村上ゆき ニュー・アルバム『Watercolours』発売記念 3週連続特集 COLOURS 第3回目:対談 村上ゆき×宮川弾

村上ゆき   2011/06/22掲載
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村上ゆき ニュー・アルバム『Watercolours』発売記念
3週連続特集 COLOURS
第3回目:対談 村上ゆき×宮川 弾

 3回連続でお届けしている村上ゆき ニュー・アルバム『Watercolours』発売記念特集『COLOURS』。最終回となる今回は、『Watercolours』にアレンジャーとして参加した宮川 弾との対談が実現。アルバムの中心となる楽曲「COLOURS」の制作エピソードはもちろん、「村上さんのピアノは“おっさん”で、歌は“無垢な子ども”」(宮川)という衝撃的な(?)話題も飛び出す、軽やかで刺激的なトークが繰り広げられました。





「弾さんは圧倒的なものを持っていらっしゃるのに、それがバーッと出てくる感じではなくて。すごく安心できる空気を持ってらっしゃる方だなって」(村上)


村上ゆき 「どんなことを話しましょうか? 栗まんじゅうのこと?」
――宮川 弾さんがツィッターで“ドラえもんの栗まんじゅう”について呟いたっていう(笑)。“バイバイン”をふりかけた栗まんじゅうをドラえもんが宇宙に飛ばしてしまった、あの話ですよね?
宮川 弾 「でも、皆さんちゃんと考えてくれてるみたいなんですよね、物理的観点から。だから、今日は安心してきました(笑)」
――良かったです(笑)。村上さんと宮川さんが一緒に音楽を作ったのは今回が初めてなんですよね?
村上 「はい。最初はプロデューサーの藤井(丈司)さんが……」
宮川 「そうなんですよね。藤井さんとは少し前にお仕事をご一緒させてもらったんですけど、その後、ライヴ会場で偶然お会いして。僕、ふだんはJ−POPっぽいフィールドで仕事をさせてもらうことが多いんですが、そのとき藤井さんに“ジャズっぽい仕事をしたいです”ってグチみたく言ってて(笑)。そうしたらホントに“ジャズっぽくて、歌の上手い子がいるんだけど”って電話をいただきまして」
村上 「藤井さんとも今回が初めてだったし、どういうサウンドになっていくか、まったくわかってなかったんですね。でも、弾さんとは話しているだけでおもしろかったというか、すごく不思議な人だったら、”これはレコーディングが楽しみだな”と。藤井さんからも“あんまり喋らないし、変わった人だから”って聞いてたんですけどね」
宮川 「そんな前情報が(笑)。気になりますね……どう変わってました?」
村上 「佇まいとか、時々、ポロッと出てくるひと言とか(笑)。圧倒的なものを持っていらっしゃるのに、それがバーッと出てくる感じではなくて。遠慮してるわけではなく、ちゃんと見極めながら出してきてくれる感じだったんですよね。すごく安心できる空気を持ってらっしゃる方だなって」
宮川 「ありがとうございます(笑)。最初の打ち合わせのときに、ゆきさんがご自分の音楽的経歴みたいなことを話してくださったんですよね。“小さいころから歌っていうものを意識してきたわけではない”っていう話を聞いて、“あ、そうなんだ”って思って。でも、ちょっとした鼻歌を聞くだけでも、凄いんですよ。あのときは顔に出さなかったけど、実はかなりビビッてました。これはちゃんとやらなきゃダメだなって」
村上 「いえいえ、そんな……」
宮川 「レコーディングはすごく楽しかったんですけどね。ゆきさん、ほぼ毎日パンを焼いてきてくれるんですよ。それが趣味とかのレベルじゃなくて、即・お店を出せる美味しさっていう」
村上 「ミュージシャンやめて、パン屋さんになったほうがいいかも(笑)。でも、パンを焼いてたりしたほうが、意外とモノが考えられたりするんですよね。自分が活性化されるというか、いろんなアイデアが出てきたり」
――では、そろそろ音楽の話を(笑)。今回のアルバムで宮川さんは4曲(「COLOURS」「夢にできること」「When the world turns blue」「おかえりなさい」)の編曲を手がけていますが、最初に取り掛かったのはどの曲ですか?
村上 「『COLOURS』ですね」
宮川 「藤井さんとゆきさんから、ある程度はイメージが伝わっていて。それを元にトラックを作っていったんですけど、ゆきさんがピアノで弾き語りをなさる時点でかなり出来上がってるんですよね。だから、そんなに埋め尽くす必要がなかったというか。わりと僕、ふだんの仕事ではガッチガチに“ひっかけ問題”を作るタイプなんですよ、アレンジ上の。今回は引き算の美学というか、少し色を重ねていくくらいの気持ちで始めました」
村上 「弾さんが手がけてこられた楽曲を聴くと、全部絵を描ける方なんだなって思うんですよね」
――楽曲全体を構築できるクリエイターですからね。
村上 「だけど今回は“ここに何を足せばいいんだろう?”って悩まれたんじゃないかなって」
宮川 「悩む感じではなかったんですけど、ふだんの挑み方とは違いましたね」
村上 「いままで私は(楽曲に)エフェクトを加えるということもなかったんです。ずっとアコースティックな空間のなかでやってきたので、そういう(エフェクティヴな音響の)なかに自分の声が乗っかって成立するのか? ということも考えたことすらなくて。『COLOURS』のアレンジも自分では絶対に思いつかなかったし、“へー! こんなふうになるんだ”ってすごく新鮮でしたね」

