ゆきさんに初めて会ったときに感じたのは“頭のいい人だな”ということ。最初は“右脳的”な感受性の人なのかなと思ったんだけど、じっくり話してみたら、ロジカルにいろいろなことを解析している人だということが分かったんです。歌入れのときも、曲のキーに合わせて自分の声を半音上げるとこういう風に聴こえて、さらに息の混じり具合でこういう風に変わりますとか全部説明してくれるんです。一瞬のうちにあらゆることを解析してしまうんですね。今までいろんな人と仕事してきたけど、あんなシンガーは初めてです。
彼女が作ってくる曲も、言葉にするのは難しいんですけど、“数学的に美しい”という感じなんです。『不思議の国のアリス』の作者であるルイス・キャロルは優れた数学者でもあるんですけど、あの物語は一見ファンタジーのようでいて、ちゃんと読むと人間の思考や物の見方がロジカルに描かれていることに気付かされるんです。ゆきさんの曲を聴くと、いつもそのことを思い出します。
プロデューサーとして今回、僕が心がけたのはチーム作り。彼女が不安に思ったり立ち止まったりしないように、いいチームを作ろうと思いました。そのために、いろいろなクリエイターの方に集まっていただきました。レコーディングの雰囲気もすごく和気あいあいとした感じで楽しかったです。
彼女とは今後も引き続き作品を一緒に作っていけたらいいなと思っています。豊かな音楽性と確かな基礎を兼ねそろえた、日本に数少ないミュージシャンだと思うので、今後さらに活躍して、幅広い音楽ファンに愛されるミュージシャンに育っていってほしいですね。
私は2001年から名曲「夢で逢いましょう」をテーマ曲にしたシリーズCMの音楽制作をしておりました。歌手はりりィ、石川セリ、ハナレグミの順で展開しておりました。そして2004年暮れには三人につづく歌い手を懸命に探しておりました。その折、私の耳に鮮やかに飛び込んできた声に惹きこまれたのでした。「Both sides,now」を歌う村上ゆきさんの声でした。その声色を聴き今も強くのこっている印象があります。人の声もひとつの楽器なんだなと感じたこと。
ゆきさんは「夢で逢いましょう」というシンプルにして奥深い日本語の「うた」に向かい、歌にピアノの伴奏にと苦心、工夫を重ねてくれたのでした。そのCMは多方面から好評を得ました。それを機会に私は日本語のうたに取り組むゆきさんにぜひ会っていただこうとコピーライターの一倉宏さんをご紹介しました。以来、作詞(ことば)の名匠・一倉さんとゆきさんは、丁々発止の関係で今も歌づくりを重ねていらっしゃいます。きっと、ドラマが生まれるでしょう。私は今は新しく出た『Watercolours』を聴いております。味わいながら湧く思いがあります。これからもずっとずーっと、ゆきさんを応援しようと。
コピーライターはCMで流れる歌詞にも責任をもつべきだ、というのが私の持論で、通常のタイアップは絶対にやりません。そんな矜恃のうちに、菅野よう子、斉藤和義らとの幸福な出会いがあって、近年では村上ゆきの発見が大きな宝だと思っています。ことばのひとつひとつに、どんな音符の羽根がついて、歌声となって羽ばたいて、どれだけひとの心に届くことができるか。すべての歌の本質はそうに違いありませんが、CM音楽ではそこに凝縮した宝石の誕生を望みます。また、その15秒、30秒がフルサイズに展開した時の、村上ゆきの歌の翼のひろがりは希有なものです。特にこのアルバムでは「歌う」という歓びに目覚めていると感じます。藤井丈司さんの頼れる音楽性を得て、また、覚和歌子さんの詞、大瀧詠一さん、永積タカシさんの名曲にも恵まれて、清々しくひろがる世界観のアルバムが誕生したと思います。
2004年の谷川俊太郎・賢作親子のコンサートに、デビューしたばかりのゆきちゃんと一緒にゲストとして出演したのが、私たちの最初の出会いです。
そのころから雰囲気のある歌唱が印象的だったのでよく覚えています。「心の青」は、詞先で作りました。打ち合わせでは「きちんと練られた大人の言葉を」と言われたような記憶がありますが、その打ち合わせ場所に来る道すがら思い浮かんでいたのが「心の青」というフレーズで、ゆきちゃんに合うかも、と思って提案しました。詞そのものは一週間ぐらいでできて、詞を読んだらすぐに曲が浮かんできたとゆきちゃんに聞きました。
「いくつになっても少年少女」というような、大人にしか歌えない言葉をゆきちゃんは、魅力的な大人の童謡に仕立ててくれています。こんなふうに歌ってもらえて、言葉たちはとてもしあわせを感じていると思います。ありがとう、ゆきちゃん。また一緒に作れたらうれしいです。
声に力があるひとの唄は一本の線のように見えることがあります。こんなことを感じるのはきっとボクだけではないと思うのですが、何故なのでしょうね。ゆきさんの唄声を間近で聴くとその理由に手が届きそうな気さえしてきます。彼女の場合、特に声を無理に張らなくても「身が詰まって」いるのです。大きな声で唄うこともできるのでしょうけど、密度が濃いので落ち着いたトーンでも「鳴る」んですよね。このことだけでも充分に得難い素質なのです。そしてその声の持ち主が情感豊かで、尚且つ音程も良く、あろうことかピアノに於いても名手であったという奇跡。そもそもある時期までピアノばかりやっていて唄をちゃんとやっていたわけではなかったそうで。もちろんいまはトレーニングとかキープするための努力もされてるのでしょうけど、それにしてもずるいなあ。ずるいけど、そう、これって奇跡なんですよ。
ゆきさんの声をスタジオで初めてマイクを通して聴いたときの印象が今でも思い出されます。とても心地良い音色で透明感と存在感がありました。余分な手を加えず素直に録音すると即座に決め、今までやってきました。間違っていなかったと思います。
素直に録音をすることはなかなか難しいです。演奏者と録音の両方の息が合わないと良い結果が出ません。何回聴いてもその都度新鮮な感じで受け取られるような音作りを目指してきました。ピアノが良く出来ても歌が満足出来ないとか、またその逆も。ミュージシャンが複数の時は一人がミスをしてもすべてやり直し、プレッシャーがありますが、それが良い音に必要と思います。
今の気掛かりは、ゆきさんがスタジオに来る時の自転車事故、スタジオ間違い、パン焼き時のヤケドと指の怪我。それとゆきパン食べ過ぎによる胃のもたれ。
SHARP AQUOSのCMでタイアップされた「COLOURS」のPVをディレクションすることとなりました。「英語の歌詞部分」+「日本語の歌詞部分」の楽曲構成を「ピアノ演奏しながら歌う」+「立ち姿で歌う」それぞれの村上ゆきさんに置き変えて、演出プランの柱としました。美しい歌声はもちろん、それぞれのパートを歌い上げる村上ゆきさんの表情の豊かさもPVの見どころのひとつとなりました。