」
――ホールならではの良さもありますよね。
「幅広い層のお客さまにお越しいただけるのもそのひとつですね。普段、ジャズを余りお聴きにならない方でも気軽に来てくださるのはシステムが明瞭だからではないでしょうか。終演も夜9時頃なので帰りの時間が読めますし、新幹線をお使いの方でも終電に間に合う方が多い。なかには、せっかく上京したのだからということで1、2泊して東京観光と組み合わせて楽しまれる方もいらっしゃいます。こうして例年、お仲間を誘ってお越しくださる方がいたからこそ20回目を迎えられるわけです。しかも、コンサートを機にライヴハウスにも足を運んでくださる方もいて、本当にありがたく思っています」
――ところで、毎回定演にはテーマを設けていますよね。今回は“20 Years of Gratitude”!
「20年という節目の年なので、今までやってきた事とこれからを示すその両方を表現する予定です。過去リリースしたリーダー・アルバム9枚のうち、6枚がビッグバンド、ほかの3枚はそれぞれオクテット、セクステット、トリオという編成でしたから、それら3枚の収録曲からピックアップし、ビッグバンド・アレンジにしていない楽曲を新たに書き直して演奏しようと思っています。それと今回お披露目となる新曲もプレイする予定ですが、これはオリジナル曲オンリーという意味ではなく、新アレンジの有名曲も含みます。これまでも定演では、かならず多くの人に知られている曲をアレンジしてお届けしていますが、そのほうがみなさんリラックスして楽しめると思うからなんです。いずれにしても、今回は過去を見つめ直し、未来に想いを馳せる時間になりそうです」
「構想を練っているところです(笑)。ビッグバンドのアレンジや作曲は本当に大変なので腰を落ち着け、さあ、やるぞ! と気持ちを盛り上げないと書けないんですよ。私の場合、
サミー・ネスティコのように曲が降りてきたりはしませんから」
「彼はふとした瞬間、たとえばシャワーを浴びている時やドライヴ中に自然と曲が降りてくるとおっしゃっていました。〈オレンジ・シャーベット〉や〈ウインド・マシーン〉などの名曲も自然に浮かんできたとか。残念ながら私にはそういうことが起こりませんので、とにかく必死になって書いています。では、なぜそこまでして書いているかと訊かれれば、それが自分のやるべきことだと信じているからなんです。人はみな生かされている理由があり、世の中に必要じゃない人はひとりもいない。つまり、生まれてきたのはかならず意味があるからで、私の場合は曲を書き、演奏することが使命だと感じています。もちろん教える仕事もそのひとつですが、いちばん大事にしているのは、やはりビッグバンドのような多くの人が関わって初めて可能になる作品を生み出し、演奏すること。ただ、メンバーに譜面を渡すのが本番直前になってしまうので、このメンバーだから可能なんですけれどね」
――ちなみに守屋さんは演奏活動のほかに、昭和音楽大学及び尚美学園大学非常勤講師としてもジャズ教育に力を注いでいらっしゃいます。さらに、〈YAMANO BIG BAND JAZZ CONTEST〉や〈浅草JAZZコンテスト〉の審査員を務めているほか、日本はもちろん海外のビッグバンドにも招聘され精力的に指導を行なうなど、活躍の場は多岐にわたっていますので、ビッグバンドに関する状況をリアルに感じているのではないですか?
「そうですね。たとえば20年前よりもビッグバンドは盛んになっていると思いますし、実際アマチュア・ビッグバンドの数は以前よりも増えているんです。しかも皆さん、レベルが高い! そんな彼等が私の曲を演奏し、動画サイトにアップすると、それを見た海外のビッグバンドから問い合わせがあるんですよ。それと最近、エレクトーン・コンクールの審査員も担当していますが、エレクトーン奏者の方々も私の曲を弾いてくれていて、ビッグバンド自体を身近に感じている方が増えているように思います」
――では、ビッグバンドによるライヴの醍醐味をお話ください。
「むずかしいことは抜きにして、私がビッグバンドをやりたいのは単純に楽しいからなんです。これだけうまい人が集まって、ひとつの譜面を演奏するって本当にすごいことだと思いますしね。それと、ビッグバンドというのはとてもバランスのとれた芸術だと感じています。つねにアンサンブルでもないですし、つねに即興というわけでもない。どちらも楽しめる音楽であり、それを生音で体感するというのは非常に贅沢なことだなと。今の時代はコンピュータを使えば、いくらでもビッグバンドの音は出せますし、もちろんそれを否定しているわけではないですが、生身の人間が集まらなければ出せない音というのもあるんですよね。しかも演奏者と一緒の空気感にいなければわからない音もある。それをぜひ多くの方に味わってほしいんです」
――たしかにビッグバンドの演奏を直接肌で感じる興奮は計り知れないモノがあります。
「守屋純子オーケストラの定演はジャズの入門者の方でも充分楽しめると自負していますので、まだ未体験の方もぜひお誘い合わせのうえ、お越しいただきたいです。もちろん、毎回いらしていただいているファンの方にも満足していただける時間にしますので、どうぞ期待していてくださいね」
取材・文/菅野 聖(2018年12月)