「ゆきさんは、ピアノだけ聴いてると“あれ? おっさんが弾いてるの?”って感じなんだけど(笑)、歌に関しては子どもみたいな無垢なオーラがあって。そのギャップがすごいんですよ」(宮川)

――難しさはなかったですか?
村上 「最終的にどうなるか? っていうのをイメージするのは結構難しかったかもしれないですね。もちろんデモは作ってくださるんですけど、現場でやってみないとわからないこともあるし。スタジオでのジャッジも自分では難しかったから、弾さん、藤井さんを信頼してお任せした部分も大きかったです」
宮川 「と言っても、そんなにテイク数が多いわけではなくて、大抵は最初のテイクがいちばんいいですけどね。しかも弾き語りしたほうがいいんですよ、ゆきさんの場合。後のミックスのことを考えて“(ピアノと歌を)別々にやってみる?”ということもあったんだけど、やっぱり同時にやるほうがいい。歌とピアノをいっしょにやってるからこその空気感は残っていると思いますね」
村上 「あとから音を重ねるのは大変だったと思いますけど(笑)」
宮川 「僕としては“今日もいいライヴを見に行ける”っていう感じのレコーディングでした。ホント、いいライヴをやってるんですよね、スタジオに行くと。“あれ? 今日、何でこんなにお客さんが少ないの? こんなにいいライヴなのに”っていう(笑)。しかも、ベースの方もギターの方も、いいミュージシャンを呼べたので。自分がプレイヤーだったこともあるので、レコーディングにおけるプレイがどう大変かっていうのもわかってるつもりなんですね。でも、今回の現場は“あ、ここも合うんだ。ここもピッタリ来るんだ”っていうことばかりで。ゆきさんのピアノも、こんなに上手いとは正直思ってなくて……。何かね、ピアノに関しては叩き上げっぽいんですよ。歌に関しては逆で、無垢っていうか、生まれたてみたいな感じなんだけど」
村上 「あー、そうですね」
宮川 「ピアノだけ聴いてると“あれ? おっさんが弾いてるの?”って感じなんだけど」
村上 「ハハハハハ!」
宮川 「鳴りがいい、タッチが正確ってことでもあるんですけどね。ただ、歌に関してはまだ子どもみたいな雰囲気で。そのギャップがすごいんですよ」
村上 「……いま、すごく納得しました。ホントにそのとおりですね。ピアノだけだったらオヤジになってたかも、って思うくらい(笑)。ピアノに関して言えば、以前はゴリゴリ弾くのが好きだったんですよね。体力勝負、音のでかさで勝負っていう時代もあったんだけど、そのうちに“意味”というものを考えるようになって。そのときに“いままで何をやってきたんだろう?”って打ちのめされる感じがあったんですよね。“指は動くけど、虚しい”っていう。そこで模索しているときに、今度は“歌を歌う”っていう新たなコンプレックスが加わるわけですけど、そのことによってピアノも救われた気もするんです。それまで私はピアノだけに向かい合ってたんだけど、歌を歌うことで、ピアノも1から始めることができたというか」
――行き詰まりを感じていたピアニストが、無垢な女の子のシンガーと出会うことによって、浄化されていくっていう……。
村上 「それをひとりでやってたんでしょうね(笑)」
宮川 「なるほど。だから、そのオジサンは優しいんですよ、心が。ゆきさんのなかの“おっさん”はぜひ、大事にしてあげてほしいですね」
村上 「名言ですね(笑)。こういうふうにポロリと出てくる言葉に何度開眼させられたことか」
――お互いに発見の多いレコーディングだったようですね。
村上 「贅沢だなって思いますね。贅沢にもいろいろあると思うんですよ。たとえば際限なくお金も時間もかけられるとか。今回は大人の足し算、引き算が出来たなって思うんです。冒険心を持っていろんなことを試したうえで、勇気のある選択をするっていう。いまの時代、それはすごく贅沢だなって。何でも修正できちゃいますからね、簡単に」
宮川 「そうですね。今回のレコーディングでは“音程だけだったらこっちのテイクだけど、歌に力があるのはこっちのほうだよね”っていうことも多かったし」
村上 「整合性よりも、伝えたいものだったり、音楽として力があるほうを選んでもらったというか。きれいに整えすぎると、人間らしい部分だったり、私の持っている“らしい”部分が出せなくなってくるんですよね」
宮川 「そういう意味では、かなり生々しいアルバムですよね」
村上 「そこにも贅沢さを感じますよね。私は音と音の間というか、音のないところも表現だと思ってるんですね。そこに、その人が持ってる空気感が出てくるというか。だから、音楽以外のところにもすごく興味があるんですよ。そういう意味でも弾さんはすごくおもしろかったというか、“何を考えてるんだろう? この人”ってことも多くて(笑)」
宮川 「僕は現場で不思議がられてたのか(笑)。1回、遅刻しそうになって、ほぼパジャマ状態でスタジオに行ったことがあって。なぜかそこから、パジャマであることを期待されてたんですよ(笑)。ありがたいような、寂しいような……。まあ、からかわれてたんでしょうね」
村上 「私にとってはかなり稀有な感じでした(笑)。出来上がった作品も、私にとってはすごく発見が多かったし。すべて弾さんが作ったトラックのなかで私が歌えば、また違ったものになってと思いますけどね」
――それもぜひ、聞いてみたいです。
村上 「いつかやってみたいですね。何ならデュエットでも」
宮川 「がんばります(笑)」
取材・文/森 朋之(2011年6月)
撮影/高木あつ子
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